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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第524話 なりそこないの未完成体

 装甲試験体を破壊しているうちに、白衣の人間達はようやく状況を把握し慌てて逃げ出した。だが俺が縮地で、反対側の出口へと現れて待ち伏せる。


「うわあ!」

「化物だあ!」

「反対側へ!」


 だが叫んだのは愚かだった。その声に反応した装甲試験体が一斉にこちらに向き直り、俺の姿を認識してマシンガンを掃射して来た。


 ギュゥィィィィィィィィ! ガガガガガガガガガ!


 火柱が飛び、白衣の連中はバラバラに飛び散っていく。敵のマシンガンが、味方の白衣を撃っているというのに止まる事無く、ひたすらに俺に向けて銃を撃ち続けた。白衣の人間ごと次々に撃ち続けて、部屋にある培養槽もことごとく砕けて行く。


 だが、それからはそう時間はかからなかった。俺が全ての試験体を片付け、そのまま元来た入り口に向かい、奥の通路に向かって仲間に声をかける。


「ここは制圧した」


「凄い音がしたな」


「試験体による銃撃だ」


「こんな所にも、いやがるとはな」


 そうして仲間達や治験達が、培養槽のある部屋へと入って来る。だがその惨状を見て、治験者たちが青い顔をしている。


「なんだこれは!」

「あんたは無事なのか?」


「なんとかな。だがそれ以上奥には行くな。培養槽から出てきた未完成の始末はしていない」


 だが父親が助けた子供のジョディが言う。


「ママが連れていかれたんだよ! きっとここにいるよ!」


 壊れた培養槽から出た、変異した筋肉の人間達がその辺りに散乱している。試験体の銃弾を受けて死んでしまった者もいるが、まだ生命反応を示している者もいた。


「だが……」


「ママ―! ママ―! 返事をして! ママ―!」


 大きな声で叫ぶが、皆は悲痛な面持ちでそれを見ていた。父親が子供を抱き上げてしっかりと抱きしめ、それでも子供は暴れて叫び続けている。


「ジョ……デ……」


 奥の方から微かに声がした。それを捉えたツバサが言う。


「声が……」


 だが俺は首を振って言う。


「除去は出来る。だが蘇生で元に戻す方法がない」


「……まさか」


 俺はゆっくりと頷いた。だが今度は父親が俺に言う。


「ここにいる皆は、家族や知り合いと来た人もいるんだ。もしかしたら、ここにいるかもしれないんだ」


「だが近づくのは危険だ」


「あ……会わせてくれないか。この子の母親のところに」


 それにはクキが言う。


「それはだめだ。危険すぎる。それにここの状況は、既に施設管理者は把握しているはずだ」


 するとジョディが、父親の胸から身をよじって飛び出した。もちろん俺が取り押さえる事は簡単だが、むしろ俺はジョディを守る事にする。


「ママ―! ママ―!」


「ジョ……デ……」


 ジョディは未完成の死骸を駆け抜けて、真っすぐに声の元に辿り着く。もちろんその後ろには俺が立っており、何かあった場合の対応が出来るようにした。


「ママ……」


 筋肉が異常発達して、一部が溶けかかったようなものがそこにいた。だが子供は構う事無く、その個体に飛びついた。


「ジョ……デ……」


 思考が出来ているかは分からない。だがその個体はジョディを見て目を止める。


「ママ! 逃げよう」


「……デ……ダ……メ……」


「ううん。大丈夫だよ」


「キ……ズ……ツケ……ル」


「私はママと行く!」


 ここにいる培養槽から飛び出た未完成の人らは、ゾンビ因子によって生かされている。だがここで俺がゾンビ除去施術を行ったら、全てのゾンビ化途中の人間らは死滅するだろう。すでに、生体として機能している者は一人もいなかった。


 すると後ろからアビゲイルが声をかけて来た。


「どうですか?」


「すべてゾンビ因子に適応しているんだろう。まだ変行途中だが、なんとかゾンビ因子が活動を支えているような状態だ。辛うじて言葉を発しているが、人間としては死んでいる」


