第378話 ファーマ―社の先兵
ベルリンは日本とは全く違う町並みで、美しい景観の建物がたくさん建っていた。だがあちこちで火が上がり、ゾンビがうろついていて、その見事な景観が台無しだった。しかも、なりたてのゾンビはまだ筋力が強いためか、その行動速度が速く走り回っている。
「刺突閃 十連」
逃げ惑う人々の間を縫って、後ろのゾンビに向かって刺突閃を撃つ。先頭のゾンビが転げ、後ろのゾンビ達がそれに躓いた事で、どうにか逃げている人間との距離が開く。そこでマナが大声をあげた。
「ゾンビさーん! こっちこっち!」
するとゾンビ達は一気にこちらに向かって走って来た。マナのヘイトがとにかく強力だった。向かって来たゾンビに向かい、俺が剣撃を放って処理をする。
「炎龍鬼斬!」
一気に切り捨てて、皆が周りを警戒する。オオモリが地図を見て言った。
「もうかなり中心に入って来てると思いますね」
「生存者をどうにか逃がさないと、全滅してしまうな」
「確かに、生存者がいるうちに何とかしたいですよね」
そんな話をしている間にも、空にはヘリコプターが行き来していた。それを見てクキが言う。
「ドイツ軍はどうにか生存者を助けようとしているようだが、着陸出来ないんだよ。あれを見てみろ」
クキが指さす方向では、ビルの屋上にヘリコプターが着陸しているところだった。
「ビルの屋上に逃げた人らを、辛うじて助けているに過ぎない。だがビルの中にもゾンビが入り込んでいるだろうからな、屋上にたどり着く前にやられてしまうだろう」
「とにかくよ! ファーマ―社を見つけ出すしかねえぜ!」
「そうだな」
するとクキが言う。
「恐らくだが、ファーマ―社は一か所に留まっていない。あちこちで人間達をゾンビに変えている」
「ほんっとクソだよな」
「それがファーマ―社のやり方だ」
「車か何かで移動しねえと、ファーマ―社の奴らもゾンビにやられるよな?」
「恐らくはそうだろうな」
するとツバサが言う。
「じゃあ私が見つけられるかも」
ツバサが目をつぶった。俺達はツバサにゾンビが群がらないようにし、何かを見つけるのを待つ。ヘリコプターの音と銃声、人の悲鳴と爆発音が鳴り響いている。あちこちでゾンビが動き回る気配がして、人間達が逃げ惑っている感覚は伝わってきていた。だが何処にファーマ―社がいるかまでは判断がつかない。
するとツバサが言う。
「車の音…多分、こっち」
そう言って指を差した。
「よし! 行くぞ!」
この音の中から、特定の音を聞き分けたらしい。ツバサを先頭にして、俺達がそれについて行くと俺の耳にも車の音が聞こえて来た。
俺が言う。
「よく分かったな」
「他のエンジン音と微妙に違う。動いたり止まったりしてるし」
そしてビルの角を曲がった時だった。道路の中央に黒い大きめの車が停まっている。その窓が薄っすらと開いており、中から誰かが外を監視しているようだ。
「あれか?」
「でも。あれがファーマ―社かまでは分からない。一般の人かも」
それを見たタケルが言う。
「ドイツで、レンジローバーか。まあ別におかしくはないが、確かに他とは雰囲気が違う気がするな」
するとその周辺に逃げ惑う人が走って来た。俺達が様子を伺っていると、車内から人間が降りて来てホースのようなものを構えていた。
プシュッーーーーー!
逃げ惑う人らに煙がまかれ、全ての人間がそこに倒れてしまった。
「あれがファーマ―社だ。みんなは来るな」
俺がシュッと縮地でその車に寄る。白い煙は恐らくゾンビ因子であろうが、俺に効かない事は東北大の研究者たちが確認済みだ。
「冥王斬!」
ジュキン!
