第504話 フォートリバティ基地での騒動
俺とタケルはヘルメットをかぶりサングラスをかけて、アメリカ南部の田舎道を走っていた。何処までも続く道は、とても気持ちがいいものだ。
そしてタケルが言う。
「やっぱアメリカはハーレーがいいな」
「何処までも道が続く」
「ああ。今までの大陸は道なき道を行くだったが、だだっ広くてもアメリカは何処までも道路が続いてる。バイク乗りには最高だぜ」
「確かにそうだな」
「そんで、このあたりが目的の地だ」
俺達は十時間ほどバイクを乗り続け、目的の基地周辺の森林地帯を走っている。タケルがバイクを止めてスマートフォンを見る。
「この森林の向こうが、射撃訓練場みてえだな」
「行くか」
「念のために言っておくけどよ、グリーンベレーとかデルタフォースとかがいる場所らしい」
「それはなんだ」
「アメリカ版の九鬼さんがいっぱいいるって事だ」
「なるほど。そこそこ厄介だな」
「九鬼さんも仲間を引き連れてなければ捕まらなかっただろうけど、流石に女子連中はどうにもなんねえ。大森とかも逃げられねえだろうし、エイブラハムの爺さんも無理だ」
「問題は……」
「ああ、アビゲイル博士だな。正体がバレたらマズい事になりそうだぜ」
一日以上拘束されているだろうが、現在どうなっているのかは分からない。そもそも連れて来られたアジア人が、まだここにいるのかどうか。
道を逸れて森を走り始めると、後ろをタケルがついて来た。だがそのうちに木々がうっそうと茂る場所に出て、バイクは進めなくなる。
「ここに置いて行く」
タケルが残念そうに言った。
「可哀想なハーレーちゃん。誰かに見つけてもらえよ」
バイクを下りて森を進んでいると、高いフェンスに囲まれた場所に出た。
「この高い壁の上の電線は、多分高圧電流だぜ」
「なら穴をあけよう」
「了解」
村雨丸を構え、分厚い壁を丸く切り抜いた。寝そべってそこに潜り、タケルも後ろをついてくる。
「さーて、基地は広いぜ」
「人の気配がする。銃を持った奴らが何かしてるぞ」
「訓練だろ」
「わかった。それじゃあ行こう」
俺達がそこから先に進んで行くと、タケルの言うとおりに戦闘訓練をしているようだった。今まであったほかの国の軍隊とも違う、かなり熟練した統率のとれた動きをしている。
「タケルの言うとおりだ。動きのいい奴らがいる」
「だろ?」
「だが、クキほどじゃない。さっきタケルが言ったようにクキのような奴だらけなら、もっと手こずっただろうが、クキよりも能力は低いようだ」
「どういうこった?」
「クキはレベルアップしていない時に、俺に気とられる事無く狙撃してきた。二回目はさすがに分かったが、クキはまったく気配を出さずに狙撃をしたんだ。タケルも今なら、その凄さが分かるだろう?」
「ぞっとするねえ。今でもヒカル意外なら、気づかないうちに殺せるってこった」
「そう言う事だ」
「自衛隊特殊作戦群の隊長ってのは、レベルが高いのか。それとも九鬼さんの資質がそうなのかね?」
「多分、クキが異常なんだ」
「あの化物だらけの核で焼かれた東京で生き残ってたんだもんな。あの人がおかしいのは間違いない」
俺は唐突に剣を振るう。
「刺突閃」
「どうした!」
「監視カメラがあった。破壊したが映ったかもしれん」
「おっと。そいつは急いだ方が良いな」
監視カメラを破壊しつつ走ると、また違う音が聞こえて来た。
「タケル。この音は恐らくドローンだ」
「マジか。監視カメラを壊したから、確認しに来たんじゃねえのか?」
「すべて落とすが、俺達の足取りがバレるかもしれん」
「仕方ねえ」
世界最大の基地と言われるだけはあるようだ。今までのようにはいかず、俺とタケルは作戦の変更を余儀なくされる。
「一度、基地を出る」
「りょーかい」
俺達が走っていると、こちらを確認する気配を感知した。
「見つかった」
「流石はアメリカ特殊部隊だ。俺達がこうもあっさり見つかるなんてな」
「オオモリがいないのが痛い」
「あいつなら機械を騙しただろうからな」
「銃で狙ってるやつがいる」
「マジか」
そして俺はタケルの頭を持って、地面にふせる。
バシュ。
「狙撃かよ」
「そのようだ。部隊が動いて、俺達を包囲するつもりだ。またドローンが飛んで来た」
とりあえず俺は、再び全てのドローンを落とす。
「完全に位置を掌握された」
「んー。なるほど、一戦交えるしかないか?」
「いや。ひとまず俺達の狙いは分かっていないはずだ。ここは一旦退こう」
「おっけ」
そして俺は軽く大技を振るう。
「剛龍爆雷斬」
ズドオオオン!
