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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
332/611

第332話 戦いでは味わえぬ充実感

 いよいよユミの誕生日の日となり、タケルはユミを誘ってバイクで基地を出て行った。もしかしたら大袈裟すぎる指輪で怒られるかもしれないとか言っていたが、確かにユミの性格を考えるとそうなのかもしれん。失敗したらどうしようと、ずっとモヤモヤしていたようだ。


 それよりも俺は他の仲間達にネタバラシをして、祝いの準備をするという事で頭がいっぱいだった。


 まずどうしよう? 


 ユミにバレないようにと俺とタケルだけの秘密にしていたが、いざとなるとどうしていいか分からなくなる。前世ではそんな事を一切した事がないし、この世界に来てからはゾンビと軍隊しか相手してきていない。人の結婚を祝うなんて事はした事が無かった。


 俺が腕組みをして、どうするか考えているとクキが声をかけて来た。


「どうした。しかめっ面して、イケメンが台無しだな」


「あ、いや。ちょっと困ったことがあってな」


「ほう。珍しいな、ヒカルにも困る事があるのか」


 聞いてくれたのがクキで良かったかもしれん。コイツならば話しやすい。


「実はタケルの事なんだがな」


「おお、ヤンキーあんちゃんがどうした」


「あいつ、どうやらユミに結婚を申し込むらしい」


「おっ! そうなのか! そいつはいいな!」


「しかもユミの誕生日が今日で、朝から連れ出していったんだ」


「めでたいじゃねえか。それで、なんでヒカルがしかめっ面してんだ?」


「実はな、タケルの結婚が成就したら、みんなで祝ってやろうと思って物資を回収してある」


「ほう。いいんじゃねえか?」


「だが…失敗したらどうなる?」


 するとクキがにやりとして言った。


「あっはっはっはっ! そう言う事か。ヒカルよ、お前は意外に繊細なんだな」


「そうか?」


「ああ。だがよ、それはつきもんだ。どうせイエスかノーかだ。上手くいったら祝えばいいし、ダメだったら残念会という事でいいんじゃないか」


「えっ? それでいいのか?」


「それでいい」


「どうすればいい」


「こういうのはな、俺達のような、戦いに明け暮れてきたような男にゃ無理だ」


「それは分かる」


「おねえちゃん達に相談するしかねえ」


「なんて言ったらいい?」


「そのまんまだよ」


「わかった。じゃあ誰かに言おう」


「もたもたしてると、帰ってきちまうんじゃないか」


「だな」


「台所に行った方が良い」


 俺はクキに言われて、急いで台所に行くとマナとツバサが下ごしらえをしていた。それに俺が声をかける。


「食事当番か?」


「そうよ。どうしたの?」


「折り入って相談があるんだ」


 俺がそう言うと、二人が顔を見合わせて聞いて来る。


「どうしたの…」


「あの、実は今日はユミの誕生日なんだ」


「知ってるわよ。だからご飯は豪勢にって話をしてたんだから」


「えっ?」


「その為の下ごしらえもするし、午後からみんなが手伝いに来るわ」


「そうなのか?」


「そうだけど…どうしたの?」


「丁度よかったのかもしれん」


「何が?」


「今日はタケルとユミが出かけている」


「そうね。デートするって言ってたから」


「実はな。そこでタケルがユミに結婚を申し込むんだ」


「「えっ! ほんと!」」


「ああ。だからアイツらが帰ってきた時に、祝ってやろうと思ってるんだ」


「そんなのしらなかったわ!」


「誰にも言ってない」


「早く言ってくれないと! ちょっと、愛菜! みんなに声がけして来て!」


「わかった!」


 そして俺は慌てたツバサから事細かく事情を聞かれた。


「物資を隠してるの? 全部持って来て!」


「す、すまない! もってくる!」


 俺は部屋に行って、タケル達を祝う為の物をかき集めた。それを台所に持って行くと、既にマナがミオやミナミ、ユリナ、ユン、リコ、アオイを呼んできていた。俺がテーブルの上に背負子を置いて、祝い用の品々を並べていく。


 それを見てユリナが言う。


「こんなのを隠し持っていたなんて、いつ回収して来たの」


「この前の都市偵察だ」


「そうなのね!」


 そしてミオが言う。


「とにかく急ぎましょう!」


 それに俺が言う。


「実は食料を倉庫にも隠してある」


「持って来て!」


 俺はだんだんと罪悪感に苛まれて来た。悪い事をしてたような気分になって来て、皆に申し訳ないという気持ちがいっぱいだ。とにかくまとめて隠していた食材も、全部台所に運んで来た。


