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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第545話 法律家へ情報を伝える

 オリバー・クレイトンは、ビバリーヒルズという地域にいるらしい。アメリカでも有数の高級住宅街で、治安がいい場所なのだそうだ。そして俺は高い塀に囲まれた場所にきて内部の様子を探るが、銃を持っている奴らが警備に回っているようだった。


 塀の上には鉄線が張り巡らされており、監視カメラが動いている。


「なるほど厳重なようだ。そして周辺にも見張りがいるな……」


 監視行動をとっている奴らがいるが、もちろん認識阻害を発動している俺には気が付かない。閑静な住宅街ではあるが、あちこちに木々が生い茂っており隠れるところはいくらでもある。


 守るにもいいが、隠れるところが多いのも良し悪しだな。


 シュッと、上空に飛び高い塀を超えると、大きな住宅が目に飛び込んで来る。屋上に降りて、扉を開けようとしたが手を止める。


 何かあるな。


 シャーリーンが言っていたような、警備装置があると直感が働く。そこで俺はするりと庭におり、玄関らしきところの先にある茂みに体を隠す。小さな石を取り上げて、それを玄関に投げつけた。


 コン!


 その音で、内部の人の気配が動いたようだ。入り口に二人やってきて、扉を開き外を確認している。銃を構えているようだが、敵の進入を警戒しているのだろう。ドアが開いたその隙に、俺は縮地で家の中に飛び込む。ボディーガードは俺に気が付くことなく、まだ外側を警戒しているようだった。


 奥か。


 そのまま奥に進み、人の気配のするところに入ると、オリバーと依頼人たちが話をしているところだった。俺は、その依頼人の後ろに座り様子を見る。


「しばらくは危険ですから。ここに居てもらいますが、手続きが終われば警官の警備が付きます。既に根回しもしていますので、しばらくの辛抱ですな」


「「「「はい」」」」


 被害者の親族たちが、神妙な面持ちで聞いていた。認識阻害をしているために、誰一人として俺に気が付いてない。


 そこで俺が言う。


「警察では力不足の時もある」


「それは分ってます。ですが、あなた方の生活もありますから」


「あまり、ファーマー社は舐めない方がいい」


「もちろん……」


 するとようやく、オリバーが後ろに座っている俺に気が付いた。


「ラッキーボーイ!」


「ああ」


 すると依頼者たちが一斉に振り向いた。


「えっ?」

「いつの間に?」

「誰?」


 だがオリバーは気にせず、俺のところに来て手を出して来た。


「良く来てくれたね」


「少し話したいことがあってな」


「そうかそうか。そいつはありがたい」


 そこで不思議がっている依頼人のうちの、スーツの男が言う。


「この人は一体だれなんです? お知合いですか?」


「ああ、知り合いだよ。今回の裁判を大きくこちらに有利にしてくれた張本人だ。彼がくれたデータのおかげで、ファーマー社は震えあがっておるところさ」


「この人が……」


 皆がざわついた。


 そこでオリバーが言う。


「警備がいたと思ったがねえ」


「ああ、玄関を開けてくれたので入って来れた」


「そうなのかい?」


「断りは入れてない」


「なるほど」


「とにかく緊急で相談したい事がある」


「わかった。皆が聞いていいものなのかな?」


「不用意に巻き込まない方がいいかもしれん。この人らの安全の確保もあるだろう」


「それじゃあみな、自由にしてていいからね。食べたいものがあったら、使用人に声をかけてくれ」


 皆が頷いて、俺はオリバー・クレイトンに連れられ別室へと向かう。すると廊下で、あの時のボディーガードが顔を出した。


「あ、あんた。あの時の」


「世話になったな」


「こちらの台詞だよ。あの人数を一人でとはな……、あんたが居なきゃ俺達は殺されていただろう」


「他愛もない事だ」


「たあいもない……」


 そしてオリバーが言う。


「ささっ。話をしに行こうじゃないか」


「ああ」


 すると俺は書斎のようなところに通された。ソファーに座るように言われ、チャイムを押して何かを頼んでいる。


「酒は飲めるね」


「もちろんだ」


 すると使用人がトレイに酒とグラスと、簡単なつまみを乗せて持ってくる。


「ラッキーボーイと、祝杯をあげたかったんだ」


 俺は酒を見て言う。


「いいやつだな」


「おっ。酒の味がわかるようだね」


「ああ。酒は美味い」


 蓋を開けて、とくとくと二つのグラスに注ぎ、俺に一つを渡してくる。そしてオリバーはグラスを俺の前に持ってきた。


「裁判の成功を祝って」


「ああ」


 チンッ! とグラスを合わせて、俺達は一気に酒を口に放り込んだ。


「いける口だな」


「美味い酒はいくらでも」


「君らのおかげだからな。おもてなしくらいさせてくれ。本当は他の連中も一緒がいいが」


「いいんだ。彼らは安全の為に今は身を潜めている」


「危険な橋を渡って来たのだものなあ。あの情報はそれほどに、危険なものだった」


「あれを見たか?」


「うむ。ゾンビ因子、ゾンビ化手術、そしてバケモノ……たしか試験体とやらだな」


「その情報を出したのか?」


「流石にだしてない。あれを表に出して、直ぐに世間に信用してもらう事は出来んさ。だが、それらの周辺の情報だけでも、ファーマー社には大打撃を与える事が出来ている」


「そうか」


「切り札のカードはね。一気に出してしまったら勝負にならない。こっちにはキングにエースにジョーカーまで揃っているんだ。まずは弱いカードから切って、相手の様子を見るところさ」


