第503話 ロードハウスの荒くれ者からバイクを買う
日が落ちた夜の街道を、俺とタケルが歩いていた。フォートリバティ基地へ向かう為の、移動手段を探していたのだ。すると錆びれた飲み屋の前で、バイクが並んでいるのが見えて来る。
「ハーレーだらけじゃねえか」
「どうする?」
「もちろん、これにする。だけど愛を感じる仕様にしてるなあ……」
「どういうことだ?」
「大切にしてんだろうなって。これを盗むのは忍びねえし、リュックに入ってる金で買うか」
「なら、鍵を持っている奴を探そう」
俺達が店に入ると黒い皮の上着を着た連中が、テーブルの上に乗っている玉を棒で突いていた。酒瓶を片手に、談笑している者もいれば、店員の尻を触って怒られている奴もいる。
だが俺達が入っていくと、屈強な男達が会話を止めてじっと見てくる。
タケルが言う。
「なんか、お呼びじゃないって感じだな」
だが俺は、皮の上着を着た集団の一人に言う。
「外のバイクは、あんたのか?」
すると驚いたような顔をして、男の仲間達が振り返る。
「この成金野郎は、何を言ってるんだ?」
「さあてな。悪い事は言わねえ、坊やたち。さっさと出て行った方が身のためだ」
「そんないい身なりで、こんな所にくるもんじゃねえぜ」
なるほど、俺のル〇ヴィ〇ンのスーツの事を言っているらしい。
「すまないな。こう言う所に来る服装が分からないんだ。とにかく外のバイクは誰のだ?」
その言葉でBARの中の空気が一転する。皆が注目し、屈強な男らは殺気立てて俺達を睨んだ。
「坊やに何が関係ある?」
「大事なバイクを、ちょっと売ってくれないか」
俺が言うと、BARが笑いに包まれる。
「あははははは!」
「こ、このガキ何言ってんだ?」
「おいおい。何言ってるのか分かってんのか?」
「ちょっと待て。金はあるんだ」
タケルは、ゾンビ破壊薬が入っていたリュックから、シャーリーンが入れていた札束を取り出す。
三束ほど重ねると、男達の目の色が変わった。そしてタケルが言う。
「封を切ってねえ三万ドルだ。外にあるファットボーイとフォーティエイトを売ってほしい」
「おいおい。おまえらなにもんだ?」
「ちょっと旅行してて、バイクがいるんだよ」
「わけわからねえ。こんな所で金をひけらかして何がしてえ」
「売ってもらえねえのか?」
「売るわけねえだろ」
「そうか」
するとタケルは、素早くリュックに札束を入れこんだ。
「本当はバイク屋を探してる暇はねえんだがなあ…」
タケルは歩いている店員をつかまえて聞く。
「このあたりにバイク屋はあるかい?」
「あ、街に行かないとないよ」
「んじゃ、街に行って聞くか」
そして俺とタケルが、店を出るために歩いて行くと、玉つき棒が俺達の前に現れる。そして殊更屈強そうな、皮の上着を着た男が言う。
「おい、そのバッグを置いていけ」
タケルがギロリと睨んで言う。
「あっ? どういうこったよ?」
「バイク屋の案内賃だよ」
「あんたに教えてもらったわけじゃねえぜ」
「この店の子が教えたんなら、俺達が教えたも同然だ」
するとタケルがニッと笑って言う。
「やめとけやめとけ。痛い目をみたくなかったら、さっさと通してくれ」
すると男達が大笑いする。
「なんだ、カラテでもやるのか? アチョー! って」
「なんでもいいよ。んじゃ、またな」
タケルが玉つき棒をどかし進んで行くので、俺もその後ろをついて行く。
「てめえ!」
男がタケルの肩を掴んだが、そのままずるずると引きずられてコケる。それを見て男達が立ち上がり、俺達の行く先を阻んだ。
転んだ男が立ち上がって言う。
「手を出しやがったな!」
「出してねえよ。おりゃ肩を捉まれただけだろ」
「バッグをよこせ!」
リュックに手をかけそうになったが、タケルはスッと逸らしてどける。
「マジで、怪我をさせたくねえ。あんたらバイク好きなんだろ? いいから黙って行かせてくれよ。俺達が悪かったよ」
すると転ばされた男が、飛び上がってタケルを殴って来た。もちろん思考加速が働いている為、タケルにはナメクジよりもゆっくりと見えているだろう。
スッ! よけると、そのパンチが反対側の男を叩いた。
「ガッ!」
「あっ!」
そこに、さっきの女の店員がやってきて言う。
「ちょっと、もうやめてよ。あなた達もさっさと出て行って!」
「わーったよ」
そしてタケルと俺が、店を出ようとした時だった。
パシィ!
男が女の頬を叩いた。反動で女がよろけ、玉つきテーブルに突っ伏す。
「ひっこんでろ!」
するとタケルが足を止める。
「ふうっ」
タケルが振り向くと他の男が飛びかかるが、もちろんそれも避ける。
「こいつ! ボクサーかなんかだ!」
「違うよ。つうか、叩いたお前、女の子に謝れ」
「女の子だあ? あの年増がか?」
「いいから謝れ」
すると男達がまた笑う。だがタケルは真剣な目をして、隣りに置いてある玉つきの重厚な台を左手で持ち上げた。
「「「「「なっ……」」」」」
それを見て、男達があっけにとられ、目が飛び出さんばかりだった。
「こいつでぶん殴られたくなかったら謝れ」
「な……」
「早くしろ」
すると男は女に言う。
「す、すまなかった」
「もう! あんたら帰ってくれよ! 警察呼ぶよ!」
タケルがズンッ! と玉つきのテーブルを下ろす。
「んじゃな」
「ちがうよ。そっちの皮ジャン連中だよ!」
「ちっ! くそが!」
そう言って男達が出ようとしたので、タケルが付け加えて言う。
「おいおい。タダで出て良いって言ったか? 少しテーブルが壊れたんだ。修理代を置いて行けよ」
「な、お前がやったんだろ!」
「いいから。ファットボーイとフォーティエイトの鍵を置いてけ」
そう言ってタケルは、リュックから札束を二つほど出して言う。
「本当だったら三万ドル払う予定だったが値引きだ。二万ドルだ。じゃねえと本当にテーブルで殴る」
「クソ!」
そう言って男二人が鍵を床に投げた。タケルはきちんと二万ドル渡し、男達は外に飛び出し二人乗りをしながら去って行った。そしてタケルが、店の女に言う。
「騒がせてすまなかった。コイツは慰謝料だ」
さっき渡さなかった一万ドルを、女に渡した。
「こんなに?」
「あんたは俺らを守ろうとしたからな。あと店にも迷惑料だ。マスターにもいくらか渡してくれ」
「そう……ありがとう」
女は金を受け取り、俺達は鍵を拾って店を出た。店の連中が唖然とした顔で見送っているが、俺とタケルは外のバイクに鍵を挿してエンジンをかける。
「まあまあのコンディションだ。酒はほどほどにしねえとな……ってヒカルにゃ意味ねえか」
「いずれにせよ。上手くいった」
「だな」
そして俺達は大型のバイクにまたがり、そのBARに駐車場を後にするのだった。




