第495話 ゾンビセーフティーゾーン領域拡大作戦
俺達が新型ゾンビ破壊薬を撒いた事で、ビル街一帯はセーフティーゾーンと化した。ゾンビの死骸が転がっているものの、ゾンビが停止した事で建物から人が出てきている。生存者達は皆が鼻と口にタオルを巻いたりマスクをしており、他の人らにもそうするように勧めていた。
生存者の一人が言う。
「集団ヒステリーかと思ったが、いきなり死んでしまったようだな。これは恐らくウイルスの仕業なんじゃ無いかと思う」
科学的に作られたゾンビ因子が原因だが、やはり情報は出回っていないようだった。だがそれを聞いた人達が、慌てて口に布をあてがい始める。
そこでタケルが言った。
「噛まれないと移らんぜ」
すると白衣を着た人間がタケルに言う。
「素人は黙っていただきたい。感染症の事を何も知らないんだろう?」
「感染症の事は何も知らんが、ゾンビの事はよーく知ってるぜ」
「ゾンビ? 馬鹿言っちゃいけない。ゾンビのように見えるが、これは集団ヒステリーだよ」
しかし生存者の中には、それに対して異論を持っている人も多かった。
「いやいや。体を撃っても死なないのを見た。明らかにゾンビだろう」
だが白衣を着ている奴が言う。
「痛覚や恐怖を鈍らせる病気もあるんだよ。きっと痛覚が鈍って痛みを感じなかったんだろう」
それにまたタケルが言う。
「そんな事は今は大きな問題じゃない。じきにまたアメリカ軍が爆撃をしに来るぜ。こんな中心地に固まっていたら、一気に黒焦げにされるかもしれねえぞ」
そこでまた他の奴が言う。
「いやいや。死んで暴動が静まって来たんだから、連絡すれば止まるはずだ」
更に他の奴が言う。
「何処に連絡するってんだよ。米軍のホットラインを知ってる奴がいるとでもいうのか?」
「それは……」
すると今度は女性が手を挙げて言った。
「警察署に行きましょう。もしかしたら、警官隊が生き残ってるかもしれないわ」
「そうだ! とにかく警察署を目指そう! そしたら軍隊にも連絡がつくかもしれん」
だが人々が通りの向こうを見ながら言う。
「あれは暴動を起こしている人間達だよなあ。あそこを超えて行かなきゃならない」
「なんで暴動を起こしている奴は、こっちに来ないんだ?」
暴動ではないのだが。
「とりあえず、こっちには来ないからよ! 一旦、下手に動かねえでくれよ!」
大きな声でタケルが言うと、スマートフォンに連絡が入った。
「大森です」
「おう!」
「まだ新型ゾンビ破壊薬がありますか?」
「ああ、使ってねえよ」
「良かった。陸路が無理だったので、船を探してたんです。そこから四キロほど離れた、ポンチャートレーン湖の岸のあたりにいます」
「ようやく来たか」
「手こずりました。船も盗んだものなので」
「で、施策ってなんだ?」
「北の空を見ていてください」
タケルとオオモリがスマートフォンで話し合っている間も、生存者達が揉めていた。
すると、ビルとビルの間の道路上に、突如として龍が現れた。
「タケル! 龍だ! 龍が来ている!」
「はあ? なんだって? そんなわけ……ほんとだ……」
皆が北の空を見上げた。すると誰かが言う。
「ありゃドローンだ。AI制御で龍の形をしているだけだ」
「ドローンかよ」
するとそのドローンは俺達の上で円になり、囲むようにして下りて来た。
「タケルさん! 見えてますよ」
「お。そうかい? で、これをどうするんだ?」
「散布用ドローンです」
「あ、了解だ。瓶を取り付けりゃいいんだな」
「はい」
タケルはリュックを下ろして、周りの生存者に言った。
「えーっと、何って言ったらいいかな……。そう! これは鎮静剤だ! さっき集団ヒステリーって言ったろ? そいつを収める薬なんだよ! ドローンにつめて散布するから手伝ってくれ! 爆撃機が来る前にやっちまおう!」
すると白衣を着ている男が言った。
「なんだ。あんた安全局の人間か?」
「そうだよ。とっととやっちまおう」
タケルがさらりと嘘をつくと、皆が集まってきて瓶をドローンに取り付け始めた。全てのドローンに瓶を取り付けると、タケルがスマートフォンに向かって言う。
「取りつけたぜ!」
「了解です」
ビューン! というモーター音と共に、ドローンたちが四散して飛んで行く。すると生存者が言う。
「おお! 暴動している奴らが倒れていくぞ!」
「本当だ」
そこでタケルがオオモリに聞く。
「で、どうなる?」
「範囲を広げてセーフティーゾーンを作り出して行きます。ゾンビを全て始末は出来ませんが、勝手にセーフティーゾーンに入って行動を止めると思います」
「でかした」
「あと、悪いニュースですが、まもなく次の爆撃機が来ます」
それを聞いて周りの奴らが慌て始める。
「爆撃機だと! すぐ逃げた方が良い! 中心地店に居れば、やられる!!」
「逃げろ!」
「わあああああ!」
「お、おい!」
タケルの制止も聞かずに、生存者達は一斉に逃げ出してしまった。
「大丈夫だタケル。かなりの範囲でゾンビの気配が消えている。爆撃を処理する。俺におぶされ」
「へいへい」
タケルを背負って一気にビルの屋上まで駆け上がると、東の空から数機の爆撃機が飛んで来た。それに向かって俺が村雨丸を構え、空接瞬斬で全ての爆弾を爆発させる。
「ははは。米軍はこの現象を、いったいなんだと思ってるんだろうな。整備の奴らが怒られそうだぜ」
「そんなものは知らん」
そして俺は気配感知を張り巡らせる。
「居た。新型の試験体の気配を感知した」
「おお、ゾンビが静まってやっと見つかったか」
「みんなのおかげだ」
「よっしゃ。んじゃあ、俺のレベル上げと行きますかあ!」
「そうだな」
「ぶっちめてやんぜ! こんなに人を殺しやがって!」
「ああ」
俺達は試験体に向かう為ビルを出る。どうやら生きている人間が次々に出て来て、避難を開始しているようだった。思ったより多くの人が残っている事に、俺もタケルもニヤリと笑う。
「いっぱい生き残ってくれてるな」
「そのようだ」
セーフティーゾーンは転々としているので、ゾンビがいる場所を通過するのは難しいかもしれない。なので俺は生存者の逃げ道を作る為、走りながらも剣技でゾンビを斬り捨てていく。
「飛空円斬」
斬り捨てたゾンビの上を走っていると、タケルが俺に言った。
「ヒカル! あれで行こうぜ!」
タケルが路上に乗り捨てられているバイクを見つける。
「なら俺が剣を振る。タケルに運転を任せるぞ」
「ああ、どこにでも連れてってやんよ」
タケルがバイクにまたがり、俺が後ろに乗る。キックをしてエンジンをかけ、倒れたゾンビをぬうようにして、タケルはフルスロットルで走り出すのだった。




