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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第336話 初めての魔力欠乏

 俺がVRで見据えていると、次々に人工衛星の軌道が映し出される。夜になってからの富士山頂上は気温が低く、俺の口から洩れる息は白い。風の音と発電機の音が聞こえていたが、精神集中するとそれも聞こえなくなる。


「シュッ」


 短く息を吐いて、俺は体内に魔力を練り上げ始めた。既に冷たい風を感じる事も無く、意識はVRに映し出される赤色の光の星だけを追っている。体内の魔力を更に一段階膨れ上がらせ、巡るその速度を上げていく。


 俺はオオモリが作った電子回路の一つに過ぎないのかもしれない。そう思えるほどに、VRの映像に没頭していくと次第に赤い点が、なにかの機械に見えて来た。筒状の箱にガラスのような板がついた、蜻蛉のような形の機械が星空を漂っている。


「魔力第一解放」


 ドン! という音と共に、俺を中心に大きく揺れた。俺の体内で駆け巡っていた魔力が、俺の体の周りに出て回り始める。周りの石がふわりと浮かび上がり始め、それが回る魔力に触れた瞬間に塵と化した。俺にその音は聞こえていないが、恐らく近くに人がいたら獰猛な暴風が吹き荒れているように聞こえるだろう。


 俺が更に精神を研ぎ澄ませていくと、星空を飛ぶ蜻蛉のような機械の動きがゆっくりに感じてくる。


「魔力第二解放」


 ズドン!


 この段階で、裾野にいる仲間達にも俺の魔力が見えているだろう。恐らく富士山頂上に、怪しく光る光が渦巻くように絡みついているはずだ。これを地上でやっていれば、周辺の建物は影も形も無くなってしまっただろう。


 俺は自然と一体になり、全ての力を開放する一つ前の段階に入っている。既に富士山頂は生物が存在できる環境に無く、破壊の嵐が吹き荒れるばかりだった。とことんまで魔力を練り上げていくと、その暴威は俺と平行に大きく広がっていった。


「魔力全開放!」


 シン…。


 魔力を開放した瞬間に、あたりは静寂に包まれた。魔力の暴風が止み、あたりは音一つない静かな世界になる。夜空には青紫のヴェールが広がり、幻想的な空間がそこに生まれるのだった。


 心配なのはこの状態で通信が繋がるかどうかだが…。


「オオモリ」


 ザ、ザザッ。


「だめか?」


「ザッ、ルさん。ヒカルさん?」


「おお、聞こえる」


「どうなってます?」


「あたりはつるりとしてしまった」


「通信機器を地下に埋めて正解でしたね」


「そのようだ」


「それにしても…すっごく美しいですよ。富士山は輝いているし、空にははっきりとオーロラが浮かび上がっています」


 空のヴェールの事か。


「この空間は全て支配した」


「言っている意味は分かりませんが、凄いです。でも不思議なのが、肉眼では見えるんですけど、カメラや機器には何も映ってないんですよね」


「そうなのか」


 すると無線の向こうで人が変わる。


「カブラギです」


「ああ」

 

「レーダーにも何も映ってません。一体どうなってるんですかね?」


「さあな。その関係性は俺にも分からん」


「わかりました。では続けてください」


 そしてオオモリに変わる。


「ここから僕が言うことは何もありません」


「わかった。ならば赤の奴を墜とす」


「はい」


 俺が集中をすると、円筒にガラスの板が付いているような機械が見えて来る。それらはまるで止まっているように見え、俺は自分の空間支配魔法と次元魔法が正常に働いている事を確認する。


