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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第410話 お客には特大のプレゼントを

 既にファーマー社が研究所での騒ぎを察知したらしく、軍隊を差し向けて来たらしい。敵は一階部分で様子を伺っているようだが、俺達の方から向かっていく事にした。皆が走り始めるも、エイブラハムが遅かったため俺が小脇に抱えて走り出す。


「す、すまんのじゃ。ヒカル」


「問題ない」


 走りながらクキが言う。


「きっと俺達の事をザ・ベールだと思っているだろうな」


 それにミナミが答えた。


「そうね。ハンジが既にマークされたって言ってたから、この建物で騒ぎが起きた時点で、ザ・ベールが侵入したと思ったんでしょうね」


「まあいずれにせよ、ザ・ベールのおかけで博士の分析時間が稼げた。あとはここを脱出して、舞台に立つしかない」


 プシュー! ガン!


 唐突に目の前にガラスの遮断ドアが現れる。


「おいおい! なんだこりゃ?」


 ビービービービー!


 騒がしく警報音が鳴り響く。するとドガン! という音と共に、後方の入り口のドアを破って試験体が出て来た。


 タケルが言う。


「今度は熊かよ!」


 五メートルはあろうかという熊には、熊の顔はなく二つの人間のようなバケモノの首がついていた。首から肩にかけて異様に盛り上がっており、極端な筋肉がついていることが分かる。その首は別々な動きをしていたが、俺達に照準を合わせたようだ。


 クキが言う。


「この遮蔽ドアは侵入者を閉じ込めるための機能だろうが、試験体を外に出さない為のものでもありそうだな」


 だが俺は、試験体を見て良い事を思いつく。


「ならば利用させてもらう」


 試験体が来る前に、ガラスの遮蔽ドアに向かい剣技を繰り出した。


「真空乱斬」


 シュパン! バラバラバラバラ!


 分厚いガラスが床に崩れ落ちた。


「クキはエイブラハムを頼む」


「わかった」


「皆は先に地上へ向かってくれ!」


 皆が頷いた。エイブラハムがクキに背負われ、そのまま割れたガラスの扉を抜けて行く。そのままでは試験体に仲間が追い付かれてしまう為、俺はここで少し遊んでやることにした。


「がぎゅる!」


 そいつは変な鳴き声で俺に突進してくる。


「推撃」


 ズン! グチャ!


 もちろん試験体は推撃では死なない。壁に飛んで激突し潰れながらも再生して来る


「ぐじゃるぅぅ!」


 血を含んだうなりを上げてこちらを睨みつけている。そしてまたさっきと同じように突進して来た。


「推撃」


 ズドン! グチャア!


「どうだ、今度のはキツかったろう?」


 半分ぐらい潰れて原形を無くしかけたが、そいつはブクブクと再生し始めた。最初の見た目とだいぶ変わってきており、毛皮がボコボコの皮膚に変わっている。


 プシュウウウウウウウ! と天井から白い煙が降り注いで来た。


「どうやら、この施設はお前を食い止めたいようだな」


「ぐがああああ」


 吠えていた。きっと自分の行動を制限する為の薬品だと分っているのだろう。


「来い!」


 そうして再び突進してくる熊型試験体をおびき寄せるようにしながら、破損したガラスをまたいだ。試験体は俺を逃すまいと咆哮しながら走りよってくる。俺はスピードを上げずに、試験体についてこさせた。


「こい、ウスノロ。相手をしてやる」


「グガッルゥ!」


 皆の走り去った気配とは反対の方向に向かい、上に上る階段を見つけた。俺が試験体に手招きをすると、凄い勢いで突進してくる。そのまま階段を上り始めると、入り口付近でこちらを睨んでいた。


「どうした? 通りにくいなら入り口を広げてやる! 円斬!」


 シュパン! 階段の入り口を大きく切ってやると、そいつはデカい体を押し込んで来た。俺を睨みつけると、手を前に突き出し突然手の先が顎のように口をあけて、そこから数本の触手が伸びてきた。


 しゅるるるる!


 シュパン!


 切り落とした触手が階段に落ちて、のたうち回っている。


「ほら、どうした。そんな攻撃じゃ俺には届かんぞ? 来いよ」


 ドドドドド! 勢いよく階段の手すりを壊しながら、大きな体をねじ込んで来た。


「よし」


「ギシャアアアアア!」


 試験体は登りのスピードを上げるために、手の先から鉤爪をだして壁や階段に穴を開け、ひっかけながら登って来る。


「器用じゃないか。もっと急げよ」


 俺がスピードを上げると、試験体もスピードを上げた。どうやら状況に応じて、体を変化させることができるらしい。俺も試験体の妨げになる障害物をことごとく破壊し、更に試験体のスピードを上げてやる。


 すると俺の気配感知に引っかかるものがあった。どうやら一階にいた連中が、地下に降り始めたらしい。そのまま登っていくと、上から足音が聞こえて来る。どうやらもう一階上には、敵の兵隊が降りてきているようだった。


「ふっ。プレゼントだ」


 そいつらに接触する寸前に、試験体の突進を躱して階段の下に飛び降りる。


「ぐあ!」

「撃て撃て!」

「試験体だあああああ!」

「退避! 退避!!」


 どうやら試験体が目の前に現れた事で、敵の兵隊がパニックを起こしているようだ。地下二階に戻ったおれは一目散に、通路を走り仲間達の気配を辿る。


 パパパパパパ! ダダダダダン!


 先から銃声が聞こえて来た。俺が通路を走ると、階段の入り口で仲間達が足止めを喰らっているのが見える。


「ヒカル!」


「大丈夫か?」


「足止めを喰らった!」


「少し待て。じきに面白いことが起きる」


「面白い事?」


 そしてしばらくすると、上からの銃撃が止まった。皆が不思議そうな顔で俺を見ている。


「舞台には演出が必要なのだろう?」


 いよいよ訳が分からなくなっているようだ。だが敵の気配が上階に退いて行くのが分かる。


 するとミオが言った。


「敵が退いたみたいよ」


「…わかった。皆! 行こう!」


 クキの号令に、俺が先頭に立って階段に入る。俺達がゆっくりと地上に向かって登っていくと、クキが言った。


「本当だ。敵がいない…」


 するとツバサが言う。


「ねえ! 上で騒ぎが起きている音がするわ!」


 クキが俺に向いて聞いて来る。


「ヒカル。何をやった?」


「ファーマー社にプレゼントを届けたんだ。何度か潰れて傷んだようだが、それによって完全に怒りまくっているようだ」


「「「「「「まさか…」」」」」」


「目には目を歯には歯をって、誰かが教えてくれただろう? ゾンビにはゾンビをだ」


「そう言う事か…」


 それにアビゲイルが聞いて来る。


「どういうことです?」


 クキが言った。


「今、上は地獄でしょうな。とにかく潰し合いが終わるまで少し待ちましょう」


 仲間達は一階に続く階段の踊り場で、じっと状況が変わるのを待つのだった。

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