第481話 大ギャングの殲滅開始
俺とクキとクロサキとシャーリーンの四人が、ポルトープランスの夜の繁華街に来ていた。俺はいつも通りのスーツだが、クキとクロサキとシャーリーンもワザと金持ちそうな服装をしている。明らかに治安の悪そうな方向へ向かって、四人が酔ったふりをしながら談笑をして歩いているのだ。
クキが言う。
「いやぁ……流石に俺でもこんなのは狂気の沙汰だ。世界でも有数の治安の悪い地域で、金持ちの格好をして女連れで歩いているんだからな」
それにシャーリーンが答える。
「でもミスター大森が言うには、女は格好の標的になると」
「そうだな。男は殺され女は犯されるらしいな」
「なら餌は必要でしょう?」
自分の事を餌というシャーリーンの肝っ玉が、なぜか前世のエリスを思い出させる。エリスが自分をオトリにして、ゴブリンの巣で一網打尽にした事があった。あの時はまだレベルも低く、エリスは俺を信頼しきっての作戦だった。結果はゴブリンを殲滅、誰も傷を負う事はなかった。だがあれは馬鹿なゴブリンだからこそできた事で、人間の銃を持った奴ら相手ではない。
まあ…俺のレベルも、あの時とは全く違うが。
クロサキが言う。
「それにしても汚すぎる。これでは病気が蔓延しそうです」
「確かにそうだな。こんなのは人の住む場所じゃない」
「ですね」
だが俺達が歩いていると、唐突に二人の男が近づいて来た。そいつらは軍服を着ていて、銃を持っている。だが見る限りこの国の人のように黒い肌ではなく、色白で顔つきも西欧人のようだった。
「お、おいおい! あんたら! 何だってこんなところを歩いてるんだ!」
彼らの言葉は英語だった。そこでクキが答える。
「旅行で来たから飲みに行くんだが?」
「だめだ。ここから先は危険だ! 直ぐにホテルに戻れ」
「あんたら国連軍か?」
「そうだ。治安維持と復興の為に来ている」
「どんな危険が?」
「ニュースを見てないのか? ギャングの無法地帯と化しているんだ」
「ふむ。なるほど」
「分ったら戻れ!」
「そうか。そうだな、それじゃホテルで飲み直しするとしようか」
俺達は適当に頷く。
「んじゃ、ご苦労様。市民の安全を守ってくれ」
「まあ、俺達だって危険なんだ。ほどほどにしておくしかない」
「だろうねえ。じゃあ頑張って」
クキがそう言って、俺達はその場所から立ち去る。
「さて困ったな。どこかから入り直さないと」
「治安を守る軍隊か……それはそれで厄介だな」
「彼らは彼らで面倒ですね」
「都市の八割がギャングに支配されているという割には、なかなか会わないものだな」
「この安全地帯を国連が守っているからでしょう」
だがその時だった。どこからか銃声が聞こえ始める。
「銃声だ」
「行くぞ」
俺達は急遽、銃声のする方角に向かう。そこで銃撃戦がおきていて、隠れた兵士達が遮蔽物の後ろで構えていた。
「見つけたな」
シャーリーンが言う。
「ギャングに集中してる隙に、向こう側に潜り込めないでしょうか」
「行ってみよう」
銃撃戦が起きている場所を迂回し、暗くて危険な路地裏へと入り込んでいく。だがそこで俺は殺気を感知した。
「左のドアに入れ」
俺が言うと、三人は息を合わせたようにドアに飛び込む。
ガガガガガガガ!
唐突に俺が撃たれるが、金剛と結界により傷を負う事は無かった。先をみると、建物の三階に数名のギャングが潜んでいるようだ。
「ギャングだ」
「軍隊が回って来るのを待ち伏せしてたんだろう」
「一般人を、すぐに撃つんですね。危険すぎるわ」
「そのようだ。三人は、ここで合図を待て」
「わかった」
俺はそこに三人を残して、直ぐにギャングがいる建物に迫る。認識阻害をかけて三階に登ると、部屋には二人のギャングが居た。窓の外を見ているので、俺はそっと近寄って意識を刈り取る。
正面の建物に三人、俺は窓に向かって突進した。向かいの建物の窓に突入しつつ、剣技を繰り出す。
「推撃」
ビチャ! 三人は潰れ壁が崩れ落ちる。そして俺は窓からスマートフォンを持ち、クキ達にクルクルと回して合図をした。すぐに三人が俺のところに走り込んで来る。
「その建物の三階にいる」
「わかった」
その建物に侵入し三階にくると、俺が意識を刈り取った二人が倒れている。そいつらを後ろ手にクキとシャーリーンが縛り上げ、俺が気を発して目覚めさせた。
「う、うう……」
「あう……」
「おきろ」
ゆっくり目を開けて、クキを見たギャングが暴れ出そうとした。
「動くな。殺すぞ」
クキがコンバットナイフを、ギャングの喉元に突き付けている。
「ひっ」
「お前達はサウザンド・ディーモンか?」
「「……」」
二人は黙っている。
ズン!
