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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
406/615

第406話 敵に近づく無防備な旅行者

 ザ・ベールとの計画すり合わせが終わった。ザ・ベールは敵に動きを察知される可能性を考慮しつつ、三方向から研究施設を目指すという。移動は、観光客が町にあふれ出す時間を設定したようだ。


 そこでハンジが最終確認をしてきた。


「ミスター九鬼。本当にあなた方だけで別行動を? しかも徒歩で? それで博士は安全ですか?」


 クキが、もう何度目かになる説明をした。


「はっきり言おう。ヒカルの隣以上に安全な場所は、この世界のどこにもないと断言する。万の軍隊よりも、深海の潜水艦や核シェルターよりもヒカルの隣りだ。申し訳ないが信じてもらうしかない」


「わかりました。ゾンビ日本からここまでたどり着いた、あなた方を信じるしかありませんね」


「そうしてくれ」


 アジトの地下室には、ジュネーブの町のあちこちが映し出されているモニターがたくさんあった。それに映るのは、町を歩く人や車、店から出てくる人や街角でお茶をする人などだ。そこで俺達は作戦の最終確認を行っていたのだ。


 そしてハンジが、そこにあるマイクのスイッチを入れた。


「こちらヴェール、全ユニットに指令。オペレーションアルファ始動。プレゼントをセーフハウスへ配達する。デコイユニットツー、メインユニットワン、計三匹のウサギが走る。ミッション成功は世界の未来を左右する。全ユニット任務完了まで死角なし。オーバー!」


 俺がタケルに聞いた。


「今のはなんて意味だ?」


「知らね。要するに研究所に行くつうことだろ?」


 するとクキが笑って言う。


「まあ分かりづらくしているだけだな。誰をどこにどうやって連れて行くなんてハッキリ言ったら、相手が動きやすくなるだろ。だから、ああいった言い方になっただけだ」


「なるほど」


「へえー。映画でしか見た事ねえぜ」


「まあ…ニイタカヤマノボレみたいなもんだ」


 だが約一名、オオモリが鼻の穴をおっぴろげていう。


「か、カッコイイ! カッコよくないっすか今の! やっぱ秘密の作戦開始ってこうじゃなくちゃだめっすよ! 僕達もこうしましょうよ!」


「そうなのか?」


「ヒカルさんには分からないかあ。とにかく大事な事なんですよ!」


「そうか」


 とにかく作戦が始まったという訳だ。


「クキ。それじゃあアビゲイルを呼び…いや、プレゼントを取りに伺おう」


「くっくっくっ…。そうだな、丁重に扱えよ」


 するとタケルも言った。


「クライアントがお待ちだ」


「お前も…」


 俺達は直ぐに、仲間とアビゲイルが待つ部屋へ向かう。


 俺達を見てミオが聞いて来た。


「ヒカル! どうなる感じ?」


「えーっと、まあウサギを捕まえに行くんだ」


 俺がそう言ったら、クキとタケルが大笑いをした。


「くあーはっはっはっはっ!」

「ちげえよヒカル! プレゼントをハウスに届けに行くんだよ!」


「あ、そうだったか」


 ミオがポカンとしている。そこにクキが言った。


「俺達はいつも通りだよ。ヒカルがマストに動いて、俺達がサポートし博士を研究所に連れて行く。そしてその後は…お楽しみだ」


「あれね…分かったわ。じゃあ行きましょ」


 そして俺がアビゲイルとエイブラハムに言う。


「とにかくアビゲイルには死んでもらったら困る。だから俺が全力で守るぞ、それで良いな?」


「ええ」

「ふむ」


 するとマナが言った。


「うわあ…ヒカルに全力で守るぞって言われたぁーい」


「何言ってんのよ愛菜。みんな守ってもらって来たじゃない」


「でも直接言われて無くない?」


 ツバサが頷いた。


「確かに。今みたいにカッコよく言われてないかもぉ」


 すると何故か、ミオ、ツバサ、マナ、ミナミがこっちを見て来る。


「ほれ、大将。まってるぞ」


「あーっと、ミオ、ツバサ、マナ、ミナミ。お前達も俺が守る」


「うれし!」

「うわあ…」

「いやぁーん」

「が、頑張らなきゃ」


「あと、クロサキとクキとタケルとオオモリも俺が守る」


「「「「へっ? それ、今いる?」」」」


「どういうことだ?」


 なぜかクロサキとタケルとクキが、肩を震わせて笑っていた。俺は間違った事は言っていないはずだが?


