第31話 目覚めた朝に
朝になり雨が小降りになってくる。まだ朝日は昇りきってはいないが、小さい窓から少しだけ明かり入ってきて、建屋内が薄っすらと明るくなった。極度の疲労で皆が死んだように眠り続けていたが、何事も無く無事に朝を迎えられたようだ。
だがあの米とやらは、すぐに食べられるようになっていない。すぐに食べられる物を入手しなければ、皆がまいってしまうだろう。
「さて」
俺は再び周辺を探索しようと立ち上がった。
「どこかに行くの?」
後ろからミオに話しかけられた。
「疲れているのだろう? まだ寝てるといい」
「ううん。少し回復したわ、お腹は減ってるけどね」
俺とミオが話をしていると、ヤマザキとユリナも目を覚ます。ヤマザキが起き上がって俺に話しかけて来た。
「どうした?」
「いや、これはコメと言う食い物らしいが、すぐには食べられそうにないと思ってな。この周辺を探索して食料を探して来ようと思っていたんだ」
「昨日の夜は何か見つけたのか?」
「この建物の二軒隣に大きな建物がある。そこには小さな机や椅子があったが、恐らくは学園のような場所じゃないかと思う。そこに食料が無いかと思ったんだ」
「なるほど。だが残念ながら学校には食糧はないだろう」
「そういうものか?」
「まあ、そうだな。だがここより居住空間としては良いかもしれん。ゾンビはいたか?」
「いなかった。板の間だしここより過ごしやすいと思うぞ」
「わかった。皆が起きたら相談してみよう」
するとユリナも言った。
「さすがに体が痛いわね」
するとミオが立ち上がって、積み上がっているコメの袋を見上げる。
「こんなにあるのにね。精米したり炊飯器が無いと食べられないなんて…」
するとヤマザキが言った。
「いや、そうでもないぞ。長く炊き込めば食う事は出来る。恐らく玄米の状態で保管してあるだろうからな」
俺達の会話で今度はタケルが起きて来た。
「えっ? もみ殻はついてないのか?」
「なんだ、まだ袋を開けてないのか? 農協の倉庫にある状態なら玄米だろうよ」
「そんな事言ったって、この状態の米の事なんてよく知らねえからな」
「精米機も置いてありそうだから、精米だって出来そうだが如何せん電気がな」
「なんでもいいから、たらふく食いてえよ」
なるほど、ここに積みあがってみるコメとやらは何とかすれば食べられるらしい。俺はヤマザキにどうすればいいかを聞いてみた。
「どうしたらいい?」
「まず、鍋と水だな。ちょうどいいことに水は昨日お前達が確保してくれたものがある。それを使ってなんとかしよう。鍋は恐らく民家に行けばあるだろ」
「おお! じゃあそれなんとかしようぜ!」
すると起きだして来たマナが不安そうに言う。
「民家や集落にはゾンビがいるんじゃないの?」
なるほどこいつらだけでは対応できないんだったな。
「ゾンビは問題ない、俺が何とかするから。それよりも盗賊の類が面倒だぞ。外で活動すればアイツらに見つかる可能性がある」
「…そうだな」
「だが大通りから外れた所であれば見つからないだろう。一旦ここから移動してコメを食うといい」
するとタケルがぶるりと震える。
「やべえ、ちっとトイレ…」
「なんだ?」
「小便だよ」
タケルの仕草で何か分かった。
「なら外で済ませればいいだろう」
「まあそうだが、してる時にゾンビに襲われたらやだしよ」
するとヤマザキが言った。
「恐らく隣の社屋にトイレがあるだろ」
そう言うと、ミオとユリナとマナがそろりと手を上げて言う。
「あのー」
「同じく」
「行きたい」
三人が声をそろえて言った。隣りの建屋にゾンビが居ないのは確認済みだった。俺が皆にそれを伝えると、すぐに行かせてくれと言いだす。ヤマザキが建物の壁まで歩いて内側から鍵をあけて扉を開く。
「昨日は暗くて分からなかったが、ここに扉があったんだな」
「わざわざあそこを壊して外に出なくてよかったって事か」
「まあヒカルならでは、って事でしかたないだろう」
そして皆がその建物に移ろうと外に出たので、俺も一緒に出て昨日侵入した二階の窓へと飛んだ。そしてそこから侵入して、皆が向かっている一階の扉の方へと向かう。するとドアの外でタケルとミオたちの声がした。俺はその扉の鍵を開けて皆を迎え入れた。
「えっ! 今の一瞬で中に入ったの?」
「そうだ」
「すごい!」
「それより…」
ヤマザキ、タケル、ミオ、ユリナ、マナの五人が足早に、建物の中に入っていき目的の場所を見つけたようだ。俺はそう言えばこの世界に来てから小便も大便もしていない。難易度の高いダンジョンで便などしようものなら、あっという間に魔獣に囲まれてしまうからだ。用を足した後にすぐに焼却するか、全て魔力と気で操作して処理する事が多かった。彼らも便所じゃないとゾンビに襲われる危険があるらしいが、魔力と気の操作でどうこうは出来ないらしい。というよりも彼らは一切の魔力や気を使う事が出来ない。
