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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
402/612

第402話 花咲くアルプスの庭で

 ザ・ベールとは、ファーマー社やそれらに絡む陰謀に立ち向かう組織だった。巻き込まれて行き場を失った人らを匿い、居場所を与えつつ戦っているらしい。ザ・ベールの首謀者である、ハンジ・ヨーゼフは一般市民に紛れ、影でこの組織を率いている。スイスは中立国家の為、身を隠すには好都合らしい。エイブラハムがすぐにでも会いたいと伝えると、構成員たちが出発の準備を始めた。


 そしてハンジ・ヨーゼフが俺に聞いて来る。


「あなた方の仲間達は、どのくらいで来ますか?」


「すぐだ」


 言っている隙に、構成員がハンジに告げた。


「それらしき人物が現れました」


 そしてハンジがタブレットを俺達に見せる。そこには映像に映っているクキ達がいた。


「間違いない。俺達の仲間だ。彼らも一緒に行く」


「…これだけの日本人が良くスイスまで来たものだ」


「ああ」


「まさか日本に生存者がいたとはな」


「俺達も、世界にニホンジンが生きているとは思わなかった」


「我々の組織が世界中に散らばっていて、各国で日本人を保護している」


 するとミオがため息をついて言う。


「まるで天然記念物扱いね…」


「一つの民族を根絶やしになどするわけにはいかない」


「そうね…ありがたいわ」


 エイブラハムが言う。


「アビゲイルの所には、あんたも行くのかね?」


「もちろんです。博士に会えるのは私だけですから」


「ふむ」


 構成員に促され俺達が外に出ると、クキ達も一緒に待っていた。クキが言う。


「驚いたな、まさか本当に見つけるとはな」


「俺も驚いている」


「兄ちゃんの手柄だろ」


「まったくだ」


 タケルが少年たちを脅しつつ声がけした事で、ハンジ・ヨーゼフに会う事が出来た。俺とクキが感心するようにタケルを見る。タケルは何も無かったように、クワタと言葉を交わしていた。誰にでも話をするタケルの社交性が、ここに来て役に立ったのだと思う。クキとハンジが握手を交わして、拠点を出発した。


 それから俺達は数台の車に乗せられて、湖で船に乗り換えさせられる。変な追手がつかないように、交通手段を変えているのだそうだ。


 みんなが船の縁に立って外を見ていた。チューリッヒ湖からの風景は美しく、エイブラハムも楽しそうに風景を見ていた。一時間もかからずに上陸し、また数台の違う車に乗せ換えられた。車には武装した人間が乗っており、あたりを警戒しているようだ。


 ハンジが言う。


「まどろっこしくてすみません。十分に警戒をしています」


「いや。必要な事なのじゃろう」


「そうですね」


 そして車列は次第に勾配を登り始めた。気温も下がり始め、皆が荷物から服を取り出して着だす。非常に見渡しの良い牧草地帯に入り、爽やかな青空を流れる雲が山肌に影を作った。


 タケルが嬉しそうに言う。


「おい。牛だ牛がいっぱいいる」


 見ればエメラルドグリーンの牧草地で、悠々と草を食っている牛がいた。小鳥の声がさえずり、そこらに高山植物が生えている。遥かに見える山々は白く、雄大な自然が広がっていた。


