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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第364話 寄せる思い

 俺達は自衛隊に緊急で呼ばれ、衛星の映像を見せられていた。カブラギの説明を受けて画面を見ているが、確かにマズい状況になっていると分かる。前に確認した時よりも、ゾンビの被害にあっている範囲が広がっているのだ。それだけではなく、また数か所でゾンビが繁殖しつつある場所を発見する。


 それを見てヤマザキが言った。


「こりゃあ大変だ…」


 カブラギが答える。


「思いの外、パンデミックのスピードが速いんです」


 ここには、状況判断の為にタカシマとミシェルも呼ばれていた。


「高島教授はどう見ます?」


「これは、従来のゾンビ因子とは違う型の可能性が高い」


「違う型ですか?」


「恐らくだが…変異させたか、もしくは強化したかもしれん」


「変異に、強化ですか…」


 そしてミシェルが答える。


「試験体や人間をすぐゾンビに変異させる型も作っていたので、もちろんハイブリッドの物を作っている可能性は高いです。さらに進化させた型になっているかもしれないと言う話です」


「うむ。ミシェルの言うとおり。もしかするとファーマ―社も手に負えなくなっている可能性が高い」


 タカシマとミシェルが深刻な顔をしていた。俺が聞く。


「もしそうだとしたら想定される状況を教えてくれ」


「そんなもの分かりきっておるよ。世界が壊滅するまでの時間が極端に短くなったという事だ」


「想定される期間は?」


「そうさなあ…ファーマ―社を止めねば、もって半年、速ければ三カ月と言ったところか…。結局アイツらがやめなければ、加速度的に被害は広がるという事さ。世に放たれたゾンビ因子は、自己増殖して勝手に変異していっていると知らんのだ」


 確かに、誰が考えてもそうとしか考えられないだろう。驚異の前に悠長な事をやっている時間は無いという事だ。そしてクキがカブラギに言う。


「作戦を早めるしかあるまい」


「ですが、半年でも準備期間としては短いんですよ?」


 カブラギの言葉はもっともだが、俺がクキに賛成する。


「未来が消える。その前に食い止めよう、ファーマ―社を壊滅させなければ俺達の未来はない。世界を救うなんておこがましい事は考えちゃいないが、このまま世界が壊滅すれば間違いなく人類は滅亡するんじゃないか?」


「そのとおり」


 タカシマの言葉に皆が沈黙した。準備はしてきたつもりだが、いざ作戦を早めるとなると命の危険性が高まる。だが悠長なことは言ってられず、今立ち上がらないと世界が終わる。


 するとタケルが言った。


「準備なんてとっくに出来てらあ! ユリナの予想した通りに、ドイツのファーマ―社基地を押さえて首根っこを掴むしかねえって」


「そうね。私ももう準備は出来ていると思う」


「みんなの協力のおかげでな」


 クキがカブラギに言う。


「って訳だ。いずれにせよ、大陸までは自衛隊の潜水艦で連れて行ってもらわにゃならん」


「現状の準備は約四十パーセントと言ったところですが、急ピッチで進めましょう。二週間後の…」


 カブラギの言葉を遮ってクキが言う。


「いやいや。来週だな」


「ら、来週ですか?」


「あと三カ月って言ってんのに、二週間も待ってたらもっと危なくなる」


「わかりました。では急ピッチで進めます」


「よろしく頼む」


 そして話し合いが終わり、タカシマとミシェルを連れて皆の待っている部屋へと行く。皆が食堂で待っていて、俺達が入っていくとマナが聞いて来た。


「どんな感じ?」


「思ったより深刻だ。作戦を前倒しで進める事になった」


「そう…」


 すると日本待機組のユミがタケルに言う。


「あんたがみんなを守んなさいよ! ヒカルが戦っている時に、皆の安全を確保する使命があるんだからね!」


「分かってるよ。任せろ」


「じゃあ、行く前に盛大に見送りパーティーしなくちゃ!」


「そりゃ楽しみだぜ! ヒカルも集めた酒飲んじゃえよ」


「だな」


「で、いつ出発?」


「来週だ」


 それを聞いて、ユミもリコもユンもアオイも顔を見合わせる。


「早いじゃない!」


「それだけ緊急なんだ」


「こうしちゃいられない! 直ぐにお見送りの会の準備をするわよ」


「「「はい」」」


 そうして皆が準備を始めるのだった。その夜になり、急ごしらえの豪勢な料理と酒で宴を行った。誰一人として悲観的な話はせずに、未来の幸せな展望を話している。見送られるならばその方が良い、明日からは潜入の為の準備で皆が必死に動くだろう。その宴は夜まで続いて楽しい雰囲気で終わる。


