第488話 海洋プラントからの脱出
俺達がゾンビ化兵を始末しながら、その施設の最下層へ下りると、なんとそこには潜水艦の発着所があった。浮かぶ潜水艦には、次々に数メートル大のコンテナが括り付けられている。
「あのコンテナから試験体の気配がする」
「なるほどな。あれに入れて試験体を持ち出すつもりだ」
「どうしますか?」
俺が二人に言った。
「あれを利用して脱出する」
「利用して?」
「試験体の代わりに俺達が乗り込む」
「本気か?」
「ああ」
三人は下まで降り、運び出されている一個のコンテナに取りついた。俺が直ぐに運転している奴を殺し、引きずり降ろして物陰に隠す。直ぐに衛星通信の機器を取り出した。
「シャーリーン。繋いでくれ」
「はい」
そして俺がスマートフォンに言う。
「ヘイオオモリ」
「ヒカルさん! 無事でしたか!」
「目の前にコンテナがあるんだが、そこに鍵がかけてある。それを解除しろ」
「ま、待ってください!」
「シャーリーンに変わる」
「は、はい!」
そしてシャーリーンがオオモリに説明をし、クキがスマートフォンで動画を撮影する。シャーリーンが指示通りにボタンを操作し始めた。
そしてシャーリーンがオオモリに答える。
「違うようです。これでは開きません」
「じゃあ次はこれ」
「これも違うようです」
そんな事をしているうちに、停止しているこの搬送車を不振がって、兵隊達が近寄ってきたようだ。
「兵隊が来たぞ」
「次は?」
ピッ! ガシャン!
「開いた!」
クキが直ぐにコンテナのドアを開け、俺が中に新型ゾンビ破壊薬を放り投げる。
どうか……?
気配が…消えた。
「試験体は死んだ。入るぞ」
俺達がコンテナの中に入り込み、ドアを閉めると自動で鍵がかかった。中にはどろどろになった試験体があり、クキとシャーリーンが恐る恐る見ている。
「大丈夫だ。機能は完全に停止している」
「気味が悪いな」
「問題ない」
すると間もなくガコン! とコンテナが動き出すのが分かった。何かに繋がれたような音がして、俺達はしばらくそこで息を潜めていた。
ゴウンゴウンゴウン!
「どうやら潜水艦が動き出したようだな」
「そのようです」
俺達が入ったコンテナも、潜水艦で一緒に運び出されたらしい。
「どこに行くんだ?」
「どうなるんでしょう?」
二人が言うも、聞こえるのは潜水艦のエンジン音だけで、俺にもどうなるのかは分からない。
「基地は出たんだろうか?」
俺が頷く。
「ゾンビ化兵の気配が、どんどん遠のいている」
だが唐突に潜水艦のエンジン音が変わる。
「スピードを上げた」
「そのようですね」
俺達は潜水艦に接続されたまま、進んでいる。 シャーリーンが、仲間達へと連絡を取る。
「ヘイオオモリ」
「はい」
「俺達の居場所が分かるか?」
「バミューダ海上です」
「どちらに向かっている?」
「恐らくこのまま進めば、アメリカのどこかですね。フロリダかジョージアか…」
ザッザァッァー!
突然話声が途絶える。
「オオモリ?」
ザーッと音がするだけで、何も返事は無かった。
俺達は衛星通信を切って、機器を防水の器具入れに仕舞いこむ。
「なんだ?」
「通信を妨害されたのか?」
「なんでしょう?」
自分達の状態が分からないが、潜水艦はコンテナをぶら下げ、アメリカに向かっているようだ。
そこでクキが言った。
「静岡に現れた試験体は、きっとこうやって運ばれたんだろうな」
「そのようだ。とにかくどうする?」
そこでシャーリーンが言った。
「恐らく、ここの酸素は、数日もたないかと思われます」
「だよなあ」
「ミスターヒカル。足元を綺麗に切れますか?」
「問題はない」
「ではそこから出て潜水艦に損害を与える事は?」
「容易いな」
「大きな損害が出れば緊急で浮上するはずです」
「わかった」
俺が日本刀を構え、試験体を持って二人に言う。
「コイツで穴を塞ぐ。俺のリュックを頼む」
「わかった」
「断鋼裂斬!」
俺が底を斬ると、ビュッと水が入り込んで来る。直ぐに水中に飛び出して、試験体で穴をがっちりと塞いだ。
「流石は試験体。丈夫だな」
そして俺はコンテナにつかまりながら、潜水艦の本体に向かう。
「断鋼裂斬!」
ビシッ!
潜水艦に貫通するような穴が空く。その状態で少し見ていると、急速に浮上し始めたようだ。
ザバア!
浮上したところで船上のハッチが開き、中から兵士達が次々に出て来る。脱出用のゴムボートを次々に、海上へと放り投げているようだった。
俺は即座にクキ達がいるコンテナの上を斬る。そこから覗き込んで手を突っ込むと、先にシャーリーンが出て来て、次にクキを引っ張り上げた。
「船員が脱出してるのか?」
「恐らくは、試験体が暴れたと思っているのでしょう」
「確かにそりゃ焦るわな」
そして俺が言う。
「ゴムボートを一ついただくとしよう」
「わかった」
そして俺はすぐに潜水艦の上に立ち、剣技を放つ。
「飛空円斬!」
見えている奴らは全て真っ二つになり、シャーリーンとクキが泳いで空のゴムボートに辿り着いた。すると、そのそばにあるゴムボートにいる奴らがクキ達を見つけ、銃を構えるところだった。
「炎蛇鬼走り」
俺の日本刀から炎の蛇が飛び、そのゴムボートごと焼き払う。そして俺が海に飛び込むと、クキ達が俺を拾い上げるべく近くに来てくれた。
それを見て、次々に脱出した奴らが泳いで来るが、俺が剣技を繰り出す。
「氷結斬」
海ごと凍らせ、俺は悠々とクキ達のボートを掴んで泳いで押し始めた。ボートは急速に潜水艦を離れ、俺はようやくゴムボートに乗りこむ。
「あんな試験体を放ってはおけん」
「だな」
「はい」
剣を構えて技を繰り出した。
「次元断裂!」
バグン! 試験体は潜水艦と、避難している兵士ごと異次元に消えた。
そこで、シャーリーンが海の向こうを指さす。
「あれを見てください!」
遠いその海には、黒々とした雲が浮かび上がっている。
クキが言う。
「核爆発だ。基地ごと消しやがった」
「危なかったですね」
俺は海に浸かりながら言う。
「みんなの元に帰ろう。俺がこのまま泳いで押す」
「ああ」
「はい」
俺が背負っているリュックをボートに投げると、シャーリーンが中から防水の入れ物を取り出して、衛星通信を繋げる。方向が分かったので、俺はゴムボートを押して陸に目指して進むのだった。