「そんな……」


 それでも子供は、異常発達した母親を引っ張って連れて行こうとしている。そこにようやく父親が来て、子供を母親から無理やり引きはがそうとした。


「やだ! ママだよ! パパ! ママを助けてよ!」


「ジョディ……」


 そして男はしゃがみ込み、未完成のそれを見た。


「そんな……そんな……」


 男は驚愕の表情を浮かべ、自分の妻だったものをみて震えている。泣き叫ぶ子供に、なすすべもなく座り込む父親。それに対して、俺も何をすべきかもわからなかった。


 だが入り口の方からミオが叫んで来た。


「ヒカル! 何か来るよ!」


「なに」


「やはりか! 生存者を脱出させなくては!」


 クキの言うとおりだった。


 しかもいつの間にか、治験者たちが入ってきて自分の知り合いを探し始めていた。


 そこで、アビゲイルが悲痛な面持ちで、非情な決断を促してくる。


「ミスターヒカル……施術を。除去を、ゾンビ破壊薬でも無理でしょう……」


 俺は黙ってうなずいた。魔力を発動させ、一気にその部屋にゾンビ除去魔法を発動した。俺を中心に光が広がり、異常発達した人間達が真っ白になっていく。


 動きを止めた真白なそれらに、まだ子供がしがみつき泣いているようだった。俺は父親に言った。


「生きている人間だけでも助けたい。子供を連れて行こう!」


「わ……わかった」


「やだ! やだよ! ママ!」


 しかし父親は泣きながら子供を引きはがし、暴れる子供を抱きしめる。次第に子供も理解して来たのか、しっかりと父親に抱きついて泣き始めた。


 クキが室内にいる治験者たちに号令をかける。


「これから脱出する! ここにいる人らはもうダメだ! 生きている人間だけでも脱出する事を考えよう!」

 

 すると治験者たちは立ち上がり、重い足を引きづるように歩き始める。


 そして俺が仲間達に言う。


「皆で支えてやろう! 俺が突破口を開く!」


「「「「「わかった」」」」」


 それぞれが治験者たちを支え、俺を先頭にして入り口方面に歩きだす。


 だが生存者の一人が言った。


「多分私達だけじゃない! 他の棟にも同じような人はいるはず!」


 そこでクキが残念そうに現実を告げる。


「下手をすれば、施設ごと核爆弾で廃棄されるんだ!」


「核……」


「我々はいくつも見て来た! 核で廃棄されるところを!」


 すると皆は青ざめて走り出す。俺が先に進むと、進む先からゾンビ化兵達がぞろぞろとやって来る気配がする。恐らくは状況の確認をしに来たのだろうが、遭遇する前に消さねば、せっかく助かったこの人らが殺されてしまうだろう。


「屍人斬! 炎蛇鬼走り!」


 俺の村雨丸から飛び出た剣技は、廊下を走って行きその先にいるだろうゾンビ化兵を燃やし尽くした。そのまま上階に上がり、皆を誘導して廊下に出ると白衣を着た奴らが逃げるところだった。そいつらの後を追うようについて行くと、ガラガラと通路を鉄の扉が遮断した。


「冥王裂斬!」


 分厚い扉はあっけなく崩壊し、白衣の連中もそこから飛び出るように走る。俺はあえて、そいつらの後ろをついて行った。すると次の瞬間、前を走っている白衣の連中に水のような液体が降り注いだ。するとクキが皆に叫ぶ。


「止まれ! ガソリンだ!」


 カチッ! ゴウッ! と一気に白衣たちが炎に包まれる。


「錐揉龍閃!」


 俺の村雨丸の先から空気の渦が発動し、その先にいる燃えつつある白衣の人間ごと引き裂いて炎を吹き飛ばした。


「走れ!」


 火が吹き飛んだところを、一気に全員が駆け抜けていく。また油が降り注ぎそうになったため、天井の奥のパイプめがけて剣技を放つ。


「大龍深淵斬!」


 天井ごと奥に数十メートル斬り進む。油がまき散らされる事は無く、全員が無事に通り過ぎた。


「こっちが階段だ!」


 俺達は螺旋階段の下に辿り着く。そして俺を先にして螺旋階段を昇って行くのだった。

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