第473話 謎の多い施設
アフリカで見つけた新型の試験体イーライを追跡し、俺達はブラジルでファーマー社の軍事施設らしき場所を発見した。シャーリーンの発信機は既に見破られていて、その信号は消えてしまっている。
間違いなくここにいるはず。そして既に、敵は何らかの組織が接触して来た事を認識している。
数百メートルの距離から基地を見ているが、認識阻害と隠形を施した俺に気づいたかどうか。今までの経験上は、それは考えられなかった。俺がやるべき事は、ここが間違いなくファーマー社の軍事施設だと確定させる事。外から見ては何の施設か分からないが、試験体が入った以上はファーマー社関連で間違いないはずだ。
「いくか」
高い防壁が見えてくるが俺は止まる。
なんだ?
これ以上近づけば恐らく何かある。俺は小石を拾い上げて、親指で弾きだす。
ピシっ!
バシュ!
石が消滅した。
なるほど。
それは、いつぞやの研究所で見たレーザーという奴だった。そして俺はその場所を離れた。
スマートフォンに話しかける。
「ヘイオオモリ」
「どうしました?」
「レーザーだ。施設はレーザーで守られている」
「マジですか。僕らが行ったらヤバかったですね」
「絶対に近づくな」
「わかりました。もうファーマー社の施設と決定していいんじゃないですか? 試験体も入ったし」
「もしかして、で攻撃するわけにはイカンだろう?」
「まあそうですけど」
「俺が進入するが、スマートフォンは持ってて大丈夫か?」
「あ。電波が感知されるかもしれませんね」
「なら、置いて行く。しばらくは連絡が取れん」
「わかりました。ファーマー社だと分かり次第やっちゃってください」
「了解だ」
俺は一旦、基地から距離をとった。離れた場所の木の上にスマートフォンを置き木に傷をつける。
「よし」
基地まで数百メートル。
「結界。金剛。脚力強化、筋力強化、敏捷性強化」
体が光り輝いて行く。バシュッ!
土が大きくえぐれるほど踏み込んで、施設に向かって走り出す。最高の速度に達した時、一気に地面を踏みこんで空に舞った。基地の上空三百メートルまで上がり、俺は真下に施設を見下ろす。
軍用のヘリコプター、戦車が動き出しているのが見える。
警戒している。やはりシャーリーンの追跡の機械に気が付いたか。
基地は既に臨戦態勢に入っているようだった。そのまま頭を真っすぐにして、基地に向かって急降下していく。あっという間に地面が近づいて来て、くるりと回って足で着地する。
ドン!
コンクリートが割れてしまい、大きな音をたててしまった。俺は縮地で近くの建物の壁に張り付き、迂回して周りをまわっていく。俺が落ちた場所に人が集まる気配がしているが、それを確認する事は無かった。
どこにも無いな…。
何処にもファーマー社のマークが無い。もしかするとカモフラージュの為かもしれないが。
ヘリコプターが空を飛び回り始め、基地内が慌ただしく動き出した。
なんだ? この建物は、なかなか入り口が見えてこないし窓も無い。
その建物は日本で見た野球ドームぐらいの大きさがあり、何らかの格納庫のようだが窓も入り口も無かった。だが間違いなく内部におかしな気配はしている。俺の気配感知をすり抜けることは出来ないはずだが、どうやらこの建物の壁は特殊な素材で出来ているらしい。
シュッ。
その建物の屋根に乗ってみるが、屋根の上にも窓や入り口らしいところは見当たらない。
これは何だ? 何の建物だ?
ヘリコプターが戻って来たのでその施設を飛び降りた。地上ではまだ、俺の落下地点で騒いでいる。
これ、斬ってみるか。
「断鋼裂斬」
その特殊な壁を斬る。
随分、分厚いな。切った場所を押し込んで内部に侵入すると、そこはただ円形の広い建物だった。何故入り口が無いのかは分からないが、その円形の中央付近に何かの設備がある。
人もいないのか。
俺がそこに行くと、どうやらガラス張りの部屋の中に、地下に続く階段があるようだ。
「乱波斬」
ガラスが崩れ落ちた。
どこもかしこも分厚くて厳重だ。
カラスを飛び越えて螺旋階段を下りていくと、地下三階が底だった。
だが、その床は鉄板で出来ているようだ。
ゴン!
仕込み杖で叩いてみると、どうやら分厚い鉄の下に空洞があるのが分かる。
これは…デカい扉か?
この床は恐らく両側に開く扉だ。俺はその一か所を斬る。
「断鋼裂斬」
開いた穴から飛び降りる。するとそこから地下深くに続くエレベーターのような物があった。俺はそのエレベーターの扉を開いて底を見る。だいぶ深いようだが、人が使っているような気配はない。エレベーターの中身が無いのだ。
スッ。
俺はその中に飛び降りた。どうやらこのエレベータはワイヤーで吊る構造ではなく、両側のローラーで動くもののようだ。
俺は暗闇の中にただ落下していく。この穴はかなり深く、およそ百メートル潜る。ようやく底について、周りを見渡すがオレンジの非常灯が付いているだけ。そこから更に下り坂になっている。
下ると、やたらと頑丈そうな扉が見えて来る。それも断鋼裂斬で破壊し更に奥へ進んで行く。
随分堅牢に守っている物があるんだな。
そしてその先にまた扉があり、破壊して先に進むと極端に温度が低くなった。冷気がその場所を支配しており、辺りが凍り付いているように見える。
だが直ぐに分かった。
「なるほど…」
俺の気配感知に薄っすらと伝わってくるのは、この中のどこかに生き物じゃない物が凍らされているという事だ。
なんだ?
地下百メートルより深い場所に突然広い空間が現れた。その部屋の中央に円柱の金属の塊がある。
気配は円柱の中。この基地が守っている物はこれか。秘密基地ではなくコイツの保管庫という訳だ。
だがその時、急に気配がしてきた。俺が下りて来た場所を通って、ここに誰がが向かって来ている。俺はすぐさま、機械の後ろに身を隠し気配感知を張り巡らせた。
なるほど。
この気配は…ゾンビ化兵と…イーライだ。
どうやら奴の方からここに向かってきているらしい。地上の建物の破壊を見つけたのかもしれない。俺はただ気配を消して、その場所で静かに待つのだった。




