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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第四章 逆襲編
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第247話 自衛隊特殊作戦群隊長

 試験体を退け俺がバスに乗り込むと、皆が安堵の表情を浮かべて迎えてくれた。俺が対処できなければ、ここに居る仲間は全滅していただろう。皆が命がけで試験体をひきつけてくれたおかげで、大量に討伐する事が出来たのだ。


 俺は皆に向かって言った。


「ありがとう。皆のおかげで試験体をかなり削れたぞ」


「運命共同体でしょ」


「ああ、そうだな」


 そして、俺はある異変に気がついた。いつの間にかクキの手足の縄が全て解かれていて、装甲バス後部に銃を持って立っている。


「なんだ。そいつの縄を解いたのか?」


 俺が言うと皆がバッと振り向いた。


「えっ? いつのまに?」

「誰か解いたの?」

「私は解いてない」

「私も」


 皆が首を振る。どうやらクキは自ら縄を解いて、銃を手にしたらしい。


「ま、まてまて! 別にお前達と事を構えるつもりはない!」


 するとユミが銃を指さして言う。


「じゃあ、それは何よ」


 クキが自分お手元の銃を、慌てて床に置いて手を上げる。


「違う! あんな化物が大群で来たら、応戦しようとするのが当然だろが! それに縛られたままじゃ、ただ食われて終わるかと思ったんだ!」


 まあ正論だ。俺が失敗したら、コイツは縛られたまま試験体に喰われていただろう。どうやって縄を解いたのかはしらないが、武器で何とかしようと思ったのは本当だと思う。


 すると今度はツバサが言った。


「そんな事言って! 私達をどうにかしようと思っていたら、ヒカルが人外の強さを見せたものだから抵抗するのを辞めたんでしょ! 想定外だったんじゃない?」


「ち、ちがう! まて! 冷静に考えろ! あんな化物に四方を囲まれて、俺に何が出来たって言うんだ! 冷静になれ!」


 だがユンが言う。


「そんな事言って、あーし達の背後に周って何かしようとしてたんじゃないん?」


「何を言ってるんだ? お前達をどうこうしていたら、あっという間にバケモンに喰われるだろうが! 感情的になるな!」


 コイツが言っている事は正しいと思うが、女の誰もが怒りの矛先を向けている。まだ完全に危機が過ぎ去った訳ではないので、俺は口論を収めるように言った。


「待て、皆の言う事も分かるが今はやめておこう」


「そ、そうだぞ。金髪のあんちゃんの言うとおりだ」


「縛っておかずとも、そいつが良からぬ事をした瞬間にあの世に送ってやる」


「へっ?」


 クキが目を見開いて俺を見るが、俺は冷静に返した。


「なんだ? 不服か? 不服なら今すぐあの世に送ってやろう」


「ま、まてまて! あんたの力はよくわかったよ! 軍隊以上の力を持っている事も分かったし、これまでファーマー社やヤクザの追撃を退けてきた理由も良く分かった。むしろ金髪のあんちゃんの力をこの目で見て、軍隊やヤクザに同情の気持ちが沸いたぐらいだ」


 それを聞いたタケルが言った。


「やっと分かったか、お前がどんなことをしても絶対に勝てねえんだ」


「悪いが俺は馬鹿じゃない、あの力を見て逆らおうなんて気はさらさらない。さっきの戦いを見て嫌と言うほど分かった。この力があれば、この世の誰にも屈服する事は無いだろうよ。いままで大きな力に逆らえず、逃げまくってきた俺からすれば羨ましいとさえ思ったさ。こんな力があれば、自分の心を殺して女子供を殺さなくても済んだろうからな!」


 クキの語気は怒りを孕んでいた。それを聞いたヤマザキが言う。


「まあ待てみんな。この人は確かに人に褒められるような事はしていないし、むしろ人としてあるまじき事をしてきたのかもしれない。だがそれは生きる為だったのだと思う。自衛隊にあの薬が義務付けられた時、この人はそれを察知して逃げたんだ。指示通りに動いてさえいれば、自衛隊の隊長としての地位を守っていられたはずなのにだ。自分の頭で考えた末に、その地位を捨てて除隊したんだ。むしろマジョリティに影響されずに判断できる能力は、今の日本人には無い。自分で考えて行動するという能力は、生き延びる上では非常に重要だったと思う。だれもが疑わず受け入れてしまった事を、自分の立場がありながらもこの人は拒んだんだ。それは誰もが出来る事じゃない」