大きな爆発を起こした隙に、一気にフェンスに戻り穴をあけて外に出る。
「全力で走れ」
「あいよ」
ゴウと音をたてながら、俺とタケルは森を疾走して茂みに隠れる。
「タケル地図だ」
「一瞬だ。恐らくスマホの位置で感知されるかもしれん」
「やってくれ」
タケルが地図を見て位置を確認し、それからすぐに電源を切る。
「こっちが町だ」
「行こう」
森林地帯を疾走し道路を横切りまた森に入る。それを繰り返していると、民家が見えて来る。
「街はこの先だ」
「走れ」
そして俺達が閑静な住宅街に出ると、今度は空をヘリコプターが飛んでいるようだった。だいぶ距離は離れているが、俺達が脱出した方角から聞こえて来る。
そこで俺が言う。
「恐らく俺達の脚力を想定出来ないはずだ。とにかく先を急いで、どこかに潜伏しよう」
「だな。デカい騒ぎになっちまったから、ちょっと潜入しずらくなっちまった」
「アメリカ特殊部隊を侮っていたかもしれん」
だがタケルが笑って言う。
「なーに、潜入方法なんてごまんとあるぜ。今までもそうしてきたようにな」
「ああ」
店や飲食店などが道端に出て来る。そこを歩いていると、車が行列になって走る音が聞こえて来た。
「車が来た」
「いったん店入ろうぜ」
するりと入った店はレストランで、店員が空いている席に座れと言っている。俺達がとりあえずテーブルに座ると、店員の女が注文を取りに来た。
「見ない顔ね。旅行者?」
「そうだ」
「そっちはアジア人だね」
「そうだ。台湾だよ」
「分かんないや。何にします?」
俺達がメニューを見るが良く分からない。
タケルが聞いた。
「おすすめは?」
「タコスとかブリトーだね」
俺達が言われたとおりの物を注文し、店員は奥へと引っ込んでいく。
「まあ、あれだな。アメリカは良いよな?」
「本当だな。いい気降だ」
わざと他愛もない話をする。すると店員が注文の品を持って来て言った。
「なんだろ? さっきから外が騒がしいな」
「なにが?」
「車が行ったり来たり。パトカーも行ったし」
タケルが言った。
「物騒な事件でも起こったかなあ」
「なんだろう? さっき遠くで爆発音もしたし、何かあったのかな?」
「いやだねえ」
テーブルに乗った瓶ビールを開けて、俺とタケルが瓶をカチンと合わせて飲む。
「ぷはあ。うめえな」
「そうだな」
そして女が聞いて来る。
「ここまでどうやって来たんだい?」
「ヒッチハイクだよ。アメリカを適当に旅してんだ」
「いいねえ。学生かい?」
「まあ、そんなところだ」
そして女が席を離れる。俺とタケルは何食わぬ顔で飯を食った。
「メキシコ料理か。うめえな」
「ああ」
カランカランと音をさせて、体つきのいい男が三人入って来た。
「いらっしゃーい。あらーこんにちわー」
「おう。ビールを三つくれ」
「あいよ」
見るからに軍人だ。うっすら火薬の臭いがする。俺達は旅行者を装い、そいつらの話に耳を傾けた。
「爆発騒ぎがあったらしいな」
「非番だから呼び出されたくねえけどな」
「ああ。いったい何なんだ」
「間抜けがやらかしたんじゃねえのか?」
「ちげえねえ」
なるほど、こいつらは何が起きたのか知らないしらしい。しばらくすると、また軍人が入ってきた。
そこでタケルがわざと店員に聞いた。
「随分、デカい兄さんらがくるな?」
「軍人さんだよ。五万人の軍人さんが基地で働いてるからね」
「へえ。軍人さんの町かい」
知っては居るが、知らないふりをして聞いた。
するとチラリと軍人がこっちを見て、店員に聞いている。
「彼らは?」
「学生のヒッチハイカーだってさ」
「ははっ。羨ましい身分だな」
「どうも」
「坊やたち、ここにゃあ基地くらいしかないよ」
「通過点だからいいんだ」
「どこに行くんだい?」
「あてはねえけど、ニューヨークから来たんだ。これからロス迄、頑張ってみるつもりさ」
「そうかい。せいぜい頑張りな」
「あんがとな」
そして俺達が何食わぬ顔で飯を食っていると、軍人たちが一斉にスマートフォンを手に取った。
「マジかよ。非番だって言うの」
「基地で爆撃なんて誤報だろ」
「しかたねえ。行くか、会計を頼む」
すると店員が言う。
「非常事態なんだろ。お代はいらないよ」
「すまない」
そうして軍人たちは出て行ってしまった。飯の邪魔をしたのが俺達だと分れば袋叩きにされそうだ。とりあえず俺達はゆっくりと飯を食いつつ、外の様子を伺うのだった。




