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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第470話 新型の試験体に顔を見られる

 キンシャサのゾンビ因子漏えい事件に危機感を覚えた俺達は、大至急コートジボワールへと飛んだ。コートジボワールの都市アビジャンに到着し、早速ファーマー社の研究所の場所を確認する。だがその周辺はファーマー社の警備がうろついていて、最近のテロ騒ぎで警護を強化しているようだ。


「日中は目立つから。潜入は夜だ」


 するとシャーリーンが言う。


「コートジボワールには、カリム様の出資するレストランが御座います。一旦そこに行かれてはいかがでしょう?」


「そうさせてもらおうか」


 直ぐにシャーリーンが場所を抑え、俺達はその店へと向かった。だが店に入った途端に、女達がわっと色づく。


「おいしそー!」

「ちょっとヤバくない!」

「食べたい!」

「ほ、本当だ」


 ガラスの中に並んでいるのは、焦げ茶色のお菓子。


 シャーリーンが言う。


「チョコレート菓子でございますね。コートジボワールは世界一のカカオの生産量ですから」


「チョコレートといえばガーナって感じだけどねえ。コートジボワールが有名なんだ!」


 女達はあれやこれやと注文し始めた。それを席に持って来て、皆が揃うやいなや直ぐ食べ始める。


「美味しい!」


「流石は本場だわ」


「チョコレートの国か。そんなところにもアイツらの研究所があるなんてな」


 するとマナが言う。


「死守するわよ。ここがゾンビにやられたら、チョコレートが食べられなくなっちゃう」


 タケルが茶化すように言った。


「なんだよ。チョコレートの為かよ」


「「「「そうよ!」」」」


 チョコレートケーキを食べていた女らが真剣に言う。


「わ、わかったすまん」


 シャーリーンが微笑みながら言った。


「日本女性はスイーツには真剣なんだと分りました」


「そうですよ。シャーリーンさん。真剣です」


「かしこまりました」


 俺もチョコレートをかじるが、これは何やらいい香りがする。


「なんだかブランデーに合いそうな気がするんだが」


 するとエイブラハムが言った。


「ふぉふぉ。ヒカルは、いつもそのまま飲んでおるが、本場の苦みと甘みがあるチョコレートならあうじゃろうて」


 シャーリーンが店員に頼むと、ブランデーが運ばれてきた。俺がチョコレートをかじり、ブランデーを飲むと物凄くまろやかになった。


「美味い! これは美味いぞ」


「そうじゃろ!」


 俺はチョコレートをかじりながら、ブランデーを飲んだ。とても良い香りがして、酒の味が引き立つような気がする。


 俺は女達に向かって言った。


「これは死守しなければならん」


「でしょでしょ!」

「ヒカルなら分かってくれると思った!」

「チョコレートは大事よね」

「ファーマーは絶対許してはいけないわ」


「そうだな」


 俺達は意気投合した。こんな美味いものが取れる産地を、ゾンビだらけにするわけにはいかない。


 シャーリーンが言う。


「気に入ったようですね。それでは天然素材だけで作ったチョコレートと、高級ブランデーを用意させましょう」


「必ず目的を達成せねばな」


 それからオオモリが予約した高層ホテルの部屋に荷物を置き、俺達は三つの部隊に分かれた。


 タケルとミオとマナとミナミが外を徘徊している警備をやる。俺が深部へと潜って、脅威になるだろう試験体やゾンビ化兵を始末している間に、クキ、クロサキ、オオモリ、ツバサ、アビゲイル、エイブラハム、シャーリーンがエボラの検体を持って研究室へ行く。


 時間をかけて仲間を呼ばれる前に、秘密裏に皆殺しにして研究所を使う作戦だ。


「タケル。気を付けろよ」


「レベル上げになるかもしれねえ。頑張るぜ」


 そしてクキが言う。


「時計を合わせろ」


 皆が時計を合わせた。深夜の町にはまだ人がいて、騒ぎになるのは避けねばならない。


 まるで夜の町に遊びに行くように、皆が町に散っていった。まずは俺がファーマー社のビルの屋上にジャンプする。流石に屋上に兵士などはいないようだが、認識阻害と隠形をかけて侵入。そして俺は一人として容赦せず、気づかれる事無く始末していった。


