第508話 アメリカ最大の基地から脱出
俺達の装甲車が走っていくと、直ぐに軍隊が待ち受けていた。装甲車の上に括り付けた兵士がいるおかげで、攻撃はしてこないようだが、通りを塞いで行かせないようにしている。
「どうするよ」
ハッチから顔を出して、タケルが俺に聞いて来た。
「どかせばいい」
「なるほど」
次の瞬間、俺が一台のトラックの前に出現する。そしてトラックに誰も乗っていないのを確認し、推撃でトラックを吹き飛ばした。
「なんだぁ!」
「トラックが吹き飛んだ!」
「爆撃か?」
兵士達が狼狽えているところに、クキが運転する装甲車がまっすぐ突っ込んできた。思考加速をほどこしているので、すべてがゆっくりに見える。
「止まれぇ!」
「撃つぞ!」
俺は銃を構えている奴らを、一瞬で行動不能にする。足を掴み、ポイポイと道路から投げ捨てた。
俺が装甲車に飛び乗ると、天井に縛られている兵士が言う。
「ど、どうなってる?」
「なんで通れるんだ」
目の前で起きていることが信じられないらしい。俺は目と口だけが出ている帽子をかぶり、こちらを狙撃銃で狙っている奴を見た。どうやら俺めがけて、銃を打ち込んで来たらしい。
スパン!
狙撃の弾丸を斬り落とし、何もなかったようにそこに座った。
後方から、ぞろぞろと車両が追いかけて来て、空からもヘリコプターがついて来ている。
またタケルが顔を出した。
「どうやらこの先で待ち伏せされてるな」
「入り口には行かん。壁に向かって走れ」
「りょーかい」
多くの気配がいる方向とは逆に走り出し、都市部を抜け出した。すると兵士が言う。
「あんたら、もう終わりだよ。ここまで来てしまえば、俺達は人質になんてならねえぜ」
「どういう事だ?」
「俺達ごと吹き飛ばされるって言ってるんだ」
「なんだ。そんな事か」
「そんな事?」
「心配するな。お前達は死なん」
「アメリカ特殊部隊を舐めるな」
「舐めてはいない」
そうして道を逸れた装甲車は、演習場のような場所に出る。こいつらが言ったように、三機のヘリコプターが一気に近づいて来た。
「突光閃! 三連」
ヘリコプターのプロペラを破壊すると、三機ともそのまま地面に落下していく。今度は周辺から、こちらに向かって大きな弾が飛んできているようだ。
「次元断裂」
弾は全て違う次元へと吸い込まれていく。流石に一緒に乗っている兵士達は、高速で行われるそれを認識する事が出来ないでいる。
「な。どういう事だ!」
俺が言う。
「仲間に殺されたくはないだろう?」
「どうせ俺達を殺すのだろう」
「逃げたら用済みだが、そこで開放する」
「信じられん」
するとタケルが言う。
「基地のバリケードが見えて来た。あと何重にも溝が彫られているから、装甲車が落ちるなこりゃ」
「ならバリケードを壊して、俺が装甲車を持ち上げる」
「りょーかい」
前面に迫って来るバリケードを破壊する。そして俺が装甲車の前に降り立ち、溝の上を通過できるように運んだ。何事も無かったように基地を脱出する事に成功し、追いかけて来た車両達は、そこで停まらざるを得ないようだった。
基地を出て森林地帯を抜けると、市街地が見えて来て装甲車は普通の道路に入った。
俺が天井に飛び乗ると、軍人たちが青い顔をしている。
「あ、あんた。ターミネーターか?」
「ターミネーター?」
「未来から来たロボットか、秘密裏に開発されたロボットじゃないのか?」
「人間だ」
「うそだろ」
すると、また空からヘリコプターが追いかけて来た。
タケルが言う。
「想定外のところから飛び出たから、車両はついて来てねえが航空部隊はついてくるな」
「見失ってもらっては困る」
「それに恐らく規制が入ってて、一般車両は通ってねえみてえだ」
そしてオオモリが、タケルから受け取ったスマートフォンを見ながら言う。
「テレビ局までは、まだ距離があります」
タケルが言う。
「とりあえず、そこら辺のマンホールの上で停まれ」
そのまま車は進み、居住区の一角で停まる。そして俺は、一人だけ抜けられるように装甲車の底に穴を開けた。真下にマンホールがあり、俺がクキに言う。
「皆を頼んだぞ」
「了解だ」
そうして皆が底の穴から、マンホールに入り込んで行った。
エイブラハムが出る前に、車に俺と残る予定のアビゲイルに言う。
「気を付けるんじゃぞ」
「分かっているわ。ミスターヒカルがいるから大丈夫よ」
「うむ」
そしてタケルが言う。
「俺もいるからな。アビゲイルには指一本触れさせねえ」
「頼むぞ」
皆がマンホールに消えて蓋を閉じた。クキに代わりタケルが装甲車を走らせ、アビゲイルが後部に乗る。俺が再び天井ハッチを抜けて出ると、軍人たちが俺を見て言う。
「どうするつもりだ。どこに行っても部隊はいるぞ?」
「さてな。とにかく俺達は不当に捕らえられただけだ。自由になる権利がある」
「ここまでやっておいてか?」
「自由になるために逃げただけだ」
そして今度は、ハッチから顔を出して前を見ているアビゲイルが言う。
「バリケードに軍が待ち受けてます。ですが、空には民間のヘリコプターも飛んでいるようです。人質がいる以上、むやみに攻撃はしてこないんじゃないでしょうか?」
「分かった。タケル! 突っこめ!」
「あいよ」
装甲車が突進していくと、兵士達が逃げる。その後ろに、大きな装甲車が何台も止まっていた。
「推撃」
ズン!
装甲車が道を開け、それを見ていた軍人たちは唖然とし、もう何も言わなかった。その道を抜けると大勢の群衆が集まっており、空を沢山のヘリコプターが飛び交っている。
「マスコミもいます」
「よし」
そして俺は運転席に行きタケルに言った。
「どこが目立つだろうか」
「カメラがいっぱい集まってるところが良いよな?」
「そうだな」
そして俺達は報道の連中が集まってるところに行き、車両を停める。バリケードの向こうから、おびただしい数の光が発せられた。
そして、天井の上の軍人たちが言う。
「くっそ、とんだ赤っ恥だ!」
「こんなんでテレビに出るなんてな!」
「俺らは世界に晒されるぜ!」
そうでなくてはならない。
そして俺は、アビゲイルをハッチの上に引っ張り上げて言う。
「心の準備は良いか?」
「ええ」
「お前の身は俺が守る。思う存分話をしてくれ」
「そうするわ」
そして俺とタケルが兵士の一人を解き銃を突きつけ、そいつを人質にして装甲車を降りる。アビゲイルを守りながら、兵士を盾に進んで行くと警察と軍隊が後ずさった。
どうやらカメラの前では、人は殺せないようだ。
そしてタケルが叫ぶ。
「どこのテレビ局でもいい! 俺達は独占取材に応じる! 名乗りをあげてくれ!」
すると一斉に手が上がった。
だが軍隊がそれを遮る。
「それは許されない! 罪人は法廷で証言をするべきだ!」
そこで突然アビゲイルが、自分の目出し帽を取り去る。
「私はノーベル賞のアビゲイル・スミス博士です! アメリカ軍に不当に拘束され、逃げてきました! 私はいくらでも証言いたします! これは正当な権利です!」
それで一気にざわついた。
俺達は銃を構えられているが、報道の人間が声高らかに言う。
「会見だ! 会見を設けましょう!」
そのことで、軍隊と報道陣の言い争いが始まるのだった。




