第381話 尋問と押し返すドイツ軍
ファーマ―社の女を捕らえた俺達は、再びベルリン大聖堂に籠り尋問を始めた。ファーマ―社の女は上層部の人間では無かったが、現場の全てを任される立場の一人ではあるらしい。
尋問はクキが行っている。
「殺されたくなかったら、洗いざらい吐いてもらおうか、お前達は何をやっているんだ?」
「ゾンビ実装試験よ」
「どういったものだ?」
「私達が開発したゾンビ化する物質があってね、それのコントロール化を検証している」
「コントロール化?」
「あなた達は知らないかもしれないけど、私達はこのゾンビ化実験で以前失敗したことがあるのよ」
「どんな?」
「極東にある、ジャパンを知っているかしら?」
なるほど、コイツはまだ俺達が日本から来ている事を知らないらしい。フランス人や中国人だと思われているようだ。もちろん正体はばらさずにクキが聞く。
「知っている」
「あの国は島国だからね。外に漏れないと踏んで、局地的に使用出来るかどうかを確認したのだけれど、アメリカ政府と日本政府の手違いで全国民にばら撒いたのよ。そのおかげで国は全滅しちゃってね、SNSで噂されている話は事実なのよ」
「ゾンビ化の薬で全滅したという事か?」
「そう。あれはデマじゃない」
俺達の全員が知っている事だが、この女もその事実を知っているようだ。やはりファーマ―社の人間は知っているのだ。俺達は顔を見合わせながら、興味深く女の話を聞いた。
「まて。ファーマ―社が全部仕組んだことなんじゃないのか?」
「はあ? そんな訳ないじゃない。もちろん開発と金儲けには絡んでるけど、全部を我が社だけで出来るはずないわ」
「どういう事だ?」
「政府高官や、公的機関の上層部が絡んでいるの。もちろん巨額の金が動いているわ」
なるほど…、クロサキ達の公機捜が調べていた内容に近いようだ。
「誰か分かるか?」
「具体的には下りてきていないけど、ファーマ―社CEOと米高官、医療機関が絡んでる」
「嘘じゃないな?」
クキがギロリと睨むと、怯えながらも言う。
「もちろんよ。あなた達の組織もかなり大きいんでしょ? それなりに情報を掴んでいて答え合わせ出来てるんじゃないの?」
「まあ…そんなところだ」
なるほど、俺達がなにかの組織だと判断したらしい。
横からミオが聞いた。
「それであなた達は、何故ベルリンでこんなことをやっているのかしら?」
「ベルリンだけじゃないわ、あちこちで試験中よ。ゾンビを作りながらも、大きく拡大させないようにコントロールする実験をしている。あまりにも無差別に広がりすぎれば、軍用には使えないからよ。普通の人間の意識のままゾンビにするのは、手間と金がかかりすぎるし、金をかけないようにする為のゾンビなのに本末転倒でしょ」
ガッ! とタケルが女の胸ぐらを掴んだ。
「ひっ!」
「やめろ。コイツは情報源だ」
「ちっ!」
タケルがバッと手を放し、そっぽを向いて腕組みをする。そこでクキが女に言った。
「こいつらは特殊な訓練を受けていて、お前らが作るゾンビ化人間を制圧できる力がある。それはさっき知ったと思うが、不要と思えばすぐにお前を殺すだろう。だが洗いざらい話をすれば、どこかで解放してやる。その前に一つだけ言っておくが、言葉に気を付けた方が良い」
「わ、わかりました! すみません」
「まあいい」
そしてミオが再び聞いた。
「ベルリン以外にはどこで?」
「はい。イスラエル、モルドバ、アフガニスタン、スーダン、コロンビア、インドネシアと聞いています」
「なかなかにきな臭い所だな」
「紛争などに紛れて行いますから」
「それなのになんでベルリンなんだ?」
「日本での失敗以降の、大都市実験を再開する為です。これまでの限定的な国では、ある程度のコントロール化が確認できています。まだ制圧しきれていない所もあるようですが、先進国でのデータが日本ではきちんと取れなかったため、ドイツに白羽の矢が立ったようです」
「いい言葉遣いだ。それで、ここでのデータはどうだ?」
「紛争地帯ではない為、ドイツ軍が制圧するのも時間の問題かと思います。ですので、我々はここを引き払って退却しようとしていました」
ん?