「すまなかった」


「なにあやまってるの。そんな事より、山崎さんと大森君と九鬼さんを呼んできて!」


「わかった」


 俺はすぐにヤマザキとオオモリとクキを呼んで来る。すると男連中にリコが言った。


「急いで飾りつけをするよ! みんな手伝って!」


 ヤマザキとオオモリは、訳が分からずやらされることになった。


「ヒカル! 悪いんだけど、脚立を借りて来て!」


「ああ!」


 俺は急いで、非番のハルノ三尉の所に行く。


「ハルノ、すまんが脚立を貸してくれんか」


「あ。それなら用務室にありますよ、ご案内します」


「すまん」


 俺を連れて廊下を歩きながらハルノが聞いてくる。


「なんで謝ってるんです?」


 そこで俺はタケルの結婚申し込みの事をハルノに告げた。


「まあまあの一大事ですね。私も一肌脱ぎますよ! 非番の奴ら集めてくるんで待っててください!」


「すまん」


 そして休息をとっていたはずの、自衛隊員達が集まって来る。俺はそいつらに言った。


「すまん。休んでいたんだろ?」


 すると自衛隊員が言う。


「なーに言ってるんですか。タケルさんの一世一代の大舞台でしょ? プロのレーサーに恥かかせるわけにはいかないじゃないですか」


「頼む」


 だいぶ人数が増えて、食堂に飾りつけを始める。そこに子供達がやってきて、せわしなくやっている大人たちを見て楽しそうにしていた。


 だいぶ賑やかになってきたところで、ミオが俺に言って来る。


「ヒカルと九鬼さんで街に出かけて、風船や花飾りとか回収して来てほしいの。後はクラッカーとか!」


「く、くらっかー?」


 するとクキが言う。


「大丈夫だヒカル。俺が分かる」


「すまない」


「こんなご時世だからおもちゃ屋は手つかずだ、恐らくいっぱいあるぞ。軍用のリュックを背負え」


「わかった」


 そして俺達は外にある自衛隊の車両を借りて基地を出た。街に出ると、クキが真っすぐにおもちゃ屋とやらに入った。既にゾンビを排除しているセーフティエリアなので、ゾンビはいない。


「あった! この辺の風船をあるだけ持って行こう」


「くらっかーてなんだ」


「それもそのへんにあるさ」


 しばらく探して俺達はクラッカーを見つけた。それらをリュックに詰めているとクキが言う。


「花火も回収しよう」


「何か分からんが頼む」


 それから造花とか、垂れ幕とかを回収して基地に戻る。まだタケル達は戻っておらず、皆はせわしなく準備をしているところだった。俺達を見つけてミオが駆けつけて来る。


「どんなものがあった?」


 俺とクキがそれを床に広げるとミオが笑って言う。


「充分だわ。じゃあ自衛隊の皆さん!」


「「「「「はい」」」」」」


「みんなで風船を膨らましてくださーい」


「「「「「了解!」」」」」


「九鬼さんとヒカルは、テープで造花を壁中に貼って」


 俺とクキは言われるままに花を壁に貼り付けていった。めちゃくちゃ華やかになってきたところで、ツバサが俺の所に来て言う。


「ヒカル! 牧場付近に行って野生の牛を狩って来て!」


「わかった!」


 俺はすぐさまバイクで飛び出し、野生の牛が生息している高原へと走る。すると牛が走って逃げていくところだったので、俺は剣撃を飛ばして一頭の牛を仕留めるのだった。それを背中に背負ってバイクに乗って基地に戻る。


 それを見たオオモリが言う。


「でっか!」


 そしてツバサが言う。


「自衛隊の皆さん! 牛を捌くので手伝ってくださーい!」


 俺が軒先で斬り捌いた肉をバラバラにして、自衛隊員が運んでいく。すると偵察に出ていた自衛官達が戻ってきて驚いている。


「な、何事ですか?」


それに自衛官が説明をする。


「そりゃ大変だ! 終わった奴らから手伝わせます!」


 だんだんと大事になって来た。そうして俺達がせわしなく動き準備をし終わる。皆が食堂に集まって、タケルの告白が上手くいくかどうかを話し合っていた。そこにアオイが飛び込んで来る。


「帰ってきたよ!」


 皆が待ち構えた。


 どうか…。


 皆が息をのむ。二人が帰って来る足音が聞こえて来て、ドアの前で止まった。


 カチャリ。


 ドアが開いてタケルが顔を出した。するとタケルはにっこりと笑い、頭の上で丸を作ったのだった。


「「「「「「「「「「やったぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」」」」」


 皆がクラッカーを破裂させ、風船をバーっと空中に舞い上がらせる。


「「「「「「「「「「おめでとう!」」」」」」」」」」


 タケルが照れ臭そうにして頭を掻き、ユミが涙を流して笑っていた。皆の顔には満面の笑みが浮かび、女達の中には泣いている者もいる。というかヤマザキとオオモリも泣いていた。皆がまるで自分の事の様に喜んでいる。


 俺の心にもとても温かいものが流れ込み、戦いでは味わった事のない大きな充実感を感じるのだった。

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[良い点] おめでとう‼️
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