 既に俺と人工衛星との距離は無く、俺は日本刀を頭の上に真っすぐに構えた。最初の標的が目の前にあるので、俺はそれに向かって奥義を繰り出す。


「流星崩斬」


 本来は魔族が使うスキルの流星を全て切り崩す奥義だが、それを人工衛星に向けてふるった。人工衛星は一瞬にしてバラバラになり、空の塵となって粉砕した。


「オオモリ一機やった」


「見えました!」


「どうだ?」


「軍事衛星が一つ消えました。富士山頂から真っすぐに天に向かって光が伸びるのが見えましたよ!」


 興奮気味に伝えて来る。どうやら仲間達からはそう見えているらしい。


「そうか」


「レーダーにも映らないようです」


 なるほど。魔力はレーダーとやらには反応しないらしい。


「日本刀一本で何機撃墜できるか分からんが、次々行くぞ」


「はい。こちらからは以上です」


「了解」


 むしろ次々やらないと、どんどん日本刀に負担がかかってしまう。俺は自分に更に思考加速を施し、目に見えた敵の衛星を全て墜として行くのだった。


 面白いほどにポロポロ落として行くが、五十機ほど切ったところで日本刀に限界が来た。刀が崩壊したので、俺はそれを捨て地下に作った倉庫から一本を取り出す。そしてまた次々に人工衛星を斬り始めた。コツを掴んで来れば、日本刀の負担を減らす事も出来て、一回で二機まとめて墜とす事も出来るようになる。


 そんな事をしているうちに、俺は一つの違和感を感じた。オオモリがシステムで示している以外の、おかしな人工衛星が見えて来たのだ。


「オオモリ」


「はい」


「システムに映らない人工衛星がある」


「は?」


「どういうわけだ?」


「そんなはずはないのです…。全て網羅しているはずです」


「いや。確かにある」


「バグかなあ…。監視衛星では全て掌握したはずなのに…」


 するとオオモリの後ろから声が聞こえる。


「大森。変われ」


「は、はい」


「ヒカル。九鬼だ」


「ああ」


「その衛星をよく見てくれ。どこかに模様か何かが描かれていないか?」


「まて」


 俺はその衛星を隅々まで見た。


「あ!」


「どうした!」


「ファーマ―社の絵が描いてあるぞ!」


「そいつはファーマ―社の衛星だ。恐らくステルス機能を搭載している」


 なら話は早かった。


「いらんな」


 一瞬で粉々になり、ファーマ―社の衛星は落ちていく。それから赤色を墜とし続け、日本刀を換えて行くが、百機に一機の割合でファーマ―社の衛星が混ざっていた。もちろんうち漏らすことなく、全てを落としていくが、日本刀の残りが少なくなってきた。


「オオモリ」


「はい」


「日本刀の残があと二本だ」


「これまでのペースで行くと、ギリギリかもしれませんね」


「もう一つ言うと、魔力の維持もそろそろ難しくなる」


「魔力? ですか?」


「奥義をこんなに長時間発動したことなど無いからな」


「頑張ってください! としか言えません」


「やれるだけやってみる」


 それから俺はギリギリまで、究極の奥義魔法を展開しながら作業を続ける。俺が想定した以上に、ファーマ―社の衛星が余計だった。機械には映らずに、魔力で特定しなければならないからだ。それがより一層魔力を消耗させた。この世界に来て、ここまで魔力を消耗したのは初めてだ。


「ヒカルさん! あと十機!」


「ああ…」


 それから無線の向こうで仲間達が言う。


「九!」

「八!」

「七!」


 それが俺の背中を押す。既に限界を超え、魔力の維持が難しい状況となっている。日本刀への負担も考える事が出来ず、ただひたすら集中して斬るしかなかった。


「三!」

「二!」


「「「「「「「「「「「「「頑張れ!」」」」」」」」」」」」」


「一!」


 バシュゥゥゥゥゥ!


 最後の一個を切り裂いた時、最後の日本刀が砕け散り、俺の空間支配魔法と次元魔法が一気に閉じてしまう。突如体がふらりとして、その場にバタンと寝そべってしまった。一気に感覚が蘇り、あたりの寒さが皮膚を刺した。


「やりましたね! ヒカルさん!」


「ああ…」


「どうしました?」


「動けん。魔力を放出しきってしまった」


「ええ?」


「眠い」


 気が付けばいつのまにか朝になっており、美しい朝日が這いつくばる俺を照らしてくれる。俺は重い体をズリズリと引きずるようにして這い、日本刀を入れていた壕に向かう。鉄の扉が重く、俺はそれを力を振り絞って開いた。やっとドアを開く事が出来て俺は落ちるようにそこに入る。なんとか腕を上げて、その鉄の扉を閉める事が出来た。


「ヒカル!」


「悪いがタケル。寝るぞ」


「壕に入れたのか?」


「ああ…」


 そうして俺はその場で眠ってしまうのだった。

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