「ふう。助かったよヒカル」
「よかった。そう言えば 昨日寝る前にかなりの水を飲んでいたからな」
「ああ。だが生き返ったぜ」
「それでこれからだが、皆で集落に移動してコメを食ったらいいんじゃないかと思う」
「そうしよう! とりあえず倉庫に戻ろうぜ」
「ソウコ?」
「米が置いてあるところだ」
「わかった行こう」
俺達が倉庫に戻ると、ユミが起きて心配そうにこっちを見ている。タケルが慌ててユミの元へと走った。
「どうしたんだ由美?」
「なんか、翼ちゃん熱があるみたい」
「マジか…」
何かがあったらしく、ユミがツバサのおでこに手を当てて困った顔をしていた。よく見るとツバサが肩で息をしており、汗をかいているようだった。するとタケルが不安そうに言う。
「ゾンビ化か?」
「わかんない」
そこにヤマザキ達も戻って来た。
「どうした?」
ユミがヤマザキに言う。
「熱があって、息が荒いのよ」
「なに…」
そしてヤマザキが近づいてツバサに手を当てた。
「熱か…」
「ゾンビ化かな?」
「まだわからん」
俺がすぐさま皆に言った。もたもたしていたら皆の身も危ない。
「噛み跡を探せ」
「そ、そうだな」
するとユミが言った。
「じゃあ私達がやるから、男達はあっち向いてて! 見られたら翼ちゃんが可哀想!」
「わ、わかったよ! じゃ、ヒカル後ろ向いてようぜ」
「ああ」
俺とヤマザキとタケルがシャッターの方を向いて立っている。その後ろで、ユミとミオとユリナとマナがツバサを調べ始めた。衣擦れの音が聞こえ女達で話合っている。しばらくして後ろを振り向いても良いと言われ、振り向くとユミが伝えてくる。
「噛み跡は無かった。恐らく風邪を引いたのかもしれない」
するとユリナが言った。
「でもマズいわね。肺炎にでもなったら大変だわ」
間違いなく栄養が足りていないのだ。だが応急処置くらいの回復魔法なら俺が使えた。俺は翼の所に行って両手を体の上に乗せる。するとユミがキッと俺を睨んで言う。
「ちょっと! 気を失っているのを良い事に、女の人の体に触らないでよ! セクハラよ!」
セクハラというものが何か分からないが、俺が手を触れなければ回復魔法を体内まで浸透させられない。するとミオがユミを制止して言う。
「大丈夫よね? ヒカル。そう言う事じゃないでしょう?」
そう言う事とはどう言う事だろう? とにかく早く楽にしてやりたいだけだが…
「とにかくどいてくれ」
そして俺はツバサの体に回復魔法をかけていく。少しずつ熱が下がっていき、息遣いが静かになって来た。あくまでも応急処置で、栄養と休息は必須だが。
「これで一旦動く事は出来るだろう。だが体力はかなり消耗しているから、早く何かを食わせた方が良い」
ユミが険しい表情を解いて俺に言った。
「あの、誤解してたわ」
「問題ない。とにかく早くなにか食べさせよう」
「そうね」
するとミナミも起きる。
「あ、と、トイレ…」
「大丈夫よ、トイレならあるわ」
ユリナがミナミをトイレに連れて行った。ミナミは休息をとった事で少しは動けるようになっていた。
「ヤマザキ、あのトラックに乗って集落を探さないか?」
「わかった。民家ならすぐに見つかるよ」
「ああ」
そして皆が準備をして米が積んであるトラックの荷台に乗り込み、ヤマザキが動かすために前に乗った。俺が気を失っているツバサを抱いて、ヤマザキのとなりのふかふかの座席に座らせる。そして俺は盗賊を警戒し、屋根の上に乗って周辺を確認しながら進んだ。少しずつ太陽が上がってきたが、辺りに薄っすらと靄がかかっていた。俺は天井からぶら下がって窓の中のヤマザキに指示を出す。
「ヤマザキ、すぐに左の小道へ入ってくれ」
「わかった」
俺はゾンビの気配のする方向に向かうように指示を出していた。ゾンビがいると言う事は、集落があると言う事だ。そしてしばらく進むと、予想通り道をウロウロとゾンビが歩いているのが見えた。そのままヤマザキがゾンビを潰して先に進む。すると大きな平屋建ての建物が見えて来たので、俺はすぐさま反対側の扉を開けて乗り込んだ。
「数件の民家が見えたが、もう少し奥まで進もう」
「わかった」
ヤマザキが更にトラックを進めると、静かな集落が見えてきたのだった。数は少ないが、恐らく人が暮らしていたのだろうという事は分かる。俺達のトラックは一軒の民家の前に止まった。建物の周囲にゾンビがいるのを確認したので、俺が先に下りて周囲のゾンビをジュウで殲滅するのだった。