 ヤマザキが言うと皆がシンとする。俺はヤマザキが大したもんだと思った。俺が思っていた事を、言語化して皆に説明してくれたからだ。ヤマザキの言う通り、クキは自分で自分の生きる道を切り開いて来た。その方法は皆からすれば邪道だったかもしれないが、俺がその立場であったら似たような事になっていたかもしれない。


 俺は皆に言った。


「コイツの命は俺が預かる。それでいいな?」


 皆が大人しく頷いた。そしてバスの外を見ると、ようやく大地が固まりつつあるようだ。それを見てヤマザキが言う。


「ヒカル! あの地面はどうなっているんだ?」


「溶けて沸騰していた。まだ収まってから間もないから、温度はかなり高いかもしれない」


 それを聞いてタケルが言う。


「じゃあ、動けねえよな。このまま進めばたぶんパンクしちまうぜ」


「そうだな。ヒカル、このままここで待機するか?」


「いや、先を急ぎたいから俺に任せろ」


 そう言って俺は靴を脱ぎズボンのすそをまくり上げた。上着を脱いでそれをミオに預ける。


 ミオが俺に聞いて来た。


「えっ? どうするつもり?」


「パンクを防ぐ。ヤマザキ! ドアを開けてくれ」


「わ、わかった」


 俺は装甲バスを降りて皆に言う。


「みんな、そのあたりにつかまれ」


「「「「はい」」」」

「わかった!」


 俺はバスの下に入り込み、丁度バランスが取れそうな所に這いずっていく。


「このあたりか」


 俺は装甲バスの底に首の後ろをあてて、一気に体を起こして持ち上げた。装甲バスは一瞬傾いたが、俺はそのままバランスをとって歩きだす。まだ湯気がたちこめている地面を素早く歩いて、数百メートル先まで担いで持ってきた。


「よし」


 そのまましゃがみ込んで、ゆっくりとバスを降ろし這いつくばって外に這い出る。そしてバスの中に向かって言った。


「ここまで来れば問題ない!」


 ヤマザキがエンジンをかけたので、俺はバスに乗り込んだ。クキだけが顔面蒼白となり俺を食い入るように見ているが、タケルも女達もドヤ顔でクキを見ていた。


「これ…夢じゃねえよなあ…」


 するとタケルがクキの背中をぶっ叩いて言う。


 バン!


「どうだ痛えだろ? 紛れもなくモノホンだって」


「間違いなさそうだ。あんちゃんの名前はなんていうんだっけ?」


「ヒカルだ」


「ヒカルか。改めて、俺は九鬼修平だ。お前に逆らうつもりはない」


「シュウヘイ。お前の命は俺が預かる、お前は皆に戦い方を教えろ。軍隊の隊長だったのだろう?」


「昔な。あと軍隊じゃない、自衛隊だ。傭兵の前の事を言うなら、自衛隊特殊作戦群だった。敵の国を攻める軍隊ではなく、自分の国を守る隊だよ」


「こだわりがあるようだな」


「まあ、全く違うからな。だが俺が戦い方を教えるねえ…? このねえちゃん達が俺に従うか疑問だが。とにかく傭兵をやっているより、ヒカルについて行った方が面白そうだ。まあ俺が害をなすと思ったら、いつでも殺せばいいさ。あんたら、本気で日本を救うつもりでいるんだろ?」


「そうだ」


「俺も一度は諦めた夢、こんなところでまた見れるとは思わなかったぜ。日本人を救ってやろうじゃねえか」


「よし。俺達を裏切るなよ」


「まあ、俺の活躍を見てもらうしかないだろう。せいぜい死なねえように頑張るさ」


「わかった」


 先ほどのヤマザキの説得で、不満ながらも女達は納得したようだ。ヤマザキは元公務員と言う事で、似たような立場のクキの気持ちが分かるのかもしれない。そしてクキが言う。


「実はあの試験体とやらがいたから、中心地より西側を調査できていないんだ。可能なら、ファーマ―社の本社跡地へ行って見ねえか?」


「ファーマー社の本社跡地?」


「そこに行きたかったが、化物だらけで足止めをくらっていたんだ。様子を見て何とか切り抜けようと思っていたところに、あんたらが来たんだよ」


「わかった。それに嘘はなさそうだ」


「嘘じゃない。既に俺も敵の懐にいるようなもんだ、あんなバケモンがいるような所で嘘はつかない。命取りになるからな」


「なら、連れていけ」


 俺達はクキの指示に従い、ファーマ―社本社跡地に向かって走るのだった。

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