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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第537話 守るものたちの眠り

 ラスベガスはあちこちに大きなホテルがあり、俺達はカリムが経営するホテルに滞在する事になった。身分証明など何もいらずに、セキュリティの高い部屋を用意される。到着したのは朝だったので、皆は疲れて寝室に行ってしまった。


「凄い街だな」


 俺は窓の外を見る。


 ここは、人々に活気があるようだ。今までのどの町よりも、人にゆとりがあるように見えた。そして俺と一緒に起きていたクキが答える。


「だな。夜になればもっと面白くなるぞ」


「そうか」


「夢と欲望の町だからな」


「ミオが楽しそうに語っていた」


「世界有数の観光地だからだ」


「そうか。それで、皆寝てしまったのか?」


「そうだな。エイブラハムの言葉が響いたらしい」


「この世界が、この世界の形をしているうちに楽しもう……か」


「そりゃそうだ。世界を救う為に戦っているとはいえ、タケルも含め、皆若い。ひたすら人の死と直面し続けるなんて、精神が持たないだろうよ。俺もそれでいいと思う」


「そうか」


「そういや、ヒカルは少年の頃から、ひたすら戦いに明け暮れていたんだもんな?」


「ああ、それが当たり前だった」


「せっかくこの世界に来たんだ。お前もまだ若いんだし、少しは遊ぶといい」


「俺は、酒があればいいがな」


「まあそういうな。女達はお前と遊びたくて眠ってるんだ」


「わかった」


 既にラスベガスに、エンハンサーXが持ち込まれたかどうかは分からない。だがここには富裕層も、麻薬カルテルも、ギャングもいるらしかった。だとすれば、あの薬が持ち込まれた可能性は非常に高い。


 そしてクキが言う。


「俺も少し眠るよ。こんなに安全に眠るのは、いつぶりだろうな?」


「ああ」


「ヒカルも少し休め」


「わかった」


 とはいえ、俺にそれほど休息は必要なかった。ロズウェルで戦ったが、既に車の移動で十二時間ほど何もしていない。その間に、魔力も体力も完全に元に戻っている。


 俺にそう言うと、クキは部屋を出て寝室に行ってしまった。俺は窓際からソファーに座り、軽く目をつぶってみる。


 ……皆はそんな風に言っているが、今回の件はかなり堪えている。いままでは、ファーマー社が、秘密裏に研究をし、実験をするに留まっていた。アフリカでも流出を阻止したと思えていたが、結局はアメリカで、日本同様に不特定の人達に流出してしまった可能性があるのだ。


 しかも……ただのゾンビ因子ではなく、試験体のゾンビ因子が出回った可能性が。


 オオモリもショックを受けていた。もしかすると、オオモリのゾンビコントロールを上回る仕組みが出来たかもしれないと知ったから。 


 だが……焦っても仕方がない。このような事態は想定済みだ。もっと絶望的な状況で旅をした事もあるし、現状まだ世界は滅びてはいない。


 気配がして目を開けると、後ろからミオが来た。


「起きたのか?」


「ううん。寝れないのよ」


「疲れているだろう?」


「うん。だけど、全然眠れなくて」


「そうか……」


 そして、ミオが俺の隣りに座る。ホテルの上質なガウンを着てリラックスしているが、気持ちが落ち込んでいるのが分かる。


「ヒカル。これから、どうなるかな?」


「……なるようになる」


「……そっか、そうだよね」


「だが、希望はある。こちらにはアビゲイルもオオモリもいる。どちらも一度は、ファーマー社を出しぬいたやつらだ。しかるべき施設さえあれば、どこかで必ず終止符はうてるはずだ」


「ヒカルは、凄いね」


「凄くはない。だがやるだけやってみるだけだ」


「うん」


 そして沈黙が落ちる。するとミオが俺の肩に頭を乗せた。


「ヒカルの隣りが一番落ち着く」


「そうか。ならばここで眠れ」


「うん」


 すると……また一人の気配が来た。


「あ。美桜」


「ん……南」


「眠れなかったよね?」


「うん」


 するとミナミが言う。


「ツバサもマナも眠れずにいるのよ……」


「そうか……」


 すると、ミナミが俺の肩に手を乗せて言った。


「ねえ。ヒカル。私達と一緒に寝て」


「一緒に?」


「大きなベッドがあるの。そこで一緒にだと眠れそうだから」


 俺がミオを見ると、ミオも頷いている。


「わかった。それでみんなが眠れるのなら」


 そして俺は立ち上がり、皆がいる部屋に連れていかれた。部屋に入ると、マナもツバサも眠れずにベッドの上に座っている。


「連れてきたわ」


「「ヒカル」」


 そしてマナが、俺にホテルのローブを渡してくる。


「さ。着替えて。スーツだと、寝心地が悪いわ」


「わかった」


 俺はその場でスーツを脱ぎ、ホテルの柔らかなローブを羽織る。俺はミオとミナミに手を引かれ、大きなベッドの真ん中に横たわらせられた。すると四人は、俺の両側に横になる。


「これでいいのか?」


「これがいいのよ」


「みんなは風呂に入ったが、俺はまだ入ってない。臭うんじゃないか?」


「ううん。これでいいの!」

「そう! ヒカルの匂い!」

「落ち着くわ」

「眠れそう……」


「そうか」


 そして、そのうちに皆が寝息を立て始める。眠れなかったらしいが、相当疲れていたのだろう。あっという間に心拍が緩やかになり、熟睡してしまったようだった。


 皆が猫のように丸くなり、俺の体に寄り添っている。四人は、このホテルに着いた瞬間に風呂に入って清めているからいいが、俺は特に何もしていなかった。むしろ女達の仄かないい香りが、俺の鼻腔をくすぐりなんとも言えない感覚になる。


 それから……日が沈むまで、何故か俺は眠る事が出来ずに目がさえたままだった。特に困る事はないが、自分が何故眠れなくなってしまったのか分からない。


「……ヒカル」


「目覚めたか」


「ずっと起きてたの?」


「ああ。ミオは寝れたか?」


「久しぶりにぐっすり眠れたわ」


 その声に他の三人も目覚め始める。


「ほんと。スッキリした」

「深く眠れたみたい」

「わたしも」


 そこでようやく、俺は気になっていた事を言う。


「俺も風呂に入って来る」


 マナがニッコリ笑って言った。


「ごめんね。わがまま言って」


「いや。いい」


 そうして俺は部屋を出た。何故か俺の心拍数は上がっていた。エリスの事を忘れたわけでは無いが、女に甘えられて眠るという事が、こんなに寝ずらい事だとは思っていなかった。


 部屋を出ると、クキとタケルが俺を出迎える。


「ヒカルも眠れたか?」


「いや。眠りは必要ない。それより風呂に入って来る」


「おう。行ってこい」


 そして俺は、ホテルのシャワールームで水をだして、体を冷やすのだった。

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