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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第430話 ギリシャのアテネに潜伏

 俺はローマに引き続き、アテネという都市にも既視感を覚えていた。前世の神国に似た建物があちこちにあり、神器のあるダンジョンの場所を調べに行った事を思い出す。俺達のパーティーは神国で情報を得て、ダンジョンを巡ったのである。


 今俺達は、サルバトーレが予約してくれたホテルの前に立っていた。だがそこまで来て、オオモリが立ち止まって渋り始めたのである。


「早く入ろう」


 ミオが言う、だがオオモリは動こうとしなかった。


「うーん」


「どうしたのよ」


「四つ星なんっすよねー」


「いいじゃない! 充分綺麗だし」


「見晴らし良くないっすよね。繁華街は良いですけど」


「見晴らしとか、どうでも良くない?」


「良くないっす」


「せっかくサルバトーレさんが用意してくれたのに!」


 だがオオモリが言う。


「そこ! そこなんすよ! もちろん僕も、サルバトーレさんを疑っている訳じゃないんです。ただ万が一、ロッシファミリーの情報が抜かれていたら? 下手をすればファーマー社に襲撃されるかもしれませんよ」


「…そうかしら…」


 不安そうに答えるミオにクキが言う。


「大森の言う事も一理あるな。こちらの動きをキャッチされている可能性は否定できん」


「ですよね!」


「そうかも…」


 するとタケルがオオモリに言う。


「つう事はよ、お前が責任もって部屋取ってくれるんだよな?」


「おまかせください」


 オオモリが悪い笑いをしている。もしかしたらオオモリは、ただ四つ星に泊まるのが嫌で駄々をこねたんじゃないかと思えるほどだ。


「場所を移しましょう」


 そこから少し移動した場所に、見晴らしのいい広場が出て来る。噴水が出ており、人々がその辺りで憩いの時間を過ごしている。俺達が観光客としてそこに紛れると、オオモリがマナに言った。


「衛星に繋いでもらっていいですか?」


「はいはい」


 これがオオモリの手口である。それを見てクロサキが静かに言う。


「サイバー犯罪を目の前にして、私は複雑な心境です」


 するとタケルが言う。


「んじゃ。日本に帰ったら逮捕していいよ。大森、お前、帰ったら牢屋な」


「はっ! な、なんでですか! そんなのおかしいですよ! 僕は作戦の安全な遂行のためにやってるんです! それにタケルさんに言われたくないですよ、ここまで何台の車盗みましたか?」


「うっ! てめえ…言うようになったじゃねえか」


 だがミオが青い顔をして言う。


「やめてよ。私は国際テロ犯のリーダーと称されているのよ!」


「す、すいません」

「ごめん…」


「ふぉっふぉっふぉっ! まるで学生の喧嘩じゃのう! 内容がそれとはかけ離れすぎて、誰も本気には捕らえんじゃろうな。じゃが…あまり多きな声でいうのはどうかと思うのじゃ」


「すみません」

「その通りです…」

「悪かった」


 エイブラハムに叱られて、三人は大人しくなった。


「すみません。私が言ったばかりに」


 するとミオが言う。


「いいえ。黒崎さんは間違った事を言ってない」


 静かにしていたアビゲイルが静かに言う。


「それを言うなら、私が一番の重罪人」


「そんな事はありません! 絶対に!」


 アビゲイルは、それ以上何も言わなかった。エイブラハムもアビゲイルも、サングラスとマスクをしているので、その表情はうかがえないが、きっと悲しそうな顔をしているのだろう。


 それを考えて、俺はオオモリに言った。


「オオモリ、アテネで一番良いところにしてくれ。世界を救うのだから、金持ちに迷惑をかけたところでどうという事は無い。わかったかオオモリ? 一番だぞ」


「わ、わかりました」


 皆は何も言わなかった。するとエイブラハムが俺に言う。


「すまんのうヒカル。お主は多くを語らぬが、本当に優しい男じゃな」


「さてな。俺は高い酒が飲みたいだけだ」


「ふふっ。そうかそうか」


 しばらくするとオオモリが言う。


「取れました!」


「おっ! でかした! 何処だ?」


「あれです!」


 オオモリが木々の間から見える建物を指さしている。皆でそこに向かい中に入ると、中はまるで宮殿のような美しさだった。全体的に白と金と茶色の装飾で、床には綺麗な模様の絨毯が敷かれている。


