第531話 SWATと共闘
ファーマー社の警備の奴らは、何が起きたのか分かっていないようで慌てふためいている。治験者に逃げられ、荒野では私兵が全滅し、その上に次々に警察車両がやってきて包囲されたからである。
集まった警察らは、ファーマー社の研究施設を包囲しているという意味合いよりも、俺達二人を包囲しているという意味合いが強い。まあ警察もまだ、そこまで正確な情報を握ってはいないだろう。
そして俺がタケルに言う。
「とりあえず撮り続けろ。こんなに反響があるなら、またどこかで動画を流せばいい」
「りょーかい。つうか、多分俺達の力もバレちまうな」
「かまうものか。オオモリが何とかしてくれる」
「だな。てか、ファーマー社の警備がまた来たぜ」
「よし」
縮地で警備隊の真っ只中に出現し、私兵を警察に向けて投げ続けた。壁の上から降って来る人間に慌てふためきながらも、警察はどこかに無線を繋げているようだ。
「抵抗をやめろ!」
「既に包囲されている!」
「逃げられんぞ!」
そしてタケルがスマホのカメラを、自分に向けて話す。
「やっば。警察がいっぱい来ちゃった! 逮捕されそう」
その次に俺にカメラを向けた。
「俺達を、つかまえたら大したもんだ」
「だな」
「またなんか来たぞ」
タケルがそっちにカメラを向けて、大声で聞かせるように言う。
「おー。あれはスワットじゃねえかな」
「なんだスワットとは」
「警察の特殊部隊だ」
「ほう。少しは骨のある奴らが来たか。相手してやろう」
すると黒塗りの大型のバスのような車両が次々来て、ぞろぞろと黒い装甲を付けた奴らが下りて来る。空にも数基のヘリコプターが飛んでおり、グルグルと旋回していた。
「ヘリコプターまで来ております! さあて、俺達の運命はどうなるんでしょーか!」
「腕が鳴る」
すると、装甲を付けた奴らが、機敏な動きで研究所の外壁にとりついた。
「ちっとやべえ。隠れるとするかあ!」
「そうしよう」
そして俺達は、ファーマー社の奴らを蹴散らしながら、壊れた研究所の壁のところに向かった。すると門の方から、ぞろぞろとスワットが入って来る。
タケルがそれを見て言った。
「暗視ゴーグルつけてるから、俺達の事はきちんと見えてるだろうな」
「伏せていろ」
ギィン! 俺が手をかざして銃弾を取る。手のひらに残った弾丸をポロリと下ろした。
「狙撃だな」
そう言ってヘリコプターを見ると、こちらに向かって構えている奴がいた。
「暗闇でも、狙撃出来るんだな」
「まあ、特殊部隊だからな」
そしてタケルがピッとスマホをきる。
「つうか、どうやってスワットを安全に中に入れてやるか。ゾンビ化兵にあったら、スワット達ではひとたまりもねえぜ」
「簡単だ。スワットがやったようにみせかけて、俺達が始末すればいい」
「そっか。そうだな」
とりあえず、落ちている死体を拾い上げて立たせると、正確にそいつの頭を狙撃して来た。
「優秀だ」
「えらいえらい」
しばらく待っていると、スワットの隊員たちがやって来たので、俺達は派手に話し声をたてながら建物の中に入って行った。しばらくすると入り口から、手榴弾が投げ込まれてくる。
ズドン!
「派手にやってくれるねえ」
「今の音で、じきにゾンビ化兵もあがって来るだろう」
「隠れようぜ」
そして俺達が隠れていると、案の定、階層下からゾンビ化兵達が上がって来た。そいつらは銃を持っており、スワット達と対峙して銃を撃ち始める。それによってスワットが足止めをくらい、睨みあいになってしまう。
「邪魔をするか」
「そうしよう」
俺はすぐに剣技を繰り出す。
「屍人斬。刺突閃五連」
ドサドサとゾンビ化兵が倒れたので、そいつらを持ち上げてスワット達の方に投げてやる。
ズササササ!
