第363話 シークレットウエポン
面白い籠手を発明したリコとオオモリは、その感想を聞きたいようで目をらんらんと輝かせている。皆がしばらくその籠手を黙って見ているので、待ち切れずにリコがタケルに聞いた。
「あの…どう?」
「これは使えるんじゃねえか!」
「そう!?」
だがクキが冷静に言う。
「確かに良いとは思うが、金属探知機に引っかかるな」
それを聞いたオオモリがにんまりと笑って言う。
「実は! これにも僕の作ったAIを仕込んでます。周辺機器のジャミングも可能にしていますが、一度それも試す必要があります」
クキが唖然とした顔で言った。
「まったく、お前の脳みそはどうなってんだよ」
「僕ですか? いたって普通だと思いますけど」
「そんなわけない」
そしてリコが言う。
「他にも機能があるの」
タケルの籠手をピピッと触ると、シュッと何かが飛び出して壁にくっついた。壁からタケルの腕まで、鉄製のワイヤーが伸びている。タケルが不思議そうに聞いた。
「これは?」
「タングステンワイヤーよ。高いところに侵入するのに必要でしょ? じゃないと、常にヒカルの手を煩わせる事になるじゃない?」
「ほう! ほう!」
ピピッ!
するとタケルが訳も分からずパネルを触る。その時リコとオオモリが慌てて言った。
「「ダメ!」」
「おわ!」
シュッ! とタケルの体が引っ張られて、壁に激突してしまった。
「痛ってえ!」
「勝手に触らないでよ」
「いや、先に言ってくれ」
「あなたが頑丈で良かったわ」
それを見ていたクキが言う。
「まさかとは思うが、俺の分もあるって事か?」
「あたりです」
「こんな危ないものが?」
「念のため言っておきますけど、パネルガードを降ろせば銃弾もはじきますよ」
「ははは…まったくおもしれえな」
タケルが壁からワイヤーを外すと、スルスルと自動で巻き戻って籠手に収納される。
「自動収納かよ」
「そうよ」
タケルは、まじまじと籠手を見ている。だが凝りもせずに、また勝手に籠手を触り出した。それを見たオオモリが言う。
「あ、だからダメだって!」
プシュッ! 籠手の先から、何かがタケルの顔にかかった。するとタケルはこちらを向いてニコッと笑い、次の瞬間ドサリと倒れた。
「あーあー。動物用の麻酔ですよ」
俺とクキが呆れてタケルの所に行き、顔を覗き込むと白目をむいて寝ていた。ミオもそこに来て言っう。
「由美に怒られちゃうわよ。大森君」
「いや。今のは僕のせいでは…、ねえ凛子さん!」
「知らない。大森君が全部の機能を説明しないから」
「だって! 勝手に触ったのは武さんですよ!」
そこで俺が言う。
「大丈夫だ。このくらいなら俺の回復魔法でなんとかなる」
俺はタケルに向けて回復魔法をかけた。すると白目がぐるりと回って黒目が出て来る。
「な、なにがあった?」
「動物用の麻酔で気絶してた」
タケルがスッと起き上がるが、フラフラと俺にしがみついて来た。
「なんだあ…くらくらすっぞ」
それを聞いたツバサが言う。
「ゴ〇ウじゃないんだから…」
クキが苦笑しながら言う。
「動物用の麻酔なら、数時間はまともにならんだろう」
「くっそ、大森ぃ…てめえ…わざとだろ」
「な、なにいってんすか! 武さんが勝手にやったんでしょ!」
「後でじっくりお話し合いだ」
「そんなあ」
そこで俺が言った。
「タケル。まあそう言ってやるな、これはみんなの生存率を高めるために、オオモリたちが必死に考えたことだ。むしろ今、この機能が分かって良かっただろ」
「わかってるって! 冗談だよ! おりゃ大森に礼を言おうと思っただけだ」
「なんだ、そうか」
一連の流れを見てミナミが言う。
「凛子さん。なんで武と九鬼さんだけ?」
それを聞いて凛子が答える。
「じゃあ南がつけてみる?」
「もちろん」
リコがもう一つの籠手を取り、そこにミナミが腕を突っ込んだ。シュッと籠手が締まり、ミナミの腕にフィットする。そしてリコが手を放すとミナミが言った。
「重!」
「そう。機能が多すぎて重くなっちゃった。恐らくこれじゃ南ちゃんは剣を振れない」
「確かにそうね」
するとそれを聞いていたマナも言う。
「じゃあ、私は絶対無理だ」
「だと思う」
そこで俺が聞いた。
「なぜ俺のは無い?」
「えっ? ヒカルは必要?」
「もちろん体は身体強化でどうにかなるが、あったらあったで使えるだろう」
「わかった。じゃあ予備も含めて、あと三個ほど作っておくわ」
それを聞いていたタケルが言った。
「右だけじゃなくて、左用も作ってくれよ。両方につけたいし、脛あても作ってもらいたい」
「脛あてね。分かったわ」
するとミオが言う。
「軽量化は出来そう?」
「うーん。防御力を無視してシリコンとかで作ればだけど、耐久性が著しく悪くなってしまうわ。直ぐに壊れるから使い物にならないかもしれない」
「そっかあ…」
「でも何か、他の装備を検討してみるわ」
それを聞いてツバサが言った。
「なんか! 本当にスパイ映画みたいになってきたわね! 秘密道具を身に着けて海外に進入なんて、なんかとっても刺激的」
「ああそうそう! なんかスパイ映画見てたらシークレットウエポンとか出てくるじゃない? それで作ってみようって事になったの!」
「それで作れちゃうんだからすごいわよ。凛子さん」
「半分以上、大森君のおかげだけど」
「いやいや。僕はアプリケーションと制御だけなんで、そのコントロールパネルだってスマホを改造したものだし。精密機器の部分は全部、凛子さんですから」
するとクキが言う。
「銃弾は仕込めるか?」
「うーん。外部に銃を取り付けるようになると思います。袖の広い服を着てもらって、スライドで出す形になりますね」
「それでいい。拳銃を仕込める機能をつけてくれ」
「わかりました」
「そしてそれも、ジャミングで隠してほしい」
クキの言葉にオオモリが頷いた。
「わかりました。調整します」
そして俺が言う。
「そこにゾンビ破壊薬もし込めた方が良いだろう。試験体が出た時に、二人でも対応できるようにな」
「分かった。それも検討するわ」
皆から次々に改良案が出て、結局は全員分の装備を作る事になった。俺の知らないところで、リコが進化していたことに驚いた。俺がこの世界に来てから、架空の話だと見せられていたDVDの世界が、思考加速により少しずつ現実化していく。
するとマナが言った。
「日本のCIAってところかしらね? 私達」
「確かにな」
そしてミオが言う。
「映画さながらで、だんだん実感がわいて来た。本当に行くんだね私達」
それに俺が答える。
「ああ。何としても世界が滅ぶのを防がねばならん。でなければ、皆で楽しい未来を生きる事が出来ない」
俺の言葉に皆が頷くのだった。