 オオモリとミオがフロントに行って、俺達の所に戻って来て言う。


「取れました。ただ、観光地だけあって結構厳しかったですね。スイートルームは一室で、あとは普通のゲストルーム三室です」


 それを聞いてマナが呆れて言う。


「十分すぎるわよ…」


 クキが言った。


「よし、ひとまず荷物を置いて、スイートに集まろう」


 皆がそれぞれの部屋に荷物を置いて、スイートルームに集まって来た。その部屋を見てマナとツバサがワーキャー言っている。


「スッゴイ部屋」


「VIPという感じね」


「セレブや会社のお偉いさんが使うんでしょうね?」


「だと思う」


 そこには十人以上が座れる長テーブルと椅子があった。皆がそれに腰かけてその部屋の美しさについて話している。するとリーン! とベルが鳴った。


「なんだ?」


「僕が頼みました。皆さん小腹空いたでしょ?」


 ドアを開けて、ホテルマンが料理を運んで来る。


「まったく…いつもながら、こういう手筈は良いんだから。大森君は」


「ありがとうございます!」


 ようやくアビゲイルとエイブラハムが、サングラスとマスクを外して食事を始める。それを食べながら、今日の夜の作戦を話し始めた。


 クキが話し始める。


「さて、十三人目の客ってBARに行くメンツだが、俺とヒカルだ」


 皆が頷いた。


「大森。ここは安全か?」


 それにオオモリが答えた。


「ここは絶対にバレません。我々の身分証明もネット上で全て偽造されてますし、既存のシステムでは解読不可能ですから。ここにいるのは世界の誰かで、僕達ではありません」


「了解だ。念のため南、武、黒崎は常に武器を携帯しておけ」


「はい」

「わかったぜ」

「了解です」


 俺が言う。


「まあ、ミオとツバサがいるから、異常があれば先に察知出来るだろう? その時はすぐに連絡してこい、ここまで数十秒で戻って来る」


 それを聞いて皆がにやりと笑う。そこでエイブラハムが言った。


「まあ…きっと冗談じゃないんじゃろうな?」


「冗談ではない」


 そしてクロサキが言う。


「その前に、大森さんのセキュリティを掻い潜ってこれるかどうかですし」


 クキが笑って言う。


「確かにな。そいつはそいつでバケモンだからな」


「やめてくださいよ! 僕はバケモンなんかじゃないです」


 だがマナが言う。


「あんたね…この世界の仕組みじゃ無敵よ。この戦いが終わったら、絶対に政府の監視下に置かれるような人間だわ」


「冗談でしょ!」


「冗談じゃないわ」


 皆が真剣な顔でオオモリを見ていた。そこで俺が言う。


「オオモリは責任もって俺が面倒見るさ」


「め、めんどうって…」


「冗談じゃないぞ」


「ははは…」


 だが逆に今度はタケルが言った。


「あんまり苛めてやんなよ。大森はマジで日本の切り札の一人なんだからよ」


「武さ~ん!」


 オオモリがぷよぷよの太った体で、タケルに抱きつこうとして阻止される。


「キメエんだよ」


「そんなあ…」


「「「「あははははは」」」」


 皆が飯を食い終わり、それぞれが珍しそうに部屋の中を歩き回り始める。するとマナが大声で言う。


「すっごい! 良い眺めよ!」


 皆でマナの所に行くと、外のベランダのような場所に座席があった。そのベランダから外を見ると、遠くに不思議な建物が見える。


「あれはなんだ?」


 ミオが説明してくれた。


「あれはパルテノン神殿よ。古代の遺跡、何か気になる?」


「いや。ちょっと昔見た建物に似ているんだ」


「昔見た建物?」


「ダンジョンと呼ばれるものだ。あそこはダンジョンの入り口にそっくりなんだ」


 すると皆がパルテノン神殿を眺める。


「へえー。ダンジョンってああいうのなんだ」

「なんか。冒険って感じだよね」

「スッゴイスケール感だし」

「なんだかロマンティックだわ…」 


 それを見ただけで俺は奮い立ってくる。夕日に照らされたパルテノン神殿は神秘的で、俺達の新しい旅を祝福してくれているような気分さえしてくる。


 それを眺めながらクキがポツリと言った。


「あと、一つ言っておくが、サルバトーレが手配してくれた人間は多分…」


 皆がクキを見る。


「殺し屋だ」


「「「「「「「「えっ…」」」」」」」」


 だがクロサキだけが頷いて言った。


「私もそう思います。この接触はヒカルさん九鬼さん以外にあり得ません」


 皆がシーンとしてしまった。そしてミオが言う。


「殺し屋なんて、危険じゃない?」


「俺も傭兵時代は似たようなもんだ。そう言う奴の事は、俺が一番良く知っている」


「そうか…」


 皆が凄く不安そうな表情になる。そこで俺は皆に尋ねた。


「ちょっと聞きたいんだが、殺し屋というのは俺より強いのか?」


 すると全員が首を横に振った。そしてタケルが言う。


「ヒカルを殺せる奴なんてこの世界にいるわけねえだろ」


「なら、皆はゆったりとしていればいい」


 空が紫に染まり、パルテノン神殿の空には星が浮かび始めるのだった。

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