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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第527話 殺人鬼の家

 荒野に建っていたあばら屋のような家、だが俺はすぐにその異様さに気が付いていた。俺が騒ぎたてすればすぐに問題になると思い、治験者たちの為にとりあえず状況を見極めようとしている。それはもちろん俺だけじゃなく、クキやミオも感じている事だろう。この住人を前に、誰も何も言う事は無かった。


 そして俺は何気なく言う。


「奥にも人がいるようだな?」


「あ、ああ……息子たちがいるのさ」


「息子か。そうか」


 だが、今度はクキが言った。


「何か匂うな。動物でも飼ってるのか?」


「さあねえ。まともな水もない場所だからねえ、クソでも臭ってんじゃねえのか?」

 

 なるほど、どうやらだいぶ下品な男のようだ。それに……。この臭いは排泄物の匂いなどでは無い。俺が勝手に部屋の奥に向かって歩いてみると、男は慌てて手を出して止める。


「どこに行く? 中まで入っていいとは言ってねえぞ!」


「クソが臭うという事は、この奥に便所があるのだろう。そこを借りたいんだが」


「外でしてくれ」


「まあ、いい。それにしても随分大人しい子供だな。こんな騒ぎになっても出てこない」


「な、そいつはそうだ。躾がいいからな」


 今度はクキが言う。


「部屋に閉じこもりっきりなのか?」


「い……いや、いま具合が悪ぃんだよなあ」


 男が、だんだんと支離滅裂になって来た。


「そ、そうだよ。何だってそんな事言うんだい?」


 女にも確実に焦りがある。そして俺は確信をついた事を言う。


「血の臭いだ」


「「!」」


 男と女は途端に表情を変える。だが俺もクキも表情を変えない。


「肉を……肉を買ったんだが、そいつをしまい忘れたかもしれねえ」


「肉だと? お前らは人の肉を買うのか?」


 次の瞬間、男が咄嗟に懐に手を入れたので俺がその手を掴んだ。その横では既に、クキが女を羽交い絞めして身動きが出来ないようにしている。


 それを見て、助けた治験者の一人が言う。


「あ、あんたら! 何やってんだ?」


 俺はそれを無視してタケルとミナミを呼ぶ。


「タケル! ミナミ!」


「ほいよ!」

「なにかしら?」


「悪いんだが、奥を見て来てくれないか」


「りょーかい」


 俺が腕を押さえている男の目が泳いだ。


「まて! 勝手に入るな。お前らギャングか!」


 それには入って行こうとするタケルが答えた。


「いーや。俺の友達はマジで鼻が利くんだよ。あんたら何を隠してやがる?」


「何も……」


 タケルとミナミは奥の部屋へと進んで行った。しばらくすると、ドタバタと騒ぎが起きて音が静まる。そしてすぐに誰かがこちらに戻る足音がする。気配はタケルとミナミだが、足音からすると重量が加わっているようだ。


 ガチャ。


 入って来たタケルが抱えているものを見て、女が突然金切り声をあげた。だがクキに取り押さえられているので、身動きをとる事が出来ないでいる。


「な、なにしやがった! うちの子らに! 殺してやる!」


 タケルは、恰幅のいい二人のデカ男を運んで来たのだ。それをドサリと床に投げ捨てると、ミナミが無表情で言う。


「みねうちだけど。殺してやろうか迷ってるわ」


「どうした?」


 するとタケルが言う。


「九鬼さん。こいつらは危ねえ。いったん縛ろう」


「わかった。縄を探して来てくれ!」


 仲間達が直ぐに見つけて来て、縄で四人を縛り上げ、タケルが少し焦りながら言った。


「回復魔法は使えるよな?」


「ああ」


「九鬼さん。こいつらが変な動きをしねえように見張っててくれ」


「わかった」


 俺とタケルが部屋の先に行くと、ビニールで遮られた部屋があった。そのビニールを潜り抜けて、その先に行くと……。


「これは……」


「なんとかなるか?」


 そこには裸で吊り下げられた女と、台の上に裸で寝かしつけられている男がいた。二人とも気を失っているようだが、それは恐らく血が足りてないからだ。もうすぐ死ぬような状態で、そこにいたのだった。


 しかも……男の方は、包丁で解体されるところだったらしい。膝から下が切り離されており、そこから生々しい血がしたたり落ちていた。


「どうだい?」


「難しいが傷は塞いでやろう」


 回復魔法をかけると、男の傷は全て塞がる。


「目覚めそうか?」


「血が足りてない。それに蘇生については……タケルが一番知ってるだろう?」


「時間がかかる……か。そして、そこまで生きれるかどうか」


 そして俺は女の方に行き、ロープを外してそっと抱いて下ろした。回復魔法をかけると、こちらの損傷はそこまで酷くないようだ。だがやはり血が足りてなくて、目を覚ます事は無かった。俺とタケルがそのまま部屋を調べてみると、そこにあった冷蔵庫に解体した人間の部位が入っていたのだった。


