第33話 新しい仲間
玄米とやらが焚きあがり、この家にあった皿に盛りつけて皆に配っていく。そしてヤマザキが説明をしはじめた。
「まあ九人いるからな、そんなにいっぱい食えないかもしれないが、もう一回焚いているから夜までにはもう一度食える。翼はどうだ?」
するとミオが答える。
「私が食べさせるわ」
「翼のはすりつぶしてあるから、食べやすいとは思うが」
そしてミオがツバサを起こすと、うっすらと目を開けて俺達を見た。
「ごめんね。少しは良くなってきたけど、あんまり食欲もなくて」
それに対して俺が言った。
「少し回復はしたと思うが、食わないと戻らないんだ。俺の力は万能じゃないからな」
「ううん。ありがとう、ヒカルのおかげでだいぶ楽になったよ」
「ならいいんだ。とにかくゆっくりでいいから食ってくれ」
「わかった。なんか最初に会った時きつく言ってごめんね。そして命の恩人だね」
「それほどの事でもないさ」
俺の回復魔法のレベルは低く、何かを食べられるようにさせるくらいが限界だ。怪我の傷や火傷ならすぐに治す事が出来るが、体力回復や病気に対してはそうそう効力はなかった。
「さあ、ヒカルも食え」
ヤマザキがそう言って俺のコメにサラサラと塩を振った。そしてユリナが匙をくれたので、俺は椀からコメをすくって口に入れてみた。
「よく噛んでみてくれ」
俺はコクリと頷いて、焚かれたコメをよく噛んでみる。
「美味いな」
「そうか! そりゃよかった」
そう言うと、ヤマザキは満足そうに自分の椀からコメを食った。
「若干ぼそぼそだけどな。栄養価は白米よりある」
俺は皆の手元を見て少し違和感を覚えた。全員が棒二本で器用にコメを食っているのだ。なぜか、わざわざ食べにくそうな物を使って食べている。
「その棒は何だ?」
俺は隣で食ってるマナに聞いてみる。
「あ、これ? 箸よ」
「ハシ?」
「そうか、外国の人だもんね箸は使わないか」
皆が器用にそれで食っているのを見ているうちに、なんとなく俺もやりたくなってきた。
「俺もそれで食ってみたい」
「あ、いいよ。まだ箸あったから持ってくる」
そしてマナが俺の為にハシを持って来てくれた。俺は見よう見まねで、ハシを持ってコメを食ってみることにする。
「あれ? ちがうな、こうか? 」
なかなかうまくコメがつかめなかった。皆がかなり器用にやっているというのに、自分が出来ないというのはまずい。この国で生きていくなら、この国の習わしを知っておきたいものだ。するとマナが俺の手に手を添えて教えてくれた。
「こうだよ。中指をここに添えて、そしてこうやって広げてちょっとご飯をつまんで」
マナが言うようにやったらうまい具合にコメが食えた。匙の方が食べやすいが、皆と同じことをする事に俺は喜びを感じていた。なにかレインやエルヴィンやエリスと冒険していた頃を思い出す。魔獣を捌いては、あーでもないこーでもないと言いつつ美味い食い方を探っていた。
「ふっ」
「あ、ヒカル笑った!」
「えっ?」
マナが俺の顔を見て笑っている。よく考えたら俺はこの世界に来て笑っていなかったのかもしれない。ただ必死に人を探し助け、そしてゾンビを駆逐し盗賊と戦った。ゆっくりと皆で飯を食うなど、初めての事じゃないか。
するとタケルが言った。
「なんだよ。マナ今ごろ気づいたのか、ヒカルは結構表情あるぜ」
「そうなんだ」
「俺は二人で食糧探しをしたからな、と言うか普通に人間だった」
なるほど。タケルは俺の事を人間じゃないと思っていたのか。皆と見た目が違うしな、この世界の人間はみな髪が黒か茶色っぽい。俺は金だからきっと違う種族だと思っていたのだろう。
「なんだタケル。俺は人間だぞ、ちゃんと母親から生まれたんだ」
「わかってるって、すっげえ力使うから人造人間だと思ってたんだよ」
「ジンゾーニンゲン?」
「なんつーか、軍の試験で作られたサイボーグだと思ってた。てか皆もそう思ってただろ?」
「まあ…そうだな」
「そうね」
「あんな力を見たらね」
ヤマザキとマナとユリナが言った。すると奥でツバサにご飯を食べさせているミオが、今の話を聞いて言う。
「あら、私は最初っから外国の人だと思っていたわ。軍で特殊訓練を受けた人なのかなと思ってたけど、人造人間だとは思わなかったわよ」
「そういえば、一番ヒカルと話をしていたもんな」
「というか、数日でこんな流暢に日本語を話せるなんて、すっごく頭がいい人なんだなって思ったけど」
ミオがそう言うと、ツバサが笑って言う。
「ミオは人見知りなのに、ヒカルとはすぐ話をしたんだ?」
「…そう言えばそう。私なんの抵抗も無くヒカルと話をしてたわ」
「俺も話し易かったからな」
「なんかうれしい」
皆が俺の事を中心に話をしてくれている。どうやら俺はかなり珍しい部類になるらしい。だがそれはそうかもしれない、彼らは魔法も使えず気を錬る事も出来ないのだから。俺のような存在は見たことが無いのかもしれない。俺は逆に質問してみることにした。
「俺からも聞きたいんだがいいか?」
「ああ、いいぜ」
「普通の生活をしている場所はないのか?」
すると皆が沈黙をして、ヤマザキがそれに答えた。
「恐らくゾンビは全土に広がっていると思う。と言うよりもそれを確かめるすべは無くなってしまったんだ。電気は止まり通信が出来なくなって、周辺で何が起きているのか分からない」
「デンキ? ツウシン?」
するとタケルが言う。
「なんかちょいちょい分からないみたいだけど、車にも驚いていたしビルにも驚いていたしな。だから俺達は、数日前にカプセルか何かから出て来た人造人間だと思っていたんだよ」
「カプセル? が何かわからないが、俺がこの国に来たのはほんの数日前だ。それは間違っていないと思う。もしかするとだが、この『世界』と行った方が正しいのかもしれない」
すると皆が一斉にこっちを見た。俺は何かおかしい事を言ったのだろうか?
