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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
433/615

第433話 ゾンビに汚染されつつある地域へ

 高級ホテルの一室、テレビでは中東で暴動が起きているというニュースが流れている。自衛隊からの情報では、間違いなくゾンビパンデミックだという事だ。エイブラハムはそのニュースを見て、日本でパンデミックが始まった頃に似ていると言っている。


 その部屋に殺し屋が来て言う。


「時間です」


 俺達は荷物をまとめ、殺し屋についてホテルを後にする。遠くに三角形の山のような物が聳え立っており、それはピラミッドという古代の王の墓らしい。俺達はそれを見ながら、殺し屋が用意したマイクロバスに乗り込む。バスには赤い十字のマークが描かれており、何かに偽装しているようだった。中にはいろんな物資が積まれており、それはどうやら本物の医療品らしい。 


「すっごいねピラミッド」

「ほんとだねえ…距離感がバグるわ」

「このあたりはまだ平和だよな」


「ここから数百キロ先では地獄が待っている。はっきりとした状況が分からんから、作戦の立てようがないのも辛い所だ。自衛隊の情報とすり合わせて、臨機応変に対処するしかない」


「「「「「「了解」」」」」」」


 バスを運転している殺し屋も、その話を聞いて言う。


「状況次第では、車が止められるかもしれません」


「ぎりぎりまで連れて行ってくれ。サルバトーレには、きちんと仕事したと報告してやる」


「分かりました。ここから一日はかかるので、それまでは適当にしててください」


 俺達の乗ったマイクロバスが走り始めるが、一時間もしないうちに止められてしまう。殺し屋がバスを降りて説明を始めた。隣国が大変な状況だと説明されているようだが、殺し屋は俺達が国際救助の医師団だと説明している。


「なるほど、ボランティアの医師団という事になっている訳だ」


「俺が医者かよ」


「ドクターと博士がいるからな、あながち遠くはない」


 するとエイブラハムが言う。


「わしの出番があるやもしれんのう」


「待機しててください」


 だが殺し屋が戻ってきて言う。


「行って良しだそうです」


「そうか」


「この先にも観光地や何やらがあるから、まだ車どおりはあるようですね」


「なるほど」


 それから六時間ほど荒野を走ると、また検問所のようなものが見えて来る。


 クキが言う。


「銃を持ってる」


 すると殺し屋が言う。


「軍人でしょうねえ」


「ここは国境か?」


「そうです」


 とりあえずは、この殺し屋に任せるしかなかった。マイクロバスを停めると、全員が降りるように指示される。俺達はバスを降りて、バスの前に集まった。


 殺し屋が言う。


「我々は海外から来た医師団だ。この先で暴動が起きていると聞き、支援しに来たんだ」


「バスの中は?」


「医療物資が積んである」


 するとマイクロバスの中を見た軍人が答えた。


「医療物資がある」


「そうか。なら、ある人と話をしてくれ」


 建物の中から、スーツを着た人が出て来た。少し異質なその雰囲気に俺達は警戒をする。


「こんにちは。あなた方は医師団だそうですが?」


「そうだ」


「なるほど…」


 コイツは…なんだ?


