第516話 米国家感染症研究所を監視
米国家感染症研究所のそばにある、雑木林に囲まれた公園の駐車場に車を停めた。キャンピングカーの中では、オオモリが国家感染症研究所にハッキングを試みている。
俺とアビゲイルとエイブラハムが、オオモリと一緒に残り他の皆が周辺の調査に向かった。なぜこのような状況にあるかというと、俺が国家感染症研究所の気配感知をした時に、ゾンビの気配が一切しなかったためである。
アビゲイルが言う。
「やはりファーマー社とは別という事でしょうか?」
「じゃないですかねえ」
俺は何故か、エイブラハムと二人でチェスを楽しんでいた。もちろん思考加速も何もせずに、ルールを聞いてやっているが、まだ一度もエイブラハムに勝つことができない。
「奥が深いものだな」
「そうじゃろう。どうじゃ、うちの孫の嫁にならんか」
だがオオモリとパソコンを覗き込んでいたアビゲイルが言う。
「お爺様! 私の気持ちも聞いて」
「だって誰が好きか教えてくれんのじゃもん」
「それは……いいの」
「ふーん」
そんな会話をしているうちに、オオモリがふうとため息をつく。
「入れました。データの確認が出来ます」
「凄いわ! 流石ですね」
「そうですか? 大したこと無いです。ヒカルさんが発信機を取り付けて来てくれたからです」
「それでも、凄いですよ」
そしてオオモリがアビゲイルに聞く。
「それで博士、何から調べましょうかね?」
「ジェフ・ベイツの身辺調査をお願いします」
「わかりました」
カチカチとパソコンを操作し、サッと表示させる。
「見たいのはこんなところですか?」
「これもその一つです。そして呆れますね、数回の不明金が自分の口座に入ってます」
オオモリがパソコンを指さして数えた。
「いち、じゅう、ひゃく……五千万ドル! えーっと、七十四億円!」
「何の金なのか……」
そしてエイブラハムが言う。
「とりあえず、皆を呼び戻した方がええじゃろ」
「そうね」
オオモリが皆のスマートフォンに通達をした。俺達が待っていると、一人また一人と戻って来る。そしてミオとマナが言った。
「アメリカの町並みも素敵だったわ」
「ほんとね。日本とは全然違う」
それにクキが言う。
「ちゃんと見て来たんだろうな」
「もちろん」
「同じく」
そしてそこにクロサキが戻って来た。オオモリがクロサキを呼ぶ。
「黒崎さん! 見て欲しいんですが、ジェフ・ベイツの金の流れなどを掴んだんです。何か分かる事とかないかなと思いまして」
「見せてください」
クロサキはさかのぼったデータを見ている。そして、大きな金が定期的に振り込まれているようだ。
「大森さん。振り込みの日程と額を一覧で表示してください」
「あ、はい」
オオモリが操作すると、不明な入金の一覧が出来上がる。
「似たような金額ですね。こんな額が……」
「そうみたいです」
「振込先は?」
オオモリが表示した画面には、いろんな会社の名前が出て来た。それをみて、クロサキが何かに気が付く。
「これは、実在しているのでしょうか?」
オオモリがしばらく情報を操作し、いろんな角度から調べていく。
「多分。どれも存在していない会社です。実際の登記などは情報操作でされているようですが、その現地にはどこにも存在していない会社のようです。少なくとも衛星からの撮影で、地図の何処にも存在していません」
「入金先を、追えないようにしている……のですか」
「そのようです。大スキャンダルですよね。暴露出来たら大事になりそうだ」
「それには時間がかかりすぎますね」
そしてまたデータとのにらめっこか続いた。だがクロサキがまたある事に気が付く。
「ああ……一つの謎が分かりました」
「なんです?」
「この振り込みは昨日、そしてこれは先週」
日付を確認しつつ、俺達に向かって言った。
「私達が直面した、数々の事件の日、周辺に振り込まれています」
オオモリがある日付のデーターをグラフで表示する。
「なるほど……」
それを見てクキが言った。
「ベルリン、ローマ、ニューオーリンズ、フォートリバティ。その周辺で振り込まれている」
「そう言う事です」
そして、それを聞いたアビゲイルが怒りをはらんだ顔で呟いた。
「口止め料……」
「そうでしょうね」
「国家感染症研究所が調査に乗り出さないように、もしくはそれらの情報を漏らさないようにしている。その為の口止め料で、このような大金を」
そしてまたクロサキが言った。
「次に、ジェフ・ベイツ局長の行動予定と履歴を調べてください」
「でるかな?」
そうやってオオモリが調べる。すると直ぐに見つかったようだ。
「ジェフ・ベイツの秘書課のパソコンと、全員のスマートフォンにアクセスできます」
「調べてください」
そうして調べているうちに、オオモリが嬉しそうに言う。
「でましたよ! 見てください! どこかのサーバーで拾った監視カメラに面白いのが映ってます」
そこには、ジェフ・ベイツと会う金髪のスーツ男が映っていた。それを見てアビゲイルが言う。
「なるほど。モーガン・ウイリアムですか。ファーマー社CEOと接触している訳ですね」
「やっぱり繋がってたんですね。調査は正しかったんです」
そしてクロサキがもう一度オオモリに聞く。
「ですが、少し変というか……。これはどこで会っている映像なんでしょう?」
「流石にここに、モーガンウイリアムは来れないでしょうしね」
パチパチとオオモリが弾いて言う。
「公式な場ではなく、どこかの公園でしょうか? データから見ると、西海岸のほうみたいです」
「なるほどです」
「どうします?」
するとタケルがにやりと笑って言う。
「なあ、ジェフ・ベイツさらっちまおうぜ」
皆がタケルを見た。
「本人からいろいろ聞いた方が早えだろ」
そう言うと、皆が顔を合わせて大きく頷いた。そして一斉に俺の顔を見る。
「こいつを連れて来ればいいのか?」
クキが答える。
「その通りだ。だがまずは、コイツの動きを察知しなければならん。オオモリのハッキングと合わせて、張り込みをする必要がありそうだな」
クロサキが言った。
「張り込みならお任せください。潜入も出来ます」
そこで俺が言う。
「いや。コイツの居所を突き止めるだけでいい」
「わかりました」
そして俺達はジェフ・ベイツ捕獲の為に動き出すのだった。




