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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界
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第44話 自動販売機コーナー

 夜ご飯を終えてすぐにタケルが俺に話しかけてきた。太陽は既に落ちていて辺りは薄暗くなっている。空にはいくつかの明るい星が瞬き始めていた。


「ヒカル。どうだ? ゾンビはサーキットに入って来たりしてるかな?」


「いや。周囲に民家はなかったし、ここまでは入り込んで来ていないぞ」


「ならよ。東側に自動販売機が設置してあるんだけど、見にいかねえか」


「あるのか?」


「ああ。自動販売機が何台かあるはずだ。荒らされて無ければな」


 そして俺達はヤマザキを見た。するとヤマザキが俺達に言う。


「こんな場所だからな、もしかしたら荒らされてはいないかもしれんぞ」


「なら取りに行って来よう。誰かが一階で鍵を閉めてくれるとありがたい、戻ってきたら開けてくれ」


 するとタケルが縋り付くような目で言った。


「そ! それがいい! 飛んで四階に入るなんて、自殺行為だと思う!」


 タケルが青い顔をして抗議してくる。どうやら学校で三階のベランダに飛んだ事を根に持っているのだろう。あの時はあれが安全だったが、ここではそれは出来なそうだ。


 するとミオが言った。

 

「じゃあ私が下で見張ってる」


 ヤマザキがそれを聞いて手をあげる。


「なら俺も一緒に待つ事にしよう。何かあったら対処しなければならないしな」


「そうしてくれ」


 俺とタケルが塔の一階に降り鍵を開けて外に出た。そしてミオが中から鍵を閉め「気をつけて」と言ってくる。俺とタケルがミオに手を上げて心配しないように合図を送ると、ヤマザキもジュウを掲げて俺達に合図を送ってきた。


 外は少し肌寒くなっていたが、このくらいの気温が一番動きやすい。だがタケルが少し身をすくませる。


「少し肌寒いなあ」


「まあそうだな。タケルも服を調達したほうが良さそうだ」


「俺もヒカルみたいなハイブランドにしようかな」


 この仕立ての良い服はハイブランドと呼ばれているらしい。


「東京に行けばあるのだろう?」


「だな。ヒカルがそれを回収した場所に案内してくれよ」


「場所を覚えていればな」


「まあ…迷うだろうな」


 俺達は暗闇のサーキットを歩き始める。少し風があり障害物もないため、直接体にあたって寒く感じる。俺はタケルに言った。


「軽く走った方が温まるぞ」


「そうする」


 俺達はサーキットを走り始める。すると今度はタケルから聞いて来た。


「ヒカル。バールは持ってるよな?」


「おっ! タケルから言われるとはな。もちろんだ」


「まあ、相棒だしな」


 最初の頃はタケルも恐怖で身がすくんでいたが、今ではだいぶ慣れた様子だ。俺の装備に関して心配が出来るくらいの余裕があるらしい。戦いに際し一番の敵は緊張と恐怖だ。それが克服出来てきただけでも大きな進歩である。 


「タケル。サーキットは広いな」


「だろ? でも懐かしいよ。俺ここの雰囲気が好きなんだよな」


「俺も気に入った」


「そうか! ヒカルも気に入ったか」


「ああ。ここにはいろんな人の楽しい思い出が、たくさんあるような気がした」


「あるある! いろんな思い出もあるし、俺はここでたくさんのレースを見た」


「車で競い合うんだってな」


「知ってんのか?」


「いや、さっきミオに聞いたんだ」


「なんかヒカル、ミオとは良く話してるよな?」


 思い浮かべてみると確かにそうだ。と言うかミオはいろんな言葉を話すし、俺の言語について微かな理解を示していた。最初の頃は俺の話を、皆に分かりやすく伝えてくれてもいた。そのため俺はミオと話す回数は多かったように思う。


「俺との会話をいち早く理解してくれていたからな」


「そういえばそうだったな」


「ああ」


 するとタケルが少し沈黙した後で、俺に聞いて来た。


「ヒカルってさ。なんつーか、好きな奴とかいんのか?」


 好きな奴? どう言う事だろう?


「まあそうだな。タケルは明るくて好きだぞ」


「いやいや。そう言う意味の奴じゃなくてよ、今まで好きな女とかいなかったのかって」


 俺はすぐにエリスの事を頭に浮かべた。


「いた」


「お! ここだけの話にしとくから教えてくれよ」


「別にいいが、面白い事は無いぞ」


「いいっていいって!」


 珍しい奴だ。人の好きな女の事を聞きたいなんてな。別に聞いても面白い事は何もないが。


「俺と一緒に戦っていた女がいたんだ。リーダーの俺とは何度も衝突してな、喧嘩ばかりしていたように思う」


「戦っていた、か…。今と似たような感じって事かな?」


「まあそんなところだな。ゾンビよりもっともっと恐ろしい化物がいっぱいいた」


「うえっ! そんなところで戦ってたのかよ!」


「そうだ。一歩間違えば死ぬような状況の連続でな、パーティーメンバーの四人が四人とも言いたい事を言い合って、意見がぶつかる事なんてしょっちゅうだったよ」


「よくそれでやれてたな」


「いや…むしろそうじゃなきゃ、すぐに死んでしまうんだよ。自分の背中を預けるには、信頼関係がとにかく重要でな。意見が違えばとことんまで話し合う。思い出してみると、リーダーの俺を皆が目標達成に導いてくれていたんだと今なら分かる」