 タケルが俺に言った。


「はあ。これで思い残すことはねえ」


「何を言っている。また帰ってきてやればいい」


「そうだな。そうだった! この楽しい時間を過ごすために、絶対に帰って来なきゃならねえ」


「そういうことだ。今日はもうユミの側にいろ」


「…だな。悪いけどそうさせてもらうわ」


 そう言ってタケルはユミが待つ部屋へと向かった。俺が一人で自分の部屋に向かうと、部屋の前に、ミオ、ミナミ、ツバサ、マナの潜入部隊組が待っていた。


「どうした?」


「明日からは大変になりそうだし、もう少し一緒に飲もうと思って」


 そう言って四人は俺に酒とグラスを見せる。


「よし。なら付き合おう」


「話がわかるぅ!」


 そして俺が部屋に入ると、四人が後に続いて入って来た。


「さあ、ヒカル。飲んで」


 ミオが酒を注いでくれる。皆も軽く酒を飲んでいるようだが、酔っているようで顔が赤い。


「美味い」


「でしょぉ? 美女につがれる酒は美味しいのよぉ?」


 すると今度はミナミが俺のグラスに酒を注ぐ。


「ほら。どうせ酔わないんだからどうぞぉ!」


「ああ」


 そして俺がすぐにグラスを空けると、マナとツバサが次々に俺のグラスについで来た。だがそれらもすぐに飲み干す。そしてそれを見たマナが言う。


「はああ、やっぱかっこいいわあ。ほれぼれする」


「なにがだ」


「酒の強い男はモテるのよ」


「そうなのか?」


「そうよ」


 そしてミナミが言った。


「酒も強いし、喧嘩も強い、精神も強いし、体も強い。ねえ…ヒカルに弱点はないの?」


 弱点…?


「俺は攻撃特化で、回復魔法があまり得意ではない。それでも徐々にタケルの手を数ヵ月もかけて治した。あとは…」


「そういうんじゃなくてぇ!」


「ん?」


 なんだ? 何かあるか? いや…そう言えばタケルに言われた事があるな…。


「あとは?」


「タケルに言われたんだが鈍いらしい。気配感知や思考加速で、そんなことは無いと思うんだが…」


 だが女達が声を合わせて言う。


「「「「にぶーい!」」」」


「に、鈍いか?」


 するとマナが他の三人に向かって言う。酔っぱらっていて上機嫌なようだ。


「ヒカルが好きなひ…」


「「「はい!」」」


「と…。ちょっと食い気味に言わないでよ!」


「だってえ」


 皆は酔いながらも、俺を見て言う。


「武になにか言われなかったあ?」


 言われた。思いを寄せている人を全員幸せにしてやれと。俺は改めて、この四人の顔を見る。


 そうか…。


 だがなんと聞いて良いかも答えていいかも思いつかない。


「なに黙っちゃってんのぉ…」


「いや。なんと言っていいのか、みんなはそれで嫌じゃないのかとか、その…」


 そこでミオが言う。


「そーろそろ聞かせてもらおうかなあ…」


 俺はドキッとする。


「なにをだ?」


「前世で心に決めてた人がいるんでしょ?」


 図星だった。


 エリス…。俺が前世で所帯を持とうとした女がいた。しかしその思いをしっかり伝えたかと言えば、自分でも良く思い出せなかった。


「やっぱそうなんだ」


「えっ?」


「顔に書いてある」


「いや…」


「みんなでそう思ってたんだよね」


「……」


 するとミオが言った。


「ねえ…、ヒカルが覚えている前世の仲間の事を聞かせて。そして好きだった人の事も、ぜーんぶ聞きたい。私達はいーっぱい話したと思うけど、ヒカルのそう言う話は聞いた事が無い」


 確かに話した記憶は無かった。この世界の人間に、前世の記憶を話して聞かせても意味がないと思っていたから。だがミオ、ミナミ、ツバサ、マナが俺の手を取って言う。


「「「「お願い」」」」


 俺もわざと話さなかったわけではない。話したくても話して良いのか分からなかった。


「聞いてくれるのならば…」


「「「「聞きたーい!」」」」


「いいのか?」


「だから聞かせてって!」


「分かった」


 そしてその夜。俺は前世の冒険譚と仲間達との思い出、そしてエリスに対する思いを語ったのだった。四人は真剣に耳を傾けて、時には微笑みかけ、時には聞き返しながら全部聞いてくれた。それを話したことで、俺の心はほぐれていくような感覚になっていく。


 そしてツバサが言う。


「スッゴイいい仲間だったんだね…」


「ああ」


 すると四人が言う。


「今度の作戦はまさに冒険になりそうね」

「うちらが、レインやエルヴィンやエリスの代わりになるか分からないけど、それでもヒカルを助けると誓う」

「ヒカルの心が強いのは知ってるけど、私達の事も頼ってほしい」

「だから、ヒカルは私達を信じてね」


「もちろんだ」


 少しの沈黙があって、ミオが言った。


「それが伝えたかったの」


 外が次第に明るくなってくるのが分かる。どうやら夜明けを迎えてしまったようだ。


「今からバラバラに部屋に帰って寝たら起きれなくなりそうだから、ここでヒカルと一緒に仮眠しよ!」


「「「さんせーい」」」


「一緒に?」


「ダメなの?」


「わかった。じゃあ一緒に眠るとしよう」


 俺が横になると、四人は寄り添うようにして横になった。間もなくして四人の寝息が聞こえ始める。何か満足したような表情で、俺も仲間の思い出を話して良かったと思うのだった。


 俺が目をつぶると、エリスが笑って手を振っている。


 ルヒカル。幸せになってね…


 そう言ったような気がした。

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