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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第428話 ローマの戦いを終えて

 マフィアの拠点に戻った俺は、とにかく琥珀色の高い酒をたらふく飲ませてもらっていた。


 俺の隣りで、呆然としながらサルバトーレが言う。


「一体…あの酒はどこに消えちまったって言うんだ…」


 サルバトーレが地下にある酒を次々に持って来てくれて、それを順番に飲んでいったのだが、地下に貯蔵してあるブランデーが無くなってしまったらしい。


 ジュリオがサルバトーレに言う。


「正直、俺も驚いているぜ親父。体の体積からいって一体どこに消えたんだ?」


 申し訳なかったか…。


「すまんサルバトーレ。約束とは言え…」


「いやいや。いーってこった。別に商売の酒が無くなった訳じゃねえ。うちに置いておいた、それはそれは珍しいブランデーが一本残さず無くなったのは痛えけど、核弾頭を何発も帳消しにしてくれたお礼だ。安いもんだぜ」


「かなり美味かったぞ」


「そりゃそうさ。目ん玉飛び出るくらい高けえ酒だからな。つうかよ…なんでちっとも酔っぱらわねえんだ? 神様の子ってのはそういうもんなのか?」


「いや俺は神の子ではない。だが、気分は良くなったぞ」


「普通なら気分が良くなった、なんてもんじゃすまねえ。どんな酒豪でもあんなに飲んだら、文字通り死んじまうぜ」


「死ぬほどじゃない」


 するとジュリオが言う。


「親父。このお方は杓子定規で計っちゃいけねえ、法王がおっしゃるように使いなんだからよ」


「そうだったな」


「いや…俺は使いなんかじゃないがな」


「そんなわけあるかい!」


「とりあえず好意はありがたくもらっておく」


「イタリア人を数百万単位で助けてくれたんだ。好意をもらったのは俺達さ」


「そう言ってもらえるとありがたい」


 俺は一日中飲んで、次の夜を迎えてしまった。皆はローマでの戦い疲れもあり、休養を取って寝ている。俺はほんの少しの睡眠で全回復するので、直ぐに起きて酒を飲んでいたという訳だ。


 そこにクキがやって来た。


「おかげさまでぐっすり眠る事が出来た」


「マフィアの見張りなんかじゃ、心もとなかったかもしれんがな」


「そんな事はない。隠れるには良い所じゃないか」


「まあ敵さんも、マフィアに隠れてるなんて思わねえだろうからな」


「そういうことだ。それでローマの様子は?」


 するとジュリオがテレビのリモコンをつけた。


「このとおりさ」


 そしてジュリオがクキにリモコンを渡す。クキが操作して次々にチャンネルを変えるが、何処も同じニュースが流れていた。


「イタリア軍の制圧と法王の演説か…。法王も救助されたようだな」


「まだ多少ゾンビが残ってるようだけどな」


「殺し方は美桜が教えてるからな。ローマもベルリンと同じで、じきに鎮圧するさ」


「あんたらのおかげだよ。ローマが核で焼かれずに済んだしな」


「そいつは大将のおかげだけどな」


「ああ」


 そしてジュリオがクキにコーヒーを差し出す。


「すまない」


「他のみんなは?」


「まだ休んでいる。まあ、そろそろ動き出すだろうがな」


 クキがゆったりとソファーに腰かけた。


「なんか食うかい」


「ありがたい」


 ジュリオがテーブルの上のボタンを押すと、扉を開いてマフィアの子分がやって来た。


「客人に料理を」


「はい」


「ヒカルさんも何か飲むかい?」


「コーラはあるか?」


「コーラを用意してくれ」


「はい」


 そうしてマフィアの子分は出て行った。クキがテレビを消してソファーの背もたれに寄りかかり、天井を見てぽつりと言う。


「こんな世界線があるなんてな。まだまだ知らない事だらけだ」


「どういうことだい?」


「モナコの富豪やイタリアンマフィアに、助けてもらう事があるとは思いもよらなかったよ」


「ははは。助けてもらったのは俺達だがな」


「いやいや。あんたが動かなかったら、ローマは消えていたし、俺達があそこに居なければ法王が死んでた。法王が生き延びてくれたというのは大きな意味を持つ」


「そう言う事かい…。それを言うなら、日本の自衛隊と一緒に戦うとは思わなかったぜ」


「そうそう親父の言うとおりだぜ。世界が滅びるかもしれないなんてのに、のんびり指をくわえてみてるわけにゃあいかねえ。だけど流石にゾンビや核弾頭なんて、俺達にゃあどうしようもねえ」


