第482話 最大ギャングのボスを誘拐
ギャング達は、車を破壊され武器も放置して散り散りに逃げ出す。だが諦めずに銃を持っている奴らもいるようだった。俺は味方にその銃を向けられる事が無いよう、一人一人刺突閃で眉間を撃ちぬく。俺がそこで掃除をしているうちに、左右の道路から軍隊らしき車が近づいて来る。
シュッ! と近くのビルの屋上にジャンプをして様子を見る。すると軍隊は、車を降りて次々にギャング達に発砲していった。散り散りになったギャング達はなすすべもなく撃たれ、慌てて近くの建物に入って行った奴もいる。
俺は建物の屋根伝いに走り、仲間達が戦っているところに行く。既に戦いは終わって、ほとんどを制圧していたようだった。逃げようとしていた奴を、思いっきり蹴り飛ばしながらタケルが言う。
「戻ったか?」
蹴り飛ばされた奴は、そのまま建物の壁に激突して絶命した。
「軍隊が来た。ギャングは壊滅しているから、制圧も容易いだろう」
そこでクキが言う。
「それじゃあ、バリー・ボルケーを探しにいくか」
「ああ。皆はホテルに戻ると良い。もう今日はギャングの襲撃は無い」
「わかったわ」
そして再び俺とクキ、クロサキとシャーリーンで繁華街の方に走った。警備をしていた軍人達は居なくなっており、人々も建物の中に避難したようだ。
繁華街に行っても人はおらず、隠れているらしい。そんな中を俺達が堂々と進んで行くと、しばらく進んだ先で俺達を狙う気配を感知した。
「狙われている」
「どこだ?」
「あの飲み屋らしき屋上だ」
「なるほどねえ。あんなところで監視していたって訳だ。ギャングの幹部は」
「襲撃にも加わらないで、いいご身分ってところですね」
「ひとまず制圧して来る。あの飲み屋で合流しよう」
「了解だ」
俺はすぐさま近くの屋上に飛んで、一気に六軒先の飲み屋の屋上まで飛躍する。音もなく着地した俺に気が付いてもおらず、俺はすぐにそこにいた三人の意識を刈り取った。そいつらが持っていた銃を取り上げて、ぐちゃぐちゃに丸めて捨てる。
屋上から下を見ると、丁度クキ達が飲み屋の中に入っていくところだった。俺は失神している三人の首根っこを掴んで、屋上から飛び降りる。中ではクキ達が、ギャングと争っているところだった。
「ここにもギャングか」
俺はその飲み屋のガラスに向かって、上で捕まえて来たギャングを思いっきり放り投げる。
ガッシャァァン!
三人がガラスを突き破って、飲み屋に飛び込んで行った。するとカウンターの向こうから数人がガバッと起き上がり、銃を構えて俺に撃ち込んで来る。もちろん金剛と結界に包まれた俺に、銃弾が到達する事は無い。
「な、なんだ!」
「死なねえ!」
「ゾンビか!」
「おまえら! 早くアイツを殺せ!」
「死なねえんです!」
銃声の中でも、相手の話している声ははっきり聞こえる。だがその銃声が瞬間突然止まった。クキとクロサキとシャーリーンが、そいつらを制圧したのだ。ギャングたちは手を挙げている。
そしてクキが聞く。
「お前ら、サウザンド・ディーモンの幹部だな。ミンチはどこだ」
すると三人は、クロサキが後ろ手に抑えている男を見た。
「お前が、バリー・ボルケーか?」
「お、お前らはなんだ! 特殊部隊か?」
「そうだよ。ある意味特殊部隊だ」
「こんなことをして…ぶっ殺してやる」
「……お前が生き延びられたら、そのチャンスもあるだろうがな」
「……」
「お前らは、罪もない女子供を含め、何百人も殺したんだってな?」
「この世界はもう終わるんだ! やれるうちにやりたい事をやる!」
「だからって罪もない人を殺すのはだめだな。とりあえず、なんでこの世が終わる?」
「ゾンビだよ! 俺の弟が行方不明になる前に聞いたんだ。ゾンビがこの国を支配しだしたってな!」
「ゾンビが…国を支配?」
「そうだよ!」
そしてクキが俺を見て言う。
「こいつを連れて行こう。後は始末して良い」
するとシャーリーンは、自分が押さえつけている奴の頭に銃を突き付けて引き金を引く。すぐに近くで寝ころんでいる奴の頭も撃ちぬいた。だがクロサキが躊躇しているようなので、俺はカウンターに乗っている酒瓶を取り、クロサキが放したところでそいつの頭を殴った。
パカン!