煙を撒いている人間はもちろん、車ごと乗っている人間も真っ二つに斬った。車は沈黙し、あたりに静けさが漂う。だが白い煙を浴びた人間らがムクリと起きだした。
「手遅れか…」
その煙の効果は、日本で確認した感染力の非では無かった。既に全員がゾンビになり、俺に向かって飛びかかって来る。
「蘇生斬」
なりたてのゾンビ達が斬れて地面に落ち、みるみる人間の死体に変わる。念のため試験体やゾンビ化人間の対策をしたが、特に動き出す様子は無かった。
そして俺は真っ二つになった、ファーマ―社の車の上を掴んで剥がす。体が半分になりながらも、生きていた奴がいたからだ。そいつの胸ぐらをつかんで言う。
「お前はなんだ」
「なっ! なんだお前は!」
「俺が聞いている」
「言葉が分からない」
するとそいつの斬れた体の部分が、くっつき始めた。そしてそれはそいつだけじゃなく、周りのファーマ―社の連中も繋がり始めたのだ。
バッと数人が飛びかかって来た。
「死ね!」
なるほど。こいつらはファーマ―社が送り出したゾンビ人間兵だった。
「屍人斬」
飛びかかってきた奴らは分裂して地面に落ちる。屍人斬により再生は叶わず、そのまま崩壊していった。俺は胸を掴んだ一人だけを睨む。
「くそ! 離せ! 離せ!」
恐らく人間にしたら物凄い力だろう。恐らくは日本で戦ったクマか虎くらいの力がある。ゾンビ人間化する事で力が何倍も倍増するらしい。
「お前らは何をしている」
「くそ! なんでほどけない! 俺の力はこんなはずじゃ…」
ゾンビ化の煙が風で流れて行き、そこに仲間達が走り込んで来た。
「ヒカル!」
「ミオ。コイツの言っている事を聞いてくれ」
そしてミオがそいつに話す。だが叫ぶだけで何も答えない。ミオが俺達に説明する。
「我々ファーマ―社に手を出してタダで済むと思うなよ。お前達など我々の組織にかかったらすぐに殺される。ですって」
俺は日本刀をそいつの肩に深々と貫通させる。
ズズズズ!
「ぎゃあああああああああ!」
「お前は何をしていた?」
それをミオが通訳した。その時そいつの目が一瞬動くのが分かった。
「オオモリ。その端末を見てくれ」
車の足もとに転げ落ちている端末を見てオオモリが言う。
「…試験中だそうです。大都市圏におけるゾンビパンデミックと、その収束に向けての試験。と表記されていますね。この騒ぎは…ファーマ―社の試験です…」
「くそが!」
タケルがボゴンと! ファーマ―社の頭を殴ってしまい。頭蓋が飛び散って死んでしまった。
「あ、やっちまった…」
「どうでもいいさ。それよりオオモリ、情報は取れそうか?」
するとオオモリが言う。
「こいつらの携帯と積んである端末は全て回収しましょう」
クキが皆に指示をする。
「聞いた通りだ! とにかく集めて離脱する!」
「「「「「「了解」」」」」」
みんながファーマ―社のデーターを拾い集め、車から離れたところで俺が言う。
「後ろのゾンビ化タンクごと焼き払う。皆は離れてくれ」
そして皆が俺から離れる。
「フレイムソード」
大きな火炎が車とファーマ―社のゾンビ化人間を包み込んで焼いた。跡形もなく消え去ったのを確認し、俺達はその場所から離れる。
そして近くのビルに入り、俺達は一つの部屋に入り込んだ。集めたファーマ―社の端末やスマホを並べ、オオモリがひとつひとつ開いてチェックし始めた。その間も俺達は話し合う。
「あの一台だけか?」
「とは限らんだろう。この都市は大きいからな、少なくとももう一台はどこかにいそうだ。もしくは本部があるかもしれん」
「そいつが見つかると良いんだがな」
クキとタケルが話をしているところで、オオモリがあっさりという。
「本部を確認しました。今地図に反映させます」
「…お前…凄すぎるな」
タケルが感心している。オオモリが開いた地図には、その位置が記されていた。
「信じられない」
「神を冒涜しているわ」
俺がミオに聞く。
「どこにいるんだ?」
「ベルリン大聖堂。大きな教会よ」
「すぐに行こう」
そして俺達はビルを出て、ゾンビを倒しながら大通りを進んでいく。ニ十分ほどでベルリン大聖堂が見える場所に到着した。ベルリン大聖堂は、とても立派な歴史を感じる建物だった。至る所に銅像が置かれており、壁にも彫刻が施されている。
「こんなところに隠れてるとはな」
「なるほど。内部には人間が潜んでいるようだ」
俺達は離れた建物から道向かいにそこを見ている。
「銃を持った人間がウロウロしてるな」
クキが言う。
「どんな奴らだ」
「まあ…あの佇まいはプロだな」
「ならば、暗がりがら忍び寄って全てを仕留めよう」
皆が頷いた。そしてクキが皆に言う。
「訓練通りに」
俺達は暗がりに潜み、ベルリン大聖堂に近づいて行くのだった。




