第279話 仙台市での朗報
仲間の女達が、ミシェルとタカシマを囲んであれやこれやと細工をしていた。
「よしっと!」
ユンが二人の顔を見てドヤ顔をしている。それを見たミオやユミ達が喜んでいた。
「別人!」
「何処からどう見ても日本人」
「高島先生も若くなりましたよ!」
俺達がこれから仙台に向かうにあたって、百貨店に侵入し、化粧品売り場や眼鏡屋などからいろいろと回収してきた。その道具を使って、ミシェルとタカシマを変装させていたのだった。必ずしもファーマ―社のスパイが潜入しているとは限らないが、万が一居た場合に仙台が襲われる危険性を避けるためだ。
「ミラクル!」
「これが、私かい?」
ミシェルとタカシマが鏡を見て驚いている。すると横で見ていたミナミが言った。
「ユンちゃんの化粧テク、すっごいね。まるで別人」
ミオも言う。
「さっすが現役ギャルだっただけあるわあ! マジックみたいなメイク」
「えへへー、そう?」
するとタケルも言った。
「マジですげえ。別人じゃねえか」
「二人を生徒達の前に連れて行こう! プチドッキリだよ!」
ミオ達が二人を連れて、生徒達の居る部屋へと行く。すると生徒達は一体誰が入って来たの? と言う顔をした。
「私だ」
「えー! 先生!」
「うそだろ!」
「見えない…」
「そ、そうかい?」
「若返った!」
タカシマはまんざらでもないようだった。それを見た教授のサイトウも笑って言う。
「先生。私と同期だと言ってもわかりませんよ」
「ははは、わからんか?」
「ええ」
そして俺が言った。
「準備は整った。行くぞ」
「わかった」
「イエス」
準備が出来たので、全員がチヌークヘリに乗り込み京都を出発する。日本海側を飛び、目指すは山形県にある自衛隊の駐屯地だ。クキが言うには、レーダーなどを警戒して低空を飛ぶらしい。
チヌークヘリに乗った生徒達がはしゃいでいた。
「凄い! 飛んでる!」
「こんな地面に近い所を飛ぶなんてないよ」
「迫力ある!」
興奮気味に話をしている。ユリナは酔う妊婦達をせわしなく介護していた。都市を飛び山々を飛び越えて、俺達のチヌークヘリは二時間かからずに自衛隊基地に着く。クキが基地を見下ろして言う。
「ここが神町基地だ」
それを聞いたオオモリが言った。
「ここはセーフティーゾーンのエリア外です」
「ゾンビがいるって事か」
それを聞いた俺は、迷わずハッチから飛び降りる。今までと同じように周辺のゾンビを狩ってから、チヌークヘリを誘導して降ろした。
クキが下りて来て言う。
「車両を回収するぜ。三トン半が二台必要だ」
そしてクキと数人が想定の車を回収し戻って来る。チヌークヘリから、物資と日本刀を全て降ろしトラックに詰め変えていった。荷台の座席にみんなが座り、俺達は神町基地を出発する。周囲にゾンビは居るものの、人口が少ないためか数は多くなかった。老人のゾンビなども多く、トラックで難なく轢き殺す事が出来ている。バイパスから山道に入り山中を進んでいくと、時おり爽やかな風が吹き俺達の頬を撫でていく。
それから一時間とちょっと進むと、ようやくゾンビがいない地域に突入した。どうやらセーフティーゾーンに入ったようだ。
オオモリが言う。
「仙台のシステムは問題なく稼働しているようです」
「生存者もいるかな?」
噂をすれば影。先を走る車を見つけて俺達がクラクションを鳴らした。すると相手の車が停まるも、警戒して近寄ってこようとしない。もしかしたら軍用の車両なので、ファーマ―社だと思われているのかもしれない。そこで俺とユリナが降りて手を振ると、警戒を解いた車がこちらに近づいてきた。
「ヒカルさんじゃないですか!」
「ああ。戻ってきた」
「自衛隊の車で来たから、ファーマ―社だと思いましたよ!」
「すまん。これしかなかった」
「我々は、これから本部に戻るんです!」
「一緒に連れて行ってくれ」
「はい!」
俺達は生存者に連れられて、仙台の研究員が居る建物に向かうのだった。しばらくぶりに研究所に着くと、生存者達が珍しそうにこの車を見ている。自衛隊の車なので警戒しているのかもしれないが、俺達がトラックを降りると皆が近づいてきた。
「ヒカルさん! 皆! お元気ですか! 良く戻ってきてくれました!」
研究室で働いている人らが俺達に集まって来る。
「ああ。いろいろと情報を持って来たんだ。研究に生かしてもらおうと思ってな」
「入ってください」
そして日本人に化けたミシェルとタカシマ、学生達を連れて研究室に入って行くのだった。すると血清を発見した研究員が走り寄って来る。
「ヒカルさん! 無事でしたか!」
「研究は続けているか?」
「もちろんです」
「それを見せてくれ。あと今回は調べて欲しいものがあって来た。だがその内容はなるべく内密にしてほしいんだ」
「わかりました! とりあえずどうぞ講堂の方へ、他の皆さんは?」
「廊下の外にいる」
それを聞いた研究員は近くにいる人に言う。
「みんなを休憩室にお連れしてくれ!」
「「「「はい」」」」
「では」
そして俺達が研究員に連れられて講堂へと入る。まずは仙台の研究員達が、俺達に今までの研究の成果を見せてくれた。とりわけタカシマとミシェル、そして生徒達が熱心に聞き入っている。大まかな説明を受けた時、タカシマが大きく頷いて言った。
「さすがですな。よくぞここまで、どうやら私らが発見した物と合わせれば、もっと素晴らしいものになりそうです」
「そうですか! 是非! お見せください!」
それからの時間は、仙台の研究員達が驚くばかりの時間となる。タカシマ達の研究結果に、目を丸くし興奮気味に聞いて来た。
「こんな…天才だ。これを誰が?」
するとタカシマが言う。
「知り合いが研究したものだ。残念ながらその人は亡くなってしまったがね」
「…そうですか」
「どうだい? 参考になりそうかい?」
「参考になんておこがましいほどです。生きていたらその人に会いたかった」
「私もだよ」
次にユリナが研究員に聞いた。
「この周辺で稼働可能な製薬工場はあるかしら?」
「あります。と言うか、現在は血清も、そこで量産体制をとってます」
俺達は目を合わせて頷いた。ユリナが言う。
「そこで新薬の量産化を行いたいのです。出来ればご協力いただけますか?」
「喜んで」
「良かった…」
これは凄い事だった。俺達が一から準備する予定だった製薬工場が、既に稼働しているというのだ。
「よくそこまでやってくれたな」
すると仙台の研究員が言う。
「ヒカルさん達が、火力発電を復活させてくれた事と、セーフティーゾーンを広く拡大してくださったおかげですよ。あれが無かったら、ここまでの事は無理でした」
「早速で悪いが案内してくれ」
「ええ」
俺達は休むことなく、製薬工場に向けて出発するのだった。