「な、なんだ!」
「また、人が飛んできた」
「警戒せよ!」
しばらく沈黙していると、またスワット達がこちらへと進んで来たのだった。
「来た来た」
「引っ張るぞ」
「おう。カメラ回すぜ」
「それが良い」
そしてカメラを回しながら、タケルがはしゃぐように言った。
「今! スワットに追われて、ゾンビ製造工場の中に入って来ました! ゾンビも怖いし、スワットも怖い。俺達はきっと殺されるかもしれねえ。でも見てる人は、最後まで見てくれよな!」
またゾンビ化兵がぞろぞろやってきて、隠れた俺達の前を通りすぎる。それを撮影しつつも、小さな声でタケルが言った。
「スワットに、果敢に挑む兵士達です」
「ここ研究所なのにな」
「そうだなあ。研究所になんで兵隊がいるんだろうなあ」
「俺がゾンビ化兵を投げるところを、カメラに収めてくれ」
「りょうかい」
そしてすぐにゾンビ化兵を剣技で殺し、掴んでスワットの方に投げた。するとスワットが慌てて、飛んできた人間に銃撃を喰らわせている。
「よし」
俺達は派手に騒ぎながらも、奥へ奥へとスワット達を引っ張った。そして地下階層に下りた時、真っすぐに人体実験室へと向かう。邪魔なゾンビ化兵は適当に殺して、スワットが進みやすいように誘導した。
通路を抜けて待っていると、スワットがその通路に入って来る。
「きたきた」
だがその時だった。ウィーンと音を立てて鉄の扉が下り、スワットの退路が塞がれてしまう。
「しまった! 罠だ!」
スワットが慌てている所に、シュシュシュ! と可燃性の油がまかれた。
「油だ!」
「退避!」
「退路が塞がれてます!」
俺が慌てて出る。
すぐに発火装置ごと、天井から鉄の扉まで一刀両断した。それで火が出る事も無く、退路も確保出来た。直ぐに身を隠して、スワット達が進みやすいようにする。
「な、なんだ! いま人が現れなかったか!」
「どういうことだ?」
スワット達が騒いでいる。だが縮地で身を隠したので、既に俺の姿はそこには無い。
「ファーマー社も容赦ねえな」
「侵入者はどんな奴でも排除するつもりだろう」
するとスワットが、ようやく周りの異様さに気付き始めたようだ。
「何だ……ここは」
「人間のホルマリン漬け?」
「研究施設とは聞いていたが、何をやってるんだ」
「人体実験じゃないのか?」
ざわついている。そしてすぐに無線を取り出して、後方に指示を扇ぎ始めた。
「こちらニコル。人体実験のような施設を発見した」
ガガッ!
「どういう事だ?」
「わからん。これから部屋に潜入する」
「気を付けろ」
「ラジャー」
そして注意深くスワット達が人体実験の部屋に入っていくが、中の酷いありさまを見て動きを止めた。
そこで俺の気配感知に、試験体の気配が伝わってきた。
「マズいな。試験体の気配がする」
「やべえじゃん」
「まもなく姿を現すが……通路じゃない」
そう思った瞬間。スワット達が入っている部屋の奥の壁が崩されて、ゴリラの頭に人間の顔が付いたのが三匹も入って来た。
「化物だ!」
「う、撃て!」
ガガガガガガガガ!
スワットが一斉に銃を撃ち始めるが、ゴリラの試験体は怯む事無く突進してくる。
「始末する」
俺はすぐにその部屋に飛び込んだ。
「屍人、真空裂斬!」
パン!と爆発したように、試験体の一体が飛び散る。だがもう一体が、スワットの一人を殴り飛ばしてしまった。
縮地!