「さあお嬢さんがた、いまので充分ほぐれたろ? 俺達もそろそろ行くぞ」


「「「「はーい」」」」


 一連の流れを見ていたアビゲイルも笑っている。


 なるほど…。女達はアビゲイルの緊張をほぐすためにやっていたんだ。今になってそれが分かり、仲間達の気づかいに尊敬の念を抱いた。アビゲイルが笑いながら俺に言う。


「本当にいいチームですね」


「ああ。良いチームだ」


 そして俺達は、変装したアビゲイルとエイブラハムを連れてアジトを出た。ジュネーブの町は午後、あちこちを観光客が歩いている。ビルの壁には落書きがあり、道路わきには駐車された車がある。


 ザ・ヴェールの人間達はいかにもプロという雰囲気をにじませていたが、俺たちの部隊はクキとクロサキだけだ。他の仲間は完全に一般人と変わらない…ただレベルが上がっているから、この世界の人間からしてみればモンスターではあるが。


「やはりジュネーブは都会ねー」


「町並みが綺麗だわ。だけどあちこちに落書きがある」


「良くないわねえ」


 何処からどう見ても観光客にしか見えない。そして直ぐに俺達がつけているイヤーカフに声が入る。


「こちらヴェール。順調か? 順調ならクキが手を上げてくれ」


 クキがさりげなく手を上げる。


「確認した。それでは観光をお続けください」


 今の言葉を聞いて、全員がにやりと笑う。


「観光だって」


「まあ、観光みたいなもんじゃない」


 するとオオモリだけが、はあっとため息をつきながら言った。


「今のカッコよさが…わからないかなあ」


 だがそれにマナが言う。


「大森くんはそういうのが好きなのね? そういうのって、厨に…」


 それをタケルが制した。


「愛菜。武士の情けだ、作戦中はいい気分でいさせろ」


「はぁーい」


 俺達が線路の下をくぐったあたりで、再び耳に音が入る。


「ウサギを求めて、番犬が飛び出したようだ。デコイに群がっている。充分注意されたし」


 またクキが手を上げる。


「やっぱり、マークされてたか」


 すると続けてハンジが言う。


「敵は警察に扮している。デコイユニットが職質を受けた」


 だがタケルが言う。


「アホな観光客になればいい訳だろ? 映えそうなところで、また写真でも撮ろうぜ!」


「そうしよう」


 すると、さっそくツバサが言う。


「ちょ、ちょっとみて! 何あの大きな椅子!」


 ツバサが指さした先に、めちゃくちゃ大きな椅子があった。だが足が壊れている。


 するとミオが言った。


「あれはね。壊れた椅子っていうのよ。有名なデザイナーが作ったモニュメント」


「へえー」


「という事はここは国連広場ね」


 それを聞いて俺が言う。


「なるほど。夜の舞台はこの奥という訳か」


 それを聞いていたタケルが言う。


「せいぜい着飾って派手に踊ってもらおうぜ。素敵なショーが楽しみだ」


 それを聞いていたクキが笑う。


「おまえら毒されてんじゃねえか」


「「ははは」」


 タケルと俺の笑いが揃った。二人で悪ふざけをしているのを、クキが楽しんでいる。


「ねえー。写真撮ろう! 観光客もいっぱいだしさ! 並ばなきゃ」


 マナが言うので、俺達は壊れた椅子の前に並んだ。アビゲイルのそばには俺が立ち、クキとクロサキが辺りを警戒する。


 だがミオが言う。


「ねえ。全員で写りましょ!」


「美桜そいつはさすがに」


「いいじゃない九鬼さん」


「…まあ、そうだな。そうするか」


 そうしてミオが近くの老人観光客にスマートフォンを渡し、撮ってもらうように頼んでいる。俺達とアビゲイルとエイブラハムが並び、パシャリと写真を撮ってもらった。人の良い観光客で、もう数枚ほど取ってくれたようだ。


「センキュー!」


 観光客は手を上げて去って行った。


 するとアビゲイルが言う。


「国連の敷地にも入れますよ。観光客もたくさんいるし」


 それはいい。


「ならば舞台を確認したい。写真を撮りつついこう」


 中に入っても観光客がわんさかいた。気配感知にもファーマー社やプロらしきものは混ざっていない。見物するように国連の敷地内を歩き、あちこちにデカい建物があるのを確認する。


 その時、俺達の耳にハンジが言う。


「デコイ及びメインユニットが完全マークされました。そしてこちらからは九鬼さん達が見えません。監視カメラから外れた場所にいるようです。十分注意してください」


「だってさ」


「オトリは全滅。あとは潜伏した構成員だけだな」


 俺達がそんな話をしていると…誰かが近づいて来た。警察の格好をしているようにも見える。そいつが近づいて来た事で、俺達にピリッと緊張が走る。


「あー、すみませんが、ここから先は一般人の立ち入りができません」


 それにミオが答える。


「アイムソーリー」


 そうして何事もなくその場を立ち去った。


「ビビった」


「本物の警察でしたね」


 タケルとオオモリが言うが、俺には敵じゃないと分かっていた。多分ミオも気づいていたのだろう。それから俺達は国連の敷地を通り抜けて、研究所のある方へと歩いて行く。すでにヴェールのオトリ達は、ファーマー社からマークされているらしいが、俺達の周りには居ないようだ。


 クキが言う。


「包囲網は抜けたな。だがここからだ」


「「「「「「了解」」」」」」


 すでに研究室に近い場所に来ており、いつファーマー社が感知してくるか分からない距離だ。それでも俺達はしっかりと観光客気取りで、写真を撮りながら近づいて行くのだった。

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