第262話 自衛隊のヘリコプター
基地の外にゾンビが集まって来た事を皆に伝えようとした時、屋上に吊るしている男達から先に声が上がった。屋上付近にいる為、見通しが良くて先に視認出来たようだ。
「お、おい! お前ら! 奴らが集まって来たぞ!」
それを聞いて俺が仲間に言った。
「ひとまずゾンビを処理してくる。皆は先にヘリコプターを探してくれ」
するとそれを聞いたクキが言う。
「ん? 別にそのままでいいんじゃないか? それより、このままヘリを探して良いと思うがな」
「そうか?」
「こんなところ、とっとと出ちまった方が良い」
「…なるほど。わかった」
話がついて俺達が先に進もうとした時、上に吊るした連中が大きな声で騒ぎ始める。
「おい! どこ行くんだ!」
「早く降ろしてくれ!」
「逃げなきゃ!」
「敷地に入って来たぞ!」
するとヤマザキが俺に聞いて来る。
「あいつらはどうするんだ?」
「「放っておけ」」
俺とクキが同じ返事をしてしまった。どうやらこいつも同じ考えでいたらしい。そのまま俺達が先に進んでいこうとすると、吊るされた男達が焦って更に声を張り上げた。
「まてまて!」
「おい!」
「こら! 降ろせ!」
「行くな!」
タケルが大声でそいつらに言う。
「おーい。あんまデカい声出すと、どんどんゾンビが集まってくんぞー」
「だから! 早くほどいてくれ!」
「わりぃな! うちのアニキは解く気がねえみてえだ。せいぜい頑張れや」
「まて!」
「解け!」
「おぃぃぃ!」
「待ってくださいぃぃ!」
「助けてくださいぃぃ!」
既に俺達の耳に、その言葉は届いていなかった。俺達は基地の奥に進んで滑走路に出る。するとクキが周辺を見渡して言う。
「恐らくあの格納庫だ」
「よし!」
身動きの取れない女の救出者達は、俺とクキとタケルが背負い、辛うじて歩けるものは女達が肩を貸した。格納庫内部には数体のゾンビがいるようだが、扉が閉まってて外に出られなかったのだろう。
「ゾンビを始末する」
俺が先に入り、早々にゾンビを処分した。するとクキがゾンビの死骸を見て言う。
「元のお仲間だ。自衛官らだな」
手を合わせて拝んでいる。そしてタケルが奥を見て言った。
「おお! 良いのがあるな! すげえデカいぞ!」
それは今まで見たヘリコプターより大きかった。それを見てタケルがクキに聞いた。
「これを飛ばせるのか?」
「ああ」
それを見たミナミが興奮気味に言った。
「うわっ! 自衛隊のチヌークヘリじゃない! 凄い」
するとクキが返す。
「お! ねえちゃんこれを知ってるのか?」
「まあね」
「とにかく外に出す必要がある。格納庫の扉をあけよう」
それには俺が答えた。
「任せろ! 扉を飛ばす」
日本刀を腰にかまえて、扉に向かう。
「推撃」
扉が外側に吹き飛んだ。それをみてクキが言う。
「もっと時間がかかると思ったんだがな」
「急いだほうがいいだろう?」
「よし! みんな乗り込め!」
クキがハッチを開き中に乗り込むと、皆が後に続いて乗り込んだ。そして俺は皆に言う。
「露払いをする! 滑走路内にゾンビが入ってきているようだ」
「わかった!」
チヌークヘリがゆっくりと動き出し格納庫から出る。俺は滑走路に入り込んで来たゾンビ達を斬った。滑走路に出たチヌークヘリは、ゆっくりと羽を広げていく。そしてその羽が周りだし、回転速度を上げて言った。
「ヒカル! 乗って!」
俺もハッチから乗り込み、チヌークヘリが飛び立つのをゾンビ達が見上げて手を伸ばしている。そして俺はクキに言った。
「クキ! すまんが装甲バスの所に寄れるか? 物資を全て運び出したい!」
「わかった!」
チヌークヘリが建物を周っていくと、屋上に吊るされている男達が目に入る。するとクキはそいつらの前に飛んで空中で止まった。救出した女達が体を起こし、男らに向かって罵詈雑言を吐いた。
「死んじまえ!」
「クズが!」
「お前達なんか生きてても意味が無い」
「ばーか!」
思い思いの言葉を投げつけると、男らは俺達に向かって行った。
「頼む! 連れて行ってください! 許してくださあい!」
「心を入れ替えるからあぁ!」
「あ、アイツらが群がって来たあ!」
「おいて行かないでえ!」
吊るされた男達の足元に、どんどんゾンビが集まって盛り上がってきていた。あまり叫べば更にゾンビが集まり、いずれ男達の高さに到達してしまうだろう。更にチヌークヘリが飛んでいるので、その爆音で次々にゾンビがやってきていた。
操縦席のクキが言う。
「姉ちゃんら! アイツらの事は到底許せないだろうが、少しは胸が晴れたか?」
女達は興奮しながらも頷いている。
「よし!」
もう誰も泣いてはいなかった。むしろ吊るされた男達の方が泣きさけんでいる。そしてチヌークヘリはそのまま装甲バスの上空まで来た。そこで俺が言った。
「クキ! ここに浮かんでいられるか?」
「問題ない。もう少し高度を落とすか?」
「いや、何があるか分からんからな。ここで良い」
するとミナミが俺に言った。
「ロープあるけど使える?」
「そいつは良いな」
俺はロープの反対側を扉の側に引っかけて、そのまま飛び降りた。装甲バスの上に飛び乗って、日本刀で屋根をスッパリと切り裂く。屋根を全て取り去り、そのまま装甲バスに入ってロープに日本刀と食料を括り付けた。
「タケル! 上げろ!」
「よっしゃ」
かなりの重さがあると思うが、タケルはあっという間に引き上げた。上空にヘリがいる事でどんどんゾンビが集まってきている。装甲バスは集まったゾンビ達にゆさゆさと揺られるが、俺はかまわずタケルに言った。
「ロープを降ろせ!」
再びロープが降りて来たので、残りの日本刀と食料を括り付ける。
「上げろ!」
「あいよ!」
タケルが再び馬鹿力で上げた。僅かに残った物は俺が抱え込んで、上空のチヌークヘリに飛ぶ。
するとリコが言う。
「あのバスともお別れね」
「いろいろ思い出があるよね…」
「なんか寂しいなあ」
そしてアオイが装甲バスを見下ろして言った。
「いままでありがとう!」
それを聞いて皆が装甲バスに手を振る。
「クキ! 出してくれ」
「了解だ」
そして俺達はお世話になった装甲バスに別れを告げ、小牧基地を離れ京都に向かって飛ぶのだった。




