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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第四章 逆襲編
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第250話 人類統合標準化計画

研究所の電子機器が全て壊滅していた為、情報の収集がかなり困難な状態となっている。それでも皆が、薬品に関わりそうな情報を集め続けた。そしてユリナが言う。


「もうこの部屋に見るものは無さそうだわ」


「わかった」


「後は実際の薬品や、ゾンビ因子が格納されているところがあると思う。保管状態が怪しいけど」


「探してみよう」


 俺達が次々に部屋を移動して調査していると、今度はオオモリが言った。


「僕はこの部屋を調べてみたいです」


 その部屋は機器関係やパソコンが並ぶ部屋だった。オオモリとマナを筆頭に室内を物色するが、やはり電子機器は壊滅しているらしい。それでもオオモリは数個の端末を拾い上げて、リュックに入れていく。そしてミオがオオモリに言った。


「大森君! なんか、ここにプレゼン資料みたいなものがあるけど」


「どれです?」


「鍵付きの机の引き出しを壊したら出て来た」


 オオモリが机に広げた資料を見た。


「英語ですね」


「読める?」


「トップシークレット、極秘って書いてあります」


「重要なものじゃない?」


 それをパラパラとめくっていくと、オオモリの目が大きく見開かれる。


「これは…」


 周りで見ていたミオとマナも、その資料の内容が分かったようで絶句していた。


「これは…僕が開発した、ゾンビコントロールプログラムなどとは全く違いますね」


 マナが答える。


「ええ…こんな事を、本当にやろうとしていたなんて」


 そこに記されていた内容は、オオモリがやっている研究とは似て非なるものだった。ファーマ―社が世界で何をしようとしていたのか、ここにはっきりと書かれていたのだ。


 三人は、おぞましいものを見る目で資料を見つめている。するとそこでクキが言った。どうやらクキも英語の冊子が読めるらしい。


「嘘だろう? 本当にこんな事を考えていたのか?」


「ファーマ―社は、いったい何をしようとしているのかしら…」


 俺がミオに聞く。


「なんて書いてあるんだ?」


「ヒューマニティ インテグレーテッド スタンダーディゼイション プラン。日本語にすれば、人類統合標準化計画と記されている。コードネームはヒュージョン」


「どんな計画だ?」


 するとクキが乾いた笑いをしながら言った。


「デマだと思っていた奴らも多いだろうがな、人類を全て統合して均一化してしまおうって計画だ」


「と言う事は…」


 ミオがそれを読んで皆に説明を始めた。


「これは、大多数の群衆を一個体とし一つの意思で操るのを目的とした計画である、と書いてあるわ」


「詳しく知りたい」


「えっと、分かりやすく言うとね。遺伝子に組み込まれた異分子に干渉する新規格の電波で、生きた人間を操るという事ね。個々の性格や性質などを加味せずに、集団を一個体として電波で操る。これによって人間が逆らう事は無くなり、デモや反乱はおろか戦争もしなくなる…。というより戦争をしなくても、相手国がスイッチ一つで国を明け渡すようになるわね。世界が一つの意思に服従し、概念としてではなく物理的な独裁を可能とするわ。人は誰かに操られるままに動き続け、全員が同じことを考えて同じ方向を向くようにする…」


 冊子を読み続けているうちに、ミオの手が止まって固まってしまった。オオモリもマナも言葉を発さない。ミオが震え出しマナがポロポロと泣き始める。そこで冷静なオオモリが言った。


「更に恐ろしいことが書いてあります。その電波でコントロールする事により、遺伝子を破壊する事も出来る」


「なに?」


「生きるも殺すもスイッチ一つ、更には…すぐにゾンビに変える事も視野に入れてます」


「なるほど。俺達が前の研究所で見たあれか…」


「そのようですね。生きながらにして突然ゾンビに変わるやつです」


 するとクキがドカンと椅子を蹴飛ばした。


「いったいなんなんだよ! じゃあ自衛隊は率先して潰されたって事じゃねえか!」


「そのとおりだ」


「そいつの意思とは関係なく、生きながら誰でも戦闘員として戦場に送る事が出来て、死んで動けなくなったらゾンビに変えて戦わせる事が出来る…。クソだな」


 それを聞いてマナが言った。


「それよりも生きている世界の政治家や、財界人、セレブも全て操る事が出来る。これじゃあ、世界のお金も権利も領土すらも、全てが思いのままに出来るじゃない」


「だな。こんなもの法律もへったくれも無い。逆らう意思どころか意思を全てコントロールされて、操る側が指示したとおりの事を何の疑問も無くやる操り人形になる。いらなくなったら遺伝子を殺せば処分できるってシロもんだ」


 俺自身もめちゃくちゃ腹が立ってきた。もちろん前世でも独裁者は居たが、これはそれとも違う。全ての意思を細胞レベルから奪い去って、自分達の思い通りに動かそうとしてるのだ。


 ヤマザキが机を殴りながら言う。


「群衆の生死を、一つの意思でコントロールできると言う事だ。しかも本人の分からないうちに、ボタン一つでそれを成し遂げる為の計画。独裁など可愛らしくすら聞こえる、おぞましい計画だな」


 数人の女が口元を抑えかがみこむ。吐き気に襲われ、体を震わせてそのおぞましい計画から目を背けた。バタ! っと、アオイが倒れてしまった。ユリナが慌てて駆け寄るが、ユンも床に伏せってしまう。リコが駆け寄ってユンを起こし、ミオやツバサ達も自分の体を抱くようにして震えを堪えていた。


 俺もすぐにアオイのもとに駆け寄り、回復魔法をかけてアオイとユンを覚醒させる。その俺にユリナが言った。


「薬品やゾンビ因子の現物も回収しようと思ったけど、きっと冷凍庫が動いてないから意味が無いわ。いったん撤退してもいいんじゃない?」


 だがそこで俺が首を振った。


「出来れば試験体を全て始末していきたい。可能なら皆はここで待機していてくれるか? 下に下りて始末してくる」


 ヤマザキも肯定した。


「ヒカルの言うとおりだ。人類に危険が及ぶものは全て抹消しよう。徹底的にやらないとまずい気がする」


 話し合いの結果、皆をここに置いて俺が試験体を始末しに行く事になった。するとクキが言う。


「俺も連れていけ。なんかの役に立つかもしれない」


「試験体に銃は効かないぞ?」


「オトリにでもなんでも使ってくれ」


「どうしてだ? そんな事をせずともここに居れば危険はない。俺一人で十分だ」


「いや。まあ、俺を信じてくれとまではいかないが、それぐらい体を張らないと皆は俺と一緒に動きまわろうって気にならんだろ? 命を懸ける事くらいでしか、俺を認めてもらえないだろうからな。これから一緒に動く事を認めてもらう為にも、一緒に戦わせてはくれまいか?」


 クキは本気だった。自分を認めてもらいたいらしい。


「なら、ついてこい。タケル! 俺達が出たら入り口を閉めてバリケードを作れ。この階層にはゾンビしかいないが、念のため守りを固めろ」


「わかった」


「クキ! じゃあ行くぞ!」


「ああ!」


 するとタケルがクキに言った。


「まあ…なんだ。おりゃあんたに撃たれたけどよ、こんな事を言うのはなんだが死ぬなよ。あんたはこれからの俺達の行動に必要だと思うからな」


「俺の悪運は強いんだ」


「わかった」


 そして俺とクキがその部屋を出る。ドアの向こうでタケルがにやりと笑いながら、親指を上げて合図をしてきた。俺とクキはそのまま通路を進み、下に向かう階段を降りて行くのだった。

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