「ぎゃあ!」
クキが、ギャングの太ももにナイフを刺してもう一度聞く。
「次は心臓をえぐる。お前達はサウザンド・ディーモンか?」
「そ、そうだ!」
「痛てえ! いてえよお!」
クキが刺してない方に言う。
「こいつを黙らせろ」
「お、おい! 静かにしろ! こいつらきっと特殊部隊だ!」
「うぐぐ……」
なるほど。特殊部隊だと勘違いしてくれているようだ。するとクロサキが言う。
「そう。私達は国連の特殊部隊。通称ミンチの居場所を探している」
「い、言わねえ。言ったらミンチにされる。それなら逮捕して刑務所に入った方がましだ」
するとクキが言った。
「特殊部隊は何でも許されている。情報を吐かないなら、ここで殺害し次の標的を見つけるだけだ」
「う、うそだろ」
ズッ! とナイフを抜いて、顔の前に持ってきて言う。
「大将。コイツを押さえてくれ」
俺がそいつを抑えると、クキがナイフを目の玉に近づけた。
「俺の顔が、この世で最後に見る顔だ。よく覚えておけ」
そういってナイフを突きつけようとした時だった。ギャングが言う。
「ま、まってくれ! やめてくれ!」
「なら早く言え」
「ボスは、今日この町に来ている! 俺達はその指示でここに来た! このあたりの国連軍を追い散らせって言われている!」
「ほう。国連を追い払ってどうするつもりだ?」
「……知らない! そうしろと言われただけだ」
ザクッ!
するとクキは、もう一人の太ももにコンバットナイフを刺した。
「本当の事を言え」
「ぎゃあ! やめろ! やめてくれ!」
「本当の事を言ったらやめる」
「だから本当だって! 俺達は言われた事をやるだけだ!」
するともう一人の方が、割れた窓の向こう側の建物に向かって叫んだ。
「おい! 助けろ! こっちに特殊部隊がいる!」
もちろん、既に俺が潰してしまったので答えるわけがない。
「あっちは全員死んだ。お前達しかない」
「な…」
二人はガクリと項垂れた。
「本当の事を言え」
「……国連を追い払ったら、本部隊が安全地帯のホテルを襲撃する。そこで金持ち達を殺して金を奪う予定だ」
「なんだと……」
俺達は顔を見合わせた。
「という事は、こんなところでのんびりしてられんな」
「だな」
俺は縛られた二人を、三階の窓から外に放り投げた。急ぎ部屋を出て、元来た道を戻り仲間達のいるホテルに戻った。部屋では早くに帰って来た俺達を迎え入れ、事情を聞いて来る。それに俺が答えた。
「どうやらギャングは、このホテル街を襲撃に来るらしい。こっちから行く手間が省けそうだ」
「あっちから来るんだ……」
だがクキが言う。
「ギャングも馬鹿じゃない。それなりの手勢を集めてくる。相当な数が来ると思って間違いない」
そこで俺が行った。
「出来れば、全員来てくれると手間が省けるんだがな」
タケルも笑って言う。
「ギャングが来るんだぜ。嬉しそうに言うなって」
「だが、楽なのは確かだろう?」
「まあな」
その間も銃声が響き続けていたが、ツバサがみんなに言う。
「多数の車両がこちらに向かっているわ。どうやらギャングは国連を退けたようね」
「大した警戒は、してなかったみたいだからな」
そして俺が言う。
「それじゃあ。市民が殺される前に、迎え撃つぞ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
俺達は装備をし、騒ぎの起きる前の静かなホテル街へと飛び出していく。オオモリのハッキングで持ち込んだ銃を携帯し、それぞれの得物を持っていった。
そして散開する前にクキが言った。
「ほとんどはヒカルがやるだろう! ヒカルの攻撃を避けて逃れてきた奴を、俺達が全て掃除するぞ! 敵に襲撃される前に、こちらから攻撃を仕掛けるんだ。敵はゾンビじゃない、武器を強奪して有効に使い殲滅すること。恐らくボスは率先しては来ないだろう、兵隊をあらかたやっつけたらボスを探す」
「「「「「「了解」」」」」」
そうして俺達はホテル街に散開していく。
俺が一番端のホテルの屋上に行くと、夜景の向こう側から長い車列がやって来るのが見える。もちろん大規模殲滅の剣技を使えば一瞬で終わるが、一般市民を大量に巻き込むことになるだろう。建物が密集している場所では使えない。
「よし」
シュッ!
俺はその屋上から、一番前を走る車両に向けて二百メートルほど跳躍する。
ドグン!
最初の車両のボンネットに落ちると、大きくへこみ車の尻が持ち上がって来た。
「冥王斬」
飛び上がる車両をバラバラに切る。そうしなければ近隣の住宅に被害が出るからだ。その後ろから来た車に、一瞬で飛び剣技を打った。
「大龍深淵斬!」
並ぶ四台の車が真っ二つに斬れ、左右の電柱や止まっている車に激突する。切れた四台先まで一瞬で到達すると、その先から来る車に向かって剣技を撃った。
「推撃!」
ゴボン! とその車がひしゃげ、後ろから来る車が激突した。その後ろの車が急ブレーキをかけて止まったので、再び剣技を繰り出す。
「冥王斬!」
周辺の住居を壊さないようにするために、なるべく車に集中した。
剣技を逃れた奴が路地裏に逃げていく。だが次々に車が来るので、それらを放っておくしかなかった。それから二十台の車を破壊し、最後の一台を始末した後で銃声が聞こえ始めたのだった。