「それでもかなりファーマー社は慌てていると」


「そのようだ。まだスペードの五くらいしか切ってないのに、アリの巣をつついたような騒ぎだ。正直な所、あの情報はファーマー社だけでなく、国家も世界も揺るがす大事件だ」


「そうなんだ。戦争をしているんだ」


「そのようだね。世界情勢が変わるような情報だけに、こんな裁判なんかで全部使う事はないさ。いわゆる匂わせというやつだな」


「そうか」


 そう言ってオリバーが、新しくついだ酒をちびりと飲んだので、俺もつがれた酒を一気に飲み干す。そしてまたトクトクと俺のグラスに酒を継いだ。


「で、相談とは?」


「オリバーは掴んでいるか? ファーマー社とのつながりのある企業を」


「多少はね」


「俺達が掴んだ情報の中に、ちょっと気になる企業があるんだ」


「聞いても?」


「それを伝えに来た」


「そうなんだね」


「ああ」


 またちびりと酒を飲んだので、俺も合わせて飲み干す。


「ふふ。良い飲みっぷりだ」


「ああ、美味い」


「飲め飲め」


 トクトクとつがれる。


「で、何処の企業かね」


「グロス・オーエス・データ」


「……随分とビッグネームが出て来たね。GODとはね」


「ああ」


「だが、あそこは医療関係には手を出していないが」


「医療とは関係ない、電子で関係している」


「それは?」


「ちょっとまて」


 そこで俺は、スマートフォンを取り出しオオモリのボタンを押す。


「ヒカルさん。こちら大森です」


「接触した」


「変わってください」


 そして俺はスマートフォンをオリバーに渡す。


「はい」


「どうも。ラッキーボーイの仲間です」


「ああ。あの時いた、ファットボーイだね」


「ファット……」


「あ、失敬。なかなかに賢そうな顔をしていた青年だね」


「あ、ああ。えっと、何処まで話を?」


「GODが絡んでると」


「そうなんです」


 そうしてオオモリが、詳細をオリバーに話をしてくれた。一通りの話が伝わったところで、オリバーが大笑いし始める。


「いいね! 実にいい! GODの印象操作や情報制限には、これまで泣かされっぱなしだったんだ。まさか、ここにきて繋がるとはね」


「まだ、完全なつながりを追えていないんですよ」


「いや、私の勘が……いや、これまでの経過からして間違いないさ。しかし、なんと恐ろしい計画をしているんだろう」


「それを阻止せねば。更にファーマー社の思い通りになっていくと思います」


「クレイトン家でも手を焼くような名前ばかりだ。こりゃ更に命がけでやらんといかんな」


「よろしくお願いします。お伝えする事は以上です」


「わかった」


 そしてオリバーが俺にスマートフォンを渡した。それをしまいこみ。オリバーに尋ねる。


「かなり危険だがどうだろう?」


「そちらの業界にも知り合いはいるさ。とくにGODの商売敵とかね。それにあそこは、何度も訴えられているからね。弁護士仲間で関わっている人もいる。たしか独占禁止法なんかで関わった人らがいるよ」


「よくわからん」


「それを、調べてほしいって言うのかな?」


「そうだ。もしそれが間違いないのなら、ファーマー社ごとGODも潰さねばならん」


「GODを潰すか……それこそ、世界がひっくり返るだろうね」


「それでも、世界を支配させるわけにはいかん」


「その通りだ。ラッキーボーイ」


「よろしく頼む」


 そう言って帰ろうと思い俺が立ち上がると、オリバーはニッコリ笑って言う。


「まあまて。まだ瓶が空になってない。それにもっと飲ませたい酒があるんだよ」


 俺は素直に座る。


「いいね。ラッキーボーイ。酒の付き合いが良い奴は成功するよ」


「成功? ファーマー社の悪事を止められるのか?」


「ははは。そうか、ラッキーボーイは成功には興味がないか」


「ある。ファーマー社を止められるなら、そして平和な世界になるのなら」


「ははは。いいね、やっぱりラッキーボーイはいい」


 そしてオリバーは、俺のグラスにまた酒を注いで瓶を空にした。そのタイミングでまたドアがノックされ、また違う酒が運び込まれてきたのだった。

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