「そのようだな」


「美味そうだなあ」


 するとハンジが笑う。


「あれは乳牛ですよ。牛乳やチーズの原料になる乳を搾る牛です」


「そうか。乳牛か…美味そうだな」


「ははは…」


 しばらく進むと今度はヤギが見えて来る。牛よりも一回り小さく、牛と同じように牧草を食べている。時おり俊敏な動きで飛び跳ねたり、高い所の草を食べているものもいた。


 ミナミが言う。


「なんか、ハ〇ジの世界だわ。本当にこんな感じなんだね」


「な、美味そうだろ」


「武君?…空気を読め!」


「なんだよ南、俺が空気を読んでねえってのか?」


「だめだこりゃ」


 するとハンジが言う。


「仲が良ろしいようで。もう間もなく到着しますよ」


 エイブラハムが言った。


「そうか…アルプスに隠れておったか…。それは見つからんじゃろうな」


 そして車は小さな集落に辿り着いた。建物は花で飾られており、庭にはトラクターが止めてある。庭を見れば色とりどりの花が咲き誇り、とても美しい場所だった。


「一見すれば農家のようだな」


 俺が聞くとハンジが答える。


「農家です。正真正銘の」


「そうだったか」


 数台の車が来たのを見て、牧草地の方から数人が歩いて来た。俺達も車を降りて、その人らを待つ。麦わらをかぶった人らが、こちらにお辞儀をしているが、そのうちの一人が棒立ちになってこちらを見ている。


 エイブラハムが小さく声を出す。


「おお…」


 すると向こうから女が走って来た。


「おじいさん! おじいさん!!!」


「アビゲイル!」


「おじいさん!」


 ダッとエイブラハムに女が抱き着いた。エイブラハムもしっかりと抱き返す。俺達はようやくアビゲイルに辿り着いたのだった。二人はしばらく抱き合い涙を流していた。それを見た、ミオ、ミナミ、ツバサ、マナ…そしてタケルも。もらい泣きしている。


 ようやくアビゲイルがこちらを見た。


「この人達は?」


 するとハンジが深々と頭を下げる。


「博士。ようやく時が来たようです」


 するとアビゲイルがぽつりと言った。


「もしかして…日本人?」


 エイブラハムが答えた。


「そうじゃ。彼らは日本からやって来たのじゃ」


「うそ…。日本から?」


 俺達がそばによると、アビゲイルは深々と頭を下げた。


「ごめんなさい! 私は取り返しのつかない事をしてしまった! とんでもないことを! 本当にごめんなさい! 私は…私は…」


 よろよろとしてしゃがみ込んでしまう。エイブラハムがアビゲイルの肩を抱いて言う。


「彼らは、なんとかしたいと思っている。そしてその力があるようじゃ、アビゲイルよ…わしは彼らに協力したいと思うとる。どうじゃろ? 話を聞いてはもらえんかの?」


「分かった…でも、でも! 力になれるかしら…私なんかが」


 するとそこに、ミオがいってアビゲイルに手を差し伸べる。


「博士、一緒に世界を救ってくださいませんか? 私達と一緒に人類の未来を守っては下さいませんか?」


 しばらく二人は見つめ合う。


「あなたは恨んでいないの? 私のようなバケモノを」


「こんな綺麗な人がバケモノ? そんな訳はありません。博士お願いします。私達を救ってください」


 アビゲイルが立ち上がりミオの手を取った。


「わかりました。日本の可愛らしい人。あなたのような小さな人が頑張っているのだものね、私がくじけていてはいけないわね」


「ありがとうございます博士。そして、いろいろと見ていただきたいものがあるのです」


 アビゲイルは俺達や、ザ・ベールの構成員たちを見渡して頷いた。


「見せていただきましょう。あなた方が命がけで手に入れたであろう情報を」


 すると農家のおばさんが言った。


「アビちゃん。こんなところで立ち話は良くないわ。母屋へどうぞ、なーんもない所ですが、あいにくと空き部屋がいっぱいありますので。それに温かいミルクなどはいかがですか? 日本の方々の口に合うか分かりませんが、チーズなんかもありますのでね」


 タケルが言う。


「いただきます!」


 するとハンジが構成員に言う。


「よし! 作戦は終了だ! ここに車があるのは目立つ! 直ぐに引き返せ」


「「「「はい!」」」」


 ハンジとクワタ、あと二名の構成員を残して車列は引き返していくのだった。俺達は農家に招かれるままに大きな木造の建物に向かった。

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