表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
544/615

第544話 浮き彫りになる敵と味方

 オリバー・クレイトンは本物だった。クレイトン家は厳重な警備を敷いて、被害者とその家族までも保護する方向に動く。さらに各業界に同じ名を持つ人間が入り込んでいるらしく、ファーマー社もその後ろ盾の組織も、簡単に火消しする事が出来ないらしい。


 俺達は今、カリムが用意したロサンゼルスの拠点に潜み経過を見守っていた。その拠点はロサンゼルスのリトルトーキョーというところにあり、なんとその街には日本人が生き延びていた。まだ日本人と会話をしたわけではないが、あちこちでアジア人らしき人影を見る。リトルトーキョーの一角にある、住居用のビルの一室に潜んでいた。


 オオモリが楽しそうに言う。


「世間に激震が走ってますね」


「どういうことだ?」


「今まで、沈黙を貫いてきた科学者や医療関係者が、ぽつりぽつりとファーマー社の悪事について話し出しています。それも、世界中のあちこちで始まってますね」


「なぜ今になって?」


「それだけ、この訴訟が注目されていたんですよ。どうやらクレイトン家には、科学や医療の権威にも居るらしく、どうやらそちらにも情報がこっそり伝わったみたいな感じです」


「探れないのか?」


「多分、ネットを介してないです。ですが、クレイトンや息のかかった人らが話す内容に、我々が渡した情報でしか知りえないニュアンスが含まれてますね」


「なるほど」


 この部屋のあちこちにモニターがあり、いろんな情報が映り込んでいる。それぞれが画面を見て、話し合っているところだ。俺はオオモリが眺めている画面を見ているが、文字の情報がただ大量に流れていて、何が何だかさっぱりわからなかった。思考加速と詠唱理解で読み取ろうと思ったが、それを読み取ったところであまり意味は無さそうだ。そう言う事は、オオモリに任せておくのが一番だろう。


 クキが腕組みをして笑いながら言った。


「うはは。潮目が変わってきたな」


 クロサキが頷く。


「ですよね」


「そうだ。だが、恐ろしいのはこれからだ」


「はい。情報や法律で勝てなくなれば……実力行使をしてくる可能性が大きいです」


 そしてクキがオオモリに聞く。


「ネットはどうだ?」


「ええ。少しずつ捉え始めましたよ。ファーマー社とつながりがあるか、金をもらって擁護に回って居た奴らが活発になり始めました。それに合わせて、同じ様にファーマー社側に回っている人らがいますね」


 そこでマナが言う。


「ネットの会社でも擁護派と反対派がいて、ファーマー社の情報を制限をかけている会社と、情報をそのまま流している会社があるわね」


「どういうことだ?」


「ファーマー社関連の情報や、ゾンビ因子に関連したような情報をネットに書いたり、動画にしたりすると全て削除されてるみたい」


 するとオオモリがにんまり笑って言う。


「大丈夫です。僕のAIウイルスちゃんが、全部魚拓とってるんで」


「きも!」


 だがアビゲイルが目を輝かせて言う。


「素晴らしいですわ。ミスター大森。それを……それをどうするのです?」


「いま、世界中のサーバーから、無限にアカウントを生み出してアップする仕組みを構築中です。それが完成した暁には、消された情報や動画は永遠にアップされ続けます。そしてそれを、個人の否定派や正義感の強いインフルエンサーの画面に表示されるよう、インタレストターゲティング広告のようにおすすめに出し続けます」


