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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界
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第53話 この世界に来た意味

 皆が俺に見せたいと言っていたディーブイディーは衝撃だった。こんな小さなディーブイディーから、このテレビと言う機械に映像が流されているらしい。流れているのは物語のようで、テレビの中の人物達が所狭しと駆けまわっている。電気という物が国中で使えたころは、全ての家でこれが見れたらしい。


「おお…」


 そして今は、タケルが俺に見せたいと言っていたスー〇ーマンを見ている。そこに映っている飛ぶ男は間違いなく強い。それを見て俺はふと魔王ダンジョン九十一階層で遭遇した、魔王の配下である守護者を思い出していた。そいつは魔人と言う種族で、強靭な肉体と様々な特殊能力をもって俺達を苦しめた。出るところは違うが、光の矢を放ってくるところまで似ている。このテレビに映っている男は目から光の矢を放っているが、九十一階層の守護者は指から光の矢を放つ。そして氷魔法を使うところまでがそっくりだ。


 するとタケルが俺に聞いて来る。


「な、まるでヒカルだろ」


 俺がこれ? いや能力が全然違うし、九十二階層の魔人の方が似ている。


「俺とは似ても似つかないさ」


「そうか? すっげえパワーとか持ってるし、ヒカルっぽいと思うんだけどな」


 なるほど。異能の事を言っているのか。


「俺には似ていないが、これに似てるやつを知っている」


「マジかよ!」


 するとヤマザキや女達までがざわついた。


「本当だ」


「こんな奴がいる世界なのか?」


「そうだ」


 今度は皆がシンとして静まり返る。俺の言っている事が信じられないのかもしれない。


 するとヤマザキが聞いて来た。


「こういうヤツが、いっぱいいる世界だったのか?」


「いや、こういうヤツは唯一無二だろう。難攻不落のダンジョンの、九十一階層の守護者で魔人と言う種族だった。世界に一人と言ったところだろう」


 ヤマザキ以下女達が絶句している。するとタケルがまた俺に聞いて来る。


「そいつは仲間だったのか?」


「いや、敵だった」


「もしかしたらヒカルはそいつに殺されたとか?」


「その逆だ。俺はその魔人を殺した」


 ‥‥‥‥‥‥‥


 また皆が静かになる。そして間をおいてタケルが言った。


「殺した?」


「かなり強靭だったが、究極魔法と奥義を連発して削った。心臓の位置が人間と同じで助かった。普通の剣や弓矢は全く受け付けず、なんと剣を目で受け止める奴だった。神器を装備し俺達四人が力を合わせ一週間かけて殺したんだ」


 ‥‥‥‥‥‥‥


 しばらく沈黙して、タケルがみんなに信じられないといった口ぶりで言う。


「えっと、みんな意味わかった?」


 すると皆が頷いた。ようやく俺の言葉がすんなり皆に入るようになったようだが、皆は唖然とするばかりだった。ここまでの女達との会話で言葉を吸収して来て、我ながら頑張ったんじゃないかと思う。


「はははは‥‥」


 タケルが力なく笑った。


「どうしたんだみんな? まだディーブイディーは続いているぞ」


「いや…、なんつーかDVDの話が、入って来ねえや」

「だな…」

「本当に…」

「そんな事ってあるの…」


 皆が言う事を俺は不思議に思って聞いてみる。


「どういうことだ?」


 するとタケルが俺に言った。


「俺の理解が追い付いてねぇが、タケルはスー〇ーマンを殺せる人間って事で良いんだよな?」


「いや、この映っている男と俺の知っている九十一階層の守護者は別人だし、相対して見ないと分からないが、恐らくは何とかなりそうだ」


「えっと…。このヒーローを倒すって事に対して『なんとかなりそうだ』なんつーのは、幼稚園児か小学校低学年くらいのもんだ」


「俺は子供じゃない」


「いや、わかってる」


 皆はそれ以上言葉を発さなくなった。俺は何か間違った事を言ったのだろうか? もしかすると、ディーブイディーの男が生きていて、俺はいつか戦う羽目になるのだろうか?


 タケルが話を切り替えるように言った。


「じゃあよ、俺はきっとこれが近いんじゃないかってのを持って来たんだ」


「まだ、この物語の途中だが?」


「これは今度ゆっくり見よう。俺が見てほしいのはこれなんだ」


 タケルがディーブイディーを出すと、ミオとマナとミナミが声をそろえて言った。


「「「異世界転生アニメ?」」」


「ああ、どう思う? おりゃヒカルはこれに近いんじゃねえかって思ったんだよ」


 するとミオが言った。


「私はあんまり詳しくないけど、こっちの世界の人が異世界に行っちゃうって奴だよね?」


「そうそう。俺もそんな詳しくねえけどな」


 するとミナミが言った。


「なんかそれっぽいのは見たことある。ゲームの世界に入り込んじゃうってやつ」


「まあヒカルはゲームから出て来たわけじゃねえだろうけどよ、ちょっと見てみようぜ」


「そうね」


 俺は皆が進めるままに次の話を見る。画面に映っていたのは絵だった。だがその絵はとても美しく、まるで動く紙芝居のようにするすると動いている。話の内容は、どうやら日本の男が違う世界に行ってしまった話らしい。普通に考えれば、俺の逆の立場と言う事になる。