 皆がそれぞれの想いを胸に戦っているのが良く分かった。


「嬉しいな」


「どうした? 大将?」


「日本だけじゃなく、世界に同じ思いで戦っている人がいる事が嬉しい」


「そのとおりだな。人間捨てたもんじゃない」


 コンコン!


「失礼します」


 そしてマフィアが料理を運んで来る。シチリアの郷土料理らしく、見た目もとても綺麗なものだった。そしてサルバトーレが聞いて来る。


「それで? 計画通りこの地域から離脱するのか?」


「いや…」


 すると、そこにオオモリとタケルが入って来る。


「説明しますよ」


 オオモリがパソコンの画像を開く。


「なにをだい?」


「自衛隊からの通信です」


 そしてパソコンの画面に映ったのは、ある文章だった。


「暗号文を解読しました」


「なんて?」


「次に我々が向かう場所ですよ。どうやらイスラエルから、ゾンビが氾濫しつつあるらしい」


「なんだと?」


 そしてクキが言う。


「元より情報はあった。ファーマー社がイスラエルでゾンビ実験している事は」


「そうだったのか…」


「という訳で、次の目的地はイスラエル」


 そこで俺が聞く。


「サルバトーレ。イスラエルには行けるか?」


「うーん。直接は行けねえなあ…」


「どうすれば行ける?」


「ギリシャからエジプトに入って、そこから陸路でイスラエル入りするしかねえ」


「そうか」


「手配はさせてもらう。少し時間をくれ」


「わかった」


 そして俺達の次の目的地が決まった。話が決まったところで、次々に仲間達が起きて来た。


「美味しそう!」


 ツバサがクキと俺が食っている物を見て言う。そしてジュリオが笑って言う。


「可愛いお嬢様がた、今日も美しいですね。まるで女神のようだ。その美しい唇にお似合いの果実をご用意いたしましょう」


「あら…」


 女達がまんざらでもなさそうだ。


 するとクキが笑って言う。


「大将。イタリア男の爪の垢でも煎じて飲んだらどうだ?」


「なぜ俺が爪の垢を?」


 するとマナが言う。


「こればっかりは…九鬼さんの言ってる事が正しいかなあ…。ヒカルがジュリオさんのようなセリフが吐けたらいいのだけど」


「そうよねー愛菜。でも…無理かなぁ…」


「おいおい、ヒカルはこれで良いんだよ! イタリア男みたいだったら、ヒカルじゃねえっつーの」


「「まあねー」」


 そんな会話をしているところに、次々と料理が運ばれてくる。


 そこにアビゲイルとエイブラハムがやってきて、早速聞いて来た。


「ローマは! ローマはどうなってます!」


「博士。安心してください、法王達は救出され、イタリア軍はほぼローマを制圧しました」


「…よかった…」


 テレビに映った法王救出のニュースを見て、皆が胸をなでおろしていた。


「だが、陰謀の全てを潰すまでは終わらん」


 俺が言うと、タケルが言った。


「あー、愛菜の言う通りかもしれねえなあ。今くらいは、もうすこしオブラートに包んだ言い方を覚えた方がいいかもしんねえぜ? ヒカル」


 皆がうなずくのだった。どうやら俺は、イタリア男の爪の垢を煎じて飲まねばならないらしい。だがタケルの言葉に、皆が笑っているのを見て冗談だったと分かる。戦いに明け暮れていた前世では、魔王ダンジョン攻略の話ばかりしていた気がするが、それでは皆の息が詰まってしまうのだろう。


「おいジュリア。お前の爪の垢を煎じてくれ」


 一瞬皆がポカンと俺を見るが、その後大爆笑が起きるのだった。

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