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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第429話 ヨーロッパの仲間達との別れ

 サルバトーレが用意した船は、モナコの富豪が用意した客船とは違っていた。荷物が沢山積まれている貨物船で、どうやら一緒に仕事もする予定らしい。オリーブや酒などが積み込まれていて、俺達は船員服に着替えさせられてカモフラージュしていた。


 護衛なら俺がいるから問題ないのだが、船のあちこちに銃を隠し、いざという時の為に備えている。


 船内で俺達とハンジが話をしている。


「九鬼。すまんが俺達はヨーロッパまでだ。そのままドン・サルバトーレと共に戻らねばならん」


「充分だよ。かなり助かった」


「すまない。イスラエルの問題を解決したら、なんとかヨルダンとサウジアラビアを抜けてドバイに辿り着いてくれ。そこにザ・ベールの支部がある」


「分かっている」


 するとタケルが言う。


「ありがとうよ! 日本に居た時には想定して無かったからな、ザ・ベールにゃマジで助けられた。それにヨーロッパの構成員がいっぱいいるからな。そいつらを置いては行けねえって事だろ?」


「無くはないが、それよりも我々がついて行った方がリスキーだからだよ。間違いなくあんたらより、我々の方がファーマー社に知られている可能性が高いからな」


「まあ…俺達はゴーストみたいなものだしな」


「日本人が暗躍してるなんて誰も思わんさ」


 そして俺がハンジとクワタに言う。


「だがあんたらのおかげで、アビゲイルとエイブラハムを救出できたし、法王を救うきっかけにもなった。ザ・ベールに巡り合ってなければ、サルバトーレと出会う事も無かった。あんたらの仲間は世界中にいるんだろう?」


「そうだ」


「一緒に戦っている奴らが、世界中にいると分かっただけでも大きい」


「そう言ってくれるとありがたいがな」


「そしてクワタ。世界で日本人が頑張っているのを知ったら、日本のみんなの心の支えになる。お前が生きていてくれた事は、俺達にとって非常に大きな出来事だった」


「そ、そんな大したものでもないが…」


「いや。クワタは日本が滅びたと思っても、一縷の望みを繋いで戦っていた。それは誰にでもできる事ではない、普通なら希望を失って力を失うところだ」


「無我夢中だっただけだよ。だけど、いつか帰れる国があるってのは、俺にとって大きな希望になった。これから出会うであろう、世界で戦う日本人がいたら絶対に伝えるからな」


「そうしてくれ」


 すると汽笛が鳴り響いた。館内通達でサルバトーレの声が流れる。本来はドン自らが仕事に出る事は無いらしいが、俺達を無事に届けるために親子ともども来ているのだ。


「まもなくギリシャのコリントス運河だ。面白いから甲板に出て見たらいい」


 ミオが喜んで言う。


「なんだろ? 皆で見てみようよ!」


 ちょっと湿っぽい雰囲気になっていたが、ミオの明るい声で俺達が席を立つ。外に出ると、どうやら船が川の河口から陸地に侵入するところだった。


「すっごいよヒカル!」


 手を引かれて手摺に連れていかれる。するとそこは両側が断崖絶壁になっている川だった。俺達がそれを見ていると、後ろからサルバトーレが声をかけて来る。


「珍しいだろ?」


「とっても!」


「ここをクルーズする観光まであるんだ。六キロもあるからな、しばらくは眺めてるといいさ」


「思い出になるわ」


 断崖絶壁の運河を進む船の船首でマナが言った。


「ハンジさん! 桑田さん! サルバトーレさん! ジュリオさん! みんな集まって!」


 何か分からずに、皆がマナの所に集まって来た。


「大森君! カメラタイマーセットして!」


 オオモリが慌てて丁度良い場所を探した。


「ほら! ヒカルもアビゲイルさんも! エイブラハムさんもみんなも! はやくはやく!」


 皆が船首に集まった。俺達の前には台に乗せたオオモリのスマホが置いてある。


「ほら! 大森君! はやく!」


 そしてオオモリが足早にやってきて、端っこにならんだ。


 パシャパシャパシャ!


