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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
551/615

第551話 消えたボクサーの手がかりを探せ

 地下室に隠れていた子供に、タケルが近寄って行くと、子供が更に部屋の隅に逃げていく。


「おーい。お兄ちゃんは悪い奴じゃないよ」


 しかし、子供はこちらに寄って来なかった。こんな暗闇に一人で隠れ、怯えきっているように見える。


「どうすっかな」


「捕まえるしかあるまい」


 そしてタケルが寄っていくと、するりと脇を抜けてこちらに走って来た。


 パシィ! と腕を掴むと、子供は咄嗟に俺の手に噛みついて来た。もちろん、子供に噛まれてびくともするわけではない。ゾンビ因子にも感染していないようだし、その力はとても非力だった。俺はそのまま、じたばたする子供を持ち上げて目の前に持ってきた。子供が俺を見て大声で叫ぶ。


「放せ! 悪い奴め!」


 横でタケルが言った。


「おお、俺達は悪者になってんぜ」


「状況からすると、そう思われても仕方がない」


 子供はじたばたしており、なかなかバネのある強い子供だった。よく見れば肌が黒く、目だけがきょろきょろと白く光っている。


 そしてタケルが言う。


「待ってくれ。俺達は、お前をどうこうする気はないんだ。今、大変なことになっているだろう? だから助けに来たんだよ。信じてくれ」


 すると子供がじたばたするのをやめた。


「でも、警察じゃないじゃないか」


「警察とは違うけどな」


「アイツらの仲間みたいな格好だ」


「あいつら?」


「こういう黒い服を着てた」


 俺を指さして言う。どうやら、ゾンビではなくスーツを着た人間を警戒しているようだ。


「スーツをか?」


「そうだ」


「そいつらが来たのか?」


「……ママに銃を撃ったんだ!」


「そうか……」


 一階で起きた惨劇の事を言っているのだろう。肌の色からしても、どれかが兄弟で、どれかが母親なのかもしれない。


「お前達も、狙ってるんだろ!」


「狙ってる?」


「パパを狙いに来たんだ」


 俺とタケルは顔を見合わせた。子供の言葉からすれば、恐らくここを襲ったのはファーマー社だろう。


「パパはどこいった?」


「わかんない」


 それ以上タケルは何も言わなかった。こんな小さな子供に、現実を突きつけるには辛過ぎる。


「あ、とにかく。ここに居てもどうにもならねえ。周辺はゾンビだらけだし、お兄ちゃんたちと逃げないと、いずれやられちまう」


「行かない!」


「いや……それは……」


「いかない!!」


 とはいえ、置いて行く訳にはいかない。それには、自分の家族の悲惨な状況をどう理解させるかが問題だった。一階で銃殺されていた家族を、見せるべきか……迷う。


「強制的に連れていくか」


「行かない! 行かない! 行かない!」


「まいったな」


 そこで俺が言う。


「見せるしかないか」


「きつくねえか」


「だが……」


「いや。もう連れて行っちまおうぜ。俺達が恨まれてもいい」


「それは構わんが、この子はずっと引きずるんじゃないか」


「いずれにしろ……だろ」


「そうか……」


 とりあえず俺達は、そのまま一階に上がる。人が死んでいた方に行かないようにしたが、子供が俺達の予想とは反する事を言う。


「ママは死んだんだ」


「えっ」

「……」


「撃たれたあと、動かなくなった」


「……そうだな」


 俺が認める。そしてタケルが聞いた。


「なんでおまえは助かったんだ?」


「あの地下は、中からしか開かないんだ。ママと皆が撃たれたのを見て、急いで隠れたんだ」


 それを聞いて俺は子供に言う。


「良く逃げた。おまえは偉いな。ママと、兄弟は残念だ」


「兄弟じゃない。遊びに来てた友達とママだよ」


「友達か……」


「そうだよ……死んじゃった」


「辛いな」


「……」


 子供は俯いてしまった。そこで俺が子供に言う。


「俺達は、その悪党を懲らしめる為に来たんだ。どんな奴だった?」


「お兄ちゃんみたいな服を着てサングラスかけてる奴と、仕事の服着てる奴らだよ」


