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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第474話 目覚める怪物

 これだけ厳重な施設だけに、この鉄柱に入っているのはよほど重要な物なのだろう。イーライはこの部屋には入って来ず、部屋の外で中の様子を伺っているようだ。


 聴覚強化で話し声を聞く。


「おかしいだろ。爆弾で壊されたものでは無かったぞ」


「レーザーでしょうか?」


「携帯のレーザー兵器を持っている組織がいるというのか?」


「しかし切断面が鮮やか過ぎました」


「ドアが壊されてるって事は、この中にいるって事だな?」


「そうだと思います」


「いいか、銃は使うなよ。万が一、施設が壊れたら大変なことになるからま」


「は!」


「じゃあ、お前からいけ」


「えっ…」


「早くしろ」


「はい…」


 どうやらイーライに命じられ、ゾンビ化兵が一匹入り込んできたようだ。ナイフを持っていて銃は腰に差したまま、じわりじわりと中に進んで来る。イーライは恐らく、コイツがどうなるかを見ている。


 途中まで来たゾンビ化兵がイーライに言った。


「な、何もありません」


「もっと奥へ行け!」


「…はい」


 そいつはナイフを片手にじわりじわりと奥へと向かって来る。縦横無尽にめぐる室内のパイプや、機器を避けつつゆっくりとやって来た。俺とは離れた側の壁に進んで行ったので、俺の方からそいつに近寄った。


 俺は全く殺気を持たずに、無造作にゾンビ化兵に近づいて行く。視覚で捉え僅かな隙間を狙って剣技を放つ。


「屍人刺突閃」


 刺突閃は頭を貫き、そいつはゆっくりともたれるようにパイプに倒れひっかかった。


「おい、どうだ? 何かいたか?」


 もちろん返事は無い。


「おい! 何かあったか?」


 しばらく黙ってから、イーライが言う。


「お前とお前、見て来い」


「はい」


 二人がナイフを持って侵入して来る。今度は左右に分かれ、周囲を注意深く探りながら。


 何をしても同じだ。


 俺は一人の側に潜み、そいつが真正面に来た時に刺突閃で仕留めスッと引いた。そのまま向かい側にいる奴の所に移動し、同じように始末する。


 するとイーライが異常に気が付いた。


「こりゃ…なんかあったな」


「どうします?」


 するとイーライが言う。


「そうだな…」

 

 そして少しの沈黙があり、ゾンビ化兵に向かって言う。


「小銃を装備しろ」


「えっ! ここで銃を使うのでありますか!」


「そうだよ! お前、あの凍結牢を壊してこい」


「は? 何を…」


「ゾンビ化兵がやられたんだ。きっとこの中には恐ろしいバケモンがいる」


「まあ…そうかもしれません」


「なっ! だからバケモンにはバケモンをぶつけるんだよ」


「し、しかし」


「いいからやれ! そんで直ぐに逃げてこい!」


「大変な事になりませんか?」


「知らない。後は会社が何とかすんだろ、俺達の責任じゃない。ここに侵入した奴のせいだ」


「確かに」


 最後のゾンビ化兵が入って来る。どうやらこの鉄柱の中にいるのは凍っていて、イーライはそいつを起こそうとしているらしい。


 なら俺はその前にゾンビ化兵を殺る。


 途中まで進んできた奴の頭に屍人刺突閃を撃つ。するとそいつは途中でドサリと倒れた。


「は? おい! どうした! おい!」


 イーライが慌てている。


 来い…次はお前の番だ。


 俺がそう思っていると、イーライは扉の向こうから自動小銃をのぞかせた。


 ダダダダダダダダダダ!


 突然銃声が鳴り響き、何発かが鉄柱にあたる。だが鉄柱はびくともしていない、しかしその周りにある管の何本かにあたり、シューっと音をたてて何かを噴き出し始める。


 イーライを確認すると、既に通路を逆戻りしているようだった。


 俺がイーライを追うべく、部屋の入り口に向かった時だった。


 グボォォォォォン!


 バカでかい鳴き声のような物が鳴り響いた。


「なんだ?」


 振り向けば周辺の氷が溶け始めている。そしてその音は鉄柱から聞こえていた。


「目覚めたか…」


 だが…。


 俺はポケットから、アビゲイルが作った新型ゾンビ破壊薬を取り出す。出てきたらこいつを喰らわせてやろうと思っていた。


 グボオオオオオオオン!


 更に鳴き声が大きくなった。


 ピシっ!


 頑丈な鉄の柱に大きく、ひび割れが起きた。


 でてくるか。


 そう思っていた時、ひび割れからシュッと! 槍のような物が伸びて来る。俺がそれを避けると、それは厚い壁を貫通した。その後、それは柔らかくしなやかになりずるずると床を這い始める。


 ならコイツはどうだ。


 ペキッ!