「あっ!」


 俺は思わず声を上げてしまった。するとタケルが驚いて聞いて来た。


「心当たり有りか?」


「なんというか、世界の雰囲気は俺が居た世界と似ているな。俺のいた場所にはビルなど無く、車の代わりに馬車が走っていた。まさにこの話のようにな。そして騎士達がいたんだ」


「なるほどな。もう少し見てみようぜ」


「ああ」


 その動く紙芝居の話は進んでいく。


「これは!」


 俺がまた声を上げてしまった。


「見た事ありそうな雰囲気だな」


「魔法だ。この人物は火炎魔法をつかっているようだが、やはりこの世界にも魔法はあるのか?」


 すると皆が顔を見合わせた。するとユミが首を傾げながら言う。


「どうなんだろう? 世界のどこかにはいるのかな?」


「俺が居た世界には、こういう奴らはざらにいたんだ」


 タケルが聞いて来る。


「なんだって? こんなのがいっぱい居たって?」


「そうだ。そしてこの話のようにパーティーを組んで冒険をするんだ。いま冒険者と言っていたのが聞こえたが、俺の世界にもそういう物があった」


「これは異世界に行った日本人が、冒険者になって魔物を倒すという話だ。やっぱりそうだったか」


 そして映像では冒険者がダンジョンに入って行く。ダンジョンにはモンスターがたくさんおり、冒険者はそれらをなぎ倒して進んでいった。だがこれは中級ダンジョン程度の難易度のようだ。それなのに、この冒険者達は苦労して進んでいる。見た感じAランクとBランクの間くらいの能力だ。すると話の冒険者達は、何かの罠を踏んで下層に落ちていく。


「落ちた」


「うわ、なんか下に落ちたらヤバそうだな?」


 タケルものめり込んでいる。ここにいる皆が初めて見るようで、その話を食い入るように見ていた。


 だがこの冒険者は思慮が足りない。あんな滑落の罠にあっさり引っかかるとは、どんなに頑張ってもAランクどまりだろう。まあ、こういう窮地を切り抜けてこそのAランクだがな。このパーティーはどうあがいてもSランクには浮上できない。


 するとミオが言った。


「なんかマズそう」


「ほんとだ。マグマじゃない? こんなところで戦うの?」


「主人公だし切り抜けるんじゃない?」


 それぞれがこの場合の対処を考えている。だがこんなのは問題ない、ようは落ちなければいいのだ。万が一、溶岩に落ちたとしても身体強化と結界で一時間は潜っていられるだろう。


 その冒険者達がとった方法は空中に結界を張って、それを足場にして戦うというものだった。だがこれは効率が悪い、見た所足場がところどころにあるし、洞窟の天井には少しのでっぱりくらいある。そこにつかまればいくらでも移動できるはずだ。もし相手が魔法無効を持っていたら、この作戦はすぐに使えなくなる。


「でた!」


 タケルが言う。そこに映っていたのはドラゴンだった。流石に見たことのない形状をしているが、火炎で攻撃をしてくるところを見ると炎龍の類じゃないかと思う。


「ドラゴン」


「お! そうだ。ヒカル、ドラゴンだ」


「この世界にもいるのか?」


「いや。これは御伽噺みたいなもんで、実際はいねえと思う。分からねえけどな」


「誰かが見た事あるから、このような紙芝居があるんじゃないのか?」


「こりゃ、アニメっていうんだよ」


 すると横からミナミが言う。


「でも大昔から、ドラゴンと龍の話はあるからね。昔はいたのかもよ」


 するとそれにツバサも同意する。


「私達が見たことないだけかも。宇宙人だっているかもしれないし」


「まあね」


 そして再び皆がドラゴンと戦う冒険者に魅入った。


「やっぱドラゴンは強いんじゃない?」


「だよね」


 だが俺が見た限りでは、中級ダンジョンで言うところの深層守護者と言ったところだろう。上級ダンジョンでは中盤でも遭遇する事がある。魔王ダンジョンじゃ序盤に出て来たしな。そして登場人物たちは苦労の末、炎龍のようなモンスターを倒した。まあ劇と言う事もあるだろうが、時間をかけ過ぎだろう。


 するとタケルが言った。


「けっこう面白かったな」


 なにがだ? まだモンスター的には序盤だろう?


