第42話 文明格差と薬局
ホームセンターでは武器となるバールや鉈や金槌を手に入れ、それ以外にも新しい毛布やロープなど必要と思われる物をトラックに詰め込んだ。さらにヤマザキ達が言うには、発電機と言うのがとにかく有効らしい。とりあえずゾンビが集まってきたために、そのホームセンターに長居するのは止めたがもう少し物色したかったところだ。
そしてまた俺達の車は、都市部から郊外へと出てひたすら進んでいく。辺りは再び田んぼや畑ばかりとなり、ポツリポツリと民家や店のような建物があるだけだった。
ミナミが車の外を眺めながら聞いて来る。
「ここ何処だろう?」
それに運転しているユリナが答えた。
「そのうち道路標識が出てくるから分かるよ」
「ま、そうか。結構走って来たと思うけど、間違いなく今日中に東京は無理だよね?」
「まず無理だと思う。でも食料品以外なら、田舎の方が手に入りそうじゃない?」
「確かにね、でも田舎でも結構ゾンビはいるよね?」
すると今度は助手席に座っているマナが言った。
「田舎だからと思って油断すると危ないのは確かね」
「次の町はどうだろう?」
「あ、標識が見えて来たよ」
そう言ってユリナが上を指さす。するとそこには青い看板があり何やら文字が記されてあった。もちろん俺はそれを読むことは出来ないが、ユリナが口に出して言ってくれる。
「下妻だって」
するとミナミが少し大きな声で言った。
「知ってる! なんか映画とかにならなかった?」
突然後ろからツバサが話に入って来る。てっきり寝ているのかと思ったが、どうやら話を聞いていたようだった。
「なったなった! なつかしいね」
ミオがそれを聞いて答えた。
「そうなんだ。私は知らないかも」
するとツバサが言う。
「ミオちゃんはたぶん生まれてないかもよ。私だってたぶん小学生くらいだったかな」
「わたしも」
運転しているユリナとマナもいまいちピンと来ていないようだ。するとミナミが言う。
「なんか、ジェネレーションギャップを感じるわぁ」
「本当ねー」
俺はいろいろ聞きたいことがあるが、とにかく何がなにやらわからない。するとミナミが俺を見て言った。
「ごめんね。ちんぷんかんぷんだよね?」
「いや…それは仕方ないだろう。その、ジェネレーションギャップとはなんだ?」
「ああ。何て言うか年の差って言うのかな? 年代ごとに見ている物とかが似ていたりするんだよね。私と翼は年が近いけど、美桜と友理奈と茉奈は下なんだ」
「ツバサとミナミは一緒に住んでいたのか?」
「違う違う! テレビやインターネットで似たものを見てたって事かな」
また分からない物が出て来た。
「テレビやインターネットとはなんだ?」
「そうか。やっぱりそういうの無い世界から来たのかな。何て言うか皆が家に居ながらにして、同じものを見れる設備って事かな? 情報がすぐさま共有できるみたいな?」
「なんだと? 各家に居ながら情報を共有できる? その家と家の距離はどんなものなんだ?」
「…えっと。世界中?」
「どういうことだ?」
「だから。世界中で同じものが見れるし、自分の知りたいことを調べる事が出来るの」
「それを家で各自が見られるって言うのか?」
「そういうこと」
…何を言っているのだ? 世界中どこでも同じ情報が共有できる? 知りたいことを知れる? それではまるで大賢者が各家にいるようなものじゃないか。
「大賢者はいないのか?」
「なにそれ?」
「そうだな。過去や世界で起きた事を知り、魔法についての探求を重ね、各地の伝承を網羅し、長寿の魔法すら手に入れて何百年も生きている者だ」
俺が言った事が理解できなかったのか、女達は頭をかしげて静かになってしまった。もしかしたら俺の説明が拙いために、きちんと伝わらなかったのかもしれない。
「あーっと、何でも知ってる長生きの老人だ」
「あ、ああ。なんだろ? 学者みたいな者かな?」
「ガクシャ?」
「学校の先生みたいな?」
いや。学園の教員とは全く違う。そんな浅はかな者では無く、世界の深淵を覗いて生きて帰った者だ。恐らく向こうの世界で数百年後にエルヴィンが大賢者になってそうだが、俺にそれを説明する術は無かった。
「学校の先生が何百年も生きた感じ、と言ったら分かるかな?」
「ごめんなさい。分からないかも」
「忘れてくれ」
「ごめんねー! でもとにかく、インターネットっていうのは家に居ながらにして世界を調べられる。そういう仕組みと言えばいいのかな? そういうものがあったの」
「それは今はどうした?」
「電気の供給が止まったからね。使えなくなっちゃった」
「電気の…供給?」
すると今度はミナミが車の窓を開けて、指を指して言う。
「あの空中に黒い線があるでしょ?」
「ああ」
あれは恐らく緊急時の渡り線のような物だろうと思っていた。
「あれが電線」
「電線?」
「あれに電気が通って、各世帯に供給されるのよ。それを使ってみんないろんなことができるの」
俺の中ではますます疑問が吹きあがって来た。世界が情報を共有する事が出来るのであれば、何故ゾンビが世界を覆ってしまったのか? それだけの文明があったら、ゾンビなど襲るるに足らなかったのではないか? 俺はその電線をじっと見ながら頭がこんがらがって来た。こんな工具なんかがあって、あのジュウとやらの武器があって、何故にゾンビに支配されなければならないのだろう?
