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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界
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第49話 追いはぎ

 俺はトラックに行きヤマザキの席の扉を軽く叩いた。スッと窓が開いてヤマザキが顔を覗かせる。


「そのまま聞いてくれ。タケルはジュウを使えるようにしておけ、既に人間がいる場所は掴んでいる」


「どこだ?」


「少しはなれた場所の建屋の中に二人。トラックは畑の中を突っ切れるか?」


「いや。道路から落ちたら進めなくなるだろうな」


「なら仕方がない、ここで待て。相手の目的が分からないが強盗だろうか?」


「わからん」


「もしかしたら盗賊が追いかけて来たか?」


「それはないだろう。どう考えてもこっちに来るとは考えにくい」


「分からないなら直接聞く」


「あまり手荒な真似はしたくないがな」


「わかった。無傷で一人連れてこよう」


「ヒカル。くれぐれも気を付けてくれ、こんな田舎でも危険な奴らはいるかもしれん」


「問題ない」


「しかしな。もう間もなく国道につく頃だというのにな」


「むしろ今までが順調すぎたんだ」


「そうかもしれんな」


 俺はヤマザキに窓を閉めるように言い、すぐに人間の気配を掴んだ建屋に向かう。屋根伝いに飛び人間がいる家の屋根に降り立って内部を探る。そいつらは二階の辺りから二人がトラックの方を見ているのが分かった。どうやら相手はこちらの出方を見ているようだ。


 次の瞬間、窓の中に飛び込みざま二人の人間の意識を刈り取る。恐らく何が起きたのかすらわかるまい。そして俺は二人を見て呟く。


「なんだ?」


 二人は空港で見た盗賊の類とは違っていた。男は成人しているようだが、女は若くて成人しているとは思えない。話を聞くなら男だが、男を連れて行くと女の子が外に出てしまうかもしれない。そうなれば女の子がゾンビの危険にさらされるだろう。


「なら二人連れて行くか」


 俺は二人を担いで窓から隣の家の屋根に飛び移る。そしてまた隣りの屋根に飛び移って一気にトラックの屋根に飛んだ。


 ドン!


 俺が屋根に降りても、ヤマザキ達は警戒して外には出てこない。俺の注意をきちんと聞いてくれているようだ。そして俺はそのまま二人を担いでトラックの前に降りる。俺を目視してタケルが飛び出して来た。


「ヒカル!」


「とりあえず連れて来た」


「あっという間だな」


「周囲にゾンビはいない。皆降りてきてくれ」


 俺が言うとヤマザキとユミが下りてくる。それに合わせてワゴンの女達も降りて来た。俺が二人を道路に横たわらせると、タケルが聞いて来た。


「死んでるのか?」


「無傷だ。意識は飛んでいるがな」


「一人は若いな」


「盗賊ではないように思う」


 そして女達が来て寝ている二人の周りを取り囲んだ。


「男を起こすぞ」


「わかった」


 シュッ! 俺は男に活を入れて目を覚まさせた。男は一瞬何が起きたか分からないように、きょろきょろとしたが慌てて尻を引きづって後ずさった。すると背中がタケルの足にぶつかる。驚いた男がタケルを見上げると、反対側に飛び去って両手をあげた。