 ユミがそれに頷いて言う。


「最後のドラゴンが強烈だったよね?」


 なるほど。彼らからすればゾンビが脅威となりえるのだ。ドラゴンなど出たら対応の方法がないか。


「ヒカルはドラゴンと戦った事はあるか?」


「何度も」


「何度も?」


「ああ。世界のあっちこっちにいるからな」


「あっちこっちに? ドラゴンが?」


「そうだ。大神王龍というドラゴンなぞ、神の強さだった。先ほどの炎龍など比では無かったぞ」


「えっと…」


「なんだ?」


「大したことないと?」


「さっきのドラゴンか?」


「そうそう」


「そうだな。大したことはない、ソロで一分もあれば十体は倒せるだろう」


「えっと、十匹ってこと? 一分で?」


「そうだ。大神王龍などは、魔法、毒、炎、冷気、雷の耐性があり。攻撃が当たりそうな瞬間に消えてすぐに出てくるんだ。だからその速度以上の斬り込みで、空間ごと斬らねばならなかった」


「なに? 空間ごと斬るって?」


「そのままの意味だ」


「えっと」


「大神王龍は隔離空間に飛ばす力もあるからな、その空間から出るにはそれ以上の力が必要なんだよ。だから空間ごと大神王龍を斬る必要があった。何度も閉じ込められ何度も空間ごと斬って倒すまでに十日かかった」


「はは…ははは…、何を言ってんだか分かんねえ」


「意味がわからなかったか?」


「意味は分かるけど、それがどんなものなのか想像もつかねえ」


「まあ見なければ理解は出来んだろうな」


 するとヤマザキが聞いて来る。


「ヒカルは、なぜそれに挑んだんだ?」


「魔王を倒すための神器を手に入れる為さ」


「神器とは?」


「神が持つ武器だ。神から奪うには神と戦わねばな」


「大神王龍っていうのはなんだ?」


「龍の神様の中の王様だ」


「はは…ははは…、タケルの言うように何を言っているのか分からんな」


 ヤマザキまでがそんな事を言う。


「言葉どおりなのだがな」


 するとミナミが言う。


「えっと、ヒカルは神様を倒したって言う事?」


「そうだ」


 ‥‥‥‥‥


 なんだか皆がポカンとし始めた。俺の戦いが想像を絶しているのだろう。それもその筈でSランク冒険者でも神に挑む者はいない。そもそも俺も神に挑む事など誰も想像していなかった。


「えっと、さっきの九十一階層の守護者っていってたけど」


 ユリナが言う。


「なんだ?」


「もっと強いのが居たって事?」


「九体ほどいた。その中でも俺が魔王だと思っていた奴は、大神王龍や九十九階層の守護者の強さとは一線を画していたよ」


「で、それに殺されてここに来たと?」


「違う。それも殺して、だが死ぬ間際にそれが世界の核だと知ったんだ。世界が終ろうとした時に、その世界の核が俺の魂を代替えにすれば世界は救われると言った。だから俺は魂を捧げたんだよ。そして気が付いたらこの世界にいた」


 ‥‥‥‥‥


 沈黙の末にタケルが言う。


「やっぱそうだった。ヒカルは異世界から来たんだ」


「軍の秘密兵器やタイムトラベラーじゃなかったって事ね」


「異世界に転生して来た勇者って事じゃねえかな?」


 違う。俺自身は勇者だと思っていたが、俺がやっていた事は世界を破滅に追いやる行為だった。だが恐らく、この世界とは違う世界から来たのは間違っていないだろう。


「タケル。助かったよ、俺は自分がどこから来て何者か確信が持てずにいた。だけどこれを見たらようやくわかった。いや、もしかしたら勘違いかもしれんがな」


「どういうことだ?」


「俺は前の世界を滅ぼしかけた罪滅ぼしに、この世界に送られたんだ。そして皆に出会った。恐らくは俺はこの世界で何かなすべき事があるのだろう」


「…大袈裟だけど。なんかそんな感じはするな」


「まあ、俺も良くは分かっていないがな。何らかの意味があるのだと、すがりたいのかもしれん」


 すると俺の言葉を聞いたミオが言った。


「いいじゃない! ヒカルは私達と知り合ってこうして生きてる! それだけで十分意味があると思うよ!」


 ツバサもそれに頷いて言う。


「そうだよ。ヒカル! 意味なんておおありよ! だって私達を助けてくれたんだもん!」


 俺は皆を見る。するとタケルが言った。


「って、こった。ヒカルは一人じゃねえ、意味なんて大層な事を考えなくてもいいんじゃねえか?」


 そうか。そうかもしれない、俺はここに生きている。それだけで意味があるのかもしれん。そう思ってみると少し肩の荷が下りたような気がした。俺はタケルに向かって言う。


「よし。タケル次はレースのディーブイディーを見よう」


「あ、ああ! 見ようぜ!」


 そしてタケルはレースのディーブイディーを取り出して、黒い機械に入れるのだった。

DVDが最強すぎた件

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