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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第372話 旅客機での不穏な空気

 オオモリの機転で高級ホテルを満喫した俺達は、宿の送迎サービスとやらを使って空港まで送られる。高級ホテルのバスという事もあってか、どこかで止められる事も無く、直通で空港の入り口まで入る事が出来た。


 俺達は空港のエントランスの椅子にそれぞれ腰かけ、オオモリがノートパソコンをひらいて何かを操作しだす。電波を飛ばす事が出来るように改造しているらしく、この空港の電子機器に接続するのだと聞いていた。


 俺の隣りには売店で買った新聞を広げるクロサキがいて、まるで独り言のように話をする。


「まるで、スパイ映画です」


「俺は最初、あれは全て本当の話だと思っていた」


「まあ私も公安機動捜査隊ですし、潜入もしていましたから遠くは無いですが、現実と映画は違うものです。ところが、今やっている事は全て本当に映画のようです」


「ならば、俺達は主人公という事になるな」


「そうですね。そしてその中心人物は間違いなくあなたです」


「さてな。俺自身にそんな自覚は無い」


「みんながそう思ってますよ」


 俺はこの世界の人間ではない。言ってみれば脇役のような者だと思っていたが、皆からはそう見えているらしい。この世界の右も左もわからない俺を、皆がいろいろ教えてくれて誘導してくれているだけなのにだ。


 ブー。


 俺とクロサキ、仲間達のスマートフォンが震え、手に取って皆が覗き込んでいる。この空港には他の一般人も大量にいるが、だれも俺達が仲間同士だとは気が付いていないようだ。


「準備が出来たみたいですね。カウンターに行ってチケットをもらうみたいです」


「わかった。俺は分からないからクロサキが先に」


「はい」


 カウンターに行くと皆が一般の客に混ざって並んでいた。こう見てみると違和感はなく、皆が旅行者のようにしか見えない。カウンターに行って何かをもらっているようだ。


 そしてクロサキの番になる。身分証明をみせてチケットをもらっているが、金を払っている様子はない。オオモリが既に入金済みにすると言っていたので、金を払う必要は無いようだ。俺がクロサキと同じようにすると、同じようにチケットを渡され急いでクロサキについて行く。


「ここまではスムーズです。あとは金属探知機ですね…」


「もしだめなら?」


「飛行機に乗れません」


 俺達が並んでいる先の方に、仲間で一番最初にゲートに入るオオモリとミオが見えた。間もなく探知機のゲートを通るようだ。俺達はその一瞬を手に汗握って見ている。恐らくはほかの仲間も同じ心境だろう。だがそれは杞憂に終わり、オオモリもミオも問題なくゲートをくぐった。


「大丈夫なようですね」


「そのようだ」


 そしてその後に続いたのはクキとマナだった。それも何事もなく通過し、次にミナミが一人で通過、タケルとツバサも問題なく通過していく。


「問題ないようです。まもなく私達の番です」


「ああ」


 俺とクロサキは知り合いというていで、一緒に通る予定になっている。俺の前のクロサキがゲートを通るが、何も問題なく通過した。振り向いて俺を待つようにし、最後の俺が通り抜ける。


ビー!


「ん?」


 すると係員が俺に何かを尋ねて来た。だが言葉が分からず何を言っているのかさっぱりわからない。困った俺は遠くにいるオオモリを見るが、なにか焦って身振り手振りで伝えようとしていた。


