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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第五章 救世主編
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第270話 静岡拠点炎上

 俺達のチヌークヘリが京都を出発し、名古屋上空を通過して山岳地帯を飛んでいた。タカシマが開発したオメガという薬品データを持って、静岡にいるミヤタの所に行く為だ。人間の遺伝子にどのような影響が出るのかは、動物実験だけでは分からないらしい。そして、それはミヤタの専門分野らしいのだ。


「久しぶりに宮田君に会えるよ。私はね、彼が生きていてくれた事だけでも本当にうれしいんだよ」


 チヌークヘリの窓から外を眺めながら、タカシマが言うとユリナが尋ねる。


「高島先生と宮田先生の御関係は?」


「私が既に教授だった頃に彼はまだ学生でね、彼はとても真面目な生徒だった。自分の単位に関係ない講義も聞きに行ったり、非常に積極的な姿勢だったことを覚えていてね。分からない事があれば何度でも聞いて来るような生徒だったよ」


「そうなのですね」


「あまりにも真面目で遊びもしない彼に、私は聞いた事があるんだ。なんでそんなに頑張るんだってね」


「はい」


「すると彼は真面目な顔で言うんだよ。人が病気をしなくなる世界になったらすばらしいですよねって。私はそんな世界が来ればいいが、現代社会の生活習慣ではそれは無理だと言ったんだ。それどころか生活習慣を正したところで病気は無くならないとね。そしたら彼はこう言った。ならばせめて致死率の高い病気を無くしたいと、その為に人間の可能性を知りたいってね」


「素晴らしい考えです」


「そうだね。そしてその考えは、彼の個人的な理由にあったんだよ」


「なんです?」


「彼は若くして両親を二人とも病気で亡くしていてね、祖父母に育てられたという経験から来るものだったらしい。まあその祖父母も亡くなってしまったがね」


「そうなんですね…」


 ミヤタにはミヤタの行動理念があった。それを聞いて俺は前世での事を思い出す。俺は勇者になるべく育ち、将来魔王と戦うのを当然とされて生きていた。だが、そこに俺の考えがあったのだろうか? 決められた道を進み、そして最後には世界を滅ぼしかけた。そう考えてみると、ミヤタの生きざまが少し羨ましかった。


「それを聞いた私は彼に手解きをし、まるで我が子のようにいろんな事を教えたんだよ。そして彼はそれこそ私を親のように慕ってくれた。そんな彼が、この世界を救うであろう薬品の原案を考えたというのは、とても誇らしく思えるんだ。使い方によっては、まさに彼が考えた病気の無い世界を作り出すかもしれない薬だからね。早く会いたくて仕方がない、オメガを彼に見せて喜んで貰いたいんだ」


「高島先生にもそのような思いがあったのですね?」


「私は宮田君を褒めてやりたい。日本復活の為の第一歩を、進めてくれた第一人者としてね」


 皆がそれを聞いて感動しているようだった。もちろん俺の心にも熱いものが流れてくる。するとその時、突然クキが俺達に言って来た。


「なんかおかしいぞ」


「どうした?」


 チヌークヘリの操縦席に行って前方を見る。


「あれは…なんだ…」


 俺達が見る先の空に、煙が上がっているのが見えた。不穏な空気を感じた俺はクキに叫んだ。


「クキ! 急いでくれ! そして着陸はするな。俺をあそこに降ろしたら離脱しろ!」


「了解」


 俺はすぐに後部座席のミナミに言う。


「日本刀を数本携帯する」


「はい」


 ミナミは俺の背中に、リコが作ってくれた日本刀用の背負子をベルトで結び付けた。そこに三本の日本刀を差し込み、更に両手に鞘から抜き取った日本刀を持つ。煙が上がる場所が見えて来たので、俺はクキに叫ぶ。


「後ろを向けて後部ハッチを開けろ」


「了解」


 煙の上がる場所を向いていたチヌークヘリが、くるりと反対側を向いた。俺は操縦席の真後ろにぴたりと付けて、後部ハッチが開くのを待つ。


「クキ! 想定の位置まで何キロだ?」


「想定位置まで約十七キロメートル。風向きは南西から北に向いている」


 その間にハッチが開いた。


「行くぞ」


 そして俺はゼロから最高速を叩きだし、次の瞬間大空に飛び出していた。前方には煙が上がっており、地表までは遥かに距離がある。だが弾丸より速いスピードでチヌークヘリから射出された俺は、見る見るうちに想定の地帯に迫った。がんセンターの手前の畑に着弾するように降り立つと、大きく地面が窪む。その影響で、畑の土が津波のように盛り上がり周辺にばら撒かれた。


 だがそのまま速度は落とさずに、瞬時にがんセンターの敷地に飛びこむ。


 くっ!


 かなりの人間が犠牲になっていた。そこにいた人間達は新種のゾンビとして、俺に向かって飛びかかって来る。それらを瞬く間に切り裂いて、俺は更に標的の元へと走った。


 試験体がいる。そいつがここに入り込んで、ここの生存者を殺して回ったのだ。試験体にはオオモリのプログラムは効かず、自由に動き回る事が出来るのだ。


 いた。


 それはキマイラ型とも違う、まるで魚と人間を混ぜたような新種の奴だった。次の瞬間、俺は最初の日本刀を犠牲にしつつも、ヘルフレイムスラッシュを繰り出す。そいつがウロコのようなものをこちらに飛ばす前に、あっという間に黒い炎が包み込んで全てを燃やし尽くした。ボロボロになった日本刀を捨てて、俺はもう一本を構えて周りを見る。


 この人達は…ここの生存者達だ。それが新しいゾンビ因子の餌食となり、試験体のように人間の原型を崩しながらバケモノになっている。


「乱波斬」


 ひとつひとつ細切れにしていく。瞬時にかなりの数を切ったのには理由がある。まとめるなら、出来るだけ多くのゾンビを倒した方が良いからだ。案の定細切れになった肉片が繋がっていき、巨大な試験体になった。


「ヘルフレイムスラッシュ」


 俺は二本目の日本刀を使って、ヘルフレイムスラッシュを打ち込む。見る見るうちに合成された巨大な化物が、黒い炎に包まれて消えていった。俺はボロボロの日本刀を捨て、背中から一本の日本刀を抜き取る。気配感知をすれば、がんセンター内部にまだ生存者の反応があった。俺は疾風の如く、がんセンターに飛び込み、生存者の居る場所に向かって走るのだった。

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