俺はそいつが壁に激突する前に受け止めた。そこに試験体が突進して来たので、剣技を繰り出す。
「屍人、真空裂斬!」
パン! それも弾けるように消える。俺が振り向けば、タケルが試験体を潰していたところだった。
だがゾンビ因子を破壊する事が出来ずに、ずるずるとその試験体が姿を変え始める。
「屍人! 真空裂斬!」
最後の一体は消え去った。スワット達が呆然と俺達をみている。
「そいつ大丈夫か!」
「危険だ」
そして俺はすぐに走り、殴り飛ばされたスワットに回復魔法をかけた。シュウシュウと湯気を立てて、スワット隊員が目を覚まして、ぼーっと俺を見ている。
「大丈夫か?」
「あ、あ……おれは……いったい。あんたは?」
だがそこに、ゾンビ化兵が現れた。俺が大きい声で叫ぶ。
「全員! 伏せろ!」
ズドドドドドドドド! とゾンビ化兵が、この部屋に向けて銃を乱射し、スワット達はデスクの陰などに隠れて釘付けになった。
「応戦しろ!」
隊長らしき掛け声に、皆がマシンガンを撃ち返すがゾンビ化兵には効かない。俺は金剛と結界をかけ、直ぐにスワット達の前に飛び出る。
「屍人、冥王斬!」
ズン! 壁の外にいるゾンビ化兵を、壁ごと切り裂いた。ドサドサと崩れ落ちて、敵の銃撃が止まる。
スワットの一人が、俺に聞いて来る。
「な、なんだお前達は」
するとタケルが、間髪を入れずに言った。
「ゾンビ暴露系インフルエンサーだよ」
「ゾンビ暴露系……」
「ここはゾンビの研究をしている施設だ。さっきみたいな化物がうよいよいる」
「なんだと……」
「俺達は、ここに捉われている一般市民を救いたいんだ。スワットの力で何とかならねえか?」
「しかし……あのような化物が出れば」
「治験者たちを誘導してくれればいい。バケモノ退治は俺達がやる」
「本当にただの、インフルエンサーなのか?」
「そうだ。ゾンビ暴露系インフルエンサーのユウとレイだよ」
「ユウとレイ……」
そこで俺がタケルに言った。
「敵が来る。一度そいつらを蹴散らす!」
だが、その隙にスワットが慌てて聞いて来た。
「ま、まて。なんでアイツらは銃を受けても平気なんだ?」
タケルが呆れて言う。
「だから! ゾンビなんだよ! 意思のあるゾンビ! あんたらモタモタしてっと殺されっぞ! 銃弾はいざという時の為に取っといてくれ」
「わ、わかった」
またゾンビ化兵が来たので、俺が直ぐに蹴散らして言う。
「他の隊は?」
「他に回ってるかもしれん」
「危険だ……。こちらから接触しろ」
「わ、わかった」
どうやら、俺達があのバケモノを蹴散らしたことで、実力は分かってもらえたらしかった。自分達の銃弾が効かないと分れば、打つ手がない事くらいは分かったのだろう。俺達はすぐに増援隊と接触した。
「ニコル! どうなった?」
「下に化物がうようよいる。この人らが対処する方法を知っている」
「あんたらは?」
「ゾンビ暴露系インフルエンサーのユウとレイだ」
「ユウとレイ……」
「ここはめちゃくちゃ危険だ。いったん停戦といかねえか? ここにいる一般人を救いたいんだ」
「一般人? あれは本当の事だったのか?」
そこでタケルが言う。
「俺達は保護団体でもあるんだよ。これから、人体実験の為に捕らえられている人を助ける」
するとニコルが答えた。
「実は我々にも情報が入っている。一部の治験者を救出しのたが、事の信ぴょう性が低くかったんだよ。だがここに来て、それが本当だと分った。協力させてもらおう」
そしてスワットの隊長らしき男が、無線を通じて状況を伝えている。何故か俺とタケルは、スワットを率いて別の階層へと潜る事になったのだった。