「サングラスの奴は何人だ」


「一人か二人」


「お前は随分としっかりした子だな。偉いぞ」


 首を横に振って、子供の表情が曇って来る。どうやら俺達が助けに来たのだと信じ始めたらしく、ポロポロと涙を流し始める。


 タケルが聞く。


「辛いよなあ……。パパといたのか?」


「パパは家にいたけど、連れていかれたんだとおもう」


「パパのお部屋はどこだい?」


「こっち」


 抱いている俺の胸で、指をさす子供。俺達は誘導されながら、ボクサーの部屋へ行く。俺が入ってすぐに、エンハンサーXの気配を感じた。タケルがあちこち探すが、特にめぼしいものは無さそうだった。


「スマートフォンもねえ」


「先をこされた形になったという事か」


「ボクサーを連れていくために、ベガスでこんな事をしでかしたのかね?」


「もしくは、インドで見た女の子のように、触れるとゾンビになってしまう状態なのかもしれん」


「ああ……なら、それを隠蔽しに来たって感じか」


「いずれにせよ。探さねばなるまい」


「行くか」


 俺達が話をしていると、子供が声を発した。


「あの……」


 子供が口ごもる。


「どうした?」


「パパの、スマートフォンは僕が隠した」


「そうなのかい?」


「下ろして」


 俺が子供を降ろすと、そのまま子供部屋に連れていかれた。子供はひとつの人形を拾い上げ、その背中からスマートフォンを取り出す。


「お、電源切って隠してたのか?」


「見つからないように」


「でかした」


 タケルが子供の頭をくしゃくしゃと撫でた。すると子供が言う。


「パパは、連れていかれる前に話してたよ」


「そうか」


 タケルがスマートフォンの電源を入れる。だが画面にロックがかかっており、中を見る事は出来ないようだった。


「大森に連絡してみっか」


「ああ」


 そしてタケルがオオモリに電話をかけた。


「おう」


「どうしました?」


「ボクサーの家に来たが、ボクサーは連れていかれたみてえだ。だけどスマートフォンを子供が隠してくれてたんだよ。それが開けなくて困ってる」


「じゃあ電話番号を聞いてください」


「番号はわかる?」


 すると子供は次に自分の鞄を持って来る。その中から、カードを取り出して俺に見せた。


「番号を言うぞ」


「はい」


 タケルが番号を伝えると、ボクサーの携帯が鳴り響いた。


「どうすればいい?」


「電話を繋げてください」


 タケルがスマートフォンを繋いでしばらくすると、オオモリが言う。


「開きました」


「サンキュ」


 そしてタケルは、ボクサーのスマートフォンを開いて確認した。


「連絡してきたやつは非通知みてえだな」


「あ。大丈夫ですよ武さん。何処からかけたか、番号の逆探知をします」


 俺達が少し待つと、タケルのスマートフォンに情報が流れてきた。そしてオオモリが言う。


「ボクサーのスマホの電源を入れたので、敵に位置がバレた可能性があります」


「了解。サンキューな」


「いつでも連絡してください」


 そして通話が切れた。俺が子供に言う。


「ここに、また怖い奴らが来る。一緒に来てくれるか?」


 黙ってうなずいた。


「ママは残念だが連れていけない」


「うん……」


 タケルが俺に言う。


「んじゃ、こっちからコイツに電話してみっか」


「してくれ」


 そしてタケルは、オオモリからもらった番号に電話をかける。スピーカーにして、俺にも聞こえるようにしてくれた。


 プッ! と電話がつながる。


 こちらが黙っていると、相手が言う。


「誰だ?」


「あー。このスマートフォンを拾ったんだが、最初の履歴にかけてみたんだよ」


「……そうか。こちらから取りに行こう。何処に行けばいい?」


 タケルが俺を見たので、俺が答える。


「ここは、暴徒だらけなんだ。ラスベガスを脱出したい」


「じゃあ、ストラトスフィアタワーまで逃げて来れるか?」


「わかった。何とか行ってみる」


 そして俺達の次の行先が決まる。俺の前に子供を乗せ、二台のバイクはストラトスフィアタワーに向けて、全速力で走り出すのだった。

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