「間違いなく。俺が居た世界の文明のかなり先を行っているようだがな」
「そうなのかもね。と言う事はやっぱりヒカルはタイムトラベラーなのかも」
またミナミが不思議な事を言う。
「タイムトラベラーとは?」
「過去や未来から来た人」
そんなものがいるとすれば凄まじいものだ。俺が居た世界ではそんな奴は見たことがない。
「そんな事が出来る人間がいるのか?」
「えっと。ヒカルがそれなんじゃないかと思っただけ」
「俺にはそんな事は無理さ」
過去に行けるのならば、俺はもう一度人生をやり直したい。魔王ダンジョン攻略なんかに命を捧げずに、エリスと一緒に所帯を持って農家でもして生きたい。だがそんな事を出来ないのは分かっている。時間とはそういう物だ。この世界の時間に関する考え方は俺には理解できない。
するとユリナが運転しながら言った。
「タイムトラベル出来る人がいたなら、ゾンビの世界になる前に止められたんじゃないかな?」
‥‥‥
皆が一瞬沈黙して、ミナミがそれに答えた。
「そうね。もしヒカルがそれだったら、この世界にならないようにしてもらいたいなんてね。勝手に思っちゃった」
「すまんな。俺には…」
「ん? いいのいいの! 違うんだって! なんていうか、私映画とか好きだったから、妄想しちゃったの」
そんな話をしていると前のトラックがハザードを光らせて停車した。ユリナもゆっくりとワゴンを止める。そしてそのトラックの前方を見て言った。
「薬局だ!」
「郊外型のチェーン店か!」
「でも、入り口のガラス割れてない?」
「本当だ」
女達が矢継ぎ早に言うのでそちらの方を見ると、大きな建物の入り口のガラスが割れている。気配感知では内部にゾンビは二体しかおらず片付けるのは一瞬だろう。
「ちょっと聞いて来る」
俺はトラックのヤマザキの所に行って聞く。
「探索するのか?」
「…だがガラスが割れている」
「内部にゾンビは二体だ。すぐに終わるぞ?」
「わかった。ならば皆で降りる前に、タケルとヒカルで一緒に見て来てくれ」
「あいよ。ヒカル! よろしく頼む」
「よし。手短に済ませよう」
俺は手に二本のバールを持ち、ベルトにバールとドライバーを差し込んだ。タケルはジュウを肩にぶら下げて片手で構えている。二人は目で合図をして建物に近づいて行くのだった。
「入るぞ」
「おう」
俺が先に入りすぐさまゾンビの所に行って速攻で首を飛ばした。そしてタケルに向かって言う。
「もうゾンビはいない! 人もいないようだ!」
「わかった。ちょっと中を見てみるか」
「ああ」
俺が入り口を見張り、タケルが内部を物色していく。そして一通り見てきて言った。
「かなり荒らされているが、多少使えそうなものはあるようだぞ」
「よし。ならばヤマザキに伝えて、さっきのホームセンターと同じ要領で入り口を塞ごう」
「だな」
すぐにヤマザキにそれを伝えると、二台はゆっくりと敷地内へと入って来た。女達が車から降りて薬局内部に入り、入り口をトラックの後部で塞ぐ。もしゾンビが来たらまたヤマザキがクラクションを鳴らす手筈になっている。
「あ! 化粧品がある!」
そう言ったのはユミだった。するとマナがそれに答えた。
「本当だ! 高いのも普通にあるね」
「貰ってっちゃダメかな?」
「まあ必需品じゃないけど、この際いいんじゃない? かさばらないしさ」
二人の会話を聞いて、ユリナもミオもツバサもミナミも集まって来た。どうやら女はこういう物が好きらしい。だがそこにタケルがやって来て言う。
「ヤマザキさんも待ってるんだし、手短にたのむよ。命がけで盗る物でもないだろうし」
するとユミが言った。
「分かってるわよ! だけど、女の身だしなみは大事なの! ね? みんな?」
するとマナが答えた。
「ごめんねー! タケル。今まではそんな余裕なかったから。でも今はヒカルがいるでしょ? 皆も香水とか欲しいって言っているし」
「わーったよ。急げよ」
タケルが言うと、女達はカゴを持って来てあれやこれやと詰めだした。カゴ一つ分だけそれを詰め込んで床に置く。それを見たユリナがみんなに言った。
「よし! それじゃあ必要なものさがしましょ!」
「「「「「はーい」」」」」
そして女達は建物の中に散らばっていくのだった。
「薬ある! 飲めるかな?」
「この間の翼のような事もあるし、期限内だったら持って行っていいんじゃない?」
「まあ荒らされててそんなないけど、床に転がってるみたい」
「こっちにはサポーターとかあるよ。使えないかな?」
「使えると思う」
「シャンプーとリンスは持って行っちゃダメかな? ボディーソープもあるみたいだけど」
「いいんじゃねえの? かさばらないように詰め替え用の袋にしたらいいんじゃね?」
それぞれが必要物を見つけたようだ。すると外からゾンビ襲来のクラクションが鳴った。俺は皆に指示を出して、ホームセンターの時と同じようにトラックの下から外にでる。
「ヤマザキ!」
「なんだ。随分ゆっくりだったな」
「なんかいろいろと必要な物を見つけたようだ。まずはゾンビを駆除する」
「よろしく頼む」
そして俺は瞬間的に目に入った十数体のゾンビを一瞬で駆逐する。
俺も下等な魔物を狩る感覚をだいぶ思い出して来た。ゾンビを狩るのに火力をあげすぎたり力を入れ過ぎていたようだ。俺は肩の力を抜いて残り数体のゾンビを瞬間で狩るのだった。




