第314話 敵基地の司令塔を崩壊させる
俺達が探すのは軍の中央管制室という場所だった。そこは軍の指揮を執る場所らしく、その場所を抑えれば指揮系統は狂うらしい。俺が先行しクキの指示に従って、防犯カメラを破壊し通路を歩いて行く。すると曲がり角の先から人が来るのが分かった。
「二人並んで来る」
「了解」
クキがナイフを取り出し、俺も短剣をすらりと抜いた。狭い通路なので短剣の方が振り回しやすいのだ。壁に潜み、そいつらが出て来る直前でクキに指を上げた。クキは現れた一人の口に手を当てて、首動脈を切り裂いた。少しバタついたがすぐにおとなしくなる。もう一人の方は既に、俺の刺突閃で眉間を貫いている。二人で体を支え、音がしないようにそっと引きずり近くの部屋に隠した。
そしてクキがタケルとミナミに言う。
「この要領だ。出来るか?」
「やれるぜ」
「私も問題ないわ」
タケルとミナミが答える。彼らは既にこの世界で言えば超人の域に達しているので、このくらいは造作もなくできるだろう。クキが言っているのは、躊躇なく殺害できるかという事だった。
俺達が先を急ぐと、少し先の部屋に多くの気配を感じた。
「人が八名」
「ヒカル。ここは警備室だ。ここを墜とすと身動きが楽になる」
「わかった」
そしてクキがタケルとミナミに言う。
「騒がせずに、殺れ」
二人は若干緊張気味に頷いた。今までは俺がやってきた事だが、実戦で使わないといざという時、動かなくなる。俺がその部屋の扉に手をかけて、スッと静かに開いて一瞬中を見た。そして俺は自衛隊に教えてもらっていたハンドサインとやらで、みんなに指示を出す。
クキとタケルとミナミが静かに部屋に入った。中の人間は一瞬何事かという表情をしたが、次の瞬間四人が倒れていた。クキが同じようにナイフで首を切り、タケルが一人の首をへし折り、そしてミナミが一瞬で二人の首を飛ばしたのだ。
「「「「!」」」」
それに驚いた他の四人が叫ぼうとしたが、既に俺の刺突閃が四人の眉間を捉えた。部屋は、あっという間に静かになりクキがそこにあった画面を見て言う。
「基地内の防犯カメラだ。兵隊の位置と格納庫の映像だな。まずは中央管制室を探すぞ」
「任せてください」
オオモリがリュックから端末を取り出し、近くに置いてある端末の側に置いた。そこにあるキーボードを打ち込み、自分が持ってきた端末からケーブルを繋いで何やらやっている。
「少し待ってください」
「わかった」
俺達が防犯カメラの映像を見ながら、しばし待っていると廊下の外に人の気配を感じた。
「誰か来る」
「すみません。データー抽出にまだ時間がかかります」
「わかった」
俺がタケルとミナミに目配せをする。
「任せてくれ」
「任せて」
そして入り口から入ってきた二人の男は、一瞬にしてタケルとミナミに制圧された。音もたてずに軍人を倒す事が出来るようになったのは、ひとえにカブラギ達の訓練の賜物である。
「終わりました。ダウンロード終了です」
クキが聞いた。
「中央管制室は?」
「まってください」
するとオオモリはパソコンをリュックに仕舞いながら、今度はタブレットを出して見せる。
「ここです」
そこには基地敷地内の地図が記されていた。するとアオイが唐突に言う。
「この子に先に行かせる」
アオイの手には小さなネズミが乗っていた。いつの間にか使役していたらしい。
それを見てクキが言う。
「換気配管ダクトから中央管制室に向かわせよう」
「はい」
クキがデスクに登り、頭の上にある銀のパイプに穴をあけた。
「お嬢ちゃん。おいで」
アオイが上がると、クキが肩車をして乗せる。アオイは手から穴にネズミを入れた。
「俺達も行こう」
俺達はそのまま警備室を出る。するとアオイがオオモリのタブレットを指さして言った。
「このルートが人が少ないみたい」
「凄いな」
俺達はそのルートを辿り、中央管制室に向かう。アオイが言うとおり、人は少なく無駄に時間を取られずに済んだ。中央管制室まで騒ぎも起きないのは、警備室の人間が全員死んだからだ。そして俺達は中央管制室の前に立つ。
アオイが言う。
「この部屋には十五人いるよ」
俺が言った。
「みんなで一気に行くぞ」
スッと扉を開けて中に入り、仲間達は一斉に中の人間に飛びかかった。中央管制室は一瞬にして血の海と変わり沈黙する。
そしてマナが言った。
「大森君が作ったコンピューターウイルスを注入するわ。ヒカル、このサーバーラックの表面を斬って」
言われるままにその前面の扉を斬る。扉がこちらに倒れて来たので、俺はそれを受け止め後ろに下がった。するとマナは自分のリュックから取り出した端末をサーバーに接続する。ウイルスが入っている端末と、オオモリの端末を物理的に分けてるのだそうだ。
「少し時間がかかるわ」
だがクキが言う。
「こんな時間に、中央管制室に入ってくる奴なんかいないさ」
「わかった」
しばらくしてマナが言う。
「ウイルスの流し込みは終わった」
「よし」
すると中央管制室の壁面に映っていた映像が乱れ始め、おかしな映像にすり替わっていく。
それを見ていた仲間達が苦笑した。
「大森君。随分リアルだけど、これってAIなのよね?」
「そうです。一応、大国の首相と北の指導者が暗躍しているのを隠し撮りしている風ですね」
それを見たクキが言う。
「実物と判別できるんじゃないか?」
「昔の僕の技術ならそうでした。でも今はかなり時間を要さないと、フェイクだと判別できないでしょう」
「凄い物だな」
するとオオモリがどや顔をしている。
「それでどうなる?」
「僕らが出た後で、東側が同盟を裏切り、総攻撃して来る間違った情報が流れます」
それを聞いて俺が言う。
「俺はどのタイミングでやればいい?」
「じきに僕のウイルスは他の基地や一般の市街地にも回ります。そうすればスクランブルがなされると思いますので、それを確認したらやりましょう」
「わかった」
「それを確認するのは?」
そう言ってオオモリがアオイを見る。
「私のねずみ」
「そう」
そして俺達は速やかに屋上に駆けあがる。途中で数名の軍人を倒したが、全て部屋に隠してきた。屋上から地面に降り立ち、そこでクキが言った。
「証拠隠滅の為、中央管制塔を燃やした方がよさそうだが大丈夫か?」
クキがオオモリに聞く。
「問題ありませんよ。既にコンピューターウイルス汚染は各地に広がっています。そうなれば僕の持っているパソコンでいつでもどこからでも侵入できます。ヒカルさん、出来れば管制室が最後に壊れるように出来ますか?」
「問題ない」
俺は剣を構え、魔気を大きく膨らませる。
「魔気、炎龍鬼斬!」
炎の龍がゴウっと現れて、目の前の建物にズボっと突っ込んだ。違う場所からその炎の龍が出て来て、また建物に突っ込んでいく。
「行こう」
俺達は基地の闇へと消えるのだった。