「撃たないでくれ!」


 突然男が言った。


「撃たねえよ。道を塞いだのはあんたらかい?」


「すまん! どうしてもやらなければならなくて…」


 そして男の目線が、道路で寝ている女の子に向かう。


「あ、葵! そんな!」


 男が四つん這いになりながら、女の子にすり寄った。


「大丈夫だ。気を失っているだけだ」


「ほ、ほんとうか?」


 男が狼狽しきっている。俺は女の子の傍らに座り活を入れて目覚めさせた。しばらくボーっとしていた女の子が、目の前の男の顔を見て言う。


「お父さん?」


「おお! 葵! 葵!」


 男が女の子を抱きしめて叫ぶ。


「どうしたのお父さん? なんで私達、道路に…」


 そして女の子が、ようやく俺達の存在に気が付いて周りを見渡した。そしてタケルに目を止めて言う。


「わ、悪い奴らだったの?」


 女の子がそう言うと、ヤマザキが二人の元にしゃがみ込んで言う。


「いや。そういうヤツらじゃない、道を塞いだのは君達だろう?」


 すると男が答えた。


「そ、そうです。この子は悪くないんだ。皆で話し合ってやった事だ!」


「皆?」


「このあたりの町の生き残りだ!」


 男が言うので俺は、人間の気配を大勢感じる方角を指さして言う。


「こっちの方にいる奴らか?」


「そ、そうだ!」


「他の家にもいるようだが、何をしているんだ?」


「‥‥‥」


 俺はバールを見せてもう一度男に聞く。


「暴力は振るいたくない。俺達は何故車を止められたかを聞いているんだ」


「わかった! 話すからこの子だけは助けてくれ!」


「この子にも、あんたにも手を出す予定はないが?」


「本当か?」


「本当だ」


 男は黙り込み、女の子は必死に父親に抱きついている。するとミオがしゃがんで女の子に聞いた。


「私達は暴漢じゃないわ。生き延びる為に旅をしているのよ。先に進むにはあのトラックが邪魔なの、どかしてくれるとありがたいかな」


「お、お父さん! 早く車を動かすように言おうよ」


「そうだな。この人達は悪い人達じゃなさそうだ。すぐに皆に伝えよう」


 二人を開放すれば、相手がどう動くのか分からない。他の奴らが襲ってこないとも限らないからだ。俺は父親に向かって言った。


「俺を連れていけ」


「えっ、あんたを? 他の人達は?」


「俺は皆を危険にさらす事はしない。行くとすれば俺ともう一人だ」


 そう言って俺はタケルを見た。


「そうだな。こんなことをした理由をまだ聞いてねえしな」


「ああ」


 そして父親が少し黙り込む。だが意を決したように言った。


「わかった。だけど家族や街の人達には危害を加えないでくれ」


「そちらが何もしなければ何もしない」


「約束だ」


「わかった」


 そして父親と葵と呼ばれた女の子は、恐る恐る俺達を連れて歩きだす。


「ヤマザキ、皆には車で待機するように言ってくれ。そしてタケル、ジュウは置いていけ」


 間違って人を殺したら後味が悪い。


「わかった。山崎さん。これを頼む」


「ああ」


 そしてヤマザキがジュウを受け取り、俺とタケルは二人について行くのだった。すると父親の方が俺達に聞いて来る。


「銃は持っていかないのか?」


「ああ。あんたらはどうやら盗賊では無いようだ。理由があっての事だと思ったからな」


「そうか…」


 そしてすぐの道を曲がり、そこから四軒ほど先に進む。するとそこに鉄の壁で囲まれ、鉄の門がある敷地が出て来た。それを見てタケルが言う。


「車の板金屋? 解体業か?」


「そうだ。ここが私らの拠点だ」


 そして父親は、門の側の紐を引くと奥でシャンシャンと鈴の音が鳴った。少しすると包丁や鉄の棒を持った奴らが、恐る恐る門の方へと歩いて来たのだった


「あなた! 葵!」


「すまない。捕まってしまった」


「捕まった? 暴漢なの?」


 女がそう言うとタケルが答える。


「暴漢じゃねえよ。てか俺達が先に進もうとしていたんだが、道をトラックでふさがれたからな。それでこの二人を連れて来て、何なのかを聞きに来た」


 すると女がガチャガチャと門の鍵を開けて、外に飛び出して来て葵をきつく抱きしめた。


「よかった。無事なのね」


「だから何もしてねえって」


 するとその奥からさらに数人の男が来て言う。


「あんたら、随分余裕だな。こっちは十人もいるんだぞ」


 するとタケルが答える。


「ははっ…十人じゃ足らねえよ」


 そう言って俺を見た。すると男達が俺に聞いて来る。


「そこのスーツを来た人は、整備士か何かか?」


 俺がそれに答えた。


「違う。これは武器の代わりに使用しているバールだ。ゾンビがいるからな」