 それを聞いてアビゲイルが目を輝かせる。


「すばらしいわ!」


「そうすれば、アビゲイル博士に対するイメージも、変えられますよ!」


 だが、それを聞いてミオが釘を刺す。


「それはそれで、危険かしら。ちゃんと正確に博士を擁護するようにしてね。嘘でマスを洗脳したら、ファーマー社とやってる事は変わらないわ」


「もちろんですよ……」


 それを聞いていた、クロサキがオオモリに言った。


「美桜さんの言う通りです。下手をすれば、大森さんは独裁者にもなれますよね」


「な、ならないですよ! 僕は! 正義の為にやってるんですから!」


「大丈夫です。もし悪の道に染まりそうなら、私が逮捕してあげます」


「そんなあ」


「「「「「あはははは」」」」」


 皆が笑った。未来に向かって新たな芽が出た事で、大夫明るい気持ちになっているらしい。オリバー・クレイトンと知り合った事で、こんなに大きく変化するとは思わなかった。


 オオモリが続ける。


「そして、案の定グロス・オーエス・データ「GOD」が大きな制約を賭けてます」


「GOD本社はどこにある?」


「サンフランシスコですね」


「遠いのか?」


「……ここから車で六時間ほどです」


「なるほど」


 そしてマナがぽつりとつぶやく


「7G技術や、ゾンビコントロール技術って……」


 その言葉を聞いたオオモリが呟く。


「そうですね、GODならあり得ます」


「だよねえ」


 そこで俺がオオモリに、ゾンビ化人間コントロールについて聞いた。


「なんで、ゾンビをコントロールできるんだ?」


「ああ、あれはですね、生体ウイルスじゃなくて、ゾンビ因子を囲んでいる物質のせいなんですよ。そこにナノマシンっぽいのが入ってたんですけど、あてずっぽうでそれをコントロールできないかとやってみたら、コントロール出来ちゃった。みたいな感じっすね」


「……偶然だったのか?」


「まあ、そうです」


 それを聞いて皆が複雑な表情をした。だが、アビゲイルは言う。


「そういうものですよ! 研究の発見なんて偶然の産物の積み重ねです! 私がゾンビ因子のコアになるものを見つけてしまったのも、偶然の産物みたいなものですから」


「そ、そうですよね! 流石博士! 話がわかりますね!」


「ええ! 分かってますよミスター大森!」


 どうやら天才は天才同士で分かり合えているようだ。今回のオリバー・クレイトンが動いた一件で、GOD社が派手に動いたとなると、やはり大きく絡んでいる可能性が高い。


 そこでクキが言う。


「だがよヒカル。ちっとばっかし、オリバーから離れるのはまずいかもな」


「わかっている」


「ロサンゼルスにオリバーが居ると分っている以上、ファーマー社は必ず何か仕掛けて来る」


「もちろんだ。今までの流れではそうだからな」


 それを聞いていたシャーリーンが言う。


「なるほどです……。しかしGODが関連しているなら、洗い出ししたいですね」


 するとオオモリが目を輝かせて言った。


「えっ! GODをですか!」


「はい」


 皆がシャーリーンに注目する。


「どうやってだ?」


「社員もたくさんいるのですが、あの大企業にはカリム様が産業スパイを潜り込ませています。その人達にコンタクトを取る事が出来れば、あるいは何か分かるかもしれません」


「産業スパイ?」


「もちろん、ビジネス的な要因で潜っているので、ファーマー社関連やゾンビ関連は全く感知していないと思います。ですが、何らかの要因は探れるかもしれません」


 クキが腕組みをして首をかしげる。


「うーん。商売で潜入した産業スパイなら、ちっとばかし危なくないか?」


「そこは、もちろん加味します。ですが、社員や研修生として潜り込むことは出来るかもしれません」


「なるほどな……」


「まずは、コンタクトをとってみますか? リスクがない訳じゃないですが」


 それを聞いてオオモリが言う。


「そうですね。GODといえば、世界最大手のIT企業です。セキュリティもそうだし、彼らのネット技術は侮れないです。こちらの事を感づかれるかもしれない」


「はい」


 そこで俺がひらめいた事を言う。


「カリムの手下を危険にさらすより、オリバーはどうだ? クレイトン家とやらならば、それなりのコネがあるんじゃないか?」


 すると一斉に俺を見る。そしてクキがにやりと笑って言った。


「ヒカル……アリだな」


「GODとのつながりの情報は、俺達はまだ確たるものがない。だが関連しているかもという情報を、オリバーに流せば何か動きが出るかもしれん」


 クキがシャーリーンに言う。


「ヒカルの言う通り、身内を危険に晒す事はない。それはまた、次の段階にとっておこう」


「わかりました」


 そして俺が言う。


「そういうのは、やはり覚悟を持った奴らにやってもらわないとな」


 皆が頷いた。最初は半信半疑でオリバーに渡したデータだったが、確実にファーマー社を追い詰め始めた事で俺達も信頼し始めた。そこで俺がオリバーに接触し、この情報を伝える事になったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