 どうする…。


 するとクロサキが係員に何かを説明した。俺はどうする事も出来ずに、ただそこに立ち尽くしている。何をしたらいいのか全く分からない。


 するとクロサキが係員に何かを話しつつ、俺の上着のポケットに手を入れる。するとそこから見たことのない金属の小さな箱のようなものが出て来た。


 いや…俺はこんなものを入れた覚えはない。


「黙って従ってくださいね」


 クロサキが言う。そしてクロサキがその金属の箱を係員に見せた。何か話し合っていると、オオモリが手で小さく丸を作っている。どうやら何かが上手くいったらしい。


 そしてクロサキが俺に言う。


「あなたもドジね。ライターはダメなのよ」


「ん? あ…ああ」


「これは没収だって。もう一度ゲートをくぐらなくちゃいけないわ」


「わかった」


 俺は一旦戻されて、再度ゲートをくぐらされる。すると今度は何事もなく通り過ぎる事が出来、係員が先に進むように言っている。そのままクロサキと一緒に先に進んだ。


「あぶなかったです」


「ライターなど入れた覚えはない」


「あれは私が咄嗟に入っているふりをしました。ホテルで手に入れたライターです」


「そうだったのか」


「あと、恋人は煙草を吸うので、ライターではないかと説明しています」


「な、なるほど」


「行きましょう」


 クロサキの機転で俺は無事に飛行機に乗り込むことが出来た。これがミオだったら、こんな機転を利かせる事が出来なかっただろう。万が一の為に、俺とクロサキをペアにすると言ったクキの言葉が今分かった。それぞれが自分の席に座り、俺の隣りにはクロサキが座る。


「ふう…。緊張しますね…」


「そうだな」


 席に着いてしばらく待っていると機内の放送がなり、クロサキが俺の腰回りにベルトをかけ、自分のベルトもかけると飛行機がゆっくりと動き出す。


「飛びます」


「そうか」


 そして体に圧がかかり、飛行機が地面を離れて浮かび上がった。俺達は無事にベルリン行きの飛行機に乗る事が出来たのだ。少し経つと、クロサキが俺のベルトを外して自分も外した。


「みんなも乗れましたし、ここまでは順調で良かったです」


「ゲートで引っかかったのはどういう訳だ?」


「たぶん大森さんの機械トラブルかと。焦っていましたし」


「なるほどな」


 すると今度は制服を着た女性がきた。クロサキが話をして、目の前のテーブルを出しそこに料理が乗せられる。


「機内食です」


「食っていいのか」


「はい」


 俺とクロサキが運ばれた料理を食べ始める。そしてそれを食べ終わった頃に、俺達の席にオオモリがやってきた。


「ヒカルさん。すみませんでした。システムのエラーでひっかかっちゃいました」


「通れたのだから問題ない」


「九鬼さんに叱られちゃいまして」


「なんて?」


「高級ホテルに泊まるくらいスムーズにやるべきだと。いつも真剣にやれと…。でも僕は真剣にやってるんです」


「気にするな。それがクキの仕事だ」


「ヒカルさんに言われると助かります」


「ああ。あまり長話もおかしい、早く席に戻れ」


「はい」


 機内の客たちは映画を見たり、寝たりと様々だった。俺達の仲間だけが寝る事は無く、新聞を見たり外を眺めたりしている。きっと不安でそれどころではないのだろう。二人だけ、クキは帽子を深々とかぶって寝ているように見える。タケルは大口を開けて本格的に寝ているようだ。


 すると機内に放送が流れた。


 それを聞いて、クロサキが慌てて俺に言った。


「ヒカルさん! この飛行機もしかしたら! ベルリン空港に行かないかもしれません! いま機内放送で言いました」


「なんと?」


「ベルリン空港付近で、暴徒が暴れているらしいです」


「…ゾンビだろうか」


「その可能性が高いかと思います」


 空を飛んでいる俺達にはどうする事も出来ないような出来事に、仲間達も慌てた顔をしていた。タケルだけが隣に座ったツバサに小突かれて起きた所だ。アイツは恐らく大物になる。


「どうなる?」


「情報が未確定で、決まり次第近くの空港に降りるそうです」


「そのまま行ってゾンビを制圧したいが」


「次の放送を待ちましょう」


 他の乗客たちも騒ぎ始めており、機内はただならぬ雰囲気に包まれるのだった。

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