第478話 カリブ海クルーズへ
オランダ領アルバに到着し、女達が最高に盛り上がっている。
「綺麗! リゾートといったらこうじゃなくちゃ!」
ミオが言うとツバサも頷いた。
「うんうん! 嘘みたい。まさかこんなところに来れるなんて」
それに対してクキが言った。
「遊びじゃないんだがなあ」
「クキ。メリハリが大事だと言ったのはお前だ」
「おっしゃる通りだよ。三日前は、核弾頭の直撃を喰らったかもしれないんだからな、少しぐらいは、いい思いしてもいいだろう」
「そうだ」
俺達はオオモリがハッキングで予約したホテルのテラスで、青空の下、色とりどりの酒を飲んでいた。葉を使って作られた日傘の下で、パイプで作られたベッドに寝ながら話をしている。
そう言うクキもサングラスをして、海水パンツでくつろいでいた。
「その酒は美味いのか? クキ」
「ホワイトレディってカクテルだ」
「これはどうだ? 甘くて美味いぞ」
俺が自分が飲んでいる酒を差し出す。瓶とコップをもらって、自分でついで飲んでいるのだ。だがそれを見てクキが言う。
「お前がさっきから、がばがば空けているそれはラム酒ってやつだ。普通はカクテルとかで割るんだがな、ヒカルにかかるとまるでビールみたいに見えて来る」
「甘いから飲みやすいぞ」
「いやいや! ラム酒を飲みやすいと言って、ビールみたいにのむ奴なんかいない。それにヒカルは何本目だ?」
「いや、まだ四本目だが……」
「ま、ドン・サルバトーレのところでの飲みっぷりを見たから驚かないけど、普通の人間なら死ぬ量を平気で飲むからな。それに酔わないってのは、いったいどういう事だ?」
「ドン・サルバトーレのところでは少しほろ酔いだったが?」
「樽を何個も開けてほろ酔いって言う意味が分からん」
「そうか。そういうものか」
そこにタケルが来て言う。
「いやあ…目の保養だな。見ろよ」
視界の先には浅いプールで遊んでいる、ミナミとマナそしてアビゲイルもいた。アビゲイルはすっかり明るくなり、皆とも遊ぶようになったのだ。
クロサキとシャーリーンは、涼しそうな恰好で日傘の下で酒を飲んでいる。オオモリはこんなところに来ても、ずっとパチパチとパソコンを触っていた。
ツバサが言う。
「さ。ヒカル! 私達もいきましょ」
「ん?」
すると反対側の手をミオが取って言った。
「ほら」
「わかった」
俺はミオとツバサに連れられて、マナ達が遊んでいるところに行く。ぱしゃぱしゃと水を跳ね上げて、楽しそうにしている女達を見ていると、まるで平和になったかのような錯覚に陥る。
「いい気持ちよ! ヒカル!」
ミナミがそう言って水をかけて来た。するとマナもミオもツバサも一斉に、俺にバシャバシャと水をかけてくる。それがなんとも心地よく、俺はされるがままに水をかけられている。
「ほら! ヒカル! 反撃してきなさいよ!」
そうマナが言った。俺は皆と同じようにバシャバシャと水をかけ返す。そこにタケルが来て笑いながら言った。
「おーおー! 青春してるねえ!」
「ほら! 武!」
タケルにも水かかけられた。
「おっ! やったな! それ!」
ワイワイと水かけが始まった。しばらくそうやっていると、オオモリから声がかけられる。
「皆さん。集まってください」
俺達がそれをやめ、オオモリのところにやって来る。俺達が集まってパソコンの画面を見た。
「計測結果が出ました」
「どこだ」
「カリブだけではなく、バミューダ海域も視野に入れた方が良いでしょう」
するとタケルが喜んで言う。
「聞いたことあるぜ! バミューダトライアングル!」
「なんだそれは?」
「船や飛行機が、謎の失踪を遂げる事件が数多く起きてるとこだよな?」
それを聞いたマナが言う。
「都市伝説じゃないの?」
それを意外な人が制する。
「いいえ。都市伝説ではありませんよ」
声を発したのはシャーリーンだった。
「「「「「えっ」」」」」
「どういう事だい?」
「事実、行方不明になっており、その原因も消息も分かっていません。カリム様が趣味で、捜索隊を編成してバミューダに送ったのです。ですが数隻のうちの一隻が忽然と姿を消して、それが未だに解決されていないのです」
「なるほどねえ……」
そこでクキが言う。
「範囲はわかるのか?」
「恐らく、カリブからトライアングルの中心地あたりかと。潜水艦じゃないですかね?」
「なるほどなあ…それはいささか危険だな」
そう言われ俺が答える。
「じゃ、俺が泳いで行って見ればいい」
それを聞いてアビゲイルとエイブラハム、シャーリーンが目を丸くする。エイブラハムが言った。
「泳いでとは? 船で近場まで行くという事か?」
そして俺はオオモリが表示している地図を指さした。
「ここから先が危険なんだろう? ならば俺が泳いでみて来る」
するとシャーリーンが言う。
「プエルトリコ。ここから船を出すという事ですね?」
「違う。ここから泳いで探す」
「「「……」」」
そこでクキが言った。
「まあ、とりあえず現地に行ってから考えよう」
するとシャーリーンが言った。
「かしこまりました。直ぐにクルーザーを手配します」
「助かる」
するとマナが言った。
「あー。短いリゾートだったわ」
ミオが答える。
「またいつか、平和になったら来ましょう」
「「「さんせーい」」」
そして俺達はすぐに荷物をまとめた。シャーリーンがカリムの力を使い、大型のクルーザーを用意して俺達は荷物を詰め込んでいく。
そこでミオが言う。
「カリブ海クルーズなんて。夢みたい」
「俺が気配を感知しつつ進むから、皆は衛星で確認してくれ」
皆が頷いた。
俺達が乗るクルーザーはプエルトリコに向けて出港した。海に出て早速、俺は船首に立ち周辺の海域の気配を感知し始める。
クキが言った。
「愛菜。衛星は捉えたか?」
「ええ。監視衛星からの映像が届くわ」
皆がその映像を見始める。俺はただ海を見つめ、おかしな気配がしないかを感知し続けるのだった。




