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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界
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第50話 救える命

 再び先ほどの鉄の囲いのあるアジトにたどり着くと、待っていた皆が唖然とした目で俺を見ている。俺が持っている米袋が嬉しいのかもしれない。この人数でもしばらくは持つはずだ。


「玄米だ。少しは足しになるだろう」


「それ…入ってんのか? 随分軽そうに持ってるが、中身は本当に玄米か?」


 なるほど。中身を疑っていたのか…


「そうだ。間違いなく玄米が入っている」


「こんなに?」


 葵の父親が門を開けてくれたので、俺は中に入ってそれを降ろした。


「持ってみてくれ、ちゃんと入っている」

 

 父親が一袋を持ち上げて言った。


「重い! 本当だ。てか、あんたこれを重ねて持ってきたのか?」


「トラックを回すには、あんたらに車をどけてもらわなければならないしな」


 すると葵が目を輝かせて俺に言う。


「お兄ちゃん! すっごい力持ちだね!」


「鍛えているからな」


「凄い!」


 葵が笑顔になると、皆もほほえましくそれを見ている。そして父親が袋を開けて中身を確認し皆にそれが本物であることを伝えた。


「こんなに玄米が」


「少しは足しになるだろう」


「だいぶ助かるよ」


「じゃあ。早速トラックをどけてくれ」


「わかった」


 トラックをどかすために父親ともう一人の男が出て来て、俺と一緒に車まで行く事になった。彼らの後ろをついて行こうとすると葵が声をかけてくる。


「お兄ちゃんありがとう! 私達、本当に腹ペコだったんだ! そして気を付けて東京に行ってね! お兄ちゃんは力持ちだから、きっと東京にたどり着けるよ!」


「ありがとう。アオイも頑張って生きろ」


「うん!」


 するとアジトの皆が俺に頭を下げた。アオイが手を振るので俺も手を振り返す。するとみんなも手を振って俺を送り出してくれた。俺は歩きながら父親に聞いてみる。


「待ち伏せた道は、結構人が通るのか?」


「いや。一カ月に一回あるかないかだよ。どんどん数は減っているんだ。でも米をあんなに大量に持っていた人はあんたらが初めてさ」


「そうなのか。俺達がここに来る道中でも、あんたらが初めての人間だよ」


 俺がそう言うと、二人の男の顔が曇る。


「まだ生きている人、どれだけいるのかね?」


「さてな。これからまた平和な世界を構築するしかないんじゃないか?」


「やり直し…か…」


 父親ともう一人の男が顔を見合わす。そして父親が俺に言った。


「やり直しなんて出来るのかね? 既に政府は機能していないだろうし、警察も自衛隊も助けに来ない。生きていた人は次々にゾンビに変わって、生き残った俺達だけでそんなことが出来るとは思えんが」


 どうやらこの人らも生きる希望を無くしている。自分達で運命を切り開こうとしていない。希望を無くした人間に成せる事は少ない。それでも俺は父親に言う。


「出来る。少なくとも俺と俺の仲間はそう信じている」


「…そうか。あんたは外国人か? 」


「この国の人間ではない」


「そうか、現実的にはかなり厳しいぞ」


「だから何もしないと言うのは、もっと現実的ではないさ」


「そうか…そうなのかもな。だが俺達は東京に行くなんて冒険は出来ない」


「危険を冒さねば、手に入らない物もあるんじゃないか?」


 ‥‥‥‥‥


 父親は黙ってしまった。少し歩いてぽつりと言った。


「そうか…あんたらは頑張ってな」


「ああ」


 俺はこの父親に、一つ伝えておかなければならない事があると思った。


「一つ教えておこう。仲間が空港で暴漢に数十人殺された。銃を大量に持った暴漢がいるという事も覚えておいた方が良いだろう。こうやって車を止めた時、そいつらが盗賊じゃないという保証はないぞ」


「そんな惨い事があったのか…」


「男は殺され、女は犯されていた。空港のような堅牢な場所でも、暴漢が押し入って人を殺したんだ」


「そうか、あんたらは空港のコロニーから来たのか? 前にここを通った人から空港のコロニーの話は聞いていたが、そうか…空港の奴らは全滅したんだ…」


 父親と男は絶望の表情を浮かべていた。


「ゾンビではなく人間に殺されてな」


「酷いな」


 俺は父親に聞いてみる。


「あんたらは、もしかしたら空港に行こうと思っていたのか?」


「そうだ。このあたりの食料もつきかけていたし、人が大勢がいると聞いていたからな。ここを脱出して空港に行こうと思っていたんだ」


「残念ながら空港はゾンビだらけだ」


「そうなんだな…」


 受け入れがたいのだろうが、俺達はそれを見て来た。間違いなく全滅したのだ。


「まだここの方が安全ではある」


「まあ、こうして生きているからな。でも…これからどうなるか分かったもんじゃない」


 やはり希望を失っているようだ。俺は父親が希望を持てる事を一つだけ思い浮かべた。


「お前の娘はまだ若い、お前が守ってやるしかない」


「葵か?」


「ああ。あの子はお前だけが頼りだ。お前が守らないで誰が守るというのだ?」


 父親は深く考えそして俺を見て言った。


「そうだな…。そうだ、死ぬ気でやるさ」


「そうしろ」


 そして俺達が車の所にたどり着く。父親と男が封鎖したトラックの鍵を持っており、二重に塞いでいたトラックを後ろに動かして道を開けた。そしてヤマザキが運転するトラックがそこまで進んで来る。後ろにはワゴン車がついて来ていた。