「じゃあ、行こうか」
「だな」
シャーリーンがバリーの口と手を縛り、俺が担いで飲み屋を後にする。直ぐにクロサキが仲間達に連絡をし、チェックアウトして車の所に来るように伝えた。
車の所に行くと既に仲間達がまっており、バリーを車に押し込んで俺とクキで挟んで座る。
クキが言った。
「さーて、話を聞こうか。ミンチ」
「くっ。てめえらぶっ殺してやる」
「それしか言えないのか。生きていれば、その可能性もあるだろうってこった」
「……」
銃音が聞こえる町から郊外へと走る。その間ずっと、バリー・ボルケーはブツブツと言っていた。
「仲間が殺す。仲間が絶対、俺を助ける……」
「今の状況を知らないらしいが、一応言っておく。お前らが今日仕向けた奴らは、ほとんど死んだぞ。お前はいったい誰から助けてもらうつもりなんだ」
「ほとんど死んだだと?」
「ああ」
「ま、まだ、組織には人がいる。そいつらが俺を助けるために来る」
「お前が何処にいるかもわからねえのにか?」
「……」
「とりあえず教えろ。ゾンビが支配するってなどういう事だ」
「弟が言った。ゾンビが支配する村がある。そいつらが次の政権を狙っているって話だ。そして弟はその証拠を握っている。俺は確かにその情報を見た。あれは黒魔術だ。それでゾンビを操っている奴らいるんだ」
とぎれとぎれながらも、なんとか絞り出して話していた。
「村?」
「そうだ。不死身の村だ。そいつらが、じきに政府もギャングも倒してこの国を乗っ取るつもりだ。だから俺は今のうちに、荒稼ぎしてこの国を出るんだよ!」
「お前の手下たちはどうするんだ」
「知らねえよ。俺だけでも逃げてやる」
クズ中のクズだった。どうやら金を稼いで、自分だけ高跳びしようとしていたらしい。
そこで俺が言った。
「その村へ連れていけ」
「い、いやだ」
「早くしろ」
「お、お前達は何も知らないからそんな事を言う!」
「どういうことだ?」
「お、俺のポケットからスマホを取れ」
クキがそいつのスマートフォンを取り出す。
「開け」
クキが開く。
「動画ファイルを見ればわかる」
そしてクキがスマートフォンを触って、動画のファイルを次々に開いてみた。そしてクキが言う。
「なるほどな。これだ」
クキが差し出したスマートフォンには、試験体のような物が数体映っている。だが事もあろうに、それが次第に小さくなって人間の形になったのだ。
「この動画はどうした?」
「お…弟が警察なんだ。それを俺に送って消息を絶った」
「この村に、お前は行ったのか?」
「行ってねえ。こんなところに行ったら、殺されちまう」
「弟を助けようとは思わないのか?」
「アイツは警察だ。俺達の敵だ」
「弟だろ」
「知らねえよ」
どうしようもない奴だ。
「村の場所を教えろ」
「やだね」
すると助手席に座っているオオモリが言う。
「スマホ貸してください。すぐわかります」
クキがオオモリにスマートフォンを差し出すと、パソコンに繋いだ。すぐにオオモリが言った。
「地図が出ました」
それを聞いてバリーがあっけにとられる。
「は。はあ? なんだと?」
「行きましょう」
「や、やめろ! 行きたくねえ! そんなバケモンだらけの村には行かねえ!」
叫ぶバリーの声を無視し、俺達の車はその村に向かって出発するのだった。




