第462話 武装集団から子供を救出
殺気をはらむ気配を辿り密林を抜けて行くと、そこには簡易な集落のような場所があった。銃を持った奴らがうろついており、それらが集まって談笑しているようだ。
「あれは軍隊か?」
「ゲリラだな。武装集団という奴だ」
「なら大人しくさせないとだな」
「ああ。アイツらに攻撃の意志があるかどうかだが」
「なら、俺が直接行って、攻撃されるかどうか確かめよう」
「それが手っ取り早い」
俺は体に金剛と結界を張って、無造作に密林から出て銃を持っている連中の所へ行った。
俺を見つけると声をかけて来る。
「ウェウェ ニ ナニ?」
英語でもないので分からない。
「悪いが俺はここを通ろうと思っている」
「ウメオンゲア ニニ、ウェウェ?」
マズい…何て言ってるかさっぱり分からない。
「アメヴァア ングオ ザ ベイ ガリ、アナフィキリ イエ ニ ナニ?」
「あー、悪いが出直してくる」
俺が後ろを振り向くと、数人が走り込んできて俺を抑えようとした。するりと身をかわして俺はその場を抜ける。
「ウメファニャ ニニ?」
「悪いが言ってる事が分からないんだ」
そう言って俺が、その場を立ち去ろうとした時だった。
パン! と俺の足元に向かって銃が撃ち込まれた。
「ウシジャリブ クニキミア、アウ ウタジュタ!」
なんと言っているのかは分からないが、脅している事だけは分かる。
「言葉は分からんが。俺を行かせるつもりはないようだな」
中からもぞろぞろと人が出て来て、皆が自動小銃を持っている。大勢が俺の前に立って、何やらニヤニヤと笑っているようだ。俺の気配感知では、さっきの銃声でクキ達が動き出しているのが分かる。銃を構えた男達は、俺が観念したと思ったのかぞろぞろと近づいて来た。
ココココン!
俺は杖でそいつらを卒倒させた。五人が倒れ込み、それを唖然と見ていた男が叫ぶ。
「ピガッ!」
一気に殺気が膨れ上がったので、俺は鞘をつけた杖の状態のまま、十人くらいの男の間をすり抜けた。すると俺の後ろでバタバタと男が倒れる。向こうの方からも、クキ達が侵入するのが見えたので、彼らの安全を確保する為に俺は集落の中に入って叫んだ。
「でてこい!」
すると数人が銃を構えて飛び出し、俺を確認して走り寄って来る。
カカカカン!
直ぐに全員の意識を刈り取る。すると後続が建物の中に引っ込み、窓や玄関から銃を突きだしてきた。
ダダダダダダダダ!
パン! パン! パン!
もちろん銃で俺の結界を突破する事は出来ない。俺は避けもせずに、ゆっくりと一番近い建物へと近づいて行った。必死に銃を撃ってくるが、俺はその建物に入り全員を行動不能にする。
そしてそのまま玄関を出ると、また向かい側から出てこようとしていた男らが銃を向けていた。
「殺すつもりはないんだがな」
「シェ! シェタニ!」
俺が近づいて行くと、引鉄をひくところだったので縮地で近づき意識を刈り取る。そして次の建物に入り、そこにいた全員の意識を刈り取った。
その建物から出たタイミングで、少し離れた場所から変な武器を持った奴が撃ってきた。
バシューーーー!
それは煙を噴き出して、俺に向かって飛んで来る。
バグゥン!
それは俺にぶつかって爆発し大きな爆炎を上げた。もちろんどうという事はなく、俺はその煙の中から歩いて出た。
「ニ シェタニ クウェリ クウェリ!」
男らは慌てて逃げ出そうとするが、既にそちら側にはミナミ、クキ、クロサキ、シャーリーンが待ち構えている。銃を持った男らは次々に制圧されていった。
「大人は、これで全員のようだ」
「それじゃあ縛るとするか」
「一人も殺さずに制圧出来ましたね。嘘のようです…武装集団ですよ?」
俺達は直ぐに周辺の屋敷に入ってロープを回収して来た。全員を縛り上げていると、とぼとぼと数人の子供が銃を持って出て来た。クキが一瞬顔をゆがめて、その子供達に銃を向ける。
シュッ!
縮地で子供達の所に行って、一瞬で銃を取り上げた。子供達はキョトンとして自分の手を見ている。だが俺はそいつらに言う。
「子供はそんなことしなくていいんだ」
そこにクキが来て言った。
「彼らはさらわれてきて、いつしか戦闘員に仕立て上げられるんだよ」
「……なら、子供らを全員連れてく」
「そう言うと思った」
シャーリーンが子供達に、現地の言葉で話しかけた。
「何て言った?」
「ここはあなた達のいるところじゃない。だから私達と一緒に来なさいと」
「なんて?」
「最初は行かないと言いましたが、食べ物を与えると言ったらついて来ると」
「そうか」
そして俺達は武装集団を縛り上げ、適当に屋敷の中へと放り出した。クキ達をここに残し、俺が猛スピードで車の所に戻る。葉っぱをどけると、窓を開けたタケルが聞いて来た。
「どうだった?」
「武装集団を鎮圧した。行くぞ」
「よっしゃ」
俺は車を持ち上げて道路に戻した。武装集団の集落に行くと、クキ達が子供らを連れて出てきている。皆が子供達を膝の上に乗せて車は出発した。俺が車の後ろに積んである荷物から、何か食えるものを取り出して座席に回してやる。子供達はその菓子を、むしゃぶりつくように食べ始めた。
「お腹が減っていたのね」
だがクキが言う。
「氷山の一角だ。この子らが助かっても、またどこかで子供がさらわれる」
「ファーマー社のゾンビとはまた違う地獄があるんだな?」
「そういうこった」
「この世界はやる事が山積みだ」
「「「「……」」」」
「大将はもしかしたら、この子らの未来も全部救おうって思ってんのか?」
「さてな。出来る限りの事はやりたいが、直ぐに解決できないのは俺にも分かっているさ」
「全ての子供が幸せに暮らせる世界か……。大将なら実現できる日が来るのかもな……」
「分からん。そうなればいいとは思っている」
「だがよ、世界は広いぜ」
「やれる事は全部やって死にたい。そう思っているだけだ」
「おもしれえな。大将、俺の人生もベットさせてくれ」
「勝手にしろ」
そして俺達の車は、悪路を走り続け目的の村へと到着する。子供達を降ろして、ぞろぞろと出て行くと、俺達に気が付いた村人達が寄って来た。だがその中の女が、目を開いて子供を見ている。
「アジズ! アジズ ンプェンジ ワング!」
そして走り寄って来た女が、子供を抱きしめた。
「なんて言っている?」
シャーリーンが答える。
「私のアジズ。と言っています」
「もしかして」
「子供のようです」
どうやらこの村からさらわれたようだった。数人の子供がここの村から連れ去られていたらしく。親たちと巡り合えたようだった。その騒ぎを聞きつけた、欧米系の人間達がぞろぞろとやって来た。
「これはどういうことです?」
「あなた方は?」
ミオが説明をした。
「ここに来る道すがら、子供達が囚われているのを見つけたのです」
「なんと。武装集団に?」
「連れ戻した次第です」
すると一人の男が言った。
「報復されるぞ……。アイツらがここに来る」
タケルが言う。
「まあ、やるしかねえんじゃねえか?」
そうして俺達は、情況を説明し村人と医療関係者に、その時が来たら隠れるようにと指示を出す。俺達は村人たちに導かれて、村の中へと入っていくのだった。