 ゾンビ破壊薬のアンプルを折って投げる。


 びきびきびきびき!


 その触手に薬があたった途端、一気に触手が死んでいった。


 しかし、信じられない事が起きた。その触手が根元から勝手に切れて、鉄の柱のひび割れが一気に何かで塞がったのだ。その塞がったものは瞬間的に固まり、ゾンビ破壊薬の侵入を防いでいるようだ。


 知恵があるのか…。


「推撃!」


 漂った新型ゾンビ破壊薬を、推撃で室内に送り込んでやる。


 なるほど…。


 固まった所は別の物質になっているようで、ゾンビ破壊薬の侵入を完全に塞いでいるようだった。


 ならば。


「冥王斬!」


 ザシュッ!


 逃げただと?


 斬撃が鉄柱を切った瞬間に、そいつは床に穴を空けて下に潜ったようだ。この建物がゾンビ破壊薬を通さないのを知ってるかのように。


 俺はその気配を追う。そいつは俺の脚の下を通り抜けて、入り口に向かって移動していった。その速度は想像より早く、あっという間に部屋から抜け出てしまう。


 縮地!


 直ぐ部屋の外に出て気配を追った。既にイーライはエレベーターを使って地上に向かっている。


 なるほど、奴らが危険だと言っていた意味が分かった。これは従来の化物とは次元が違う。そいつは急加速で、地上に向かって上がっているようだ。


 俺がエレベーターの扉をこじ開けて中に入ると、上から壊れたエレベーターが降り注いでくる。どうやら上に上がれないように、イーライが破壊して落として来たらしい。敵がどんどん離れているので、俺はかまわず落下して来たエレベーターに向かって飛んだ。


「脚力最強化!」


 剣技!


「断鋼裂斬 十連」


 落ちて来るエレベーターは粉々になり、俺はその破壊されたエレベーターを通り過ぎて上に上に向かう。そしてエレベーターの一番上に辿り着いて、地下三階のホールに出た。


「どちらを追うか…」


 イーライが逃げている方角と、正体不明のバケモノは違う方向に向かっている。


 施設ではけたたましく警報が鳴り響き、事故があった事を知らせていた。


 そして俺はイーライを追う事にした。すぐにイーライの気配が近づき、俺は剣を構えて撃つ。


「飛空円斬」


 ザン!


「うお!」


 イーライは何かを感じ取り、咄嗟にジャンプしたようだが、俺の剣技が両ひざを斬る。


 ドン! ごろごろごろ!


 イーライが転がりながら驚いていた。


「なんだぁ! 足が切れた!」


 俺が近づいて行くと、ようやく俺の存在に気が付いたようだ。


「うお! なんだ! おっさん! お前は何だ!」


 俺が剣を構えた時だった。


「おーい! 助けろ! 俺はここだ!」


 そいつが大声で叫ぶと、上空にヘリコプターが飛んで来る。ライトがイーライを照らし出し、イーライが俺を指さしている。


「撃て撃て撃て撃て!」


 ガガガガガガガガガガガガ!


 ヘリコプターが機関砲を撃ってくる。だが俺はそれを咄嗟に避けつつ、剣技を繰り出した。


「突光閃」


 バシュッ! キュンキュンキュン!


 ローターを貫かれたヘリコプターは落下して爆発を起こす。


「な、なんだそれは! なんだそれはぁぁぁ!」


 なるほど、試験体だが恐怖も感じるらしい…こいつは新型で間違いない。


「足が! 足が生えてこないぃぃ! なんでぇぇぇぇ!」


 俺がイーライの所に行くと、突然懇願して来た。


「ま、まってください! 私も被害者なんです!」


 俺は黙って見ている。


「そうだ! 子供がいるんだ! 家族がいる! だから助けてくれ!」


「馬鹿が。ゾンビに家族など居ても意味がない」


「へっ? なんでゾンビと…はっ!」


「お前は子供をゾンビにしようとした」


「見ていたのか! な、何の組織だ!」


「通りすがりの勇者だ」


「ゆ、勇者? なにを! は! まさか! お前は東京で発見された新種…」


「屍人斬!」


 真っ二つに斬れたイーライは、白く変化して動きを止めた。気配感知ではもう活動はしていない。


 そして次の瞬間。


 ドガン! 


 基地の奥で爆発音がした。銃声も鳴り響き、どうやら大騒ぎにしているようだった。


 さっきの奴か。気配が大きくなっているな…。


 そして俺はそちらに、急加速で走っていくのだった。

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