第448話 ドバイに居た同じ境遇の人
ハンジが巡り会わせてくれたドバイの富豪カリム。彼は俺達が思う以上に、かなりの有力情報を持っていた。それは、ファーマー社がインドで新たな研究をしているというもの。
それを聞いたアビゲイルが言う。
「インドには古くからファーマー社が入り込んでいますから、拠点が十一カ所もあるのです。カリムさんが言う、良からぬ実験をしているというのは、かなり有力な情報だと思います」
そしてカリムが軽く怒りをにじませた表情をした。
「もちろん。経済を脅かすという行為はいただけませんが、彼らがなぜインドに拠点を持っているかの理由の方が問題なのです」
アビゲイルが答えた。
「人口ですね」
「そうです。その世界一とも言われる人口がファーマー社にとって、とても良い環境にあります。その人口こそ、彼らがインドに拠点を多く作った理由です」
するとタケルが言う。
「胸糞だな。ようはモルモットが大量にいるってこったろ」
「そう言う事になりますね」
「研究し放題だもんな」
「はい」
タケルも俺と同じで、富豪という地位は関係なく友達のような話し方をする。
「いずれにせよ、行かなきゃならねえな」
クキが難しい顔で言った。
「だが、インドに正体不明のヘリコプターが行ったら撃墜されてしまうだろうな。下手をすると敵国だと勘違いされるかもしれん」
だが、そこでカリムが言う。
「それは御心配なく」
クキが聞いた。
「どういう事です?」
「シャーリーンを連れて行ってください」
「彼女を?」
「それで問題なくいけます」
「そうなのですね?」
「ええ」
なぜかは聞かなかったが、カリムは自分の秘書を連れて行けと言って来た。
だが俺達はジョーイの裏切りがあったばかり、新たな人間を連れて行くのには不安が残るところ。しかしカリムはそれを見越して言う。
「彼女の身元は確かです。私達が幼少の頃から知っている人物ですから」
「彼女となら、問題なくインドには行けるという事ですか?」
「はい」
俺達が微妙な空気で居ると、カリムが言う。
「彼女は金など欲しくないのです。我々と同じ暮らしをし、同じようにお金を持っていますから、どこかの殺し屋のように裏切る事は無いのです。金があるというのはそう言う事、裏切る事の方がリスクが大きすぎるのですよ。この暮らしや財産をすべて失うような事を、自らしたいとは思わないものです」
そして、それを聞いたクロサキがクキに言った。
「そうですね。国際犯罪を起こす人や、テロなどを起こす人には不満があるのです。自分の財力に不満があったり社会に不満があったりするもの。この方達のように財力に全くの問題を持たない人は、その地位を自ら捨てたりはしません。私が追っていた犯罪者は、皆不満のある者達でした」
「なるほど、そう言われればそうか。しかし、なるべく巻き込みたくはないが」
だが俺達に、ファティマが追加の情報を出して来た。
「あなた。この方達には言っても良いと思います」
「わかった。シャーリーンもいいかな?」
「はい」
するとカリムが少し残念そうな顔をしながら言う。
「シャーリーンの家族も、ファーマー社の被害者なのですよ」
「「「「「「えっ!」」」」」」」
驚いた。こんなところにもファーマー社の被害者がいた。何故この女性の家族が被害にあったのかは分からないが、それならば俺達について来たい理由がある。
ミオがシャーリーンに尋ねる。
「もし話を聞いても良いのなら、聞いても?」
カリムがシャーリーンに言う。
「いいよシャーリーン。お話して差し上げたらいい」
「わかりました。実は私には夫と子供がおりましたが、彼らが犠牲になってしまいました」
「ファーマー社の?」
「はい。それに気づいたのは本当に最近でしたが」
「どうしてそれに気が付いたのです?」
「ザ・ベールにあなた方の事をお聞きしたからです」
「私達の事を聞いたから?」
「はい」
どういう事だろう。ミオは更に尋ねる。
「私達の何を聞いたのです?」
「日本がファーマー社のゾンビ薬によって滅びたという真実です」
「それは…確かですが、もしかしてご家族が?」
「日本に居ました。主人が仕事で行くのに、娘がどうしてもついて行きたいと言いましてね」
「そこで巻き込まれたと……」
「はい。音信不通になってしまいました」
俺達は沈黙してしまう。なんと運が悪いことに、ゾンビパンデミックの時に来日していたのだ。
「そんな…」
するとシャーリーンがスッと何かを取り出して見せてくれた。
「あの子が好きだったアニメのキーホルダーです」
それを見たミナミが言う。
「…〇妻〇逸…」
「やはり知っているのですね」
可愛らしい少年のキーホルダーだった。ミナミも女達も悲しそうにそれを見つめている。そしてミナミがポツリと言った。
「その男の子はいつもは弱いのですが、友達思いのキャラクターで最後まで戦い抜くんです。怖いのを我慢して必死に」
「ふふ…まるであの子みたい」
「芯の強い子なんですね」
「あの子は、このアニメのフェスティバルに行って…そして帰りませんでした」
「フェスで…」
「ええ。でも仕方のない事です。まさかあのような事になるなんて、誰も想像できませんでしたから。だけど好きなキャラクターに会いに行って、そうなったのなら…」
シャーリーンが涙を落とし、仲間の女達もぽろぽろと涙を流す。
そしてミオが泣きながら言った。
「私達と一緒に行ってくれるのですか?」
「ええ。あの子が大好きなアニメが生まれた国の方達です。これも何かの縁でございます」
皆が顔を合わせた。
そしてクキが言う。
「危険ですよ」
だがそれにはカリムが答える。
「彼女は、私達のボディーガードです。戦闘訓練も受けており諜報活動にも長けています」
「わかりました。ならば、ご一緒させていただきましょう」
クキがシャーリーンに手を差し出す。シャーリーンがその手を取って、一緒に行く事が決まる。
そして次の日、倉庫から持ち出した薬品をヘリコプターに積み込み、シャーリーンを加えた俺達はインドに向けて飛び立つのだった。
UAEアラブ首長国連邦でも日本のアニメは人気らしいです!