 そして俺は、トラックの窓の外に行ってヤマザキに声をかける。


「ヤマザキ!」


「どうした?」


「ジュウをくれ」


「ん? どうするんだ?」


「この人らは武器を持っていない。それをやる」


「銃をか…」


「そうだ」


 するとタケルが奥から言った。


「山崎さん。そいつはヒカルが賊から獲ったもんだ。権利はヒカルにあるよ」


「…わかった」


 ヤマザキが俺にジュウを渡してくる。俺はワゴンに乗る前に葵の父親の所に行く。


「これで娘を守ってやれ」


 俺は手に持ったジュウを父親に渡した。


「小銃? くれるのか?」


「俺が空港で盗賊から奪ったものだ。あの勇気ある娘を守ってやれ」


「わ、わかった! ありがとう! 本当にありがとう!」


「元気でな」


 そして俺がワゴンに乗るとユリナがワゴンを走らせるのだった。後ろを振り向くと二人の男が、こちらを見て手を振っていた。俺は車の窓から手を出し手を二人に手を振る


 するとツバサが言った。


「ヒカルって、優しいんだね」


 するとミオも言う。


「あの娘ちゃん、葵ちゃんだっけ? 可愛かったもんね、死んでほしくないんでしょ?」


「そうだ。勇気ある子供だった。あの父親には娘を守る義務がある」


 俺が言うと車の中のみんなが微笑んだ。


 その道路を少し進むと凄く広い道路にぶつかった。ヤマザキのトラックが左に曲がり、俺達のワゴンが左に曲がるころには、もう道路を塞いでいたトラックは無くなっていた。


 俺が言った事で学んでくれればいいが…


 無謀な通行料の取り立てを続ければ、いつか彼らに危険が降り注ぐだろう。自分らのやり方を振り返り、新しい方法を見つけるならばジュウが必要となる。俺はそう思ったのだった。


 俺が運転しているユリナに聞く。


「一気に道幅が広がったな」


「これが国道四号線よ」


「これで東京に行けるのか?」


「そう。何も無ければ日が暮れる前には到着すると思うけど、夜に東京には進入しないんでしょ?」


「俺だけなら夜の方が良いが、皆の動きが極端に悪くなるからな」


「確かにね。ヒカルって夜でも目が見えるんでしょ」


「そうだ」


「それって訓練で出来るようになるものなのかしら?」


「なる」


 すると皆が声を合わせて言った。


「「「「んなわけないよー!」」」」


 まあ彼女らは気を練る事も出来ないし、魔力も保有していない。その状態で暗闇を見渡す事など出来ない。まずは気を練る事から学ばないとだが、既に皆は成人している。ここから特殊能力を身に着けるとなると、並大抵の事では無理だろう。


「でもさ、さっきの人達みたいに生きてる人、もっとたくさんいるんだろうね」


「そうだな。あそこはカイタイヤと言うのがあって、鉄の壁が周りを覆い鉄の門には鍵がかかっていた。おそらくあの環境がゾンビから身を守ったのだろう」 


「やっぱりヒカルの言う通り防御策がきちんととれていれば、なんとかなるって事なんだね?」


「お前達だって空港ではそうしていたろう?」


「そうだね。だけどあんなに酷い目にあっちゃった」


 するとミナミが言った。


「恐らく話が広がりすぎちゃったんだよ。人が空港に集まっている事が知れ渡って、それであんな暴漢を呼び寄せちゃったんだと思う」


 確かにさっきの父親がそんなことを言っていたな…。


「さっきの父親が言っていた。空港の話を知っている人があの道を通ったそうだ」


「えっ?」


「戸倉さん達かな?」


「どうだろ?」


 実際はどんな奴があそこを通ったのかは分からない。だがこの世界では、目立ちすぎると狙われる可能性があると言う事だ。むしろあんなカイタイヤのほうが目立たなくて良いのかもしれない。だがいずれ食料が尽きてしまうだろう。


「犬や牛が歩いているが、それを捕えて食わないのか?」


 俺が聞くと、皆が顔を見合わせてマナが言った。


「犬や猫は食べないけど牛なら食べれるかな? でも野良のは食べたことないよ。お店で買ったものだけ」


 するとツバサが答える。


「ゾンビになったりしないかな? 感染したりしてないのかな?」


「ゾンビは人間の間でだけ移るみたいだけどね」


 するとユリナが言う。


「保健所とかやってないからね。実際は危険すぎて食べたり出来ないのよね」


 俺が皆に言う。


「普通に生きている奴ならば食えるはずだ。まあ俺が居た世界と同じかどうかわからないが、ゾンビ化していなければ問題ないと思う」


「そこが問題よね。ヒカルの世界と同じだったら良いんだけど」


「感染は噛まれた場合のみによると思うのだがな」


「確かに今まで見聞きして来たのはそうだったね」


「いや。もし牛や犬が食えるのなら、さっきの親子だって生き延びる事が出来るのではと思ってな。じきに食料は尽きる。だが動物を食えば何とか食い繋げられるんじゃないかと思っただけだ」


「だといいんだけどね」


 するとミオが言った。


「それも可能性だよね。せっかく生き延びたんだから」


「きっと生き伸びるさ。アオイは強い心を持っていた」


 気休めかもしれない。だが俺はそう信じたかった。俺が全てを救う事は出来ない。しかしあいつらはあいつらなりに生きる知恵を絞っていた。この世界にどれほどの人間がいるのか分からないが、生き延びる為に出来る事はしてやりたい。俺は前世で世界を救いたいなどと夢をみて滅ぼしかけたが、魂を捧げる事でなんとか救う事が出来た。だがこの世界は俺一人がどうこうしたところで簡単に救えそうになかった。


 俺はこの仲間だけは絶対に守りたかった。全てを救う事が出来ないのなら俺は精一杯やるだけ。今の俺に出来る事はそれだけだった。

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