「すげえ奴らだったんだな」


「そうだ。俺なんかにはもったいない凄い奴らだ」


 するとタケルが少し考えて言う。


「いや、そいつらはヒカルが居たから戦えていたんだと思うぜ」


「俺が?」


「そう。皆が生き延びる事を最優先に考えるヒカルだからこそ、皆もヒカルに背中を預けられたんだと思う」


「…そうかな」


「そうだって!」


「タケルは見かけによらず優しいな」


「見かけによらずは余計だって」


「すまん」


「はははは」


 俺は皆に信頼されていたのだろうか? 今となっては確かめるすべはないが、俺はアイツらを信じ切っていた。だから魔王ダンジョンを極められたんだ。きっとアイツらも信頼してくれていたのだろう。


「考え込ませちゃったか?」


「いや」


「そういえば女の話だったよな?」


「ああ。その女はエリスと言う名前で、傷を治し蘇生出来る能力を持っていた」


「それ…すげえな。ヒカルもすげえけど、そんな能力があんのか?」


「そうだ。凄いだろう?」


「凄い」


「俺は戦いが終わったら、その女と添い遂げるつもりだった」


「お! いきなり爆弾投下!」


「バクダントウカ?」


「いや、続けてくれ」


「まあそれで話は終わりだ。俺はこの世界に来てしまい、エリスとは二度と会えなくなった。俺の夢はそこで終わったんだ。きっと俺は死んだと思われているだろうな」


「‥‥‥」


 タケルが気まずそうな顔をして俺を見る。だが気にすることはない。俺は世界を滅ぼしかけた大馬鹿者で、世界を…エリスやレインやエルヴィンを守るために魂を捧げたのだ。俺はそれで本望だ。


「気にするなタケル」


「辛いな…」


「辛くはないさ。願わくば今もあいつが幸せであってくれたなら、俺はそれでいい」


 ズビッ!


 タケルが思いっきり鼻をすすっている。よく見ればタケルは泣いているようだ。


「泣いてるのか?」


「だってよう…。そんな悲しい事はねえよ」


「そんな事はない。タケル達のこの世界も、ゾンビによって壊滅してしまったじゃないか。皆も大切な人と別れてしまったのだろう?」


「まあ…そうだな。皆同じ思いをしているのさ。俺はこんな世界になってからユミと知り合って一緒に居るようになったんだ。だからヒカルだって、この新しい出会いの中で恋を育むことだって出来るはずさ」


 考えてもみなかった。俺はまだこの世界に来たばかり、つい最近までエリスやレインやエルヴィンと魔王ダンジョンに居た。未だにその余韻が俺の胸を離れない。新しい恋と言われてもピンとこなかった。


 俺がなんと答えたらいいか分からず沈黙していると、目の前に自動販売機が見えて来た。タケルがそれを見つけて嬉しそうに言った。


「お! 無傷じゃねえか?」


「そのようだ」


「今度は派手にやらなくてもいいぜ! なんたってバールがあっからよ」


 ここで壊してしまったら持ち運びが不便だろう。


「いや、このまま持って行こう」


「ん? このまま? どいうこと?」


「みんなの所で破壊して取り壊せばいい」


「じゃあ車を持って来ねえと」


「いらん。俺が全てを担いでいこう」


「…はは…ははは…何言ってんだ?」


 俺は片っ端から、その自動販売機を持ち上げて倒し重ねていく。


「‥‥‥」


 タケルが呆然としているが、俺はかまわず自動販売機を積み上げた。


「お、おいおい!」


「なんだ?」


「なんで持てるんだよ」


「まあ、鍛えてるからな」


「鍛えてるって…。てかそんな軽々と」


「問題ない」


 建物中にある自動販売機も持ち出して全て重ねたので、俺は身体強化を施して全部を持ち上げる。するとタケルが呆れたように言った。


「まるでアニメでも見ているようだ。マ〇ベルのスーパーヒーロー顔負けだよ」


「この世界にもこんな奴がいるって事か?」


「いやいや! ありゃ空想の世界だから! 目の前で起きている事が信じられねえよ…」


 正直そこまで重くはない。クリスタルドラゴンに頭からのしかかられた時の方がずっと重い。あの時はまだレベルも三百程度だったから正直死ぬかと思った。思い出してみると、あの時エリスの身体強化のレベルが高くて助かったんだった。


 そして、俺は自動販売機数台を重ねて夜のサーキットを歩くのだった。

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