 俺は自分の持っている杖を、いつでも使えるように備える。スーツの男もバスの中を見て、それから質問をして来た。


「どんな治療が出来るんですか?」


 そこで、エイブラハムが前に出る。


「どんなもなにも無いわい。腕がちぎれりゃ縫い合わせる、骨が折れれば繋ぐ、腹痛を起こせば薬を与える。それ以外に何かあるのかね?」


「……わかりました。この先では多くの怪我人も出ておりますし、酷い状況になっております。命の保証は出来ませんが、それでも行きますか?」


「ふん。今にも死にそうな人がおるというのに、医者がしり込みしてたら誰が助けるんじゃ? あんたが助けてくれるのか?」


 するとスーツの男は苦笑して言う。


「失礼しました。とにかくこの先はお気を付けください。暴徒が襲ってくる場合があります」


「それとて患者かもしれん」


「わかりました。どうぞお通り下さい」


 そうしてスーツの男が軍人に言った。


「通せ!」


「「は!」」


 ゲートが上がり、俺達のマイクロバスは国境を越えた。特に軍人が何をしてくるというわけでは無く、俺達はスムーズに入ることが出来たのである。


 運転しながら殺し屋が言う。


「先生のおかげです」


「なんじゃ、正体を分かっとったのかい」


「あなた方は、今一番世界で騒がれている人達ですから」


「殺し屋にも顔を知られとるとはのう、うかうか寝ても居られんわい」


「ここまで来れば、私の仕事は終わったも同然です」


 エイブラハムが、髭を撫でつけながら殺し屋に聞いた。


「あんたの名は?」


「まあ…ジョーイと呼ばれています。ジョーイ・ベックと」


「ジョーイや、この先がひどい状況か分かっとるのじゃろ? 良くここまで来たのじゃ」


「仕事ですから。金をもらわなきゃならないですし」


「なるほどのう。なら危険地帯に入る前にとっとと帰ったらいい。無駄に死ぬことは無い」


「もちろんそのつもりです。ですが…興味も出て来た。昨日、九鬼さんに言われた、仲間の為に命をかける男の戦いというものに」


「まあ、それは勝手じゃがな」


 車が進むにつれて、次第に人の気配が無くなって来た。それから一時間半ほど走ると、ようやく小さな町が見えて来る。


「あの町でガソリンを詰めようと思いますが、よろしいでしょうか?」


 俺もミオも既に違和感を感じているが、俺はそれに答える。


「いいぞ」


 町に入ってすぐに、皆が状況を掌握したようだ。状況が分からない、運転しているジョーイが言う。


「なんか…町が静かすぎるな」


 それにタケルが言う。


「まずはガソリンを入れろ。電気が来ているうちは楽だ」


 ガソリンスタンドを見つけて、ゆっくりと車が入っていく。


 皆は既に自分の得物を持っていた。


「ドアを開けてくれ」


 プシュッ! とドアが開き、俺達が先に降りる。


 そしてミオが言う。


「店の中に三体、女トイレに一体、男性トイレにも一体いるわ。じきに周辺から近づいて来るわね」


 ミナミがするりと、傘に仕込んだ日本刀を抜いて言う。


「店は私が」


「んじゃ。俺が男のトイレをやるぜ」


 そしてクロサキが言う。


「では私が女子トイレを。皆さん用をたしますか?」


「いくわ」

「私も」

「私も行く」


「じゃあ一緒に行きましょう」


 そしてクキが俺に言った。


「周辺はヒカルに任せて良いか?」


「そのつもりだ」


 そしてタケルがオオモリたちに聞く。


「大森。便所行くか?」


「ついて行きます」


「爺さんは?」


「わ、わしも」


 そこでクキが言う。


「博士も行っておいた方が良い。ここから先はどうなるか分からん」


「わ、わかりました」


 その状況を見てジョーイが聞いて来る。


「いったい、どうなっているのです?」


「例の暴動だ」


「暴動…そういうふうには見えませんが」


「騒げば集まって来るさ」


「何がですか?」


「ゾンビだよ。アイツらはこんなところまで来ているらしい」


 店やトイレからゾンビを始末する音が聞こえて来る。俺はすぐにバスを離れて、周辺のゾンビを始末し始めた。それほど数は多くはないが、フラフラと道端に出てきた奴を刺突閃で仕留めて行く。


 ガソリンスタンドに戻ると、皆が周囲を警戒しながら待っていた。


「半径二百メートルは潰した。ガソリンは?」


 するとジョーイが言う。


「つ、詰め終わった」


 そこでクキが聞いた。


「もう一度聞くが、どうする? もう仕事は終わっている。ここからは俺達が適当に車を奪取して、先にいくつもりだ」


「……待ってください。もしかして既に真っ只中に居るという事ですか?」


「そう言う事だ。まだ入り口だからそれほど数はいないようだが、どうやら感染者がこの町に逃げ込んだらしいな。生存者がいるかどうかも怪しいところだ」


「ゾンビらしいのは見てませんが?」


「仲間達が処分したからな。ガソリンを詰めやすいように、じゃないとあんたは帰れなくなるだろ」


「私のガソリンの為に、やってくれたのですか?」


「そうだ。あとは皆の用足しだな。だが帰りは気を付けてくれ、事故を起こしたり車が故障したりすれば致命的だ。まあ万が一はあんたの銃で、ゾンビの頭を撃ち抜けば止まる」


「……」


 ジョーイが考え込んでいる。


「私はゾンビを見ていません」


「だが実際に居たんだ」


「にわかには信じられませんね」


「んじゃ。直ぐにサルバトーレに電話をして、仕事が終わったと伝えてやる。それで帰れ」


 そう言ってクキはスマートフォンを取り出し、サルバトーレに電話をかけた。


「九鬼だ。仕事は終わった。奴に金を振り込んでやってくれ。本当に助かったよ、ドン・サルバトーレ。ああ、俺達は全員無事だ」


 クキが話をして電話を切る。


「口座を確認すれば入ってるそうだ。という訳で、こっからはこっちの仕事だ。お疲れさん」


 するとジョーイがタケルに言う。


「武さん。あんたは、この仲間達が世界で一番安全な場所にいると言っていた。それは今この場所でも変わらないのかい?」


「ああ。変わらないぜ、今この場所が世界で一番安全だ」


「……」


 少し考え込んでいたジョーイが、俺達に言った。


「私は見てみたい。あなた方が言う神の御業を」


 クキが驚いたように言う。


「いいのか? もう金は振り込まれているんだぜ」


「ここからはプライベートの時間ですよ。私の自由にさせてもらいます」


「そうか。ならあまり危ないマネはするな、ゾンビに関しては全員がエキスパートだ。出来ればスタンドプレイじゃなく指示に従ってもらいたい」


「わかりました。ではしばらくの間、あなた方を知るためにご一緒します」


 どういう風の吹き回しかは知らんが、ジョーイが突然ついてくる事になった。


「んじゃ、この町の掃除からだな」


 タケルが言うと皆が頷いた。そこで俺が言う。


「ジョーイ。お前は俺と居ろ、変な真似はするなよ」


「もちろんしませんよ。何かしたら私が帰れなくなる」


「その通りだ 」


 そして俺達はバスに乗り込み、殺し屋を連れて、この小さな町を巡回する事にしたのだった。

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