 連続でシャッターがきられた。


「どう?」


「ちょっとまってください!」


 そしてオオモリがスマートフォンを見た。


「バッチリっス」


 皆でその画像を回し見して、ニコニコと笑っている。


 そこでマナが言った。


「今はまだこの写真をみんなに渡せないけど、平和な世の中になったら大森君が皆に送って」


 するとサルバトーレが微笑みながら言う。


「俺に日本のお嬢ちゃんの友達が出来ちまったぜ」


「コイツはいいや。アイスマンに日本美女の友達だってよ。それに秘密結社の中心人物と来たもんだ」


「我々にこんな素晴らしい友人が出来るとはね。桑田、命がけでやって来た甲斐があるな」


「本当ですね。その写真が皆に安全に共有されるその日の為に、これからも戦い続けましょう」


 その写真には切り立った断崖絶壁の運河をバックにする、俺達とマフィアとザ・ベールが笑顔で映っていた。皆が楽しそうにし、サルバトーレが皆に言った。


「これから数時間後に、ギリシャのアテネに到着する。俺達はその港で積み荷を降ろしたら、ハンジと桑田を連れて戻る事になる。アテネでこの男に会うと良い」


 そう言ってサルバトーレが、情報を書き記した紙を渡してくる。クキがそれを受け取って、スッとファスナーのポケットに仕舞いこんだ。


「なにからなにまですまない」


「そいつは中東の事情に詳しい。だが信念をもって動いている奴ではない、そいつは金で動くやつだ。既にこちらから前金を送っていて、仕事が終わったら残り半分を払う事になっている」


 それを聞いてクキが言う。


「金で動く奴は分かりやすくていい。金さえ積めば裏切らないからな」


 クキは金で動く傭兵だったから知っている。しかも仲間になれば、これほど心強い奴は居ない。


「まあそうだな。だがそいつのバックには組織もついているからな、念のため十分注意してくれ」


「なるほど…わかった」


「まずは十三番目の客っていうアテネのバーに行って、その紙に書かれた言葉をマスターに伝えろ」


 サルバトーレはそれ以上は言わなかった。だがそこまでルートを用意してくれた事は、感謝しかない。船は、いつしか運河を抜けて海へと抜けていた。それから二時間もしないうちに、俺達はピレウスという港に到着する。


 そこで俺達は船員服から着替え、荷物をもって観光客として降り立つ。


 サルバトーレ、ジュリオ、ハンジ、クワタが並んでいる。するとミオが前に出て、一人一人と握手をし始めたので、他のみんなも右にならえで握手を始める。俺が最後にクワタと握手を交わし、四人が寂しそうな表情をしていた。


「ありがとう。異国の戦士たち、俺達はあんたらからの恩を忘れない」


 ぐすっ。


 ジュリオが泣きだした。するとサルバトーレが言う。


「馬鹿野郎! 湿っぽくすんじゃねえ!」


「お、親父も泣いてんじゃねえかよ!」


「ばか。こりゃあ汗だよ!」


 それにアビゲイルが言う。


「ありがとう。優しい人達。私達は必ずファーマー社の陰謀を阻止するわ、そしてあなた達の事は一生忘れない」


 そういって一人一人に抱き着いて頬にキスをしていく。その事で、ハンジやクワタまで泣きだした。


 そこでタケルが言う。


「今生の別れじゃねえって! 世界を取り戻したらぜってー会いにくっからよ! しみったれた顔すんじゃねえぞ! ビッとしろや! 男だろが!」


 ジュリオが言う。


「そうだな、タケル。また絶対レースやってくれよ! お前なら絶対世界を取れる!」


「任せとけ」


 そしてクキが言う。


「それじゃあ。我々はここで」


 あっさりしたもんだ。だがそこでサルバトーレが引き留める。


「ああ、待ってくれ。これを持って行け」


 そう言ってアタッシュケースを開ける。するとそこには高い酒が何本か並んでいた。


 そして今度はジュリオが言う。


「俺からもささやかだけどよ」


 そう言ってアタッシュケースを開いて、そこから鎖のチェーンを取り出した。それを最初にアビゲイルの首につけた。そして手首にリングのような物をはめ込む。


「こんな高価なものを?」


「俺達の事を忘れねえように、今年の新しい奴だ」


 そして次にマナの首に同じものをつける。


「カ〇ティ〇じゃない! いいの?」


「あんたらがやってくれた事に比べたら激安だよ」


 女全員に似たような貴金属をつけて行く。つけ終わって、女達がそれを眺めてニコニコしていた。どうやら女というものは、貴金属に弱いらしい。


「ありがとうジュリオ。忘れない」


「ああ」


 そしてハンジが言う。


「どうか、皆さん死なないでほしい。絶対に生きて故郷の大地を踏みしめてください」


 すると仲間達が俺を見ている。俺が代表で何か言えという事らしい。


「俺がいる限り誰も死なせん。だからお前達も死ぬな。生き延びて、またいつか笑って酒を酌み交わそう」


「「「「おう!」」」」


「また会おう」


 そして俺達は港を後にした。俺達が角を曲がるまでずっと見送っていた。そこでクキが言う。


「さてと、地下鉄があるんだったか」


 ぐすっ!


「ん?」


 見れば…タケルが泣いていた。


「いい奴らだったなぁ」


「違いない。彼らが生き延びられるように俺達はやらねばならん」


「ああ」


 そして俺達は地下鉄の駅を見つけて入っていくのだった。

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