「そんなんでゾンビと戦えるのか?」


 俺が答えようとすると、俺達を連れて来た父親が遮るように言った。


「いや。彼らは銃を持っているよ。私も葵も撃たれなかった」


 すると皆が顔を見合わせ、少し話し合ったうえでこちらを向く。


「そうか。君らは仲間を殺さないでくれたのか」


 それにタケルが答える。


「だから、そう言ってる」


「暴漢ではないんだな?」


「ちげえって!」


「そうなのか…。だが一体どこに向かっているんだ?」


「東京だよ」


「「「「「東京?」」」」」


「ああ。東京だ」


 すると鉄の棒を持った男が、声を荒げる。


「何を言ってるんだ? 東京にはゾンビがあふれているんだぞ!」


「知ってるよ。俺は一回行って来たからな」


「行って来た? 東京にか?」


「ああ」


「良く生きて帰って来たな」


「いや。無事って訳でもねえ」


 そう言ってタケルが服の片方をはだけてみせた。


「腕が…」


「ああ。ゾンビに取られちまったよ」


 すると男がタケルに聞いて来る。


「ならなんで! なんで、また東京なんかに行こうとしてるんだ?」


「そりゃあよ。東京ならいろいろ物があるんじゃねえかなって思ってだろ」


「そりゃあるだろうが、命がいくつあっても足りないぞ!」


「それも覚悟の上だよ」


「…馬鹿なのか?」


「まあ馬鹿かもしんねえけどよ。じっとしているよりはマシだろ?」


「あんたの言ってる事がわからん」


「まあいいさ。とにかくなんで道路なんて封鎖してるんだ?」


「それは…」


「言って見ろよ。俺達は心が広いんだ」


 すると最初に捕らえた子供の葵が言う。


「正直に言ったら見逃してくれる?」


 タケルがしゃがみ子供の目線で言った。


「もちろんだ。君しっかりしてるね、何年生だ?」


「六年生」


「もう立派な大人だな。とにかく正直に言ったら何もしない」


 タケルが一人でやり取りをしてくれているが、随分器用だと感心してしまう。


「あのね。本当はあそこを通る人を止めて、包丁や鉄パイプで脅して食べ物をとろうとしてたの」


「あ、葵!」


 母親が葵をグイっと庇うように抱きしめた。


「大丈夫だよ、正直に言ったからなんもしねえって。葵ちゃんよく言ってくれたね、大人より勇気があるようだ」


「そ、そんな事無いけど」


 そしてタケルが俺の方を向いて聞いて来た。


「だってさ。どうするヒカル?」


 この人らは盗賊ではないが、生きる為にこう言う事をしたのだろう。俺は一つだけ聞いてみることにした。


「いままで物を取るために殺したことは?」


 すると少し年配の男が言った。


「無い。もし食べ物を持っていなければそのままやり過ごし、持っていれば少し分けてもらっていた」


「なるほど。少し分ければ通らせてもらえるのか?」


「あんた…何を言ってるんだ? 銃を持ってるんだろ? そのまま行けばいいじゃないか」


「持っているが、それがなんだ? お前達は食べるものに困っているのだろう?」


「それはそうだが…」


「なら分けてやろう」


 すると十人ほどの人間がこちらを一斉に見た。


「いっ、いいのか?」


「困ったときはお互い様だ。俺達が食料を分ければ通してくれるんだな?」


「も、もちろんだ」


「なら交渉成立だ」


「あ、ああ」


 そして俺はタケルを見ると、タケルがにやにやと俺を見返している。何か嬉しい事でもあったのだろうか?


「じゃあタケル。トラックに戻るぞ」


「わかった」


「そしてお前達。このあたりにもゾンビはいるのだ、門を閉めて中で待っていろ」


 するとアオイの父親が言った。


「わかった…、あの…葵に危害を加えないでくれてありがとう」


 するとタケルが答える。


「子供になんざ手をあげねえよ」


「そうですか…」


 俺が皆を中に入れて鍵をかけた後に言う。


「じゃ、待っていろ」


 そして俺とタケルがトラックにもどり、タケルがヤマザキに伝えるのだった。


「山崎さん! ここを通りたきゃ関税を払えって言われて来たよ!」


「関税?」


 俺が言う。


「通行料だそうだ」


 ‥‥‥‥‥


 ヤマザキは少し考えて言った。


「なるほどな。何をやる?」


「米がいいんじゃねえかな?」


「俺もそれが良いと思う」


「ならそうしよう」


 ヤマザキに話を通し、トラックの後から三十キロの玄米袋を四つ取り出す。そして俺はそれを全部担いで、さっきの板金屋とやらに走るのだった。

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