「二人を連れて行こう」


 俺とタケルは自分の服を脱ぎ、男と女にかけてやる。そして抱き上げ、皆がいる部屋へと戻った。するとミナミが既に皆に説明していたようで、仲間達が青ざめた顔で聞いていた。


 治験者の一人が言う。


「なんだ……その人らは?」


 タケルが眉間にしわを寄せている。


「奥で解体されかけてた」


「なんだって……」


 それを聞いてシャーリーンが家の住人に問う。


「あなた方は、ファーマー社の人間かしら?」


「「……」」


 クキが凄みを聞かせて言う。


「答えなければ、息子のどっちかを殺す」


「な、なんなんだい! あんたら! うちの子が何をしたって言うんだい!」


「少なくとも、人間を殺しかけてた」


 すると男は、俺達が抱いている人間を見て叫ぶ。


「そ、そいつらは実験動物だ! とやかく言われる筋合いはねえ! 自由にしていいんだ!」


 それを聞いて治験者のひとりが言った。


「狂ってる……」


 騒ぎを聞きつけ、縁側にいた人らが何事かとこちらに入って見ている。すると一人の女の人が言った。


「あ!」


「どうした?」


「そ、その人! 一緒にバスに乗って来た女の人よ!」


 それを聞いてクキが言う。


「間違いないって事だな。お前らはファーマー社と関係してる」


「「……」」


「答えろ」


 何も言わない。するとクキがスタスタと台所に入っていく。少し待っていると、何本かの包丁を持って来て女に言った。


「あんたら、解体が趣味なんだろ? だけど解体される側の気持ちはわからんよな?」


「な、な、な! なにを!」


 そしてクキが後ろを振り向いて言う。


「治験者を連れて外に出ていてくれ。特に子供には見せられん」


「わ、わかった」


 父親がジョディを連れて外に出ると、他の治験者も慌てて部屋を出た。タケルとミナミも外に出て、室内には重症者の看病のためにエイブラハムとアビゲイル。尋問の為に俺、クキ、シャーリーンが残る。


「なにをするんだ!」


 するとクキが平然とした顔で言う。


「どっちの息子が可愛い? いや……むしろどっちの息子が要らない?」


「や、やめろ!」


 クキは聞く耳がないようで、しゃがみ込んでデカ男の一人のふくらはぎに包丁を刺した。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 デカ男が痛みで起きる。それを見て女が叫んだ。


「やめろ! 殺してやる!」


「あんたら、ファーマー社と関係はしてるのか?」


「……」


 ドス!


「ぎゃあああ! かあちゃん! いでぇよお!」


「やめておくれ!!」


「いやはや。殺人鬼にも親心があるのかい。驚いたもんだね」


 ドス!


「うぎゃぁぁぁ!」


「やめておくれ! お願いだ」


「まあいい。それで……ファーマー社とは何処で繋がってる? 連絡方法はあるのか?」


 すると男が血走った目で言う。


「ちがう! 俺達は、あそこから逃げようとしている奴をつかまえるだけだ。あとは何をしてもいいと言われてる! 実験動物だからいらないと!」


 するとそれを聞いたクキが俺に言った。


「という事は、あの逃げてた父親も、こいつらに捕まっていた可能性があるという訳か」


「そのようだ」


 どうやらこいつらは逃亡者をつかまえる係らしい。そこでクキが再び尋ねる。


「あんたらみたいなのは他にもいるのか?」


「しらねえ!」


 ドス!


 今度は寝ているもう一人に刺した。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!」


「や、やめろ! 本当にしらねえ! 俺達は何をしてもいいと言われてる!」


 そこで俺が聞いた。


「人間を解体してどうする?」


「……」

 

 ドスッ!


「おげぇぇぇ!」


 クキが今度はケツにさした。それが殊更痛かったのか、違う叫びが上がったらしい。


「やめろ! 肉は売るんだ! 売って金にする!」


「……胸糞悪い話だな」


 だがそこでアビゲイルが言う。


「なんですって……」


「どうした?」


「今回は、たまたまゾンビ因子が含まれない人間でしたが……もし因子を持っている人間だったら?」


「既に……街に出回っている……か」


「しかも、ゾンビ化兵か試験体の因子が……」


 緊急事態だった。生存者達の逃亡の手伝いをするだけではなく、下手をすると試験体のゾンビ因子が漏洩しているかもしれないという事実。俺達五人は顔を合わせて、状況の深刻さを痛感する。


 そしてクキが言う。


「ここにファーマー社の奴らが来ることは?」


「い……いらなくなった死体を運んでくる事がある」


「何だ……やっぱり関係してるんじゃないか? しかもどうしようもないクズな絡み方でな。あんたらは生かしてても意味は無いな。とりあえず知ってる事をしゃべってもらおうか?」


「しらん! 俺達はもともと、ここで犬の飼育をしてたんだ! だけどそれよりも儲かる仕事があると声をかけられただけだ!」


 アビゲイルとエイブラハムとシャーリーンがため息を吐いた。何処までも非道なファーマー社に対して、憤りを感じているのだ。俺達は日本で散々このような光景を見て来たが、彼らはこの事でより一層敵の酷さについて認識したようだった。

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