 一階まで到達すると監視カメラを破壊し、直ぐにクキ達の隊を引き入れる。


「制圧したか」


「後は地下だ。俺が先に行くから三分したら地下に降りろ」


「わかった」


 そして俺が階段から地下に降りていくと、直ぐに研究員達の気配がした。自動ドアをこじ開け地下一階を走り回って研究員を殺し、監視カメラは全て破壊して入り口を全て開放する。更にその下の階層も制圧し、次々降りていくと地下五階で頑丈な扉が現れた。


 俺はスマホに言う。


「ヘイオオモリ」


「どうしました?」


「今、地下五階だ。恐らくここから先に試験体がいる。進めば仲間を呼ぶか、自爆のカウントダウンが始まるかもしれん。アビゲイルの作業が終わったらすぐに連絡をくれ、それを皮切りに地下に突入する。オオモリも早くデータの回収をしてくれ」


「了解しました。待機していてください」


「わかった」


 そして俺は日本刀を腰の鞘に仕舞いこみ、気配感知を集中させる。


 なるほど…。


 間違いなく、試験体やゾンビ化人間とは違う気配を感じる。これはインドのチェンナイで出会った人魚、シャンティの気配と似ている。敵は着々とゾンビの兵器化を進めているらしい。


 まるで焦っているようだ…。


 ファーマー社の動きには焦りすら感じる。


 まるで俺達が攻めれば攻めるほど、破滅にでも向かっているかのような意思が感じられる。


 それから二時間後、スマートフォンに連絡が来る。


「ヒカルさん」


「どうだ?」


「全て終わりました。我々は撤退します」


「よし。ならタケル達も引くように言え」


「もう伝えてます」


「わかった」


「御武運を」


「なんという事は無い」


 通信がきれて、俺は目の前の分厚いドアを斬った。ガラガラと崩れ去り、通路を先に進んで行く。その階にはゾンビ化兵が居たが全てを斬り捨て、更に下の階へと降りていく。既に感覚的には分かってきているが、この階に新型の試験体がいるだろう。突き当りの扉を開けて部屋に入ると、椅子に座っている奴が居た。どうやら試験体らしいが見た目は人間のようだ。


「誰です?」


 そいつが椅子を回してこちらを振り向いた。


 こいつ…認識阻害と隠形を使った俺に気が付いた。


 長い髪の毛を後ろで編み込み、スーツを着ていて黒革の手袋とサングラスをしている。


 俺が答えずに黙っていると、そいつは一瞬、懐に手を入れて銃を撃った。だがもちろん俺に銃などは効かない。


「はて。あなたもお仲間かな?」


「俺は生きている」


「あなた…強いですね」


「さてな。やってみるか?」


 するとそいつはテーブルにあるボタンを押した。俺とそいつの間には透明なガラスが落ちる。


「これはロケットランチャーも弾きますよ」


 そいつは後退りながら言う。だが走って逃げたところで俺が捕まえる。


「乱波斬」


 ガラスの盾が一瞬で崩れた。男が叫ぶ。


「馬鹿な! 何をした!」


「次はお前だ」


 その瞬間、目の前が爆発した。一瞬そいつを見失い、俺が駆け寄ると男は既に居なくなっていた。


「なに?」


 気配ははるか上。


 その部屋の奥の天井に穴が開いており、下から見上げると何らかの仕掛けがされているようだった。


「くっ」


 俺がその穴から真っすぐに追おうとした時だった。突然その辺りが爆炎に包まれる。


「自爆か」


 俺はそのまま、その穴の中に飛ぶと爆発で地上まで押し上げられた。そのまま上空百メートルまで浮かび上がり、下をみるとファーマー社のビルは大爆発を起こし、周りの建物を巻き込みつつ広がっていた。


「次元断裂!」


 バグン!


 上空から振るった剣技で、爆発と壊れた建物ごと違う次元に飛ばす。


「くっ」


  そのまま落下して、その穴の縁に着地した。


 カウントせずにいきなり爆発したが、恐らくはあの長い髪の人型の試験体がやったのだろう。


 俺は初めて、自分の顔を敵に晒し逃げられてしまったのである。俺はあえて皆がいるホテルとは違う方向へ向かいつつ、スマートフォンを取り出す。


「ヘイオオモリ」


「どうしました?」


「敵に顔をみられた」


「えっ!」


「このまま真っすぐには帰れない。皆に危害が及んではまずい」


「分かりました。それではこちらで手を打つようにします。どこかに潜伏してください」


「わかった」


 そして俺は、そのままアビジャンの路地裏へと消えるのだった。

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