尋問途中で俺の気配感知に反応が来る。
「何らかの集団がこちらに近づいてきているぞ」
それを聞いてクキが女に聞く。
「おい。ファーマ―社の私兵じゃないのか?」
「わかりません! でもここで取れたデータの半分は既に送信しています。こんなに早く私兵が動くとは思えません」
俺が窓際にいき、ざっと外に出て屋根の上に飛ぶ。すると向こうから戦闘車両や兵士らがぞろぞろと進んできており、ゾンビ掃討しながら向かってきているようだ。俺はすぐさま部屋に戻って言う。
「ゾンビを掃討しながら進んできている。恐らくはドイツ軍だろう」
それを聞いたマナが言う。
「えっ、って事は、私達が危なくない?」
「確かにそうよね」
タケルがようやく冷静になったようで振り向いて言う。
「トンズラしよう。俺達がこれをやったと思われたら、ドイツ軍と戦う羽目になるぜ」
それを聞いてクキがにやりと笑う。
「こっちにゃ大将がいるんだぜ。ドイツ軍が束になっても敵わないさ。まあもちろん矛を交えるつもりはないがな。ドイツ軍には何の恨みも無い」
するとファーマ―社の女が聞いて来る。
「あ、あなた達は何者なのですか?」
タケルがブチ切れそうな顔で言う。
「ああん? うるせえよ! ぶっ殺すぞ!」
「ひっ!」
クキがタケルを抑えて、女に言った。
「ついて来てもらおう」
「わかりました。だから! 殺さないで!」
「あんたが言う事を聞いてくれたらな。ほかにゾンビ化人間とか試験体は持ち込んだのか?」
「そこまで知っているのですね? もちろん持ち込んでおりません。試験体は扱いが難しく、下手をすると我々が全滅してしまうのです。あとゾンビ化人間とあなた方が呼ぶ兵士は、作るのが高額過ぎる為一部隊に十数人しか与えられません」
「なるほどな」
そしてオオモリが聞く。
「ここにある機器や、残ったデータはどうします?」
クキが冷静に答える。
「ドイツ軍かドイツ警察に押収してもらおう。そうすればファーマ―社の痕跡が分かるだろ?」
「そうですね!」
「さすが九鬼さん。こういうの手慣れてんじゃねえか」
「お前の車ドロよりは上手くないさ」
「なんだか…複雑な褒められ方だぜ」
そうして俺達は必要物資をリュックに詰め込み、ベルリン大聖堂を後にした。このまま都市部を抜ければ、ドイツ軍に遭遇してしまう為、俺達は川沿いに進んでボートを探す事にした。
川沿いに進んでいくと、大きめの船が見えて来た。俺が振り向いてクキに言う。
「クキ、船だ」
「ありゃ遊覧船だな」
「分かった! んじゃ! 俺がアイツをくすねるぜ」
「ほら。やっぱり頼もしいじゃねえか」
「今は緊急時だからな!」
そして俺達は遊覧船に乗り込んだ。鍵を壊して、タケルがあっという間にエンジンをかけてしまう。ファーマ―社の女は手と足を縛られ、猿轡をして床に転がされた。
「夜が明ける前に離脱するぞ。急げよ! 武!」
「わーってるよ!」
俺が言わなくてもパーティーが動くようになってきた。やはりこいつらは頼もしい、まるでレインやエルヴィンを思い出させる。
「あちこちで戦っているな」
「制圧できそうだ」
ボートが進むと、ドイツ軍の戦う音が都市の中心部に向かっているのが分かる。俺達がゾンビ化する部隊を潰したおかげで、押し返し始めたようだった。




