第487話 スライムゾンビ試験体の使い方
敵を退けつつ、俺達はようやく空調の施設を発見した。流石はシャーリーン、こういった建造物の構造を知り尽くしており、俺達はそれほど手間をかけずして到着したのだった。
俺達が見ている先に、超巨大なプロペラが何重にも設置されており、その上に金網が張られている。そこの前に立っただけで、物凄い吸い込みの力が働いている事が分かった。
「薬を」
俺達はポケットから薬の瓶を取り出して蓋を開け、プロペラにめがけて投げつける。プロペラにぶつかって割れた液体が、吸い込まれて中に入っていくのだった。
「よし。行こう!」
クキが言った。俺が先行し来た道を戻ると、その途中で新しいゾンビ化兵の気配がした。
だがそいつらは、バタバタと倒れ次々に気配を消していった。
「効いたようだ」
「成功ですか」
「ああ。これで多少邪魔者は消える」
「ああ」
「はい」
さっきの超音波音声が再び流れたら、俺は周囲をずたずたに切り裂く。どこかで機器が破壊され、クキもシャーリーンも気にせず進むことができた。かなり下まで潜ったが、ゾンビ化兵はことごとく死んでおり、俺達の新型ゾンビ破壊薬が効いている事がわかった。
するとようやく研究施設のような場所に到着し、あちこちにぐったりした研究員が座り込んでいた。どうやらおかまいなしに超音波兵器を使ったらしく、それを喰らった研究員が体調不良で動けなくなっているらしい。
「俺が始末する。シャーリーンは情報を探してくれ」
「はい」
クキがシャーリーンを守り、俺は身動きが取れなくなっている研究員の意識を刈り取った。
そして端末のデータを見たシャーリーンが言う。
「ここは……」
「なんだ?」
「新型試験体の製造工場です。そして…新型試験体に使用させる兵器開発をしています」
「試験体用の兵器だって?」
「見てください」
そして俺とクキがその情報を見る。
そこには試験体が武装をしている様子が、動画で映し出されていた。
クキが呆れたように言う。
「おいおい。生物兵器開発に飽き足らず、そいつらを強化する兵器まで開発しているのか」
「そのようです。だからこのような海上に基地があるのですね。ここならば、外に被害が及ばない。その代わりに、大陸にある研究所で開発されている試験体とは桁が違うようです」
「新型ゾンビ破壊薬が、効かない可能性も視野に入れないといけないだろう」
「その時は。俺が斬る」
「ああ。それしかない」
次々にデーターのバックアップを取りながら、シャーリーンが俺に言う。
「ミスターヒカルのリュックから、衛星通信回線の機器を」
俺が取り出すと、シャーリーンが袋を開けて端末を繋いだ。衛星回線を通じて、オオモリと自衛隊に送られる仕組みになっている。
「あとどのくらいだ?」
クキが聞いてシャーリーンが答えた。
「あと十分」
「急いでくれ」
「はい」
「下手にこの基地がダメになったと分れば、アイツらは自爆や核で消去をしてくる」
「分かっています」
衛星通信に繋いだことで、オオモリたちとの回線がつながる。
「九鬼さん」
「こちらは基地に潜入中。送ったデータにあるように、海上プラントを模した基地があった」
「気を付けてください。謎の航空機がそちらに向かいました。自衛隊からも注意をするようにと通信が来てます」
「証拠隠滅か…」
「可能性が高いです」
「あいつらも諦めが早いこった」
「後手に回りたくないのでしょう」
「了解だ。データが吸い上がれば回線は切れる。他に何かあるか?」
「御武運を」
「おうよ」
そこでシャーリーンが言う。
「吸い上がりました。回線を閉じます」
回線を閉じ、衛星機器をリュックに仕舞いこんで俺達は廊下に出る。そこでクキが言った。
「既に謎の航空機がこっちに来ている。恐らくは証拠隠滅だ。もう間に合わんかもしれん」
そこで俺が言う。
「なら下に潜ろう」
「わかった」
「はい」
下に潜れば、海上が攻撃されても後から脱出方法はいくらでもある。とにかく二人を連れて下に降りていくと、螺旋階段と空洞が下に続いているのが見えて来た。下はどこまでも続いているように見える。
「こりゃ…エレベーターだな」
「何のエレベーターでしょう?」
「クキ。下から何かが上がって来るぞ。恐らく試験体だ」
下のエレベーターが上がって来るのを感知した。
「試験体だあ? 挟み撃ちか」
「問題ない」
俺達が螺旋階段を下りていると、下から上がって来た大型のエレベーターが目の前で止まった。扉はしまっているが、俺達の位置をしっかりと把握しているらしい。
「俺達のいる場所が分かったようだ」
シャーリーンが言う。
「恐らくは赤外線センサーが巡らされていたのでしょう」
「来るぞ!」
エレベーターの扉が開くと、そこには機械で出来た、サルのような試験体が三体ほど出て来た。
そしてクキが目を見開いて言う。
「ロボットか?」
「気配は試験体だ」
「鉄の外骨格を着せています。あれはロボットではなくゾンビです」
そいつらは赤い目を光らせており、体中に武装を施された試験体だった。
「見た目上の気味悪さはないが、あれが試験体だと思うとぞっとするな。まるでメカ軍団が襲ってきたようだ。ロボットと称して売るつもりか?」
「撃ちます」
シャーリーンが銃を構えようとするが俺が手で制し、刀を抜いて剣技を繰り出す。
「屍人鉄鋼斬! 三連!」
ガン! ガコン! ガガン!
三体の鉄製の試験体が崩れると、中からぐずぐずのゾンビ細胞が現れて死んだ。
それを見てクキが言う。
「ヒカルが見た、ゾンビ化スライムの正しい使い方って訳だ。こりゃマズいな、こんなものまで出来たのか…」
そしてシャーリーンが言う。
「航空機の目的は爆破ではなく、これの回収ではないでしょうか?」
「あいつらが自分達で爆破しないなら、俺が破壊するまでだ。このまま下に降りるぞ」
「ああ」
「わかりました」
俺達は螺旋階段を使って、更に下へと潜っていくのだった。




