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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
330/615

第330話 タケルの願いを叶えたい

 日本が着々と地盤固めをしているある日、タケルが俺の所にやって来て言った。


「ヒカル、良い事を教えてやろう」


 何故かタケルはドヤ顔で、俺を見下しながら言っている。


「なんだ?」


「女はプレゼントに弱い」


「なんだいきなり。ぷれぜんと?」


「贈り物だよ」


「弱いとはどういうことだ?」


「もっと惚れるつーことだよ!」


 こいつが何を言っているのか分からんが、何か含みがあるように思えた。


「と、言われてもだな…」


「皆まで言うな! ヒカル! つーかよ。ひっさびさにバイク乗りてえなと思わねえか?」


 なんだ。本音はそれか。


「それはいいな」


「だろ?」


「でも、皆がコツコツと頑張っている時に良いのだろうか?」


「いや。鏑木さんが言ってたんだけどよ、現状、近隣諸国で小競り合いみたいな衝突はあるらしいんだけどな、そこまで戦火は拡大していないようだぜ。にらめっこが続いていて、いつ激突してもおかしくはないみたいだが、大規模な戦闘は、あのヒカルの海上戦以降起きてないらしい」


「そう聞いてはいるがな」


「なら話ははええ。行こうぜ」


「どこにだ?」


「未だ手つかずの都市にだよ。そこなら物資回収も自由に出来るぜ」


「盗むような真似になるんじゃないのか?」


 するとタケルが悪い顔で言う。


「俺ならマズいだろうけどな。ヒカルがそれをやったからって許さねえやつは、この日本には一人もいやしねえよ」


「本当か?」


「間違いねえ」


 どうするか…。


 そんな俺を、横目でじっと見てタケルが言う。


「酒…足りてる?」


「むっ…」


「大都市圏の手つかずの所には…いいのがたくさんあるぜえ…」


「むむ…」


 だが、一生懸命頑張っている皆の顔が思い出された。


「だが…」


 するとタケルが唐突に、ペコリ! と頭を下げて言った。


「わかった! 実はな! 俺はヒカルをただ、だしに使おうと思ってた! 本当のことを言うから、呆れずに聞いて欲しいんだ!」


「なんだ?」 


「実はそろそろ、ユミの誕生日なんだよ!」


「ほう」


「そんでよ。お前にだけ言うけどよ! 俺はそこでユミに結婚を申し込むつもりなんだ!」


「それを早く言え。すぐに行くぞ」


 タケルはとても重要な事を隠していた。それを聞いた以上は、俺は全身全霊をかけてタケルを支援してやると決める。


「本当か!」


「お前が行かないなら。俺が探して来てやる」


「まてまて! 俺が選びたい! せめてそう言う大事な時くらいは! 頼む!」


「分かってるさ。だが勝手に俺達が抜け出したら、皆が心配して探し出すぞ」


「理由は考えてある」


「よし。いつ行く?」


「明日の朝、日の出前に出発する予定だ」


 そうしてタケルは、皆にこう説明した。


 ここまでに、生存者の救出を見送ってきたゾンビの多い地域の、偵察をしに行くという名目だ。オオモリのシステムで表面上はゾンビが止まっているが、実は電波が届かない場所が多く、ゾンビ排除作業が遅れている都市の偵察をすると言う。


 それに俺が助言したことで仲間達もついて来ると言ったが、僅かな時間で終わらせたいと言い張り、俺とタケルの二人で行く事を了承させる。自衛隊は何の疑いも無く、俺を偵察の任務に出してくれるそうだ。


 そして次の日の夜明け前。


「では言って来る。それほど長い時間はかけない」


 すると女達が言う。


「ヒカルと武のコンビだから心配はしてないけど、気を付けてよ。万が一試験体に遭遇したら危険なんだから」


「問題はない」


 ユミが言う。


「タケルも無理しないでよ!」


「わーってるよ」


「じゃあ行って来る」


 そして俺達が徒歩で基地を出ようとすると、カブラギが聞いて来た。


「車両は?」


「今回は時間をかけたくないからな。都市部でバイクを入手する予定だ」


「わかりました。気を付けていってらっしゃい」


「ああ」


 そうして俺とタケルはまんまと自衛隊の基地を出た。都市部に出て直ぐに二人でバイク屋に向かった。バイク屋の場所は既に確認していたので、迷いなく進んでいく。ゾンビを始末しているセーフティーゾーンなので、歩みは早かった。


 バイク屋に入ってタケルが言う。


「おいおい! 結構な奴があるぜ!」


「どれだ?」


「スズキ RG500ガンマだ」


「ほう」


「やっぱ、かっけーな。しかもラッキーストライクとかって、レーサーのレプリカだ」


「なら俺はこれにする」


「よし! んじゃ俺は…」


 次にタケルがバイクを選んだ。


「そいつはなんていうんだ?」


「CBX400F ってやつだ」


「いいな。じゃあそろそろ行くか」


 俺達はバイクの鍵を見つけ、バイク屋からバイクを引きずり出した。


「久しぶりだな」


「行こうぜ」


 俺達はバイクのエンジンをふかし、大都市部に向けて出発するのだった。ゾンビの少なくなった街を、タケルと二人でバイクに乗るのは最高だった。この心地よい風と、なんとも言えない開放感が気分を高揚させる。そしてタケルはやはりバイクの操作が上手かった。手が回復してしばらく経つが、自衛隊との訓練のおかげで筋力も増えたらしい。


「さすがだな! やはりタケルはバイクが上手い」


「やっと気づいたかよ。こう見えてレーサーだったんだからな」


「じゃあ名古屋まで競争する事にしよう」


「お! いいね。じゃあその辺のガススタでどっちも満タンな。条件は一緒じゃねえとハンデになっちまうからよ」


「わかった」


 そして、俺とタケルのバイクがガソリンスタンドに入った。現状のガソリンスタンドは、自衛隊が管理している場所が多い。ここも自衛隊員が管理していて、貴重な燃料を市民に分け与えていた。


「あ! ヒカルさん!」


「すまないな。これから名古屋を偵察しに行くんだ。ガソリンを分けてくれないか」


「もちろんですよ! ヒカルさんは優先しろと隊長から言われています!」


「悪いな」


 そうして満タンにガソリンを詰めた。タケルが今にも笑いそうににやけているが、自衛隊員に悪いので俺は真顔を通す。


「では! 行ってらっしゃい! お気をつけて!」


「ああ」


 そうして俺達は自衛隊員達に別れを告げて出発する。するとタケルが俺に言った。


「マジで、ヒカルと出て来て正解だったぜ。日本中に散らばっている自衛隊は顔パスだ」


「お前。それを見越して俺を誘ったんだろう?」


「否定はしねえよ」


「とにかく、このリュックを一杯にして帰って来るぞ。祝いの料理も作らないといけないからな」


「ヒカル…おまえ、ほんと良い奴だよな」


「親友が頼んだらやるもんだろ?」


 するとタケルが軽く目に涙をためて言う。


「お前ん時は、俺が手伝うからよ。何でも言ってくれよ!」


「当たり前だ。当然手伝ってもらうさ」


「んじゃ! 飛ばすぜ! どっちが早くつくか競争だ!」


「わかった」


 カーン! と良い音をさせて、俺達二人のバイクは風になる。この世界に来て、俺は自分の為に楽しむという事を覚えた。それはこのタケルが教えてくれた気がする。バイクを倒して曲がっていくタケルがイキイキしていた。俺はそれを見るだけで、この世界に生まれ変わって良かったと思うのだった。

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