「ちょっといいかな?」
ヤマザキが改めて聞いて来る。
「なんだ?」
「もしかしたら…いや、まさかだがヒカルは未来から来たんじゃないのか?」
「ミライ?」
「何年も後の世界から来たんじゃないかって」
どう言う事だ? ほんの数十秒だけ時を止める魔法なら聞いた事はあるが、過去に行く魔法は聞いた事がない。過去を覗く魔法の間違いじゃないだろうか? だが俺にはそれすらもわからなかった。何故ならば自分がこの世界に来た原理を全く知らないからだ。
「わからない」
「そうか。もしかしたら車輪のついた車を初めて見たとか、コンクリートで出来たビルを見た事が無いとか、未来から来たんじゃないかって思っただけだ。つまらんことを聞いた」
ヤマザキの言葉で一つだけ気づいた事がある。
「恐らく、君達の文明の方が進んでいると思う。馬も無しに動く車とか、神をも恐れぬあのような高い塔を作れるんだからな。あれは俺の世界には無かったものだ」
「…えっと…」
ユリナがちょっとだけ手をあげる。俺に聞きたいことがあるようだ。
「なんだ?」
「ヒカルは銃も包丁も、殴るか斬るかで戦っているよね? もしかしたら主要な武器ってあるの?」
「ああ、俺は剣で戦うんだ。短剣も使うが、もっぱら剣を使う」
「それはどういうの?」
「包丁より鍛えられていてな、長さは俺の背丈ほどあるものもある」
するとユリナが皆に説明をする。
「おそらくヒカルは、刀で戦う時代から来てるのかもしれない。もしくは過去の中世ヨーロッパ? でもまるで神話のような力をふるうから、そうじゃないのかもしれないけど」
「私もそんな風に感じるのよね」
ユリナにミオが賛同した。もしかしたらこの世界にも、俺が住んでいた世界と似ている場所があったのかもしれない。俺はユリナに聞いてみる。
「剣は手に入らないだろうか?」
「うーん。博物館とかに行けばあるのかな?」
するとヤマザキが言う。
「日本刀なら、地方の博物館にも置いてあるかもしれないぞ」
するとミナミが言った。
「なら、隣街の博物館で見た事あるよ」
剣があればゾンビなど敵にもならないのだが…
「まあ剣があるなら、もう少しましな働きが出来るってだけだ」
すると皆が驚いた顔で俺を見る。そしてヤマザキが言った。
「もう少しましって…ここまで十分以上にやってもらったよ」
ミオや他の連中も言う。
「私達が助かってここにいるのはヒカルのおかげよ」
「だが空港で仲間を救えなかった」
「あんな大量にゾンビが居たら無理だよ…悪いのはアイツらだ…」
タケルが途中で言葉を止め、そしてもう一度口を開いた。
「てかヒカル。あの空港のゾンビも刀があれば何とかなったって事なのか?」
「まあ、なまくらで無ければな」
「マジか…」
皆のハシが止まっている。皆が何かを考えているようだ。するとヤマザキが言った。
「南、博物館の場所は分かるか?」
「もちろん。だけど、街を通ればアイツらに見つかっちゃうかもしれない」
「…そうだな。とにかく考えようじゃないか」
どうやら俺の武器を皆で探しに行ってくれるようだ。だが俺はそれよりも皆の回復の方が優先だと思う。皆の安全が確保できる場所を探して、俺は食糧探しを優先すべきだと感じていた。こんな危うい世界で生きて来た彼らを、俺は守らなければならない。
そう思うのだった。




